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#363 ゾウ狩りでもするのかな?


 モスレム王都にある俺達の館に久しぶりに全員が揃っている。

 今日は、士官学校も休日のようだ。

 何でも、3日後から1週間掛けて図上演習をすると姉貴が言っていた。


 「私の話をちゃんと聞いていれば、1週間掛けても終らないと思うけど…。3日程度で終ってしまったら、ちょっと高級仕官には向いていないかもね。」

 そんな事を言っていたが、いったい何を始めるんだか…。


 俺達はテーブルの上の情報端末を操作してスマトル南進の状況を観察していた。

 スマトルは東西のマケルト、カムラムを従えて南の大陸北部をほぼ手中に収めている。

 とは言え、カムラムの東には砂漠が広がっているし、スマトルの南にも砂漠が広がっている。

 そんな砂漠地帯を南進するなんて、俺達にはちょっと考えられなかった。

 たぶん大河を遡りながら軍を船で進めているのだろうと情報端末でその姿を見ようとしたのだが…。


 「河を上っているんじゃないのね。」

 「この蟻の行列がそうじゃろうか…。」

 「西岸地帯にも大きな塊がありますよ。」


 300kmは続くだろう砂漠を堂々と横切っている。

 確かに、西岸地帯を進む軍隊もいるのだが、それは規模として小さいものだ。

 河の上流地帯はスマトルが粗方手中に収めたのだろうか?

 画像を拡大すると、10万近い軍勢が南を目指している様子が覗える。出立してから数週間が過ぎているのだろう。その軍勢は後数日で先鋒軍は砂の海を抜け出して荒地へと辿り着けるだろう。その先にあるのは戻りの森と西に流れる大河だ。

 大河を西に辿ると、大きな町や都市が見える。


 「西岸地帯を進む軍は精々1万程度。…完全な陽動部隊だわ。この国は迎撃体制を西岸に引いているから、本体の強襲を受けたらそれまでだね。」

 「御用商人達が騒いでいたよ。貿易相手がこのままでは無くなってしまうとね。」


 ラジアンさんが昼に訊ねてきて、俺にそんな話をしていった。

 確かに、1つの国を相手に貿易を行なうのは、単なる相手国の産物を買い付けるだけではなく、自国の産物を売る場でもあるわけだ。

 それが出来なくなれば、嗜好品や農産物、鉱物の輸入が途絶えると共に、モスレムの農産物を売る場が無くなると言う事になる。

 農産物が売れなければ、市場価格は暴落し農産物の被害を防ぐ為に害獣を駆除するハンター達の依頼も少なくなるという負のスパイラルが始まってしまう。


 「スマトルの目的が判りませぬ。あのように砂漠を挟んだ土地を領地にしても、その産物を輸送する事は極めて困難です。」

 そう言って、ラジアンさんも情報収集した結果を知らせると言いながら帰って行った。


 連合王国の国王達は、輸出用の農作物を入れる新しい倉庫を作ることで、農作物の買い支えをするような事を言っていた。

 それも、方法の1つではある。

 将来の民兵動員を考えれば、この機会に食料倉庫を作る事は投資的には正しい事だと思う。

 だが、数年も続けば大問題だ。国庫が疲弊する事になる。

 それが判っているから、連日国王達が頭を寄せ合って対応に苦慮しているようだ。


 「アキト…。ハンニバルって知ってる?」

 「有名な将軍でしょ。何処の国かは忘れたけど、アルプスをゾウ部隊を率いて越えたって世界史の先生が言ってたな。」


 何を突然言い出すんだ?…全く、家の姉貴にも困ったものだ。皆集まって悩んでいるのに…。

 「ひょっとしてと思ったんだけど、スマトル軍は新兵器を手に入れる為に、南進したのかな…って。」

 「新兵器って、ゾウやサイみたいな大型獣のこと?」


 「そう…。獣を操る技術をスマトルは持っているわ。私達がガルパスを操るのを見て、更に大きな獣を探す為に南進したんだと思うんだけどな。」


 ドラゴンライダーであれだけ手こずったんだぞ。ゾウやサイが突進して来たら連合王国では防ぐ事なんて不可能だろう。

 ましてや大型獣なら爆裂球付きのボルトでさえどの程度有効かは判ったものじゃない。

 確かゾウ狩りは専用の弾丸を撃つ銃が必要だと聞いた事がある。

 弓矢で倒す事なぞ不可能だろう。


 「じゃぁ、スマトルの主力は相手国の後ろを突くのではなく、このまま森を進むという事になる…。」

 「拠点は作ると思うわ。この国がスマトル軍の横を突く事がないようにね。」


 「待て…。それでは南進しても戦いにはならぬという事じゃな?」

 アルトさんの言葉に姉貴が頷いた。


 「もし戦いになるとすれば…。相手国がよほど好戦的な場合だけど、ラジアンさんの話の通りだとすれば、穏やかな貿易国よ。スマトル軍は脅威の一言。ジッと防衛線を築いて耐える国だと思うの。」


 そうだとすれば、ラジアンさんの心配は少し軽減する事になる。

 そして、姉貴とサーシャちゃんは新たな心配事が増えた事になる訳だ。

 

 「その判断はどこで着けるんだ。主力部隊の到着はだいぶ先になるぞ。」

 「この先遣隊の動きを見れば判るわ。荒地に着いてから、この河に向かうのはどちらにしても同じだけど…。西に向かえば先行偵察の為だから戦になる。そして、この川岸に陣を構えるなら、この一帯を補給基地にして獣集めをするためよ。」


 少なくとも1週間で結果が出る訳だな。

 「問題がもう1つ。この結果をどうやって国王達に知らせるかだ。」

 「それなら母様に頼むのが一番じゃ。ニードルは母様の私設部隊。その調査結果は全て母様に集まる。母様がニードルからの情報じゃと言って、国王達に知らせれば我等が表に立つ事は無いのじゃ。」


