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#337 紙芝居を作ろう

 どうにかゼンザイを作り上げて、隣のキャサリンさんを訪ねる。

 出て来たキャサリンさんに訳を説明して鍋を預かって貰った。

 笑いながら「それは困りましたね。」って言ってたけど、キャサリンは大丈夫だよな?…食べた事が無い筈だから、少しは安心できるけど。

 いっその事、金庫を作ってもらう事も考えねばなるまい。


 今日も朝から全員が繰り出しているから、昼食までは自由時間となる。

 今回の儲けの使い道を姉貴に相談した所、俺の一存に任せてくれた。


 「王都の市民からの儲けだから、市民に還元する方法を考えてね。」

 簡単なように姉貴は言ったけど、意外と悩むリクエストだよな。

 そして、出た答えが可能かどうかを確かめに工房に足を運んだ。


 工房街は数百mに渡って両側に色んな工房が並んでいる。

 さて、何処に入ろうかと悩んでいると、老いたドワーフに声を掛けられた。


 「通りの真中で、良い若いもんが何を悩んどる!」

 「あぁ、すいません。ちょっと考え事で…。」

 俺は、通行の邪魔だと言われた気がして、通りの脇に退いたのだが、老人が俺に聞いてきた。


 「ここは、工房街だ。何を作るかが判ればその工房へ行けば良いものを、何を悩んどるんじゃ?」

 「実は…。」

 

 俺は、絵師と細工師の両方を兼ねるような物を手掛ける工房を探している事を説明した。

 絵は子供向けで、細工も箱に近いものだから、出来れば1つの工房に纏めて頼みたいのだが、誰に頼んだら良いかが判らないので悩んでいた事を正直に話した。


 「それなら、絵師のところが良いじゃろう。しかも子供向けならば、チードルの工房じゃな。壁絵職人じゃ。それに合わせた細工物は工房側に頼めば良いんじゃ。」

 そう言って、俺をチードルさんの工房に案内してくれた。


 銀のプレート2つの看板には筆の図案が描かれて、その下にチードルと名が刻んである。

 老人は杖で扉を数回叩くと、扉を開けて中に入っていく。

 

 「チードルはいるか!…客人じゃぞい。」

 老人とは思えぬ大声でカウンターの奥に怒鳴ると、扉が開いて痩せたドワーフが現れた。

 「何じゃい。…ガレフじゃねえか。チェスの試合でも見てたのと違うのか?」

 「途中で、若者を拾ってな。ここに連れてきたんじゃ。」


 「仕事か?なら、ありがたい。このごろ部屋に絵を描こうなんていう者が少なくなってな。…で、何処に何を描くんだ?」

 チードルさんがカウンターから出て小さな木のテーブルと椅子に俺達を掛けさせた。


 「壁ではなくて、紙か、薄い木の板になります。

 このような木枠の中に10枚程度の絵を入れて、物語の進行に合わせて絵を抜いていきます。」


 「面白そうな案ではあるが、その物語はどういう代物だ。」

 チードルさんの乗り気な問いに、神殿の神官達に話して聞かせた経緯を簡単に説明した。


 「なるほど、子供達に話して聞かせながら、それに見合う絵を見せるんだな。確かに聞くだけより見たほうが頭に入るわな。」

 「で、お前さんに出来るのか?」

 

 老人がチードルさんに問いただす。

 「簡単な話だ。枠は向かいの飾り職人に作って貰えば良い。問題は紙だな。この辺で手に入る紙じゃ薄すぎる。薄い板に布を張って描く事になる。

 それに絵を描いて箱に重ねたら直ぐに擦り切れる。その辺は工夫しなければなるまい。」

 

 「最初から良い物になるとは思いません。作ってみて、使ってみて、…少しずつ改良していけばと思っています。」

 やはり、試行錯誤は大事だ。俺の言葉に2人のドワーフも頷いている。

 「ところで、どの位の値段になりますか?」

 「そうだな…。絵柄はどれも単純な物だと思うから、1枚を20Lとして、10枚前後だな。木枠と絵の下地はさほどの値段になるとは思えねぇ…。全部で銀貨3枚あれば何とかなるぞ。期間は5日は欲しいところだ。」


