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#389 オネダリは多連装砲



 アクトラス山脈の峰々が白銀に輝く晩秋の朝、俺達は村を後にして王都へと旅立つ。

 だいぶ、雪が村に近付いてきている。

 後、10日もすれば初雪が降るだろう。そうなるとガルパスを冬眠させねばなるまい。

 そうなる前に、ガルパス達と一緒に王都の家に向かわねばならない。

 

 今回も、俺達一家にセリウスさん一家それにシュタイン様夫妻後は、王都の小さな宿屋が実家のロムニーちゃんが一緒だ。

 一同、暴走状態で街道を駆けているから今夜には王都に着くだろう。

 ディーは、イオンクラフトを操縦して深夜に王都の館に着く予定だ。館の屋上は平面のテラス状になっているから、そこに駐車出来ると思う。


 サナトラムの町を過ぎて東西に伸びる街道に出たところで、最初の休憩所に入って昼食を取る。

 休憩所の林の藪から薪を集めて焚火を熾し、ポットでお茶を沸かすと山荘の調理人の作ってくれた黒パンサンドをお茶で頂く。


 「もう晩秋と言うには遅いような気もするのう…。シルバースターの動きがやはり鈍い気がする…。」

 アテーナイ様の言葉にガルパスを駆る一同はお茶を飲みながら大きく頷いた。

 「スマトルとの戦が何時始まるかは判らぬが、冬を挟むと面倒な事になりそうじゃ。」


 アルトさんの言葉に、俺達はその戦いの困難さを実感した。

 春から晩秋までは良い闘いが出来そうだが、冬はやはりガルパスの動きが制限される。

 この問題は敵にもあるのだろうか?

 元々使役獣として南方の王国で使用されていたガルパスだ。冬に動きが悪くなる事を知らないことは無いだろう。だとしたら…、その動きが悪くなる時機を見て強襲されると、こちらは対処出来ない事になる。

 それとも、彼等の突撃兵器である、ドラゴンライダーの動きも冬には似た事になるのだろうか?

 そうだとすれば、冬は睨み合いの膠着状態となる。

 この問題は、スマトル軍の使役獣の種類を早期に調査して、対処法を探す事になりそうだな。


 ガルパスの動きが悪いとは言いながら、俺達の駆ける姿を見た者は、そんな事は無かろうと思っているに違いない。

 それは俺達ガルパスを駆る者達のみが知り得るホンの少しの違和感に過ぎないものだ。それでも、意のままにガルパスを操る亀兵隊の者にしてみれば大事だと思う。

 

 そんな事を考えながらも、俺達を乗せた8匹のガルパスは、夕闇の迫る王都の東門を潜り抜けた。

 門の広場にガルパスを止めると、近衛兵が数名近付いて来た。

 

 「ようこそ、お待ちしておりました。ガルパスは我等でお預かりします。」

 近衛兵の言葉に、俺と姉貴、それに嬢ちゃん達はガルパスを下りる。ロムニーちゃんもここでガルパスを下りた。

 「明日にでも、状況を知らせる。館で待っておるのじゃ。」

 そう言って、アテーナイ様夫婦とセリウス一家は近衛兵の先導で王宮へと、ガルパスを進めて行く。俺達のガルパスもその後を付いて行った。


 「さて、俺達も行こう。」

 俺の言葉に、皆が頷くと通りを歩き始めた。

 途中で、嬢ちゃん達がギルドに立ち寄る。俺達の到着報告をしてくるようだ。ついでに、依頼書も見てくるのだろう。

 俺と姉貴それにロムニーちゃんが、一緒に館に向かって歩いて行く。


 「キャサリンさんのお母さんに頼まれ物があるんです。」

 そう言って、俺達の館の隣にあるキャサリンさんの嫁ぎ先である、館の扉を叩いた。

 そんなロムニーちゃんを見ながら俺達も館の扉を叩くと、「ハ~イ!」と言う返事と共に、タニィさんが扉を開けて俺達を招き入れてくれた。


 早速、リビングに案内されると赤々と燃える暖炉の傍に座る。

 何時も掃除をしているのだろう、リビングの隅々にまで塵1つ無いほど綺麗に掃除が行き届いている。

 そんな俺と姉貴にお茶を運んで着てくれた所に、扉を叩く音が聞えて来た。嬢ちゃん達が帰ってきたみたいだ。

 慌てて、タニィさんが玄関に飛んでいく。


 そして、皆が揃ったところで、改めてタニィさんが嬢ちゃん達にもお茶を運んで来た。

 テーブルの端にマイカップを持ってタニィさんが座ったところで、今回の来訪期間を改めてタニィさんに告げる。


 「来年の3月末迄ですね。…承りました。ところで、その間も皆さんは色々と出掛けるんですよね。判る範囲で教えてください。」

 「そうだな…。ディーは今夜来る筈だ。屋上に来るから、鍵を開けておいて欲しい。俺は1月程は王都にいると思うけど、サーミストにも出掛ける心算だ。姉貴は士官学校の授業があるし、嬢ちゃん達は亀兵隊の訓練を手伝う事になるだろう。」


