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#217 娼婦と悪徳商人

 朝食を終えると、姉貴達はボルスさん達を引き連れて出て行った。

 頂いた領地の西側に薄く広がる金を採取するって言っていた。ディーがいれば害獣や凶暴な海の生物も察知できるから安心して出来るけど、その姿がね…。何というか、潮干狩りのスタイルでやるみたいだ。大きな麦藁帽子に小さな木のバケツそれに片手の熊手だからな。

 王都まで近衛兵を派遣して装備を整えたって言ってたけど、近衛兵の半分も同じような姿だぞ。王女様も嬉しそうに熊手とバケツを持ってたしな。

 そして、護衛は姉貴と近衛兵10人だから、大抵の害獣なら対処出来るだろう。ディーだっていざとなれば助太刀に入れるからね。


 俺は、昨日に引続き漁師町へと歩いて行く。

 町の道すがら、北に広がる荒れた斜面を見ると、斜面の上の方で働いている工兵の姿が見える。

結構頑張ってるみたいだから、また酒樽を差し入れてあげようかな…。何て考えながら町の入口に着いた。


 町の入口にある空き地に数台の馬車が駐車してある。少しくたびれてはいるけど、完成した時には豪華だったんだろう。彫刻なんかしてあるし、剥げてはいるが塗装した跡もある。

 そんな馬車を横目で見ながら、通りを進んでギルドの扉を開いた。

 ホールにたむろしていた人間が一斉に俺を見るけど、気にしないでカウンターのお姉さんの所に行った。


 「これを現金に換えられないかな?」

 そう言って、革袋から取り出した粒金をカウンターに転がした。

「換金ですか。ちょっとお待ち下さい。」

 そう言って、お姉さんはカウンターの下から天秤を持ち出した。

 天秤のつりあいを調整すると、片方の皿に粒金を乗せる。そして、もう片方に箱中の錘を乗せてつりあいを見ていた。


 「0.12グルですね。1G(2kg)の金の買取価格は60000Lですから7200Lになります。」

 カウンターの上に銀貨が積まれていく。俺はそれを無造作に革袋に詰めると、何時ものように掲示板を見てからテーブルに移動する。

 テーブルでお茶を飲みながらタバコを吸い始めると、それを待っていたかのように数人の男達がテーブルの空いた席に座り込んだ。


 「良い物を拾ったようだな。…何処で拾ったか、教えて貰う訳にはいかないか?」

 「これの事か?」

 俺はテーブルに粒金を1個転がした。

 たちまち、男達の目の色が変わる。そして、テーブルを囲むように更に多くの男達が集まってきた。

 

 「粒金を見つけたと聞いてきたが、間違いは無さそうだな。…出来れば手荒なマネはしたくねぇ。教えてくれないか?」

 周囲の男達の視線も、俺に無言の圧力を加えている。

 

 「町の西に小さな岬があるだろう。その西に広がる別荘の領地の波打ち際で、俺達のチームの若い連中が見つけたようだ。」

 「別荘の西の波打ち際だな!」

 「あぁ、そうだ。だが、あそこは私有地だぞ。しかも今は王女達の警護で近衛兵も多く駐屯している。私有地を避けて西を探すんだな。…俺の仲間が更に西に10M位行った所でも、見つけている。」


 たちまちバタバタと男達が走り出した。ギルドの扉が壊れそうな位に入口で喧騒が起きているが、それを見ながらのんびりと残りのお茶を飲み始めた。


 「それで、本当の所はどうなんだい?」

 何時の間にか隣にちょっと化粧が濃い目なお姉さんが座っている。

 「さっきの話の事?…事実だよ。ずっと西の方まで渚付近に粒金が転がってる。このテーブル位の場所を探せば1個はあるんじゃないかな。でも、場合によっては1D(30cm)位まで探す必要があるだろうけどね。」


 「となれば、あれだけの金の亡者共が押し寄せても、少しは見入りがあるって事かい…。」

 「あぁ、そうなるね。だが、問題が無い訳じゃない。

 町の南の海は環礁の内側は安全だ。でも、別荘の西側には環礁が無い。渚まで獰猛な魚が近づいてくる。

 それに西に行けば行くほど、荒地の獣が増えてくる。別荘の近くには近衛兵がいるが、彼等に頼るのはお門違いだ。黒の5つ位のハンターが複数で組む位のチームじゃないと、たちまち食われると思うよ。

