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#022 移動神官と始めての魔法

 

 朝早く野宿した場所を発って、小川沿いに森の中を進んでいる。

 この辺は危険な獣は普段からいないらしく、前を歩く皆の表情も明るく感じられる。

 

 段々と先方が明るくなり、木立が疎らになる。どうやら泉の森を抜けたらしい。

 低木と繁みが点在する荒地に流れる小川の傍を俺達は歩いて行く。


 その歩みが突然止まる。急いで先に進むと……、そこには沢山のガトルの足跡が残されていた。


 「2日前に見つけたヤツだ。此処を渡ったのさ」


 グレイさんが教えてくれた。良く見ると、対岸にも足跡が見える。


 また歩き始める。そして、今日最初の休憩地点は、俺がリリック釣りをした淵の傍だった。

 焚火をせずに、水だけを飲む。それと、1本のタバコだ。もちろん姉貴達はキャンディーを分けて食べている。

 ちょっとの休みだが、大分疲れも取れた。

 

 カンザスさんの合図で出発する。更に小川を辿って北に向かい、橋の袂に出る。そして、村への道を辿る。

 

 村に着いたのは昼過ぎだ。早速、身近な宿で昼食を取る。

 昼食と言っても、豆に小さな肉の入ったスープと黒パンだ。硬いパンを食べてたせいか、とてもやわらかく感じる。

 食事が終わり、お茶を飲みながら長めの休息を取った。


 ギルドに着くと、俺達をホールのテーブル席に座らせ、カンザスさんはカウンターのお姉さんの所に出掛けていく。タグの換金部位を渡してるようだ。

 お姉さんが吃驚してるところを見ると、滅多に見ることが出来ないものなのかも知れない。

 更に、2,3お姉さんと話をして俺達のテーブルに戻ってきた。


 「皆ご苦労だった。これで、俺からの依頼は終了だ。俺に依頼したのはギルドだが、俺達だけでは不可能と考えお前達を誘った。

 実際、あのタグを俺達だけで対処することは出来なかったから、この選択は正しいものと考えている。それで、俺への依頼金額とタグの交換部位の金額を合わせて、均等に分割する。

 ちょっと待っていてくれ。それと、サラミスとアキト達は今の内にレベルを確認しておけ。あれだけのタグを相手にしてるんだ。レベルが上っているはずだ」


 早速、カウンターのお姉さんの所へ行くと、もう水晶球を置いて待っていてくれた。先にカンザスさんが手配していたみたいだ。


 前と同じように、ギルドカードを渡して、水晶球を両手で持つ。これを4人で行うと、お姉さんが箱からそろぞれのカードを渡してくれた。

 テーブルに戻ってゆっくり見ようとしてたら、グレイさんに横取りされた。


 「どれどれ、赤5つか……上ったな。それで、詳細は体力5、魔法力3、魔法耐性5、敏捷性6、技能7、感性5、特殊技能:サフロナ体質、毒無効……なんだこりゃ?」

 「何!……サフロの間違いではないのか?まして毒耐性など聞いた事も無いぞ」

 

 カンザスさんが吃驚している。マチルダさんとサニーさんも同じだ。

 グレイさんが姉貴に手を出している。カードを見せろってことだよな。

 姉貴はしょうがないなと言うような顔で、おずおずとカードをグレイさんの手にのせた。

 

