表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
261/541

#258 王都血戦

 

 大鎧の欠点は重い事だ。ここで軍勢を迎えるとなると少しでも身軽な方が良い。

 鎧を脱ぎ捨て、後の障害に突き出た柱に着せておく。兜を柱の上に乗せるとそこに誰かが立って指揮しているように見えるぞ。投げ捨ててある槍を斜めに刺すと一層リアリティが増す。

 腰のバッグとM29それにグルカと刀があれば良い。

 体は魔法で身体機能が上がっているし、何ていってもサフロナ体質だ。レールガンの直撃を受けない限り死ぬ事は無いだろう。


 「距離、500。…レールガン発射します。」

 ディーは南の城壁の残骸を飛び越えると、高周波振動の耳障りな音を立てて、レールガンを発射した。

 10秒間隔で3連射すると、瓦礫を飛び越えて広場に戻って来た。


 炸裂音も距離が遠いから叫び声も聞えないが、今の3連射で数百人の命が奪われたに違いない。

 そして今度は集束爆裂球を結んだ太いロープをディーが持つ。

 広場に近い民家の屋根から対空クロスボーを次々と南に向かって発射された。


 遠雷のような炸裂音が聞え、南の大地に土煙が上がる。

 その土煙の中から兵士達が飛び出してくる。

 敵兵が城壁に到達する、僅かな隙を突いてディーが集束爆裂球を投擲する。

 真南に大きな炸裂音がして辺りに土砂と兵士が飛び散った。


 「「「ウオオオォォォーー!!」」」

 敵兵の突入で地鳴りのように大地が揺れるのが分かる。

 ディーは剛剣と戦闘用ブーメランを持って俺の前に立った。背中には3対の羽が出ている。この状態での戦闘は、エナジー切れを起こさないらしい。

 

 敵が城壁の残骸に辿り着こうとした時、紅蓮の火球が俺達の50m程先で数個に分裂して爆裂した。

 姉貴の【メルト】がいっぱいの攻撃だ。ある意味マップ攻撃だよな。

 その後に亀兵隊30人による爆裂球の投擲が始まる。

 数個ずつ投げられる爆裂球で、城壁の残骸まで中々辿り着けずにいるようだ。

 

 その時、空から爆裂球が降ってきた。ようやく大蝙蝠がやって来たみたいだ。

 慌てて物陰に入って炸裂から身を守る。


 100m程先にボルトで爆裂球を放っていた対空クロスボーが今度は大蝙蝠目掛けてボルトを撃ち出しはじめた。

 それを待っていたかのように敵兵が俺達に向かって来る。

 爆裂球の炸裂を物ともせずに、城壁の残骸を上って広場に顔を出す。


 敵兵が残骸から身を乗り出した瞬間、ボルトが体に突き刺さり、残骸から落ちていった。

 周囲の民家に隠れていた屯田兵達のクロスボーで攻撃を開始したようだ。

 それでも、敵兵は残骸を下りてディー目掛けて押し寄せてくる。

 ディーはそんな敵兵をその場から動かずに剛剣とブーメランで刈り取っていく。


 ディーを無視して第1の障害に辿り着こうとする敵兵は、俺が素早く駆け寄ってグルカを一閃させて倒していく。

 それでも、俺をすり抜けてく敵兵は後を絶たない。

 第1の障害をよじ登り始め、何人かは既に第2の障害に向かっているようだ。


 城壁の残骸から一段と敵兵が現れた時、再度残骸の向こうに紅蓮の炸裂が起きる。

 途端に、敵兵の動きが鈍くなる。

 だが、それも数秒にも満たない。次から次へと敵兵が残骸を上がってくる。

 

 亀兵隊の爆裂球の投擲が散発的になった。屋根を見上げると大蝙蝠が低く飛んで味方の兵目掛けて爆裂球を落としているようだ。

 あまり気にならなかったが、爆裂球の炸裂音は前方ばかりでなく、周囲からも聞えてくる。


 少し俺達の攻撃が途絶えると、敵兵の攻勢が一段と高まる。

 東西の民家の屋根に配置された魔道師が敵兵の群れに向かって【メルト】を使い始めた。亀兵隊達は爆裂球の補給をしているのだろう。


 また、残骸の向こう側を姉貴が攻撃した。これで3回、…後1回だな。

 俺としては、後方で指揮していてくれた方が心配しないで済むんだけどね。

 姉貴の攻撃で一旦下火になった敵の攻撃がまた勢いを増した時、姉貴の4回目の攻撃が更に広い範囲で炸裂した。


 攻撃が終ると、姉貴が屋根から飛び下りて俺の所に走り寄って来た。


 「…いい、敵は大軍よ。絶対にあきらめない事。障害を突破されても、私達がいるからね。」

 そう俺に呟くと、ピョンピョンっと障害を飛び越えていく。

 その身軽な姿に見とれていると、敵兵が「ワアァー!」と俺に蛮声を上げながら槍を抱えて突っ込んできた。

 片足で体をずらすと左手のグルカをカウンター気味に首に叩き込む。敵兵は数歩走り過ぎた後で首が体から零れ落ちた。首から噴水のように血飛沫を吹き上げて前のめりに男が倒れる。

