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#372 3人の巫女

 


 ピラミッドの入口にある大きな扉がせり上がると、その向こうに扉の大きさと同じ大きさの通路が奥へと続いていた。

 通路は壁自体が発光しているようで奥まで見通すことが出来る。どうやら30m以上続いているようだ。


 「何んと…。我等がユグドラシルを出て以来開く事がなかった扉が開かれたのか…。」

 「俺達はユグドラシルに教えを請いに、遥か南に聳える山脈を越えて来ました。このまま中に入ろうと思います。」


 呆気に取られてピラミッドの開口部を見ていた、半漁人の1人に告げた。

 俺達を取巻く半漁人達は何時の間にか数を増やし、20人程が俺達を囲んでいる。


 「行くが良い。…扉が開かれたという事は、お前達がユグドラシルに至る資格を持っているか。或いはユグドラシルの巫女に招かれたかの何れかであろう。…我等には扉は開かなんだ。我等はこの地でユグドラシルの守護に勤める定めなのじゃろう…。」

そう言って、通路の奥を指差した。

俺達は軽くそう言った半漁人に頭を下げると、通路の奥に向かって歩き出す。


 通路の突き当りには正面と左右に扉のようなものがある。

 正面の扉はそれ程大きくはないが、左右の扉は大型だ。大型の重機や車の倉庫になっていたのかも知れない。

 「ここにスリットがあります。」

 ディーが扉の横にあるカードリーダーのような装置を指差した。

 姉貴がスリットにゴールドカードを通すと、正面の扉が開いた。

 

 その先は3m四方の小さな部屋だ。

 「バビロンみたいにエレベーターなのかな?」

 姉貴はそんな事を呟いてるけど、たぶんそうだろうと言う事で全員が狭い部屋に入った。

 

 「ユグドラシルゲートに直行します!」

 そんな声がどこからか聞こえて来ると、俺達が入って来た扉が閉まる。そして、下に落ちるようにフワッとした感触が伝わった。


 「ここも、地下にコロニーがあるみたいね。」

 「一時期、地上に生物が住めないような環境にまでなったんだ。生活圏が地下でもなければそれを乗り切れなかったんだと思うよ。」


 やがて、今度は体重が増えるようなGを感じる。どうやら、ゲートに到着したらしい。

 不意にGの不快感が無くなると、扉が開いた。

 そこは体育館よりも広い空間で駅の改札口のようなレーンが数列続いている。少し違うのは門形のゲートが付いていることだ。もっとも扉は無いからそこを潜れば良いみたいだ。


 天井から何箇所かに大型スクリーンが吊り下げられている。アナウンス板なのかな。

 薄暗い空間が突然明るくなると、大型スクリーンにノイズが走りやがて鮮明な画像が表示された。

 若い娘さんの上半身が画像に表示されるとアナウンスが始まる。


 「ユグドラシルへようこそ…。ゲートのご案内を致します。緑のライトが点滅しているゲートにお進み下さい。

 途中、赤い点滅の装置に右手を入れて、中のバーを握って下さい。そうすれば出口の扉が開きます。

 ゲート通過は1人ずつお願いします。入口のライトが再度緑の点滅の変わってからお進み下さい。」


 何か、空港の入国審査みたいだな。

 改札口を見ると2つのレーンで緑のライトが点滅している。

 早速、レーンを潜ってみる事にした。


 姉貴が最初で嬢ちゃん達が続く。その後をディーが通過して最後が俺という具合に通り抜けた。

 姉貴や嬢ちゃん達はともかくディーも通れたぞ?

 威力偵察用のオートマタを簡単に通過させて良いものかと考えてしまった。


 「さて、どちらに行けば良いのじゃ?」

 アルトさんの言葉に嬢ちゃん達が俺を見る。

 姉貴やディーまでが俺を見ているけど、俺だって判らないぞ。

 

 カツン、カツン…と小さな足音が近付いてくる。

 入口付近で遭遇した半漁人には驚いたけど、今度はどんな連中なんだろう?

