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#378 新鮮組出発

 

 

 後、3日で狩猟期が始まるという期日は、本来ならば少し浮ついた心持でいるところだ。

 しかし、ギルドのテーブルの一角に座っている俺達は、現在進行形で沈んだ面持ちで腕を組んでいる。


 「…ハンターは集まったが、平均で黒1つというところか…。確かに高位のハンターは来ているが人数があまりにも少ない。」

 「救援隊は組織したが、1隊で足りるか心配になるのう…。」


 セリウスさんもアテーナイ様もかなり心配な様子だな。

 今期もハンターの数は100人を超えている。まぁ、それは例年通りなんだが、カナトールの大規模な獣の討伐に高レベルのハンターが参加した事で、ネウサナトラム村恒例の狩猟期に参加するハンターが2軍クラスになってしまった。

 ディーの作ったハンターのレベル分布図は、確かに黒1つにピークがある。

 

 「王都へ応援は依頼したんですか?」

 「依頼は、しておる。イゾルデ達がもう直ぐ来る筈じゃが…、屋台を出せずに残念がるじゃろう…。」

 「俺も、グレイ達に依頼をしておいた。1日50Lで20日間。救援は別に1日銀貨1枚。という条件を出したのだが…。3人以上5人以内というのがいけなかったか…あれから連絡が無い。」

 

 「最悪、俺達だけで対処を考えねばなりませんね。今回の特殊性を話して、嬢ちゃん達の参加を見合わせなければならないかも知れません。」

 「それものう…。折角の楽しみを潰すようで気が引けるのじゃ。それに、サーシャ達の獲物を期待しておる者達も多い。」

 

 段々と、口数が少なくなってきた時、ギルドの扉が開いて5人組みが現れた。

 俺達を見つけると、「よぅ!」って片手を上げたのはグレイさんだった。

 カウンターにマチルダさん達が向かう中、グレイさんは俺達の所にやって来る。


 「セリウスから依頼が来た時には驚いたぞ。だが、条件は良い。サラミス夫婦ともう1人娘を連れて来た。俺達が仕込んでいるから、まだ赤4つだがそれなりに使えるぞ。」

 そう言って、俺の隣に座りこんだ。


 「これが、今期の狩猟期のハンター達だ。」

 セリウスさんが一覧表をグレイさんに見せる。


 「なるほど…中堅クラスが少ないのか。これだと大型獣が現れたら怪我人続出だぞ。」

 「そこで、救援隊を組織した。しかし対応出来るのは1隊のみ。同時に緊急時事態が発生したら対処出来ない。そこで、もう1隊を組織する為に呼んだのだ。」

 

 「だが、それだと俺達だけでは心もとない…。」

 「大丈夫だ。グレイ達が来てくれたお蔭で、俺達も人員に余裕が出来る。優秀なのを合流させる心算だ。…明日の朝、ここに来い。グレイだけで良いだろう。」

 

 セリウスさんの答えを聞くと、グレイさん達はギルドを引き上げて行った。

 しかし、セリウスさんは誰を差し向けるのだろう?…それはそれで問題が起きそうな気がするけどなぁ。


 「グレイ達には、先に山に入って貰おうと思う。グライトの谷の上で野営をしていればあの近辺をカバー出来るだろう。」

 「だが、誰を同行させるのじゃ?」


 アテーナイ様はそう言って俺を見た。セリウスさんもジッと俺を見てるぞ。

 姉貴は通信器を使えないし、ディーは万が一の時にイオンクラフトを操縦しなければならない。アテーナイ様達は屋台の方に熱心だしな。

 アルトさんと言う手もあるが、それだとそのまま狩りをしないとも限らない。

 

 「帰って、家の連中と相談してみます。明日の朝で良いですよね。」

 そう言って、その場を後に家路を急ぐ事にした。

 早く決めないと、屋台の都合もあるからね。


 「ただいま!」と言いながら扉を開けると、グレイさん達が来ていた。

 直ぐにテーブルに着くと、改めて挨拶をする。

 そして、先程のギルドでの話を皆に話して、さてどうするかを考える事になった。


 「要するに、俺達を先行させて、救助に向かう時間を短縮するという事だな?」

 「となると…。2人は同行させたいわね。アキトとアルトさんで良いかしら?」

 

 とたんに、アルトさんの顔が輝いたぞ。

 「まぁ、仕方あるまい。…ところで、マチルダは【サフロナ】をあれから覚えたか?」

 マチルダさんが小さく頷いた。

 エルフ族だけあって魔法はお手の物になったのかな?

