表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/541

#244 その名はバジュラ

 

 テーバイの王都は、マケトマムよりも南方にあり国土が荒地な為か昼夜の寒暖の差が大きい。

 大型天幕の中に、小型の天幕を張ってその中で毛布に包まって睡眠をとるような感じだ。そして、日が昇れば暑くなる。迷彩パンツに迷彩シャツで丁度いいような感じだ。嬢ちゃんず達は、綿の上下に革製の短いワンピースを着ていた。


 朝食が終ると、セリウスさんはアルトさんに連れられて天幕を出て行った。今回は、ミクとミトも一緒だから、オヤジとしてカッコ良いところを見せねばなるまい。

 そんな光景をニヤニヤしながらミケランさんが見ていた。

 「ミケランさん。セリウスさんは何とかなるんですか?」

 「曲がるのが下手にゃ。真っ直ぐなら問題ないにゃ。」

 突撃だけは出来そうだ。…でも、亀兵隊の売りは一撃離脱だぞ。

 

 「今日の予定はどうなるのじゃ?」

 御后様がお茶を飲みながら姉貴に問うた。

 姉貴は肩掛けバッグから、粗雑なノートと鉛筆を取り出すとノートを捲り始めた。しおり位挟んでおけば良いのにと思うが、あればあったで直ぐに無くす特技があるからな。


 「今日の予定を発表します。かなり雲行きが怪しいので各自の努力を期待します。

 サーシャちゃんはミケランさんと一緒に、引続き機動バリスタ部隊の訓練を継続して下さい。

 ミーアちゃんはアキトにガルパスの乗り方を教えて下さい。テーバイ戦には必要だわ。

 リムちゃんは御后様と一緒に亀兵隊第1小隊を率いて、補給所の北にネウサナトラムにあったような練習場を作ってください。連合国の亀兵隊の錬度を考えると練習は必要になるからね。

 ディーは迷彩天幕を泉に取り付けて。

 キーナスさんは部隊を2つに分けて北の空堀工事と西の狼煙台建設をお願いします。

 亀兵隊は第2、3、4部隊を開拓地への用水路工事に、第5部隊は警戒対応とします。」

 

 「私の部隊は?」

 「この天幕の並びに大型天幕を張ってください。本日も荷が届くはずです。それが届けば更に天幕を張る事になります。」

 アン姫の質問に姉貴が応えたけど、忘れてたみたいだな。

 それよりも、俺が今更ガルパスを駆るのはどうかと思う。確かに、この広大な荒地を戦いの場とするならガルパスは向いているんだけどね。


 姉貴が散会を宣言すると、各自が持ち場に向かって行く。さてとミーアちゃんを見ると、ニコリと俺に笑いかけておいでおいでをしている。姉貴の頼みとはいえ気が重いぞ。

 ミーアちゃんの所に行くと、早速ミーアちゃんに連れられて大型天幕を出る。そして1つ隣の大型天幕に入った。そこには沢山のガルパスがのんびりと野菜を食べている。


 「お兄ちゃんのガルパスはこれ!」

 ミーアちゃんがその中の1匹を俺に指差した。

 他のガルパスと比べて一回り大きいように見える。その甲羅もお饅頭のように盛り上がり立派に見える。特徴的なのは、甲羅の模様だ。茶色の地に鮮やかな黄色が星にも剣にも見える。

 「お兄ちゃん…名前。」

 「あぁ…そうだね。お前にはバジュラと名付けるよ。俺の国の仏を守る守護神が持つ武器の名前だけど、甲羅の文様を見て思い出したんだ。」

 

 亀の頭がニューっと伸びて俺の顔を見上げた。

 (我が名はバジュラ。お前とお前の仲間を守護する者…。)

 頭の中に不思議な声が聞こえてくる。これって…カラメルの長老の時に似ているぞ。

 (思考せよ。我に応えよ…。)

 (驚いた…。俺の心が読めるのか?)

 (我が一族は命の言葉を交換し合う。お前の知識の中の気と等価なものだ。)

 (俺はかつて、ガルパスを駆る兵達に、友人となれ、心を通わせろと言ったけど、その結果がこれだったのか。)

 (命の言葉を通して我等は一体となる。御主の忠告は間違いではない。)

 (今から、バジュラを駆る事になるんだけど…。)

 (問題ない。お前の思う通りに我は動くだろう。一体となるとはそう言うものだ。我と御主は、命の言葉を通して互いの感覚器官を共有する。)


 「友達に、にゃれた?」

 ミーアちゃんに顔を向けると、互いの顔を見合わせながら動かない俺達を心配そうに見ていた。

 「大丈夫。友人になれたようだ。」

 「にゃら、次はこれ。」

 そう言うと、ガルパス用の鞍を持ってきてくれた。

 甲羅の曲線に合わせて詰め物をすると、ガルパスの甲羅のお腹側を廻らすように幅広のベルトを2本使ってしっかりと固定する。

 鞍の後ろには大型のバッグが2個取り付けられている。あぶみは俺の足の長さに合わせて少し前方に動かす。蔵の前に逆U字型のハンドルモドキが付いているけど、これを持って亀乗している亀兵隊は見かけない。でも、あると何となく安心出来る。


