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#343 エルフ村の産業

 


 俺達が王都から戻って1月程経って、セリウスさん達が戻って来た。

 これからは、ギルド長に専念するなんて言っていたけど、大型獣を狩りに行くなんて事になったら、シャロンさんにギルドを預けて馳せ参じるような気がするぞ。

 ミケランさんは、双子にハンターの指導をするにゃ。と言っていたが、ミクとミトの本部付き通信兵の肩書きは残ったままだそうだ。

 ハンターに成る前に、近衛兵に成るような気がすると、姉貴も言っていた。


 そしてアテーナイ様は、前国王のシュタイン様をシルバースターの鞍に乗せて一緒に村にやって来た。

 「これで、やっと2人暮らしが出来ると思うとワクワクするのう。モスレムの行く末はトリスタンとイゾルデが頑張れば良い。たまには手伝う事もあるじゃろうが、これからはのんびりと暮らせるぞ。」

 「確かに、2人きりになるなぞ新婚以来の事じゃ。迷惑をかけると思うが宜しくな。」


 聞けば、即位してからアテーナイ様を后に迎えたそうだ。

 となれば、今のクオークさんみたいに自由な時間は2人とも無かったろう。アテーナイ様は自由時間もあったろうが、シュタイン様については殆ど王宮から出る事は無かったんだろうな。

 余生と言うには早そうな気がするけど、ここでのんびりと暮らすのは今までの激務の御褒美なんだろうな。

 アテーナイ様達に侍女が2人と調理人1人それに警備の近衛兵が5人付いて来ている。御后様だった頃の半数だが、これも隠居という境遇になったからなのだろう。


               ・

               ・


 「しかし、リザルのハンターは腕が立つ。…てっきりお前達が狩ったと思ったのだが…。」

 「この界隈では一番だと思います。これで、アクトラスの北は安心できます。」

 結局、ガドラーはリザル族のハンター数人で狩った様だ。

 ガドラー狩りの依頼を受けた次の日には、4匹分の魔石を持ち帰ったとシャロンさんが言っていた。

ちょっとアルトさんが残念がっていたけど、彼等の村の生活は数隊のハンターと僅かな畑、それにコケモモの採取によって得られる収入と戦士達の狩る獲物で賄われている。

 狩猟期とギルドの依頼によって得られる報酬は、冬を前にした彼等の村には貴重な収入となる。

 悔しそうな顔のアルトさんだが、心の中では良かったと思っているに違いない。


 「ところで、ディートルはやって来るのだろう。勝算はあるのか?」

 「釣りは運が半分ですからね。腕は俺の方が上だと思ってはいますが…。」

 

 「その勝負に俺も参加させて貰えないか?」

 「でも、相手は1人…。なるほど、良いですよ。」


 セリウスさんが参加すれば、ディートル君にミーアちゃんが加勢するだろう。それをお膳立てするとは、そんな気使いがセリウスさんにあるとは思わなかったぞ。

 それとも、勝負の方法が考え付かなかったのだろうか?…俺としては前者であって欲しいと祈るばかりだ。


 セリウスさんと別れてギルドを出ると、のんびりと通りを歩いて帰る。

 この時期は南の門周辺は賑わっているが、東と北の楼門を結ぶこの通りはあまり人影が無い。誰にも合わずに家に着いてしまった。


 家のリビングには姉貴がディーの作った地図をジッと眺めている。

 何か、思いついたのかな?


 「何か判ったの?」

 「…何も。典型的な山村だね~って考えてた。」

 特徴が無いのが、特徴と言うような山村だからな。


 「村の周辺で特徴的なのは、北側だったな。

 この森はあまりいじらない方が良いとおもう。森の上は急峻だ。雪崩防止には極めて有効だと思うよ。

 そして、ここにちょっとした流れがある。だいぶ離れた場所からでも水音が聞えるよ。

 面白いのは、それが湧水だという事だ。一定量の水量が確保出来る。」


 「ここにあるのね…。」

 姉貴は鉛筆で目印を入れる。

 「村の東は2km先からずっと森が続いているようだったな。南側も荒地が3km続いてその先は森だ。

 あの時のラッピナはその荒地で仕留めた物だ。毛皮や肉を求めるなら、ギルドは作るべきだろう。ギルドと併設した雑貨屋があれば彼等が必要とするものも手に入れやすいと思うな。」


 「ギルドと雑貨屋を一緒にするのね。…確かに、自給自足が中心でしょうから買い物もあまり無いよね。」

 姉貴が別な紙にその事を記入している。

 「私の方は、何も見つけられなかったわ。ジュリーさん達は村の中にも木を植えていたわ。村そのものを森にしたいみたいね。」

 「エルフの里がそんな感じだったね。森の木に住んでたもの。」


 となれば、森、畑、荒地のバランスが大事だな。ただ闇雲に開発すると居心地は悪くなるだろうな。

 

 「この村と違って村を作った場所の傾斜は緩やかなのが特徴ね。この村の南斜面は段々畑が続いているけど、ジュリーさんの村は3つも段を作れば広大な畑が出来るわ。」

 「でも、エルフの人達は畑よりも森を作りたいみたいだね。開墾の広さがさほど無かったよ。ジュリーさんは2倍と言ってたよね。開墾可能な荒地は数倍の広さだ。」


 「自給自足が出来れば畑はそれで良い。ということね…。そういう事で何らかの産業を作ろうとしてるんだわ。」

 「ジュリーさんも頑張ってるみたいだしね。手伝ってはあげたいけど、良い案が浮ばないんだよな…。」


 とりあえず数年はこのまま暮らせるだろう。その間に何か思いつく物があれば試して見るという事で俺と姉貴の意見はまとまった。


 日が落ちる前に、アルトさんとリムちゃんが帰ってきた。


 「渡りバタムが増えておる。明日も狩りに行かねばなるまい。」

 テーブルに着くと、ディーの入れてくれたお茶を飲みながらアルトさんが呟いた。

 「遠くにロムニーさん達が狩りをしていました。やはり渡りバタムを狩っていました。」

 

 まさかとは思うが、スマトルのようになるんじゃないだろうな?

