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#367 材料が足りない!

 


 アクトラス山脈の峰々が新緑に染まる頃、サーシャちゃん達が村に帰って来た。やはりセリウスさんも一緒に帰って来たようだ。

 昼はギルドの引継ぎだと言っていたから、夕食後に関係者が集まる事になる。

 亀兵隊の訓練は各中隊長に任せてあるから大丈夫、とミーアちゃんが言っていたから、今頃はエイオス達が頑張っているのだろう。

 久しぶりに全員が揃った嬢ちゃん達は、シュタイン様と一緒にトローリングを楽しんでる。

 孫が大勢訪れたとシュタイン様も嬉しそうだったな。


 そして、その夜。山荘のリビングに俺達は集まった。

 近衛兵にリビングの壁に白い布を張ってもらう。

 そしてテーブルに情報端末を乗せると、早速姉貴が端末を操作し始める。


 「良いですか…。ここに集まって貰ったのは、スマトルの新しい武器について知ってもらうためです。」

 そう言って、姉貴が端末を操作すると、白い布に画像が投影される。

 

 「スマトルの危惧は政治形態とその軍勢だけではありませんでした。次の戦は数年先になるでしょうが、今からお見せする兵器の対策を考えねばなりません。」


 言葉に合わせて端末を操作すると、スマトルの軍船が投影される。

 「何だこれは…バリスタが3台あるぞ。…ちょっと待て、あの大きさは我等のバリスタをはるかに凌ぐぞ!」

 「船に乗せられるという事は、陸上でも動きは制限されるが運用は可能じゃろう…。推定飛距離は機動バリスタよりも長くなるじゃろうな。」

 

 セリウスさんは驚いているがサーシャちゃんは冷静だな。

 「運用部隊が1つなら、何とかなる。…でも、複数の部隊で相互に連携した場合は脅威…。1回の突撃で半数が脱落するわ。少人数で散開して攻撃では有効打を敵に与えられないかも…。」

 「機動バリスタも試射が出来ぬ。最大射程で挑むとしても接近せねばなるまい。2撃は食らうと考えねばなるまい。」


 最大射程での攻撃は散布界が広がってしまう。それはそれで使い方があるんだが、拠点攻撃には適さない。敵陣への有効打は2割にも満たないだろう。

 敵陣前に素早く展開してボルトを発射して逃走…。この時間にどれだけの時間が掛かるだろう。少なくとも2撃されるというサーシャちゃんの意見は間違っては無さそうだ。

 そして、その2撃の命中精度は機動バリスタよりも上の筈だ。


 「そして、もう1つの危惧がこの南進軍です。…私達は新しい獣を捕らえる為の部隊であると考えています。

 その獣ですが、この2つではないかと私達は想定しました。」

 そこに写し出されたのは、ゾウと犀だ。

 「この角を持った獣は犀と言う動物です。突進力が極めて強く、その皮膚は極めて丈夫です。

 私の国にいた動物ですが、この地方では少し形が変化しているかも知れません。

 次の動物はゾウです。エルフの里を訪問した時に良く似た動物と遭遇してミーアちゃんとアキトでどうにか倒していますが、同じような獣だと思ってください。

 そして、これがこの動物を戦闘に使った場合の使われ方です。ゾウの上に人が乗って、槍や弓を用います。ゾウの鼻そして牙も有効に機能するでしょう。」


 「世界を統一出来そうじゃな。…じゃが、その世界は専制政治じゃ。自由も無く、軍による搾取が日常的に行われよう。」

 「スマトルが大国になろうとも、周辺諸国を侵略しなければ見過ごす事も出来るでしょう。でも、この軍備は明らかに連合王国への侵攻を考えていると見て間違いはありません。」


 「血で血を洗う戦になると前に言っていたが、正しくその通りになるのだな。だが、我等は例え国を亡くすことになっても最後まで戦うぞ。」

 「それも1つじゃが、一体どの程度の被害を領民にもたらすかのう…。」

 