 「乗ってみて。」

 ミーアちゃんの指示に従って亀に乗ってみた。ちょっと視界が低くなったけど問題無さそうだ。

 ミーアちゃんが首から提げた小さな金属製の笛を吹くと、1匹のガルパスがやって来た。ヒョイって乗ったところをみると、ミーアちゃんのチロルのようだ。


 「補給所の中は、危ないからゆっくり移動するの。」

 そう言って、ミーアちゃんが大型天幕を出て行く。さて、俺も…と思うと、やおらガルパスが立ち上がりチロルの後を付いていく。

 心でガルパスを動かすとはこういう事か…。


 俺が大型天幕から出ると、ミーアちゃんがとことこと走ってきて帽子を渡してくれた。

 「これを被るの。そして庇の下にあるゴーグルを顔の方に折り曲げるの。」

 帽子は嬢ちゃんずが何時も被ってるやつだな。ゴーグルを下に下すと、目の前に透明な膜が覆う。これは甲虫の羽の透明な部分で作ってあるようだ。視界も歪んでないから長時間付けていても問題無さそうに思える。


 ミーアちゃんの後に続いて補給所を出たとたんに、ミーアちゃんの速度が増していく。

 すると、俺の乗ったバジュラがグンっと速度を上げた。無意識にアクセルを踏むイメージを作ったようだ。

 俺が着いてくることをミーアちゃんが振り向いて確認すると、更に速度を増した。

 俺もアクセルを踏むイメージを強める。バジュラの速度が更に上がる。

 この速度はラッタッタ並みじゃないぞ。…更に上だ。


 遠くに2つの影が見える。ぐんぐんと影に近づいて行くと、その陰はアルトさんとその後ろに付いたセリウスさんだった。

 ミーアちゃんは、アルトさん達の真横に突っ込んでいく。

 アルトさんは、直ぐにミーアちゃんに気が付いたけど、気にしないでそのまま走り続ける。

 問題は、セリウスさんだ。ミーアちゃんの強襲をどう避けるかと考えてる様子が手に取るように判る。ガルパスまでその混乱が伝染したように動きが不自然だ。もがいてるようにも見えるぞ。

 

 ミーアちゃんを乗せたチロルはセリウスさんの手前20m位の所で鋭角に進路を変えた。それでも、セリウスさん側に10m位ドリフトしたぞ。

 ミーアちゃんがセリウスさんから離れながら俺を見ている。…やってみろという事だよな。


 行くぞ!っと自分に言い聞かせたつもりだったが、任せろ!という思念が俺に伝わってくる。

 そして、ミーアちゃんを真似てセリウスさん目掛けて突っ込んでいく。ここだ!っと思った瞬間、風景がぐるりと回ったようになって横向きにセリウスさんの方に移動が始まる。力強く爪が地面を掻く音が聞こえてくるが、慣性の法則があるから急には鋭角に進むことが出来ないようだ。

 それでも、少しずつバジュラの向いた方向に移動が始まると急速に速度が上がってきた。


 少し離れた場所で休んでいたミーアちゃんの所に行くと、アルトさん達も俺達の方に近づいて来た。

 バジュラから下りると腰のバッグから、固形燃料の缶とポットを取り出す。ポットに水筒の水を入れて火を点けてアルトさん達を待った。


 「流石じゃ。短時間で良くぞガルパスを駆ることが出来たのう…。」

 そう言いながらアルトさんはアルタイルを下りてやってきた。

 「吃驚したぞ。俺はまだそこまでは乗りこなせない。」

 そう言ってセリウスさんはパイプを取り出した。早速、固形燃料の火でパイプに火を点けている。

 ポットのお湯でミーアちゃんが素早くお茶を木製のカップに入れて皆に手渡している。俺は、ポットのお湯を捨てると、固形燃料の火を蓋を被せて消しておいた。

 

 「意外とすんなり意思を通じ合えました。後は場数ですかね。」

 「あれ位出来れば問題ない。後はガルパスの上で武器を振るう事に慣れるだけだ。意外と難しい所がある。その時はガルパスを自分の半身と思う事じゃ。」

 アルトさんが有難い忠告をしてくれた。


 「アキトは上手く行っているようだが、俺の方はどうしても余分な事を考えているようだ。突撃は可能だが、急激な方向転換がアルト様のようには行かぬ。」

 「俺だって、おっかなびっくりのところがありますよ。どちらかと言うと、ガルパス任せにしています。普段歩くときだって、一々右に行け、左に曲がれ何て考える事もありませんからね。」

 