 「リザル族の方はどうするのじゃ?」

 「クロスボーが出来てからの話で良いと思う。数が揃うのは俺達が村に戻ってからになるだろうから、少し余裕がある。それよりは、東方の狩猟民族への贈り物を準備しなければならない。アルトさん。お願いできる?」

 

 「モーニングスターに武器を何種類か…、という事じゃな。了解じゃ。」

 「大砲の数はまだ揃わんのじゃな…。」

 「鉄を大量に使うからね。20門が揃えばそれなりに訓練が出来るけど、爆裂球の調達数に限りがあるから、訓練が難しいと思う。そこは、サーシャちゃんに期待してるよ。」


 「私は、お兄ちゃんにちょっと相談があるんです…。」

 ミーアちゃんの言葉に俺と姉貴は顔を見合わせる。これはあれか?…いや、まだ早いと思うぞ。

 「ちょっと、作って貰いたいものが…。」

 次のミーアちゃんの言葉に、俺と姉貴がホッと胸を撫で下ろす。

 「何だい?」

 

 俺の問いにミーアちゃんが話してくれた作って欲しいと言うものは、一言で言えば多連装砲だ。

 しかも、あまり飛距離は望んでいない。夜間そっと近付いて一気に大量の爆裂球を投射して引換えすという戦法を考えたようである。

 皆が驚きながらミーアちゃんの話を聞く中で、姉貴はジッと目を閉じて考え中だ。


 「お兄ちゃんなら、形に出来ると思っていたんですが…。」

 ミーアちゃんが俺に強請るなんていうのは滅多に無い。ここは頑張るしか無いだろう…。そう考えて、了解を告げようとした矢先に姉貴が口を開いた。


 「ミーアちゃん。何台必要と考えてる?」

 「出来れば10台程。それで夜間襲撃の威力が格段に高まります。」

 「確か、夜間襲撃部隊は部隊規模が小さかったよね。」

 「はい。総勢200人で定員としました。…夜間奇襲が任務ですから多人数は必要としません。テーバイ戦よりも2倍に大きくなりましたから、囲まれて脱出路を断たれる恐れも少なくなってます。」


 確かに多人数での奇襲はないだろう。奇襲は少人数で思い掛けない場所、時間でやるから奇襲なんだしね。

 それでも、テーバイ戦の反省で部隊数を倍増しているようだ。奇襲は深入りすると逃げるのが困難になる。それを避ける為に、第2部隊を作って連携を取りながら奇襲をするという事らしい。


 「出来れば、20台は欲しいわね。投射個数は1台で3個以上なら、確かに有効な武器になるわ。」

 俺を見て姉貴はそう呟いた。

 作れという事か。これ以上の武器は造らないと言った筈だが…。

 新しい武器という事ではなくて、既存の武器を改造する事で対処するしかないか。とは言うものの、結構難易度が高い武器になるぞ。


 「短時間に多量の爆裂球を思った所に投射するという事で良いよね。思い当たるものがあるからそれを基に改造してみよう。1月程待って欲しい。試作品で使えそうか否かを決めれば良いだろう。」


 お願いしますと俺に頭を下げるミーアちゃんを見ると、これは何としても作ってあげなくてはなるまい。

 そんな時にリビングの扉が開くとディーが入って来た。

 どうやら、無事に屋上へイオンクラフトを運ぶ事が出来たらしい。

 

 「遅くなりました。イオンクラフトの停車場所に問題はありません。夜間ですから、誰にも着地を見られなかったと思います。」

 「さて、これで全員ね。…そう言えば、リンリンとランランは?」


 「先週から、エントラムズの王宮に出掛けています。2週間の予定で大型通信器の設置を行なって来る予定です。王宮のアン姫様の部隊と一緒です。」

 姉貴の問いにタニィさんが答えてくれた。


 どうやら順調に通信網は拡充しているらしい。

 「なるほどね。通信器の設置はアン姫とパンダ達に任せときましょう。」

 アン姫も頑張っているようだな。理屈は判らなくても、情報の重要性はテーバイ戦やカナトール開放戦で十分に知った筈だ。 

 その為に各国と連携を取って軍を動かす通信器の拡充は急務と言えよう。何と言っても、設置するだけではダメなのだ。それを有効に利用するための訓練を終えて初めて使い物になるのだ。

 

 全員が揃ったところで、タニィさんが食事の準備を始める。

 ディーが手伝っているところを見ると、料理を覚えたいのかな?