 サーシャちゃん達はやる気満々だが、アテーナイ様は沈んでるな。軍と国政の立場の違いなんだろうな。


 「そこで、亀兵隊に新たな武装を提案します。機動ガルパスのバリスタを全て撤去して歩兵に渡します。そして、新たに大砲を装備させます。」


 そう言って、ディーの描いた簡単な絵を投影した。

 ガルパスの鞍を撤去してそこに木製の台座を着ける。台座の先端には鞍を付けて今まで通りにガルパスを駆る事が出来る。そして、台座の後ろには短い筒が置かれていた。


 「これが大砲です。発射速度は極めて遅くなります。でも、最大の特徴は爆裂球を6M(900m)以上飛ばす事が出来ます。」

 「「「何だ(じゃ)と!!」」」

 皆が一斉に姉貴を見る。

 「最低でもそれ位は飛ぶと思います。明日試射してみますけど、上手く行けば10M(1500m)位は行くかも知れません。」

 

 「恐ろしい武器よのう…。じゃが、簡単に作れるのか?」

 「基本は鉄の筒ですから、ユリシーさんに作ってもらってます。もう1つ考えてますけど、これは距離は半分位になりますね。それでもスマトル軍のバリスタよりは遠くに届きます。…こんな感じになります。」


 次の画像は通常の亀兵隊の姿だった。ただ、鞍の後ろに横向きに筒が付けられている。

 「前の大砲と似ておるの…。使い方が異なるという事か?」

 「使い方と言うよりも反動の受け方が違うんです。大砲は発射した反動を全てこの台座で受けます。でも、この方式だと反動が殆ど発生しません。」

 

 「1つ聞きたい。どうやって飛ばすのじゃ。バリスタは大型のクロスボーじゃ。矢が飛ぶのは理解できる。我の作った信号筒も筒の中のバネを使う。それは戦闘工兵の持つ爆裂球投射器と原理は同じ…。我は、あの小さな筒に仕込んだバネで6Mの距離に爆裂球を飛ばすのは出来ぬと思うのじゃが…。」


 姉貴は別の画面を投影する。

 「今、サーシャちゃんが言ったとおり、これが爆裂球投射器の構造です。このようにバネを使って爆裂球を発射します。

 大砲は、バリスタのような弓や爆裂球投射器のようなバネを使用しません。」

 そう言って、画面を切替える。


 「筒の中に2つの爆裂球を入れます。爆裂球と爆裂球の間には、木材の干渉材を入れてあります。

 この状態で、後ろ側の爆裂球を炸裂させます。このとき発生する爆圧は周囲が鉄や木材で固定されていますから逃げる方向が1つしかありません。

 この干渉材毎、爆裂球は飛び出して行きます。」


 「鉄の管の中で爆裂球を炸裂させるのか!」

 「鉄の管は持つのであろうな?…鉄管が炸裂したら味方が被害を受けそうだ。」

 

 「それを試験します。もしダメなら、このように爆圧を2方向に逃す方式を採用します。」

 そう言ってカウンターマス方式の断面図を映し出した。

 

 「しかし、爆裂球を用いて爆裂球を撃ち出すなぞ、誰も考えもしなかったぞ。だが、これが敵軍に知れると…。」

 「破壊規模と領民の被害は更に大きくなります。」

 「じゃが、20万を越すスマトル軍を前に敵のバリスタの届かぬ場所から攻撃出来る事は理想的じゃ。…そして、この飛距離がもう1つの問題となる。

 観測射撃がどうしても必要じゃ。敵軍にただ落とすだけならそれ程問題は無かろうが、敵に有効な打撃を与える為には、観測部隊との密接な連携が必要となる。…それが出来るのは我等だけじゃ。」