 ニードルって私設部隊だったのか…。てっきり国軍だと思っていたぞ。

 「でも、そうなるとアテーナイ様に1度この画面を見せないと納得しないだろうな…。」

 「そうね…。10日後にサーシャちゃんにお願いするわ。内緒で館に来てくださいって…。」

 姉貴は俺の呟きに頷く。

               ・

               ・

 そして、10日後の昼下がり…。

 テーブルの上に乗せられた情報端末を前にして俺達は集まった。

 部屋の窓はしっかりと閉じられ、リビングの扉の外にも近衛兵の卵が2人も立っている物々しさだ。


 姉貴が情報端末を操作すると、何も無いテーブルの上に

衛星軌道から映し出されたスマトルの南進の様子が映し出される。


 「ほう…。全て丸見えじゃな。謀が好きなだけの事があるのう。西岸の陽動も、大掛かりじゃ、それだけで南進軍と言っても過言ではない。

 しかし、その本体は砂漠を横断したのか…誰も予想しないじゃろう。かの国の命運は尽きたようじゃな…。」


 「ところが、そうではないんです。この場所を拡大します。」

 姉貴が端末を操作すると、河に近い森の一角が拡大される。

 そこには、2千人程の先遣隊が忙しく陣を築いていた。


 「待て…。ここに陣を築くのは幾ら用兵家と言えどもあり得ぬ話じゃ。

 戦資材の集積なら荒地で十分。そして獣に備えるだけでよい。それに先遣隊なら偵察部隊を西に進めるべきじゃ。」

 「偵察部隊なら出ているんです。…ほら。」

 姉貴は河の南にある小さな砦を指し示した。


 「どう言う事じゃ?」

 アテーナイ様が厳しい目で姉貴を睨む。

 「スマトルの南進は戦を目的としたものではありません。新たな兵器の調達に向かったのです。スマトル軍のドラゴンライダーは亀兵隊の餌食になりました。大蝙蝠にしても被害は甚大です。

 南進することで、連合王国では知られていない大型の獣を探して、新しい獣部隊を作ることにあると私は判断します。」


 「確かに、大蝙蝠は脅威じゃった。対空クロスボーが無ければと思うとぞっとする。それにドラゴンライダーは我は直接対峙してはおらぬがアルトたちの部隊の損害も大きかった事は事実。亀兵隊を創設しておらねば多大な損害を出しておったろう…。

 それで、我等が亀兵隊を凌ぐ獣を南に求めたと言う事じゃな。」


 俺達はアテーナイ様に頷いた。

 「よう知らせてくれた。…我に知らせたという事は、それなりに理解した心算じゃ。この話は緊急のニードルからの知らせとするが、それで良いな。」

 「はい。よろしくお願いします。それと…ラジアンさんが…。」

 

 「あやつも年甲斐も無く心配症じゃからな…。それとなく知らせておく。」

 溜息をつきながらアテーナイ様が呟いた。


 「母様。直ぐに王宮に戻るのか?」

 アテーナイ様が怪訝な顔をしながら頷いたのを見て、アルトさんはバッグから2匹の鯛焼きを取り出した。

 

 「ミクとミトへのお土産じゃ。今朝作ったから、冷たくても食べられるぞ。」

 「渡すのは構わぬが…。これは何じゃ?」


 「アキトがサーミストで潜水艇が出来上がるのを待つ間に作ったものじゃ。」

 そう言って、ホイって皆に配り始める。

 今朝方沢山焼いてくれって言ったのは、アテーナイ様に食べさせたかったのかな。

 アルトさんって、優しいんだけど素直じゃ無いからね。

 

 「少し炙ると美味しいですよ。」

 今度はミーアちゃんが皆の鯛焼きを回収し始めた。

 暖炉の熾き火を手前に崩して網を載せると鯛焼きを温め始める。

 

 全員で一斉に鯛焼きを食べたけど、これって個性が出るんだよな。俺は頭からだし、アテーナイ様は尻尾からだ。大体このどちらかになるんだが、ミーアちゃんは背中からで、姉貴は腹からだぞ…。それは邪道だとあれ程言ったのだが…。


 「中はアンになっておるのか…。サーミストではさぞかし売れておるじゃろう。型があれば作らせよう。この美味さじゃ。サーミストだけに広げるのはどうかと思うぞ。」

 

 これで、王都に鯛焼きが広がるのか…。

 10年もしたら、どこの村でも食べられるのかも知れないな。

 

 「アルトさん。何でミクとミトが王宮にいるの?」

 そう言えば、セリウスさん夫妻はエントラムズで亀兵隊を鍛えているはずだ。

 「王宮の一角で近衛兵に通信機の使い方を教えているようじゃ。こと、通信技術に関しては双子に敵うものはいないのが現状じゃ。」


 可哀想に…。まだお母さんと一緒の年頃の筈なんだけど、教師になってるのか。

 早いとこ近衛兵が覚えないといけないようだが、あれは適正があるようでダメな者は何時まで経っても覚えるのが出来ないと、海兵隊のお兄さんが言っていたな。

 

 「近衛兵の弓兵隊が世話をしているから問題はないと思うが…、甘やかさないか心配じゃ。」

 そう言えば、ミケランさんがぼやいていたっけ。

 

 「連合王国の通信兵はミクとミトで作られるような気がするの。」

 

 サーシャちゃんも、アルトさんに話を合わせる。

 確かにそんな感じだな。亀兵隊は嬢ちゃん達が育てたけど、通信兵は双子によって作られ整備されるのかもしれない。

 通信兵のバッジには2人の横顔になるのかな。

 後でアテーナイ様に相談してみよう。

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