 

 「で、我等はどこに陣を張れば良いのじゃ?」

 「たぶん…グライトの谷の上が良いと思うわ。森の西にはリザル族のハンターが狩りをしているから、大型の獣は彼等に任せられると思うの。中間付近はサーシャちゃん達の狩場だから、何かあれば急行出来る筈だしね。」


 姉貴が地図を広げながら俺達に説明してくれる。姉貴も、セリウスさんの言った場所を告げたところを見ると、やはりあの辺りが一番危険な所になるという事だな。

 

 「問題は、イオンクラフトが着陸できる所が、グライトの谷の上には無いのよ。深い森だから…。この辺りだと、こことここなら何とかなると思うけど…。」

 姉貴はグライトの谷の下の岸辺と、グライトの谷の東の崖の上を指差した。確かにその場所にはちょっとした空地があるように思える。

 

 「着陸に邪魔な木を切らなくちゃならないかも…。少なくとも10m×20m程の空地は必要だ。」

 俺の言葉に姉貴が頷く。

 「そうね…。それ位は必要でしょうね。野営はこの崖の上にして。谷底は下りるのは楽だけど、上がるのに時間が掛かるわ。」

 

 「だが、20日も野営を続けるとなると、食料や水はどうする?」

 「ディーに運搬を頼みます。3日おきに搬送しますから心配しないで下さい。」

 グレイさんの質問に姉貴が即答する。


 「こちらからも連絡をしますが、出来れば監視台を作って狼煙を見張ってください。」

 「明日の朝、ギルドで再度セリウスさんと調整してください。道具等が必要ならギルドで用意して貰えるかも知れません。」

 姉貴に続いて俺が言葉を添える。

 

 「そうだな。ロープと伐採用のノコギリと斧位は用意して貰おう。食料は3日分を持って行く。」

 「その後で、山荘に集合してください。船でリオン湖を横断します。半日でグライトの谷に行く事が出来ます。それに荷物も積めますよ。」

 俺の言葉にグレイさんが頷いた。


 「ところで、一緒の娘をどこかで見た覚えがあるのじゃが…。」

 「あの時の泥棒です。これは用立てて頂いたお金です。お返しします。」


 そう言って、腰のバッグから銀貨を2枚取り出した。

 「それは持ち帰って、兄弟の装備に使うが良い。用立てた金を返せるまでになったという事で、我等は満足じゃ。…ところで、弓を使うのか?」

 「はい。サニーさんに教えていただきました。」


 「この村で出会う獣は、その弓では心持たぬ…。待っておれ。」

 そう言って、ロフトの階段を上っていくとクロスボーを持って帰ってきた。

 「亀兵隊の使うクロスボーよりは威力は無いが、その弓よりは遥かに強い。使い方は今から教える、着いて参れ。」

 

 そう言うと2人で出て行ってしまった。

 「あの娘の身の上を知っているの?」

 「ええ。3人の姉弟をハンターにしたのは私達です。…そういえば、弟と妹はどうしたのかしら?」

 

 「サニーと一緒に薬草採取をしているわ。サニーも子供がいるから遠出は出来ないし、丁度良いのよ。」

 「驚いた。あの娘…、コゼットと言うんだが、まさか知り合いとはな。」

 