 サーシャちゃんは観測部隊での補正の必要性を言ってるんだな。

 機動バリスタでも問題だったみたいだ。無線機と望遠鏡これを持っているか否かで、運用が違ってくると判ってるみたいだ。


 「そして、…私とアキトが兵器で協力出来るのはここまでにしたいと思っています。

 大砲は強力な武器です。これ以上の武器は世界の安定を崩しかねません。」

 「兵器開発の螺旋を閉ざすという事じゃな。…それが良かろう。我等も3度救われておる。婿殿達には別の使命もあるのじゃ。」


 早めに、1度ユグドラシルを訪れる必要がありそうだな。

 ユング達の歩みはゆっくりだけど確実に東に向かっている。その時になって慌てる事が無いようにしたいものだ。

               ・

               ・


 次の日、ユリシーさんが届けてくれた大砲を、庭の擁壁に縄で固定して試射を行なう事になった。

 「しかし、こんなもんで爆裂球を飛ばせるんかのう?…ほれ、これで良いじゃろう。」

 そう言って爆裂球と木片をセットにした弾丸を入れて小型の爆裂球をその後ろに入れると、大砲の後ろにある鉄の枠に四角の木片を入れてハンマーで叩く。

 「ディー。大砲の材質変化を調べて欲しい。」

 俺の依頼に、ディーが大砲をジッと見つめている。X線で鋼の構造を見ているのだろう。

 

 「終了しました。以前よりは鋼材の質が若干向上しています。」

 俺が後ろに振り向くと、アテーナイ夫妻、セリウスさん家族、そして嬢ちゃん達が成り行きを見つめている。

 

 「準備完了です。…ディー、発射時の衝撃がどの程度かを計測。そして、飛距離も測定出来るか?」

 「問題ありません。5秒の時間があります。…発射角度15度です。これで、最大射程も計算出来ます。」


 発射10秒前からディーがカウントダウンを始めて、大砲から延びる紐を引く。

 1…2…3でドォン!っと言う低い音と共に大砲がぶれる。

 そして、5秒後にリオン湖の遥か彼方で爆裂球が炸裂した。


 「飛距離…1,600m着弾後1秒で炸裂しました。発射時の衝撃は0.2G程度、ガルパスの重量で吸収出来ます。大砲の部材変形ありません。亀裂も発生していません。100回以上の発射に耐えると思われます。」

 

 ディーの報告を聞いて、再び後ろを振り返る。

 「どうやら、使えそうです。飛距離約10M。着弾した後に炸裂してますから、もう少し距離を伸ばしても問題無さそうです。」


 「10Mじゃと?…敵の射程の3倍の距離から攻撃出来るのじゃな!」

 ディーがサーシャちゃんの問いに小さく頷いた。

 「だが、発射までの時間が掛かりそうだな。バリスタの3倍は掛かりそうだ。」

 「それは、数で補えば良い。数発試射した後で一斉に放つ。そして後退すれば良いのじゃ。」

 

 セリウスさんと嬢ちゃん達は、たちまち戦術を考え始めたぞ。

 姉貴はジッと考えているようだ。

 そんな姉貴にアテーナイ様が声を掛ける。


 「さては、途轍もない兵器じゃの。それで、ミズキはこれを幾つ作る心算じゃ。」

 「機動バリスタ部隊に大砲を積みます。そして、他の部隊にはカウンターマスを使った無反動砲を配備すれば良いでしょう。」

 「後は、海軍だね。商船の甲板なら5台は積めそうだ。それに、潜水艇には無反動砲を積めば反撃を受ける前に潜行出来そうだ。」

 

 「なるほどのう…。取外したバリスタは歩兵に渡すが良い。歩兵達も、バリスタがあれば心強いじゃろう。」

 「問題は製造に時間が掛かりそうな事だ。しかも、鉄を大量に使用する。輸入するにしても、南方は不可能だぞ。」


 確かに鉄は使うよな。輸入にたよるしかないという事なのかな?

 「エバリスは鉄の鉱山を持っておる。輸入するしかあるまいが…その資金をどうするかじゃな…。」

 「カイナルの西はどうなのじゃ?…そもそもあの土地争いが我等の発端じゃ」

 

 確か、15kmの土地をカナトールと争ったんだよな。

 その時は、鉱山でもあるんじゃないかって言ってたけど、そう言えばほったらかしになってるぞ。


 「そんな話もあったのう…。何があるかは分らぬが一応調査をさせてみるかのう…。」

 アテーナイ様は現実主義者だから、なにがあるか分らないようなものを、当てにはしないようだな。

 でも、一応調べてみる価値はあるんじゃないかな。ひょっとしたら何か良いものが見つかるかも知れない。まぁ、宝クジよりは確率が良いんじゃないかなと、俺は思ってるけどね。

 


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