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#376 スマトルの脅威 2nd



 ネウサナトラムに戻って5日目の昼下がり…。

 俺達の家にアテーナイ様とジュリーさんがやって来た。

 シュタイン様としばらく離れに滞在するとの事だから、まぁ王都は平穏なんだろう。


 「我が君のいう事には、1度この村の生活を満喫すると王都での暮らしは味気ないとの事じゃ。すまんが、たまには我が君のわがままに付き合って欲しい。」

 「俺も結構、暇ですからその辺はお任せ下さい。」


 アテーナイ様はシュタイン様の扱いについては結構気を使っているな。好きな事をやらせて貰っているからなんだろうけどね。


 「私達と一緒に、セリウス夫婦と子供達も帰村しています。しばらくは昔通りの生活が出来ますね。」

 ジュリーさんが、俺達を懐かしむように言ったけど、そんなに昔の話ではないような気がするなぁ。

 それでも、初めてこの村に来たときは小さかった嬢ちゃん達も、今では婚約者を持っているんだからな。まだ決まらないのはリムちゃんだけだけど…、もう少しで15歳になるんだよな。アルトさんより背丈が伸びたから、急に大人びて来照子とは確かだ。

 何れは、婚約するんだろうけど…その相手は誰だろうなぁ…。


 「ところで、今日訪ねて来たのは…」

 「スマトルとユグドラシルの話ですね。」

 アテーナイ様の言葉が終らない内に姉貴が2つの単語を口にする。

 そんな姉貴を、アテーナイ様とジュリーさんがジッと見詰めて小さく頷いた。


 「ユグドラシルについては、アキトから話て上げて…。」

 姉貴が突然俺の話を振ってきたが、これは予期していた事だ。


 「ユグドラシル…。バビロンと同じように地下の閉鎖コロニーでした。

 直径26M(4km)程の丸い湖の中心にある小島に四角錘の金属建造物がありました…。」

 ディーが俺の話に合わせて、情報端末に映像を映し出す。


 ユグドラシルの南方にある砦とその監視所…。

 ユグドラシルを守護する材ラスと自らを呼ぶ半漁人達…。

 ユグドラシルを統べる3人のフレイヤと名乗る同じ顔をした巫女とその従者達…。

 フレイヤさん達が語ったユグドラシルの過去の出来事…。


 「コロニーの規模はバビロンよりも小さいものです。ですが、元はバビロン並みと考えて良いでしょう。コロニー内部の対立と事故により閉鎖された区画が多いものと考えます。

 科学技術はユグドラシルの方が上であったと思われます。フレイヤさん達はサイボーグと呼ばれる改造体です。人体の器官を人工の生体部品で補って長寿命を得ています。

 そして、俺達の目的である次元の歪の除去に関してですが…。

 歪の増大を、当初はラグナロクとして享受すると言っていましたが、最終的には協力してくれることになりました。

 ただ、しばらくは現象のコード化…現象を計算できるようにする事ですが。その作業にバビロンと連携して行なうと言っていました。

 最後に、土産と言ってイオンクラフトを頂きました。庭の片隅に作った納屋に入れてあります。

 俺達全員が乗り込んでも荷物がある程度積み込めます。それで帰りの旅をしてきましたが、1日で1300M(200km)程を飛行する事が出来ます。」


 「私達エルフ族は初期にユグドラシルを旅立ったのではなく、追放されたんですね…。」

 「じゃが、その後の悲劇を考えれば、一番良い状態での旅立ちには違いない。自らの意思で自分の姿を変えていった者の運命は悲劇じゃな…。

 まぁ、それはもう既に起きてしまった事じゃ。今後を考える上では役には立たぬ。

 とりあえず、ユグドラシルの協力が得られるという事で満足すべきじゃろう。されど、歪の除去には更に時が必要になるわけじゃな…。」


 俺は少し温くなったお茶を飲んだ。

