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#387 1人2枚

 


 ミケランさんの使っているクロスボーは亀兵隊達が使っている普及タイプの星3つだ。

 それなりに威力はあるが、対人戦闘用だから灰色ガトルに1発程度当たっただけでは手負いになるだけだ。

 

 村の外塀と長屋の間隔は約20m。自分に【アクセル】と【ブースト】を掛けると、荷車の障壁を乗り越えて手負いの獣を倒しに行く。

 子牛程もある灰色ガトルが俺の接近を知って、向かってくる。

 脇腹に深くボルトが突き刺さっているが、俺に突進する速度はとても手負いとは思えないぞ。


 M29を抜きざまに数mまで接近した灰色ガトルに向かって発砲すると、素早く身をかわす。

 俺の直ぐ脇を、頭半分吹き飛んだ灰色ガトルが走り抜けた。

 ドサっと倒れる音を背中に聞きながら、先を急ぐ。


 ミケランさんが少し前方の屋根の上からクロスボーを撃った。

 という事は、あの先に1匹いるという事だな。

 銃を構えながら慎重に歩くと、顎と背中付近にボルトの羽が突き出ている灰色ガトルがこちらを睨んでいる。

 20m程離れた位置から銃を撃つと、こちらに向かってくる。

 急いでコックを引くと2発目を発射した。1mも離れていない距離からのマグナム弾は灰色ガトルの口に入って後頭部を破壊しながら貫通した。

 突進する勢いは消せないので慌てて脇に避ける。


 「とりあえずは終わりにゃ。しぶとい奴だにゃ。」

 屋根の上から俺に教えてくれた。ピョンピョンとまるでネコのように屋根の上を身軽に動いてるけど…、ネコ族って本当に身体能力がネコ並みなんだな。


 シリンダーをスイングさせると薬莢を取り出し新たに弾丸を補充しておく。

 やはり対人用の武器は奴らにはあまり効き目が無いらしい。


 南門に急ぐ俺の背後でショットガンの発射音が続けざまに聞こえてきた。

 かなり北門は苦戦してるようだけど、ディーと姉貴がいるから安心ではあるのだが…。


 南門はかなり破られているようだ。それでもチェルシーさんとドワーフの若者3人が発射するボルトに恐れをなしたのか、門の外の灰色ガトル達は飛び込む隙を伺っているようだ。

 荷車の要害を飛び越えながら門の外に爆裂球を1つ投げると、炸裂音と共に門から首を出す灰色ガトル達が一瞬退く。

 ほんの一瞬で再び元の状態に戻ってしまったが、それでもちょっと一息つけることが出来たようだ。


 「ご苦労だったな。どうやら20匹程度が門の外にいるらしい。少し牽制してくれ。」

 セリウスさんの言葉に、門の破れ目を潜ろうとしている灰色ガトルに向けて、M29を発砲した。

 30m程の距離だから上手く命中したのは2匹だったが、かなりの重症を与えた筈だ。

 後ろに下がってリロードする間は、チェルシーさん達がボルトを発射する。

 そして、前に戻ると、再度銃を発砲した。


 後ろでリロードしている俺に、ミトが大声でスロット達が応援に来る事を教えてくれた。

 東門は安泰らしい。こっちが手薄とアテーナイ様が判断したんだろう。


 「スロットが来ますよ。少しは楽になります。」

 「あの若造か?…お守りしなくちゃならんわい。」

 ユリシーさんは、まだまだいけそうだな。


 そんな所にスロットとネビアがやって来る。

 スロットは俺の位置に収まると、ネビアはミトの隣に陣取った。そして門に向かって【メル】を放つ。


 「東は大丈夫なのか?」

 「あぁ、10匹程度流れてきたが、爆裂球で凌いだぞ。門を少し開けて、そこにアテーナイ様が居座っているから残った灰色ガトルも入って来れない。それに、楼門の上からは爆裂球と矢が飛んでくるからな。アテーナイ様のところに無傷ではたどり着けない筈だ。」