 それに、一番大事なことだが…水場が西の方には無いんだ。」


 「成る程ねぇ…。」

 化粧の濃いお姉さんは、そう言うと豊かな胸元からカードを1枚取り出した。

 「これは、お礼だよ。私はマリア…。娼婦を仕切ってるんだが、王都で面白い話を聞いてさ、やっては来たものの、商売になるかどうかが分らなかったのさ。あんたのお蔭で良い商売が出来そうさね。」


 俺が薄い銀のカードを見ていると、マリアさんが笑い出した。

 「あんまり、興味は無いのかね…。それは、無料の利用券さ。相手に不自由してなければ良いけれど、いないんだったら遊びにおいで。」


 げ!…ひょっとして娼館の無料券?…姉貴に見つかったら大変だぞ。急いでバッグの奥底に仕舞いこむ。


 「ははは…。その感じでは利用はまだですな。」

 声がした方に振り向くと、何時の間にか男が2人、俺の後のテーブルでパイプを楽しんでいた。

 振り返った俺に、帽子を取って軽くお辞儀をする。俺も慌ててお辞儀を返した。


 「お初にお目に掛かります。…私共は、まぁ、荷車を引いて商売をしている行商ですかねぇ。」

 「王都の嫌われ者が何を言ってるんだい!」

 「おや…。我等は嫌われてはおりませんぞ。訊ねてくるものは皆、私に頭を下げて丁寧に商談をしにきますがね。」

 行商をしている男は、そうマリアさんに悪びれる事無く応えた。


 「へん!…行商と言うより、金貸しだろ。借金が膨れ上がって身売りした娘を何人も預かってるよ。」

 いわゆる、表と裏って奴だな。そんなに悪い男にも見えないんだけどね。


 「それは、その家の事情という奴でしょう。…それよりも先程の話ですが、無いものは水だけでしょうか?」

 流石、商売人だ。これは丁寧に教えてやらねばなるまい。


 「俺達のチームで調査した結果で良ければ、お教えしましょう。先程も言いましたが、先ず水場がありません。それに燃料となる潅木や茂みすらありません。更に西へ行くと、獣たちも出てきます。もし、商売をするのであれば、別荘が見える範囲までにしておく事ですね。」

 

 「粒金の情報は確かなんでしょうね。」

 じっと俺を見つめて聞いてきた。

 「少なくとも嘘ではありませんよ。…このテーブルより少し広い範囲を地下1Dまで掘りながら粒金を探しました。渚から少し陸に入った所まで、大体1個は見つかっています。」

 

 「それなら、何故貴方は探さないんですか?」

 「朝から仲間が探してますよ。大規模にね。…近衛兵を含めて20人以上の体制で砂を掘ってる筈ですよ。」


 行商人は少し考えている。そして、そんな男をじっとマリアさんは睨んでいた。

 「では、岬の近くは諦めるしかありませんな。それで、尚且つ別荘が見える範囲となると区域は以外に狭くなりませんか?」


 「どんな仕事も危険が伴いませんか?…更に遠くまで金は分布しています。ただ、普通の連中にはちょっと手が出し難い…。」

 「確かにそうですな。…唯の金探しでは被害を受ける。成る程、これは有用な情報です。」

 顎を撫でながら、そう言うと片手を上げてギルドの職員にお茶を注文する。

 俺とマリアさんの前にカップを置く。


 「余り礼は出来ませんが、もう少しお話を聞かせてください。…ハンターの貴方が、もし商人だったらどうしますか?」

 随分とストレートに聞いてきたな。そう思いながら、銀のケースからタバコを引き抜くとジッポーで火を点ける。


 「そうですね。俺ならば…集落を作りますね。金は出る、しかし水も食料も無い…。」

 「発展しますかね。」

 俺は首を振った。


 「無理でしょう。1年もあれば取り尽くされますよ。残りの金は海の中と遥か西…。自殺行為でしょう。」

 「王国が介入しないのが、私には分からないのです。」

 「その内やってきますよ。金の交換所を作るはずです。あの地は貴族の物ではなく国の物だと聞いています。王国が無理して探さずとも、亡者達が探してくれます。それを交換する時に、税を掛ける魂胆だと思いますよ。」