 「ところで、何と名付けたのじゃ?」

 「バジュラと名前を付けました。仏を守る守護者の持つ武器の名前です。」

 「俺は、グスタフと名付けたぞ。」

 何か、聞いただけで重そうな名前だな。


 「俺達も弓を練習しないといけないのかな?」

 「亀兵隊には必携じゃ。そういえば他の亀兵隊も来るのじゃな。練習場を作らねばならぬ。」

 「御后様とリムちゃんで作るみたいだよ。亀兵隊を10人程使ってね。」

 「なら、明日には弓の練習じゃ。アキトの考案した弓は少し癖がある。練習せねば真っ直ぐには飛ばんぞ。」

 和弓はアーチェリーより難しいって誰かが言ってたな。遠くには飛ぶらしいんだけど…俺的には前に飛べば良いような気がするけどね。

 

 お茶を飲み終えたところで、アルトさんと別れてミーアちゃんの後に続いてガルパスを駆る練習を再開した。

 補給所をぐるりと回りながら、ついでに地形を確認する。

 「あの、杭が打ってある場所から先は泥濘ぬかるみににゃるの。ガルパスの速度が極端に遅くにゃるから注意して。」

 ちょっと地面を見ただけでは区別が出来ないけど、先端を赤く塗った杭が続いている。

 補給所の真南に当る場所らしいから、防御的にはこちら側は安心だな。


 荒地はうねるような起伏がある。これを利用すれば一軍を隠せるようにも思える。

 最後に大きく1回りしたところで午前中のガルパス講習は終了となった。


 カチャカチャと爪音をたてて補給所に入ったところで、ミーアちゃんが銀製の小さな笛を取り出して俺に渡してくれる。

 「1回吹いてみて!」

 言われるままにピィーと吹いた。…(了解した)と思念が伝わる。

 「その笛を吹くと、お兄ちゃんのバジュラがやって来る。」

 

 ガルパス用の大型天幕でガルパスを下りると、2人で姉貴のいる大型天幕に歩いて行く。

 テーブルで寝てるかなと思ったら、ミクとミトを相手に姉貴がカチャカチャと発光信号器を操作していた。

 

 「何してるの?」

 「あぁ、帰って来たのね。…凄いんだよ。ミクちゃん達。…モールス信号を完全に覚えてるの。そして、ちゃんと信号でお話も出来るの!」

 嬢ちゃんずと遊んでたからな。しっかりと覚えてしまったようだ。


 昼食を取りに続々と皆が帰って来た。

 昼食はサレパルと野菜のスープだったが、ここで食べるサレパルは中身がカルートの肉だった。亀兵隊が午前中に狩って来たらしい。

 

 「泉への迷彩天幕を張り終えました。午後は何をしますか?」

 「南の見張り台の組み立てを手伝ってあげて。高さは低いけど守りの要になるわ。」

 「我等も午後の早い段階で終了出来そうじゃ。場所は西の狼煙台の裏手に作ったぞ。後続の亀兵隊が来ておる。数は80じゃ。」

 「後続部隊には狼煙台で待機を指示してください。」

 姉貴は作業の報告を受けて次々と追加の指示を与えていく。


 「セリウスさんとアキトの方は?」

 「とりあえず、曲がれるようになってきた。大部隊を指揮するなら、あの程度で問題はあるまい。」

 アルトさんの応えは前向きだな。

 「お兄ち…アキトさんは、ほぼ亀兵隊と同じ動きが出来ます。強襲に参加しても大丈夫だと思います。」

 「やりおるの…流石は婿殿じゃ。」

 

 「そろそろ、部隊編成を発表しますか…。

 当初の予定通り、テーバイの王都に行くのは、私とディー、それにマハーラさんと魔道師5人。キーナスさんと屯田兵100人です。

 私達の任務は王都の防衛ですが、一番の相手は敵の航空部隊になります。」

 

 「次に亀兵隊ですが、ミーアちゃんは3小隊を指揮してください。全て、ネコ族又はトラ族にする事。夜間強襲が任務になります。

 アルトさんは6小隊を指揮してください。一撃離脱で敵を撹乱するのが任務です。サーシャちゃんとミケランさんは4小隊ずつ指揮してください。2小隊で機動バリスタを運用して、残りの2小隊は直援部隊になります。

 セリウスさんは連合国亀兵隊12小隊の指揮をお願いします。連合国正規兵400人の側面援護と強襲です。

 アキトは亀兵隊3小隊を指揮して物資の補給と火消しです。リムちゃんも補給先任で此処に所属して貰います。

 亀兵隊の小隊人事はアルトさんに一任します。

御后様とジュリーさんと魔道師5人。それにアン姫と弓兵40人。フェルミさんと屯田兵100人は補給所の防衛です。場合によっては打って出る事もありえます。」

 

 今回は、夜襲部隊から外れたからミーアちゃんとは別行動になるな。

 あれ?良く考えたら、俺って自分用の鎧を作ってなかったような気がするぞ。

 良いのかな。後で聞いてみよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