 

 ワンマンアーミーなアテーナイ様の事だ。1匹ずつなら、容易い獣なのかもしれない。

 「前の2人を越えて来た奴だけ相手にしろ。1檄で倒すんだぞ。でないとこっちが倒される。そしたら首をガブリだ。」

 「同じ事をアテーナイ様にも言われましたよ。任せてください。」

 

 長剣を担いだスロットが、俺に向かってそう答えた。

 となれば、銃で遊撃が俺の仕事になる。シリンダーの弾丸を確認して、荷車の後ろから門の前に出る。


 体を震わせながら、喰い広げた隙間を潜ろうとしている灰色ガトルの顔面に弾丸を撃ち込んで足で蹴り抜く。

 次の奴は顔を出したその瞬間を狙って眉間を撃ち抜いた。


 4匹を片付けたところで後ろに下がって、急いでリロードを行なう。

 「まだいるのか?」

 「数は減っていますが、まだいますよ。」

 

 ユリシーさんの問いに簡潔に答えると、また荷車を越えて門の前に出た。

 だいぶ大きくなった穴から灰色ガトルが半身を乗り出した所を頭を打ち抜いて倒したところで、もう1つの穴から門の外を覗いてみると、2匹の手負いの灰色ガトルが傷ついた足を引き摺っている。

 

 門についているちいさな物見台に上がって、下を見ると、まだ元気そうな奴が数匹いるのが見えた。

 1匹ずつ確実に射殺して、最後に手負いの灰色ガトルを始末する。


 急いで荷車の要害を越えるとミトを呼ぶ。

 「どうにか終った北門の方はどうなってる?」

 「亀兵隊の人が何人かやられたけど、命に別状無いって言ってた。ディーお姉ちゃんが確認するまでは門はあけるな、って言ってた。」


 北門も何とか出来たようだな。

 後はディーの生体探知で、死に損ないの奴を見つければ安全宣言が出来る。


 「北門はケリが着いた。って言ってる。ディーお姉ちゃんが来るよ。塀の外を回って来るって!」

 外を回りながら止めを刺しているようだ。

 銃をホルスターに収めると、タバコを取り出す。

 「どうやら、終了です。ディーの安全宣言が出るまでは警戒は解けませんが、一服出来ますよ。」

 「そりゃ、何よりじゃ。」

 

 ユリシーさんとセリウスさんもパイプを取り出したので、2人のパイプにジッポーで火を点けてあげた。

 

 「ディーお姉ちゃんから連絡!…東門に向かうって!…外に出るのはもうしばらく待つようにってミズキお姉ちゃんが言ってる!」

 「ありがとう。もうしばらくはそこで連絡係りだ。」

 俺の声に、俺達を覗き込んでいたミトが頷いて、屋根の足場に向かった。

 そして、チェルシーさんやネビア達とお菓子を食べ始めた。


 「やはり、灰色ガトルは接近させるのは危険だ。バビロンのグルカは容易に切り裂けるが…、亀兵隊標準装備では突き刺すのが精一杯だ。」

 「重さが無いからじゃよ。こいつ等にはやはりこれが一番じゃ。」

 そう言って戦斧を握り直してその刃先をジッとユリシーさんが見ている。


 「その戦斧はユリシーさんの作ですか?」

 「いや、これは俺が里を出るときに親方がくれたもんじゃ。これを越えるものを鍛えたら帰って来いと言ってな。」

 ジッと刃先を見詰めるユリシーさんにはその時の光景が見えているのだろう。

 

 「だが、まだまだじゃ。バビロンの鋼は見せて貰った。ミズキにダマルカスの鋼も見せて貰った。そして、カラメルの鍛えた不思議な金属も見たぞ。そんな品はつい数年の内だ。たとえ再現出来たとしても、今帰るのは惜しいわい。」