 「成る程…その手がありますな。」

 男は口元だけでにやりと笑う器用な事をすると、席を立った。

 「色々と有難うございます。虹色真珠の持ち主と此処まで話せた事を嬉しく思いますよ。お勧め通りに別荘の西で商売をさせて貰いましょう。では、またお会いしましょう。」

 そう言って、もう1人の男と低い声で話しながらギルドを去って行った。


 「へぇ~。虹色真珠は話に聞いたことがあるけど…。そうかい、これかい。成る程綺麗だねぇ。」

 お姉さんが俺の帽子を取ると、髪を手でかきあげて真珠を見つめている。

 香水の匂いで咳き込みそうだけど、此処は我慢する。


 「だけど、良いのかい。さっきの情報だけでも私らだって十分な利益を見込めるものだよ。あの悪徳商人がどんな商売をするかは分かりきってるじゃないか。」

 「なら、その尻尾を捕まえればいいのさ。」


 マリアさんはずっと俺を見ているが、その視線は俺の遥か彼方を見ているようだ。

 「私はね…今でこそ、こんな商売をしてるけど、元はある国の高貴な出さ。

 親が政争に敗れてね…こんななりさ。あちこち回るとそんな境遇の娘達が大勢いたよ。金も無くて路頭に迷うとなれば、やる事はこんな事しか出来なくてね。

 でもね、死ぬよりは良いと思うよ。誰に迷惑かけてる訳でもないしね。」


 「別な仕事があれば、今の仕事を何時でも止められると…。」

 「そうだね。…でもね。一度この道に入ると、それ以外の仕事はないのが世の中さ。」

 ケバイ化粧で、そんな話をして涙ぐむから、マリアさんの顔はとんでもないことになっている。

 決して、リムちゃんにみせられないような顔だぞ。


 「ところで、マリアさんの仲間は何人ぐらいいるんですか?」

 「20ってとこだね。それでも毎年増えてるんだ。」

 

 これは、姉貴と相談した方が良さそうだ。

 たぶん、色んな理由で身を売る羽目になってしまったんだろうけど、他の仕事を選べるんなら、それにこした事は無いだろう。


 「その内、良い事もありますよ。…ところで、連絡したい時には何処に行けば良いんですか?」

 「しばらくは宿暮らしさ。宿でマリアと言えば分かるはず…。」


 マリアさんの居場所を確認して、今度は雑貨屋に向う。

 ギルドにいた連中が押しかけただろうけど、あれから随分時間がたってるから、もう誰もいないだろう。


 「こんにちは!」と扉を開くと、カウンターにいるはずの若い店員が陳列棚の前の椅子に腰を掛けていた。

 「おや、あんたかい。さっき急に客が増えてね。ようやく一段落したところさ。」

 「休んでるところ、悪いね。スコップを1個欲しいんだけど良いかな?」

 「残念ながら、全て売り切れたよ。ところで、さっきの連中が金がどうのと言っていたけど、あんた教えたのかい?」

 「別荘の西に広がる渚を探せば見つかるとは言ったけど…。」

 

 「どうりで…。2、3日泊り込むような荷物を買っていたよ。俺としては、売れれば良いんだけど、確かあっちの渚には…。」

 「獰猛な奴が渚近くに泳いでたよ。…行くのは良いが、あまり勧めないね。」

 「ははは…。あそこを知ってる奴なら行くことは無いさ。」


 雑貨屋を出て別荘に戻ろうと歩き出すと、後から呼び止められた。

 「待て。お前はハンターだろう。いい仕事があるんだが、どうだ一口乗らないか?」

 

 振り返ると、身なりの良い男が立っている。

 「申し訳ありませんが、今仕事を請けています。終了しない限り、他の仕事は出来ません。」

 「そこを何とかならんか?…昨日のレイズの一件は知っている。それを王都に報告されたくなかったら私の話を聞いた方が良いと思うんだが…。」

 

 意外としつこいな。しかし、俺に武力を振るわない所は評価できるとしても、脅している事は確かなんだよな。


 「やはりハンターとして、仕事の途中で他の仕事を請けることは出来ませんね。それに昨日の一件は私に非はありません。…では。」

 そう言って、今度は酒場に向う。そこで酒樽2個を購入すると別荘に帰る事にした。


 町の入口に止めてあった馬車は皆無くなっている。早速出かけたんだろう。

 ここからは随分と遠くだ。今日の金探しは出来ないと思うけどな。

 

 

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