 驚いて、姉貴を見ると姉貴も小さく頷いている。

 「アルトさん。それって、渡りバタムの大繁殖の前触れじゃないの?」


 「いや、まだ何時もよりは数が多いという位じゃな。我等とロムニーが頑張れば倒せる数じゃ。…しかし我が、手に負えぬと判断した場合は、村のハンター全員を投入する。」

 そう断言した。でもお茶の入ったカップを振り回すのはどうかと思うぞ。


 「渡りバタムって、東から西に移動するよね。…だとしたら、カレイム村は大丈夫かしら?」

 「ジュリーがおる。そしてエルフ族は魔法の使い手が揃っておる。十分に対処出来るであろう。」

 

 そうなると、更に東にあるマケトマムやテーバイ王国が心配だな。

 「テーバイが心配か…。だが、案ずるには及ばぬと思うぞ。かの国の団結力は極めて高い。もし、発生しておれば軍を使って狩りつくすじゃろう。」


 同じような理由でマケトマムとその東の屯田兵の入植地も腕自慢が揃っている。

 確かにアルトさんが言うようにそれ程心配しないでも良いのかも知れないな。

               ・

               ・


 次の日、ギルドに行くとセリウスさんに昨夜の話をしてみた。

 「確かに、アルト様の言う通りだと俺も思う。だが、今はライ麦の刈り入れだ。渡りバタムの被害がすぐに収穫に影響する。

 問題は収穫が終わった時だ。農家からの依頼が無くなる。その時に渡りバタムがどうなるかだ。例年なら、自然に渡りバタムがいなくなる。だが、もし残っているなら…爆発的に大量発生する可能性は無視出来ん。」


 その時は頼むぞって俺に振ったけど、俺は渡りバタムをまだ狩った事は無いぞ。

 姉貴だって無かったんじゃないかな。…練習しといた方が良いのかな…。


 家に帰って、セリウスさんの言葉を姉貴に話すと、私はあるわよ。って言っていた。リムちゃん達と狩った事があるらしい。

 「動きの遅いラッピナって感じだったな。アキトなら投槍で次々と狩れるからそれ程深刻にならなくても大丈夫。…アルトさん達は弓の稽古を渡りバタムを使ってやってた事もあるわ。」


 確かに、ラッピナより動きが鈍ければそんな感じだな。

 でも、嬢ちゃん達の弓の腕が高いのはそのせいなのか。クロスボーを使わずに弓を使うところが嬢ちゃん達の工夫なんだろう。


 「ところで、相談なんだけど…魚の養殖って難しいの?」

 「種類にもよると思うよ。マスなんかは山里でやってる所もあるし、鯉なんかは田んぼでも出来るみたいだし…。まさか、ジュリーさんのところでやろうと言うの?」


 「うん。アキトが見つけた水源を使えばひょっとして…と考えたんだけど。」

 姉貴は、こんな感じで池を作れるわ。と地図を俺に見せてくれた。


 村の周囲は森だけど、森の中に大小、10個程の池を作り、そこに土管を使って水を引く。池の水は最後には南の畑を灌漑するようにしている。

 小さな池は直径10m、大きな池は30m程だ。底と周囲を石で組んだ所にウミウシの体液で固めて作る。


 「毎年、池を浚えば養分たっぷりの肥料が得られるわ。それは畑に使えるでしょ。」

 「悪くは無いと思う。…でも、問題は何を養殖するかだな。商品価値的にはリリック、そして黒リックだけど、卵から孵化させなければならないぞ。更に餌の問題もある。」


 「どうすればいいと思う?」

 「そうだな…。先ずは池で黒リックやリリックが育てられる事を確認する事だな。

 川沿いに小さな池を作って、人工の餌で大きく育てられるかを確認すれば良い。

 それが可能なら、次は卵の孵化を試行錯誤で行なえば良いだろう。

 エルフ族の寿命は長いんだから、意外と上手く行くかもしれないよ。

 それに土管で水を村の近くに運べば水車も作れる。

 粉引きにも使えるけど、ロクロの動力源になるはずだ。木工細工が出来るよ。」


 問題は水量だな。上手く事が運べば、村に水道が出来るぞ。

 姉貴と俺は、魚の養殖場に何が必要か、そして養殖した魚でどんな商品が出来るかを考えながらメモを取って行った。

               ・

               ・


 数日後にジュリーさんが俺達を訪ねた時にこの計画を話してみた。

 「魚の養殖ですか…。エルフは魚好きですから、その計画は喜ばれます。そして、やはり私達が村を森に取り込ませたいと考えていたのは分ってしまいましたね。

 あの村では必要な面積以上の開墾は行なわない事にしました。

 エルフの人口増加率は極めて低いのです。たぶん100年を経過してもそれ程人は増えないと思います。

 エルフ以外は住まない…そんな村にしたいと思っていました。」


 エルフの隠れ里になる訳だな。それでも産業を興したいというのは、住んでる周辺の村や町と交流を持ちたい為なんだろう。

 元々、北の洞窟の奥に住んでいた人達だ。他の種族と積極的に暮らす事は難しいのかもしれないな。


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