 「確かにな。俺も少しギルド長は早まったと思っている。まだ体は十分に動く。シャロンには済まぬがもう少し代理を務めて貰おう。」


 2人とも現役を続けたいらしい。

 そんな世間話を続けていると、ミトが俺達に声を掛けてきた。


 「皆、ギルドに集まれ。って言ってる。3人位屋根に見張りを残せ。って!」

 俺はミトに手を上げて了解を知らせる。


 「アキトは先に行け。ユリシー、弟子を残して置けるか?」

 「そうじゃな。あいつ等に見張らせるか…。」

 そう言いながら、ユリシーさんは東の会社の建物の屋根に陣取る弟子達に指示を始めた。


 「では、先に行きます。」

 そう言って、南門を後にする。

 北門へ続く通りに出ると、嬢ちゃん達がやって来た。良かった、全員無事らしい。


 ちょこちょことアルトさんがやって来た。

 「南門はどうじゃった。群れの一部が南に流れたはずじゃが…。」

 「ユリシーさんやチェルシーさんが頑張ってたよ。更に東にも流れたらしいが、あっちにはアテーナイ様がいるから安心だ。」


 そんな所に姉貴が走ってきた。

 「亀兵隊の人達が見張ってくれるって言うから、私もやって来たわ。どうなるかと思ったけど、何とかなったね。」

 「だけど、クロスボーや弓だとキツイ相手だね。一撃で倒せないし…。」


 「この銃も威力不足じゃ。頭に3発命中させてようやく倒れたのじゃ。我等のクロスボーでも同じじゃな。亀兵隊用のクロスボーでは、5本以上は必要じゃ。」

 確かにしぶとい生命力だし、力もある。

 俺のM29なら1発で良いんだが、元々M36は対人用だ。姉貴のパイソンならそこそこ使えるとは思うが、アルトさんの体格では1発撃ったら尻餅を付きそうだ。

 

 やはり大型獣を狩るには爆裂球付きのボルトや矢が一番だろう。今回もそうすれば楽だと思うんだけど、誰もがその使用を言い出さなかった。

 灰色ガトルの毛皮を、なるべく傷が無い状態で欲しかったんだと思うけどね。

 

 ギルドの扉を開けると、東門の連中は引き揚げていた。

 アテーナイ様とシュタイン様がお茶を飲みながら一服を楽しんでいる。

 

 「おぉ、来おったな。…まぁ、一息入れるが良い。次の作業はこれからじゃ。」

 俺達も、テーブルに椅子を持ち寄って座り込む。

 そこに、ギルドを守っていた4人がお茶を配ってくれる。

 セリウスさん達がやって来て、最後にディーがギルドの扉を開けて入ってきた。


 「村の周囲10M(1.5km)の範囲に灰色ガトルの反応はありません全て殲滅出来た。と判断します。」

 俺達の前でそう告げると、俺の隣に座ってお茶を飲み始めた。


 「どうやら、村の危機が去ったようじゃな。セリウス。後の手配はギルド長のお前がするが良い。」

アテーナイ様の言葉に、セリウスさんは立ち上がると俺達を見渡した。


 「先ずは、1人の欠落者も無く、灰色ガトルの群れを殲滅できた事を嬉しく思う。本来は、ギルドから皆に日当を払わねばならぬが、今回は灰色ガトルの毛皮で我慢してくれ。

 1人2匹分を取るが良い。残りは一纏めに商会に卸す事にする。

 セリをすれば高額になるのだろうが、全てが村在住とは限らない。一括で売り払い分配する方が良かろう。分配比率は壊れた荷車と門の修理費を除いて狩猟期の分配だ。

 1割を国庫に、1割をギルドにそして1割を村に。残りの7割を今回の参加者で均等割りにする。

 異論があれば申し出よ。…無いようだな。

 では、シャロンに名前を告げて、3日後に再度集まる事にする。今回の分配金を配布する。」


 そして、俺達はシャロンさんに1人ずつ名を告げて、灰色ガトルの毛皮を回収に出掛けた。

 1人2枚の毛皮を手に入れられるのだ。

 皆、にこにこしながら、荷車を引いて北門に向かって行った。


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