 「子供相手にしては少し高そうじゃな。」

 「まぁ、銀貨3枚を越す事はない。という事だ。それに、これは依頼が1回とは限らない筈だ。同じ絵柄を何枚も作るのであればそれだけ安くなる。本の複製と同じようにすれば更に安くなるだろう。」


 原画だから高くなる訳だ。

 「では、早速お願いしたいんですが…。」

 「待て待て、俺は昔話の内容が分らんぞ!」


 そんな事で、俺はその場で昔話を始める事になってしまった。

 チードルさんが俺達にお茶を出してくれ、2人のドワーフがパイプを煙らせている中で俺の昔話が始まる。


 「昔々、あるところに1人の貧しい若いお百姓さんがすんでいました…。」

 

 話終えて、温くなったお茶を頂きながら俺も一服を始める。

 「少し、確認したい事があるが、良いか?」


 俺の昔話は日本の話だ。ここは中世のヨーロッパのような感じだから少し内容が分らないのも無理はない。


 「先ずは百姓だ。これは話の内容からすると農夫という事で良いな?」

 流石、絵師だけある。話の内容で類推したらしい。

 「次に鶴というのは、鳥だな?どんな鳥だ。」

 「足が長く、首も長い鳥で冬になると飛んできます。嘴も長い鳥ですね。」


 「あれじゃ。コーレルを鶴と言っているのじゃ。」

 老ドワーフが思いついたように言った。


 「機織と言うのは、港辺りで麻織りをしている風景だと思えばいいよな。」

 「それで良いと思います。」

 「後は、京と言う言葉だが、話からすれば王都でも良いな。」

 俺はチードルさんに頷いた。


 「中々面白い題材だ。しかも、これには教訓が入っている。」

 「子供達は喜んで話を聞くじゃろう。そして、約束は破ってはならないと思う訳じゃ。親が幾ら教えても何故かが子供達には分らんのじゃ。」

 

 「もう1つ、話をしましょうか?」

 「まだあるのか?…是非、聞かせて欲しい。」


 そして話を始めた。

 この話には2人とも質問は無かった。

 「魔物にも約束と言う概念があるとはのう…。この話は子供にするには難しいぞ。だが幾つもの教訓があるのは確かじゃ。」

 「前の話よりは単純に描ける…夏の夜話には良いかもしれんな。」

 「まぁ、これはそんな話ですので、依頼はしません。」

 怪談を紙芝居でやるのはね。色々と問題がありそうだし…。


 俺はよろしくお願いしますと2人に言って工房を出た。

 はたしてどんな物に仕上がるかは出来てからのお楽しみって奴だ。


 工房街を抜けて今度は王宮前広場に歩いて行く。

 ミケランさんに頼んどいたから、大丈夫だとは思うけど…。朝届けるって言ってたけど来なかったからな。

 

 王宮前広場は今日も盛況だ。

 広場を取り巻く屋台の群れに足を運んでミケランさんの屋台を探す。

 「お兄ちゃんにゃ!」

 俺を見つけたミクちゃんが手を振ってくれた。


 「ミケランさん。例の物を受け取りに来たんですが。」

 「アキトにゃ。今朝は申し訳なかったにゃ。この広場は場所取りが大変にゃ。」

 どうやら、遅くなると屋台を開く場所がなくなってしまうらしい。

 ネウサナトラムのようにギルドで営業場所を指定している訳では無さそうだ。

 俺達の屋台は移動販売だから、今まで気が付かなかったんだな。


 「忙しいのは何よりです。それで…。」

 「これにゃ。そろそろアキト達が気が付くかもしれん。とアテーナイ様から預かったにゃ。」

 そう言って屋台の下から木箱を取り出した。

 木箱が3つ?…大きいのが2つと小さいのが1つだ。

 俺は木箱を受取ると、肩に担いで帰ることになった。

 

 「ただいま!」と言いながら館の扉を開き、リビングに入ると全員が俺の顔を見る。

 その顔は少し怒っているようにも見えるが、どうしたのかな?