 そして、テーブルに出て来た料理は魚のスープにハムと野菜が挟まれた黒パン、食後には乾した果物を煮て戻したゼリーのような果物が出て来た。

 少し遅い夕食を食べて、のんびりと湯船に浸かって明日に備える。

 明日は、色々ありそうだ。

               ・

               ・


 次の日、朝早く朝食を終えて、お弁当を持って出掛ける嬢ちゃん達に、エイオスを呼んでもらえるよう頼んでおく。

 姉貴はリムちゃんを連れて、新しい士官学校の様子を見に出かけたようだ。

 ディーもアルトさんから頼まれたらしく、工房街へと出掛けて行ったけど、1人で大丈夫なのだろうか?

 「簡単な依頼ですから問題ありません。」って言ってはいたけどね。


 1人残って、ミーアちゃんの依頼を考える。

 リビングで悩んでいるとタニィさんがお茶を入れてくれた。

 「もうすぐ、ノイマン君達も警護に来る筈です。」

 

 そう言えばあの2人もいたんだよな。ディーの様子を見てもらおうか…。

 やがてやって来た2人に、ディーが工房街に出かけた事を告げて、様子を見に行って貰う。

 「工房での注文なら王宮で支払いが出来ます。早速出掛けてます。」

 そう言って2人は館を出て行った。


 静かになったリビングで再び、多連装砲の構想を練る。

 基本的には、エイオス達が使っている爆裂球投射器で良いと思う。あれは100m以上飛ぶし、バネ仕掛けで打ち出すから反動も少ない。その上小型で持ち運び易い。

 問題は、それを束ねた時の発射機構と爆裂球のセットの方法だ。

 それに、幾ら小型であるとは言え、数本を纏めるとそれなりの大きさと重さになる。それを軽減する事も考えねばなるまい。

 更に、多連装砲を手で持つのか、それともガルパスに備え付けるのかも問題だ。

 たぶん数個の砲身を持つ多連装砲をを手持ちで使うのは無理だと思う。ダリウスさん達ならやりそうな気もするけど、夜襲部隊の多くは人よりも華奢な感じのネコ族の人達だ。となれば、鞍の前に付けるか、後ろに付けるか…。横に付けるか、縦に付けるか…。 

 それも重要な事だ。

 夜襲のスタイルは必ずしも一様ではない。時と場所それに襲撃目標によって変化する。何時も同じでは、最初は有効でも次第に敵にも対処のしようが生まれて来る。


 「アテーナイ様がいらっしゃいました。」

 リビングの扉が開き、タニィさんの声がしたかと思ったら、アテーナイ様が入って来た。

 「婿殿。…忙しそうじゃな。」

 テーブルに散らかした概念図をチラリと見ながら俺の対面に座る。

 直ぐにテーブルの上を整理すると、俺の要望を伝える。


 「なるほど…。海軍の拠点と補給所のう。」

 「テーバイ、モスレム、サーミスト、エントラムズにアトレイム。この海岸線の総延長は数千M(千km)はあるでしょう。

 武装商船数隻と潜航艇15艇で敵を迎え撃つ事になるわけですが、正面から迎え撃つ事などどだい不可能。敵の舟艇を徹底的に奇襲と陽動で霍乱するのが、連合王国海軍の主たる任務となります。

 この為には、拠点となるべく場所の確保と補給が必要です。その整備を行なうのも今の内にしておかねばなりません。

 そして、海軍の組織もきちんと作るべきです。命令系統が明確で無い組織はどんなに武器、兵力が充実していてもその力を振り絞る事は困難です。」


 アテーナイ様は、運ばれてきたお茶を飲みながら、銀のパイプを取り出した。

 ジッポーで火を点けてあげる。


 「すまんのう…。婿殿の心配はもっともじゃ。確かに密輸等を取り締まる警備船は各国とも持ってはいるのじゃが、今回のような大規模な戦闘を想定した作戦等をこなせる者は各国にも適材がおらぬ。しばらくは待って貰う事になる。

 ただ、乗組員の当ては、警備船の連中を使う事で訓練が始まっておる。商船の方は改造中じゃ。これも乗組員は問題ない。やはり、婿殿の言う指揮官と拠点はもう少し待つしか無いのう…。」


 これは、アテーナイ様達に任せよう。

 陸戦と海戦は自ずと作戦も異なると思う。やはり、船の性能や海に熟知した者がどうしても必要だ。

 「じゃが、婿殿も探してはくれまいか。我も陸戦ならそれなりの人材を探す事は出来ると思うのじゃが、海ではのう…。」

 

 と言うアテーナイ様の言葉が帰ってきた。

 ボールが帰ってきた感じがするが、確かにな。と言っても俺だって当ては無い。

 「とりあえず、しばらくは人材を探しましょう。でも、拠点と補給基地は何とか決めてください。」

 少なくとも後数年はあるんだろうけど、連合王国の海軍は前途多難だぞ。

 



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