 ちゃんと、モスレムに着いたみたいだ。

 そして、カンザスさん達に色々と教えて貰ったんだろう。1年ちょっとで赤4つだから大したものだと思う。

 本来なら俺達で何とかしてあげたかったが、この村は冬は雪に閉ざされる。

               ・

               ・


 次の日。アルトさんが嬉々として準備を整えている。

 まぁ、足りない物があれば、小型通信器で連絡すればディーが持って来てくれる筈なんだけどね。

 俺は、グルカにショットガンを持って行く、M29は何時も通りにバッグの後ろに隠しているし、ナイフ代わりに姉貴からクナイを1本譲り受けた。

 3日分の食料をディーから渡され、姉貴からはコーヒースティックを数本受取った。

 冬用天幕と寝袋を背負い籠に入れると、小型通信機を大事に袋に入れたアルトさんを連れて山荘に向かった。


 サーシャちゃん達がそんな俺達を手を振って見送ってくれる。それに嬉しそうに手を振るアルトさんだった。

 俺としても嬉しさはある。何と言っても屋台をしないで済むのだ。

 正直、俺には客商売は向いていない。

 やっと、開放されたかと思うと万歳を叫びたくなる。


 山荘に行くと、調理人と近衛兵が俺を待っていた。

 「今回は我々に任せてくれると聞きました。大丈夫です。きっと去年より売り上げを伸ばしますから!」

 そう言って俺の腕を握ってブンブンと振る。

 「あぁ、出し物は同じでも接客次第で売り上げは伸びる。期待してるぞ!」

 そう言うと、涙ぐんで下を向いている。

 何か後ろめたい気がするけど、ここは心を鬼にして彼等に任せよう。


 そして、リオン湖に面した庭に回るとそこに用意されたカタマランを見る。大きく作ってあるからな。前回は9人も乗れたからこれで十分だろう。

 パドルが4本ある事を確認して、グレイさんを待つことにした。


 「婿殿。済まぬの…。」

 そう言って、大きな紙包みを俺に渡してくれた。

 結構重いけど何が入ってるんだ?

 

 「ちょっと待っておれ…。」 

 そう言って山荘に入っていくと、きちんと畳まれた物を俺とアルトさんに手渡してくれたんだけど…。この文様ってあれだよな。

 「これが旗じゃ。」

 ホイって誠の旗を手渡されても…。とりあえず、カタマランに積み込んでおく。


 「やぁ、待たせたな!」

 そんな所に、グレイさん達がやって来た。

 嬉しそうに、新鮮組の羽織りを着ているぞ。

 「何か、若返ったみたいで嬉しいわ。」

 マチルダさんがそう言ってるけど…。確かに新鮮って書いてあるからね。


 こうなっては仕方がない。俺とアルトさんも意を決して、羽織りを着る。

 「中々似合っておるぞ。新鮮組1番隊じゃな。」


 そう言って目を細めて褒めてくれるのは嬉しい限りだけどね。

 グレイさんとサラミスは背負い籠を持っている。どうやら道具と天幕を貸して貰ったらしい。

 カタマランに順番に乗り込んで、船を連結した梁に被せてある網の部分に背負い籠を纏めて載せる。


 「大丈夫なんだろうな?」

 「前にグライザム亜種が出た時にはこれに9人が乗りましたから大丈夫ですよ。念の為に、岸沿いに漕いで行きます。」


 そう言って、パドルで漕ぎ出す。

 グレイさんにマチルダさんが先頭で漕いで、俺とサラミスが後ろで漕ぐ。

 4人で漕ぐカタマランはどんどんと岸を離れていく。

 そんな俺達の船出を、アテーナイ様がずっと手を振って見送ってくれた。


 9時頃に船出をして、途中岸辺にカタマランを着けて早目の昼食を取る。

 再び漕ぎ出しと、2時頃にはグライトの谷に着く事が出来た。

 

 「船を引き上げます。」

 俺の指示で船を岸辺に引き揚げてしっかりとロープを結んでおく。

 枝を折り取って船の上に掛けておいたから、この船を見つけることはちょっと難しいと思う。

 

 そして、グライトの谷を用心して上り始める。

 途中にある塚に俺とアルトさんが頭を下げて手を合わせると、グレイさん達も何も言わずに俺達に倣ってくれた。言わなくても分かるものなのかも知れない。

 カルキュルに出会う事無く谷を上ると、今度は東側の崖の上を湖に向かって歩き始めた。

 