 「館の中を探したのじゃが、どこにもゼンザイが見当たらん。我等を差し置いて1人で食べたのではないじゃろうな?」

 凄い剣幕だけど、そういう訳か。


 「今日は、誰かに食べられないようにちゃんと仕舞ってあるよ。それより、ミケランさんの屋台から受取ったんだ。」

 俺が肩から床に下ろした木箱を興味深く覗いてる。


 「ミケランさんは何の屋台を開いてるの?」

 姉貴が不思議そうに聞いてきた。

 「それがこれさ。2式貰ってきた。1つはここの暖炉に、もう1つはネウサナトラムの暖炉に飾ろうと思ってね。」


 そう言って木箱から亀兵隊のミニチュアを取り出した。

 「これは我ではないか。こっちはリムか…全員いるのか?」

 「そうみたいだ。セリウスさんまでいるぞ。そしてセリウスさんの人形は昨日までで2体しか売れなかったって言ってたよ。」


 それを聞いて皆が笑い出す。

 最後に小さな木箱を開けると中から4つの木箱が出て来た。それぞれに名前が描いてある。

 1人ずつ嬢ちゃん達に渡すと、早速木箱を開けている。

 中から出て来たのは、銀製のミニチュアだ。

 アテーナイ様も中々粋な計らいをするな。…でも俺と姉貴とディーの分が無いぞ。

 

 「あら、ミクちゃんとミトちゃんの人形もあるんだ!」

 姉貴がそう言って小さな2体の像を手に取る。

 「何でも、凄い人気らしい。出店と同時に無くなるってミケランさんが言ってた。」

 「そうなると、セリウスが不憫じゃな。」

 アルトさんが、そんな事を言いながら自分のフィギィアを大切そうに木箱に収めた。


 皆がフィギィアを戻した所で、昼食だ。

 さっさと食べて屋台の準備を始める。

 「ところで、何処に隠したの?」

 「キャサリンさんに預かってもらったんだ。家に置いておくと絶対見つかってしまうからね。」

 俺の言葉を聞いて、早速アルトさん達が鍋を受け取りに出かけたぞ。


 そして、早速アイスキャンディーの製作に入る。

 アズキバーを110個作って残ったゼンザイはオヤツに取っておく。

 早速キャサリンさんの所にも2本届けてお礼を言った。

 「こんなに美味しい物だったんですね。今夜が豆のスープとは可哀相だと、母と話してたんですよ。」

 確かに豆のスープには違いない。


 俺も食べてみると、お湯増しして良く掻き混ぜたから、甘さも丁度良い。

 これなら売れそうだ。

 果汁で作るアイスキャンディーを100個作ったところで屋台を引いて広場を回る事にした。


 「午後の見所は?」

 「タケルス君とディートル君が団体戦で勝ち残ってるの。屋台は真直ぐその団体戦の広場に向かってるわ。」

 それは気になるところだ。

 

 東の広場に行くと、結構な人だかりだ。

 早速広場の屋台が並ぶ間に俺達の屋台を引き入れ、ベルを鳴らして客寄せをする。

 たちまち、屋台に列が出来たのは、冷たいものを売っていると評判が出来た為だろう。

 姉貴とリムちゃんで手際よく客を捌いてるぞ。


 「姉さん。先に見物してくるよ。」

 「えぇ、でも後で代わってね。」

 アルトさんを連れて様子を見に行くと、ほ~…。サーシャちゃんとミーアちゃんが2人の後ろで応援している。

 この応援なんだが、ある意味周りの人に教わってるような気がしないでもない。

 そこで、ナイトを使うんだとか。ポーンを早く取れ!とか言ってるぞ。

 まぁ、応援者に責任は無いからその指示に従うか否かは、差し手の判断だろうけど、少しは規制した方が良いのかも知れない。

 

 サーシャちゃんとミーアちゃんの彼達の差し方は、攻撃的なチェスだな。

 ポーンとナイトで撹乱した所をじわりとルークが覗き込んでる。そのルークが複数のビショップに守られているから、相手から攻撃されても防衛は容易だし、防衛しながら反攻に転じることも可能だ。

 これは、それ程長く掛からずに終ってしまう。

 俺達は急いで姉貴と交替するために屋台に戻っていった。


 

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