 振り向きながらグルカを長剣を振り上げた敵兵の横腹に叩き込み、えぐるようにしてグルカを引き抜く…。


 ディーは、滑るように左右に移動しながら敵兵を倒していく。倒した敵兵だけで壁が出来つつある。

それでも、ディーの攻撃を掻い潜って俺を突破する敵兵が後を絶たない。

 次々と俺の後にある第2の障害を乗り越えていく。


 姉貴が来る途中話してくれた陣容では、第2障害の後には50人程のテーバイ正規軍がいるはずだ。

 少しでも戦力を減らしてくれる事を願いながら、俺に向かって来る敵にグルカを叩き付ける。


 またしても、大蝙蝠が爆裂球を落としていく。味方が攻撃中でも関係なく、大通りの障害を排除するように爆裂球を投げているようだ。

 低空からの攻撃だから、クロスボーで落とされる大蝙蝠が続出している。

 俺は、爆裂球を避けながら敵兵を倒す事に忙しく動き回った。


 「ディー!…気化爆弾を使え!!」

 一段と激しくなる敵の突入に、俺は最終兵器の使用をディーに指示した。

 「了解しました。前方300mに気化爆弾を投擲します。3…2…1…気化爆弾投擲しました。!」


 前方で小さな炸裂音がした。続いて直径200m程の火球が生まれる。あの下でいったいどれ位の敵兵が死んだのか…。

 そんな感傷に浸っている俺の周りで、風が凄い勢いで火球に向かって吹いていく。火球はすこしずつ色が黒く変わりながら上空に上っていく。

 火球の真下は酸欠状態の筈だ。入るだけで死んでしまう。

 それでも、見る間に気化爆弾が炸裂した事など無かったように敵兵がその空白を埋めていく。

 

 「前方の敵軍に西から亀兵隊が強襲を掛けています。」

 俺の所に敵兵を薙刀で倒しながらエイオスが近づいて知らせてくれた。

 ようやく、先が見えてきたようだ。

 

 「まだまだ終らんみたいだ。爆裂球の援助を頼む。」

 俺の言葉を聞くと、エイオスは近くの路地に入って行く。

 

 そして、散発的な爆裂球の投擲が始まった。

 やはり、爆裂球が適当に炸裂していると押し寄せる敵兵の数が減る。

 「ディー。レールガン使えるか?」

 「昼間ですから、問題ありません。」

 「前方と左方向に2連射して、現状の場所で再び迎撃!」

 「了解です。」


 ディーは右手のブーメランを広場に突き立てると、右手をレールガンに変形させ始める。キーンと言う耳障りな高周波振動が漏れてくると、瓦礫をピョンと飛び越えていく。


 光条が真直ぐに南に伸びていくのが衝撃波による大気の揺らめきで確認出来る。

 10秒程経過して、更に南東に衝撃波が伸びていく。


 ピョンと瓦礫を飛び越えて、敵兵を伴いながらディーが帰還する。右手でブーメランを引き抜くと、旋舞を舞うように敵兵を倒し始めた。

 屯田兵の一部は、第2の障害を乗り越える敵を対象とし始めた。

 ディーと俺の攻撃を掻い潜って第2の障害を乗り越えようとして、転がり落ちる敵兵の胸には深くボルトが刺さっている。


 残骸の向こうで炸裂する爆裂弾の音が小さく聞える。

 手持ちの爆裂球を使い果たし、爆裂球付きの矢を射ているようだ。補給が済む間は、それで我慢しなければなるまい。

 お蔭で、先程とは打って変わって残骸を乗り越える敵兵が増えてきた。

 

 残骸の直ぐ南に【メルダム】が炸裂する。

 通常の【メルダム】より威力がありそうだ。…ということは、ジュリーさんかマハーラさんが援護に来てくれたんだと思う。

 一瞬、敵の侵入が途絶えた。屋根の上で屯田兵達が体制を整えている所を見ると、補給品が届いたのかも知れない。

 