 確かに、長期的な話ではある。しかし、休む事を知らない電脳達が協調して作業をするのだから、時間が必要になるのは観測データの収集の方じゃないかな。

 データの収集とコードの作成。それによって得られる予測データと観測データの評価。これを電脳達が満足するまで繰り返す事になるんだろう。


 「イオンクラフトはディーさんの飛行と同じと考えれば良いんでしょう?…次の戦に十分寄与出来そうですね。」

 「戦で使用するには使い方が難しいです。飛ぶ時の高さも100D程ですから地上の高い木々等が障害になります。ダリル山脈の谷越えでは苦労しました。」


 「古の技術じゃ。彼等も世界を滅ぼしかねないものは用意に提供はすまい。それでも、偵察や運搬には役立つじゃろう。」

 アテーナイ様がそう言って締めくくる。


 ちょっと休憩を挟む為にディーがお茶を入れ直すと、アテーナイ様が腰のバッグからごそごそと取り出した物は…鯛焼きだった。


 「ミク達に連れられて買いに行ったのじゃが、どうして中々美味い物じゃ。」

 慌てて姉貴が木製の皿を用意している。

 「この村でも誰ぞに焼かせる事にすれば良いのじゃが…。」

 

 意外に人気が出ているようだ。常に店を開くのは難しいかも知れないけど、野菜市や狩猟期なら意外と需要があるかも知れないな。


 「ニードルが知らせてきた最新の情報によると大型の獣を調教しているとの事じゃ。これはミズキの言っておった南進軍によって得られたものじゃろう。残念ながら情報はそれ以上の物は得られなかった。」


 「情報端末で村に帰ってから確認しました。南進軍が持ち帰った獣は少なくとも2種類…私は3種類は持ち帰ったものと考えています。

 その内の1つが巨ゾウです。エルフの隠れ里を訪ねる時に見たマンモスよりは小型でしょうが、それでも家程の大きさです。

 もう1つはまだ確認できませんが、たぶん衝撃力に特化した獣を持ち込んでいる筈です。」


 「そのような巨体であれば矢やボルト等は利かぬ事になるのう…。」

 「バリスタ辺りが有効になるでしょうね。それと、ミーアちゃんがやったように耳に爆裂ボルトを打ち込むのも方法の1つです。あらかじめ予想進路に落とし穴を掘る方法だってあります。大きさで圧倒されて士気が低下する方が問題でしょう。」


 とは言え、脅威には違いない。

 立ち向かう勇気があればそれなりに何とかなりそうだけど、100匹近いゾウが一列になって突進してきたらどうやって防ぐと言うのだ…兵隊達は我先に逃げ出すと思うけどね…。


 「ただ、ゾウ部隊は敵も使い方が難しいと思います。

 大型である事、そしてゾウが大食漢である事を考慮すると…。大軍勢の中に組み入れるのは食料の調達が大変です。

 一番考えられるのは、別働隊として連合王国軍の混乱を引起すという事だと思います。

 規模としては、ゾウが100匹、歩兵が2000程度。これだけでも、旧来の王国であれば簡単に壊滅出来たでしょう。 そして、進路はこのようになります。」


 姉貴が地図を取り出して、テーブルに広げると指先で進路を示す。


 「テーバイに上陸して西に向かうという事じゃな。そして、本隊はサーミストのカリストに上陸ということか…。

 2方面で戦う事になる。しかも距離が離れておるから我等の軍勢は相互に協調することが出来ぬ…。」

 

 「更に、ここも盲点ではあります。」

 姉貴が差した場所は、俺達の夏の別荘がある漁師町だ。

 

 「アトレイム王国でのこの地の評価は極めて低くなっています。その理由は水の便が悪い事にありますが…。陽動部隊を上陸させるには適地です。難なく王都近辺にまで進出が可能でしょう。」

 「それは、我等も考えた。じゃが、大軍を維持出来る程の水が無い。そして、荒地の西はサンドワームの地。それ位の事は攻め手も知っておるじゃろう。」

 