 「ここだな…。」

 ちょっとした広場が谷の上にある。

 10m×20m位の広さがあるが、谷の方は足場が悪い。

 ここは、少し場所を広げる必要がありそうだ。


 「グレイさん。ちょっと広げる必要がありそうです。ユグドラシルで貰った乗り物は荷車よりも大きいですから…。」

 「分かった。アキトが印を付けた立木を切る。その乗り物については後で聞かせろよ。」

 

 俺は頷いて、バッグの袋から片手斧を取り出した。エルフの隠れ里に行く時にもって行った奴だ。

 薪取り用に持ってきたのが役に立つ。

 早速、元の広場を1周り大きくする。20m×30m位にすればディーの操縦なら問題ないだろう。

 十数本の立木に傷を入れて行くと、その後からグレイさんとサラミスが1本ずつなるべく下の方から立木を切り始めた。


 マチルダさん達は湖側に天幕を張ると、薪を集めて焚火を作り始めた。

 夕方近くになって半分程の木を切ったところで、今日は作業を終了する。立木の先端部分は逆茂木にして天幕の左右に置く。こうすれば、近づく者は焚火を挟んだ前方からのみになる筈だ。後ろも急峻な崖だから安心出来る。


 夕食のスープをマチルダさん達が作るのを見ながら御后様に貰った包みを開けてみると、サレパルと鯛焼きが入っていた。

 サレパルは夕食に、鯛焼きは夜食に頂く事にする。


 具沢山のスープをサレパルと一緒に頂いた後は、のんびりとタバコを楽しむ。

 アルトさんが小型通信器を取り出すとアンテナを棒に沿わせて、電鍵を打ち出した。

 興味深く皆がその作業を見ている。

 

 アルトさんが打ち終わると直ぐに小型通信器のランプが瞬く。

 それが終わると再びアルトさんが電鍵を打ち出した。


 「何をアルト様はしているんだ?」

 「たぶん、姉貴と話をしてるんだと思います。姉貴は操作が出来ないから、ディーが姉貴の言葉を打っているんだと思いますが…。」

 「あのカタカタとピカピカで話が出来るの?」

 マチルダさんが興味深げに俺に聞いてきた。

 「えぇ。ランプの点灯の仕方で文字を表すんです。十分言葉を送ることが出来ますよ。」

 そう教えても、やはり感心して見ているばかりだ。


 「サーシャ達も小型通信器を持って狩りをするそうじゃ。これは結構面白い事になりそうじゃ。」

 そう言ってにこにこしながら俺達に顔を向ける。


 「その通信器って誰でも使えるの?」

 「これか?…我等は全員使えるぞ。セリウスのところの双子も、これを自在に使う事が出来る。テーバイ戦やカナトール開放戦ではあの双子の活躍が著しかった。」


 「まだ、5つにもなっていないぞ!」

 グレイさんが驚愕して叫ぶ。

 「その通り。じゃが、その通信技術はモスレムで一番じゃ。作戦本部で周辺の部隊との通信を一手に引き受けても間違いは起こさなかった。

 我等の部隊展開を素早く行なえるのは、正しくあの双子の技能によるものじゃ。」

 

 「でも、万が一の時があれば…。」

 「母様は常に警護の兵を周辺に控えさせておった。万が一の時は双子を抱えて真っ先に逃げるように指示してな。」

 

 「それ程の実力なのか…。」

 「ミズキは言っておった。情報を多く持つほうが勝利を握るとな。テーバイ戦は正しく、それであったぞ。」

 

 そんなテーバイ戦の話を焚火をしながら、アルトさんが皆に披露していく。

 グレイさん達は泉の森の南方でスマトル軍を監視していたそうだ。

 運良く、そちらには敵軍が進行しなかったから何事も無かったと言っていた。


 「テーバイ王宮周辺はそれ程の戦だったのか…。ネウバルバロッサからも俺達の監視所は遠ざかっていたから、その辺のところは知る事は出来なかったが…そうか。」

 俺の王宮での戦いの様子を話し終えると、俺の顔をジッと見詰めてグレイさんは呟いた。

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