 足音から判断すると、どうやら1人らしい。段々とこの部屋に近付いてくる。

 そして、突然装置の陰から1人の女性が現れた。

 白いショートカットに体に張り付いたような衣服を纏っている。足の短いブーツは衣服と一体になっているようにも見える。その靴底のヒールの音が聞こえていたらしい。


 「このユグドラシルに客人が訪れるのは千年以上途絶えていました。ユグドラシルは人類の来訪を歓迎致します。例え、人類以外の友人が一緒でも…。

 急な来訪にはそれなりの理由がある筈。先ずは神殿にて来訪の目的をお話下さい。

 私に続いて、いらして下さい。ユグドラシルの大神殿にご案内いたします。」


 俺達は案内嬢の後を付いて奥へと歩いて行った。

 幅2mにも満たない通路をしばらく歩いていくと、地上から下りてきたエレベーターのような部屋に辿り着いた。

 

 「ここから、更に下りる事になります。巫女専用のクラフトですから神殿に真っ直ぐに下りられます。私の案内はここまで、下には巫女が待っている筈です。」

 そう言って部屋を出てこちらを振り向くと、俺達に頭を下げる。

 俺達が慌てて頭を下げようとした瞬間に、床が抜けるように俺達の体が落下し始めた。

 

 落下している訳ではなく、落下に近い速度で降下しているようだ。トントンとブーツで床を踏みしめると、硬い感触が伝わる。

 床が発光しているらしく俺達は暗闇にいる訳ではないが、壁面は真っ暗だ。

 

 「落ちる速度が緩やかになってきたようだぞ。」

 アルトさんの言葉が無ければ判らない位に、俺達の降下速度は少しずつ弱まっている。最後に明るい場所に出たと同時に降下が停止した。


 奥からトーガのような長衣を着けた女性が現れる。

 さっきの女性のようなヒールの音は無く、床を滑るようにしてゆっくりと近づいて来た。

 「お待ちしておりました。どうぞこちらに…。」

 

 そう言って俺達に深々と頭を下げると、きびすを反して奥へと歩き出す。

 俺達はその後を付いて行くしかない。

 「マスター…。先ほどの女性、それに前を歩く女性も人間ではありません。私同様、オートマタです。」

 ディーが小さく俺に呟いた。


 長い通路をひたすら歩くと、前方を歩く女性が立ち止まった。そこには扉がある。

 俺達がそこに着くと扉が開いた。


 「ここでお待ち下さい。直ぐにフレイヤ様が参ります。」

 教室程の部屋には丸いテーブルがある。そして柔らかそうな椅子が10個程置いてある。

 早速、椅子に座り込むと姉貴に話掛けた。


 「フレイヤって言ってたよ。確か北欧神話の登場人物だよね。」

 「神殿…そして巫女。ここもバビロンと同じように自分達を神に仕えるものとして位置付けているのかしらね…。」

 

 そんな事を話していると、トーガを着込んだ3人の女性が現れた。俺達を案内してくれた女性達と違って豊かな金髪の巻き毛が両肩に掛かっている。

 俺達の座ったテーブルの空いた席に着くと、真ん中の女性が話し掛けてきた。


 「長いユグドラシルの歴史を振り返っても、新たな大地に人類が旅立って以来客人は無かった。…とりあえずは歓迎せねばなるまい。」

 

 その言葉の後に先程案内してくれた女性と瓜2つの容姿をした女性が飲み物を運んできた。

 俺達の前にカップを置いたが、俺の前だけ形が違っていた。

 「先程、微量の血液を採取した結果で飲み物の好みを違えてみた。ただ1人の男子は薄いコーヒーにしている。そして、ここでの喫煙も構わぬぞ。普段通りで良い。」

 早速、1口飲んでみる。うん、俺好みのアメリカンだ。


 「ところで、お名前は?」

 「我等、3人ともフレイヤと名乗る。…そこな、オートマタとは姿は似れど、我等は未だに肉体を持っておる。されど、役職の名のみを与えられ、番号で個を認識する。我は、フレイヤ01、左がフレイヤ02そして右がフレイヤ03となる。」