 国王達も考えては見たようだ。だが、それは自分たちの目で物事を見てないか?敵の目にはその地がどう映るかをもう一度考えるべきだろうな…。


 「モスレムはニードルという情報部隊を持っています。敵は持っていないのでしょうか?…もし、スマトル国王が軍事に明るいのであれば何らかの情報部隊を持っている可能性があります。

 もし、スマトルにこの河川が知られたら…。」


 「アトレイムの町村は東南に作られておる。西には小さな村があるのみじゃ。そして、この流れはアトレイムの重要な水源でもあるのじゃ。

 王都を目指す事無く、この河川目指して進むのであれば…1万の軍勢も必要ないじゃろう。西に行けば行く程に監視の目は少なくなる。」


 「3箇所に上陸ですか…。連合王国の東と西それに中央部になります。私達には通信器がありますから相互の連携は容易ですが、スマトルはそんな広大な戦線をどうやって連携させるのでしょうか…。」

 「例の大蝙蝠で文を送れば良い。我等のようには行かぬまでも、連携は取れるじゃろう。歩兵の歩みは1日で精々200M(30km)というところじゃ。少々伝達が遅くとも連携は可能じゃろう。

 じゃが、先程の話は少し問題じゃ。アトレイム国王には注意するとして、事前に策を講じる事は出来ぬのか?」


 「前に、イゾルデさんが兄が穴を掘っていると言ってました。あれは西方の開拓の為の水源を作るという事だと思っています。

 ならば、バルバロッサのような砦をかの地に作れば、スマトル軍の要撃が可能だと思います。それと…私達の別荘ですが、かの地に建設中の神殿を要塞として使用することは無理でしょうか?」


 アテーナイ様はパイプを取り出した。俺が火を点けてあげると軽く俺に頭を下げる。

 ふー…と、煙を吐き出しながらしばらく考えているようだった。


 「大神官との調整じゃな。…国難ではある。じゃがそれは現世の事じゃ。神の住まう地を要塞と化す事を許したもうかは判らぬぞ。」

 

 神社仏閣を要害の地に態と作り、後々にそれを軍事に利用する事は良くあったとミズキの祖父さんに聞いたことがある。

 西洋にも似たような話はあったと、後に哲也からも聞く事が出来た。

 確かに、あの別荘と石作りの神殿は要害の地に建設されている。姉貴が言うように、あれだけで監視所と砦の役に立つことが出来る事は確かだ。

               ・

               ・


 そんな事を話し終えて、最後にアテーナイ様はイオンクラフトを見て山荘に戻っていった。

 1度乗せて欲しいって言ってたけど、しばらくは使わないような気がするぞ。

 

 まだ、夕暮れには間があるからか、嬢ちゃん達は狩りから戻ってこない。

 久しぶりの渡りバタム狩りをミクやミトを交えて楽しんでいるようだ。


 3人でテーブルに着くと、早速姉貴に聞いてみた。

 「やはり、海岸線全体に陽動部隊が上陸すると考えてるの?」

 「撹乱して分散。本体の上陸に合わせて集結…たぶんこの形を取る筈よ。」


 「テーバイ戦と似てるね。」

 「似てると言うより、そのものだわ。但し規模が大きいのよ。この海岸線の長さは直線で800kmもあるのよ。幾らガルパスが1日で300km以上駆ける事が出来ても、その後の戦をすることは出来ないわ。

 歩兵部隊は敵の主力に備えるとして、ガルパス部隊と屯田兵部隊の配置は頭が痛いわね。」

 屯田兵だって、大勢ではない。主要な町には歩兵が駐屯するだろうけど、小さな村や町の防衛を指揮するのは屯田兵達になる筈だ。余力なんて全く無いんだよな。

 後は、ハンター達を集めるしかないんだけど、あまり集めすぎるとスマトルの二の舞になる可能性だってある。せいぜい、ハンター登録している者の半数も集まれば良い方だろう。黒レベルが1000人程度…。能力はあるけど統一が取れないから使い方は難しいな。


 

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