 「南の敵兵に東の敵が合流しようとしています。獣が混じります。注意してください。」

 ディーが素早く俺に近づいて注意してくれた。

 俺が頷くよりも、素早く自分の位置に戻り敵兵を長剣で叩き斬っている。


 俺は近くの民家に走り寄ると、屋根にいる亀兵隊にディーの情報を伝える。

 「いいか、獣は路地にも入ってくる可能性が高い。路地を塞いで獣を狩る準備をしておけ!」

 亀兵隊は手分けして、障害付近に分散している屯田兵達に情報を伝えに走った。


 近くの屋根からモーニングスターが落とされた。

 屋根の上にいる亀兵隊に手を振って礼を言うと、グルカを右手に持ち、左手にモーニングスターを持って敵兵を待ち構える。


 「蝙蝠だ!」

 屋根の上から誰かが叫んだ。そして目の前の残骸からまたしても敵兵が一斉に乗り越えてくる。

 数発の【メルト】と爆裂球が残骸の向こうで炸裂しても次々と敵兵が残骸を乗り越えてくる。

 ディーと俺には目もくれずに後の障壁をよじ登り次々と姿を消していく。

 敵兵の流れを食い止めたくても上空の蝙蝠を落とす為魔道師と対空クロスボーは忙しそうだ。俺の直ぐ真上でも【メルト】が炸裂する。

 

 残骸の向こう側に必死で爆裂球を投げ込んでくれてはいるが、焼け石に水の状態だ。

 遂に、第2障壁前の通りでも爆裂球が使われるようになってきた。


 そんな中、残骸の向うから鎧ガトルが姿を現した。

 ディーの脇を素早く掻い潜って来た鎧ガトルにモーニングスターを一旋する。

 ボコ…という音がトゲ付き鉄球で強打された部分から発生すると、鎧ガトルはその場で動かなくなった。


 獣と敵兵の小競り合いも発生しているようだ。

 残骸から顔を出した、スカルタ(大蜥蜴)の口や爪は血塗られている。

 続いて現れたスカルタの口からは腕が1本はみ出していた。


 屋根の上から、亀兵隊が爆裂球を一斉に投擲する。

 20個以上の爆裂球は【メルダム】の破壊力を超えている筈だ。

 耳をつんざく炸裂音が轟いて、残骸を乗り越える敵兵や獣達の数が激減する。


 それでも俺はディーの攻撃を掻い潜って、ノタノタと歩くスカルタの頭に鉄球を叩きつける。そして、襲い掛かる敵兵の体にも…。


 「アキト様!…テーバイ正規軍50とミーア様の部隊が救援に駆けつけました。更に屯田兵50がやってきます。」

 エイオスが屋根の上から叫ぶように俺に連絡してくれた。

 総勢、130人か…。姉貴が配置を決めてくれるだろう。俺は、ここをディーと死守するのみ!と心に決める。

               ・

               ・


 明け方から始まった敵の総攻撃は昼を過ぎても終わる気配すらない。

 嬉しい事に上空を飛び交う大蝙蝠の姿は何時しか消えていた。お蔭で、対空クロスボーの操作を行なっていた屯田兵も敵軍の迎撃に参加し始めたので城壁の残骸を乗り越える敵兵の数が心持減ったような気がする。

 それでも、ディーが倒せる敵兵は限りがあるし、俺の振り回すモーニングスターで倒される敵兵や獣もやはり限界があるのだ。

 足の踏み場も無いほどに楼門の広場に亡骸が横たわっており、移動の際に躓く事はしょっちゅうだ。


 「ディー。味方の強襲を考慮してレールガンを発射。2連射後に第1障害の後ろに退避しろ!」

 「了解しました。」

 

 ディーが残骸を飛び越えるのを見届け、障害の端をよじ登って通りに飛び下りた。

 30人のテーバイ正規兵が守っている筈の通りには数人の正規兵が槍を構えていた。

 「後ろに回って、他の部隊と合流しろ。ここにも直ぐになだれ込んでくるぞ!」

 俺の言葉に頷くと兵達は路地に入っていく。

 それを見ていた俺に、屋根の上から木製の水筒が投げられた。受取ると口で栓を抜いてゴクゴクと喉を鳴らして飲む。そして余った水でグルカの柄を洗う。

 血糊でヌルヌルしていた柄が途端に持ち易くなった。

 

 ドオォン!っという炸裂音と共にディーが第1障害を飛び越えてきた。

 俺達がさっきまでいた広場で集束爆裂球を使ったみたいだ。


 障害の10m後ろでディーが待ち構える。俺はその20m程後ろだ。そして、俺の後ろ20mには第2の障害が敵を阻止している。

 通りを囲む民家の屋根には屯田兵達がクロスボーを構えている。

 見えない所で亀兵隊達も爆裂球を手にしているのだろう。前方に連続して爆裂球の炸裂する音が聞えてくる。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