 「失礼な言い方で申し訳ないが、貴方達はクローンという事になるのですか?」

 「否、そうではない。…サイボーグと言う範疇になるのであろう。確かに主要な器官はクローン化しているが、我等3人共に別の存在だ。この姿体となる姿は高分子素材による作り物に過ぎぬ。」


 体を機械に置き換えるのではなく、有機素材を使用したシステムに置き換えたという事だな。そして、その母体となった存在は1人ではなく、少なくとも3体存在したと言っているようだ。

 

 「早速ですが、我等の訪問の目的をお話してよろしいでしょうか?」

 「…申すが良い。」


 俺は、2つの歪みについて話を始めた。

 バビロンの神官の話、リザル族の長老の話をする俺をじっと見詰めながら、3人のフレイヤと名乗る女性は聞いていた。


 「多元宇宙の偶発的な交差となるか…。それを誘引したのが超磁力兵器の開発とは皮肉じゃ。引き金は月の資源争いであったが、月から地球へと戦場が移るのにそう時間を要しなかった。」

 

 「2つの月が多元宇宙の交わりを証明していると言っていました。そして、地上でも…。」

 「言わずとも良い。我らとてユグドラシルの南方にある次元の歪みは認識しておる。」


 「バビロンの神官は言いました。ユグドラシルであればその破壊の方法が判るかもしれないと…。」

 俺とフレイヤさんの会話に姉貴が割って入った。

 

 「良いではないか…。人類にかつてに繁栄はない。この先どうなるか判らぬが、たぶん同じ轍を踏むに違いない。

 ある日、突然に世界は終る。…ラグナロクが起こるのだ。」


 「ラグナロクは生き延びる者がおりますが、このラグナロクの後には何も残りません!」

 姉貴が強い口調で言った。


 「確かに…。いにしえの伝承ではそうある。」

 左側に座るフレイヤさんが言った。

 「この娘の言う通り、次元の歪みによって引き起こされる多元宇宙の重合が惑星規模で発生した場合は誰も生き残る事は無い。」

 右側に座るフレイヤさんが言った。


 「当初4つのコロニーが残ったと聞いています。それぞれのコロニーの人達は変異はしていますが人間です。諍いは発生していますが、滅亡には至っていません。

 アルマゲドンを生き延びても…、突然終焉ではあまりにも悲しすぎます。」


 「だが、このままでは終焉に向かうは確か…。」

 「我等、世界を見詰める者なれば、手出しは出来ぬ。」

 「手出しは出来ぬが……手伝いは出来よう…。」


 姉貴の言葉に3人のフレイヤさんがそれぞれ呟いた。

 

 「ユグドラシルならば判るのではないかと、バビロンの神官は言っていました。破壊の方法を教えて頂きたいのです。」

 「それには、しばし時間が掛かる。次元の歪は移動していると同時に複雑にその形状を変えているのだ。あたかも振動しているようにも思える。

 もし、もう1つの歪が南の歪と対を成すものであれば同時に対処する必要がある。

 その時に問題となるのはその振動が同一性を持っているかどうかという事だ。

 もし、振幅時間に差があるのであれば、かなり面倒な事になる。

 それをどうやって知るかを考えねばならぬ。」


 2つの事象を同時に観測しなければならないという事か…。

 先行して、ユング達がもう1つの歪に向かっているが、あいつ等は身一つで向かっている。

 「その件は、バビロンの神官とも話し合ってみます。そして、先行している仲間も観測が可能かを確認して見る心算です。」

 「肉眼での観測は無意味だぞ。少なくとも磁場の増減をナノセカンドで観測する手段が必要となる。」

 俺の言葉に真中のフレイヤさんが答えた。


 「先行している者は、ナノマシンで構成された体を持っています。ひょっとしたら観測方法を持っているかも知れません。」

 「その答えを待っている。…歪を生じる磁場反転の起こった瞬間に大エナジーで歪そのものを吹き飛ばせば良いと考えるが…そのエナジー発生の方法と必要となるエナジー量はこちら考えるとしよう…。」

 姉貴の言葉に左側のフレイヤさんが答える。


 まさか、もう一度超磁力兵器を使うなんて言わないよな。

 そんな事を考えながら、俺は姉貴とフレイヤさん達の話を聞き始めた。

 

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