 「こっちは、赤5つか。詳細は体力4、魔法力5、魔法耐性5、敏捷性5、技能7、感性4、特殊技能:サフロナ体質、毒無効……アキト並にとんでもないな」


 もう何も言えないって感じで俺達を皆が見てる。

 グレイさんは「余り人には見せるなよ」って言いながらカードを返してくれた。


 「先ず言っておく。赤のカードで4以上を持つ者は殆どいない。黒のカードで6以上を持つ者も聞いた事がない。

 しかし、お前達はもうそれを持っている。そして容易に銀に上る事が出来るだろう。

 さらにだ、お前達に傷薬や毒消しは無用だ。それ程の特殊技能を持っている。だが、慢心することなく確実に進め。俺が言いたい事はそれだけだ」


 カンザスさんが静かに言った。

 そんなに凄い事なのか良く判らないけど。


 「今まで知らなかったの?」

 「文字が読めなかったんです。ミケランさん達との依頼処理で少しづつ読めるようにはなったんですが……」


 マチルダさんの問いに姉貴が答える。それを聞いてそんなバカなって顔をマチルダさんはしてるけど。


 「黒い髪、黒い瞳……それに私達の肌色と少し違うわね。あなた達、何処から来たの?」


 サニーさんが聞いてきた。

 姉貴は、俺の顔を見る。俺が頷くのを確認すると、ため息を1つ……。そして、俺達の身の上話を始めた。

 

 俺達の世界。それは平和で魔法ではなく科学が発達した世界。

 そんな世界で姉貴が望んだことは、俺と慎ましく暮す事。

 何故かその願いを一族の崇拝した神が叶えてくれた。

 そして、この世界にやってきた。生活手段を得るために最初の集落で長老が言ってたハンターになった。

 ミーアちゃんはその集落で長老に託された。


 「そんな事があったのか。しかし、慎ましくは難しいぞ。お前達ならば何処のギルドでも欲しがるはずだ」


 カンザスさんは心配してくれてるようだ。


 「すみませんが、他言無用でお願いします」

 「判ってるって。サラミスも良いな!」


 「判ってるって。それに、言っても誰も信じないよ。」


 そんな話をしていると、お姉さんがテーブルにやってきた。


 「カンザスさん。これが今回の依頼報酬とタグの代金です」


 テーブルの上には銀貨が6枚置かれ、次に銀貨23枚が追加された。


 「約束通り、均等割りにする一人350Lで残りの100Lはガトル来襲で怪我を負った連中に与えたいが良いか?」

 「あぁ、それでいい」


 グレイさんは声に出したが、俺達は頷くことで賛意を表した。

 

 姉貴は俺達の分として、銀貨10枚と少し大きめの銅貨を5枚貰ったようだ。

 俺達がギルド出ようとしたら、マチルダさんに呼び止められた。


 「ちょっと待って。多分近い内に銀レベルのハンター達がやってくるわ。その時に、もしかしたらだけど……、移動神官がやってくるかも知れない。 来たら知らせるようにギルドに伝えておくから、貴方達、神官から魔法を買いなさい。移動神官は低レベルの魔法のみ販売するけど黒レベルには絶対必要よ」

 「ご忠告、ありがとうございます。なんとか使えるように頑張ってみます」


 魔法って売ってるんだ。というのがその時の感想だった。でも、移動神官って聞きなれない言葉だけど。

 

 何時もの宿に帰り、ひさしぶりの風呂を楽しんだ。

 でも、この風呂のお湯をどうやったら沸かせるかが未だに判らん。排水溝はあるんだけど、……蛇口は無いんだよな。


 次の日はミーアちゃんの服を買って、村周辺の薬草採取で1日を過ごす。

 今度の服は、薄革のベストなんだけど頭に巻いたバンダナにクルキュルの羽を差してご機嫌なんだ。

 雑貨屋さんでは例の魔法の袋を購入した。一番安い、3倍入って重さ変わらずがうたい文句の袋で、1個の値段は150L。

 大きさはレジ袋ぐらいだけど、物を入れた後で折りたたむ事もできるみたいだ。これを3人分購入した。

 

 その夜、3人の分担を決める。姉貴は食料と水の予備。俺は調理用器具と食器。ミーアちゃんは採取品や換金部位の一時保管。これに各自が水筒とお弁当を持つ。俺は食器以外にも釣り道具一式を袋に詰めた。


 袋にこれらを入れてもかなり余裕がある。腰のバッグに袋を折りたたんで入れると、確かに前より軽く感じる。


 2日程経ってギルドに出かけ、何時ものように採取依頼の依頼書をカウンターに持ち込むと、お姉さんに「ちょっと待ってね」って言われた。


 「移動神官さんが来てるのよ。何年ぶりかしら……、話は聞いてるわ。

 呼んでくるから、ホールのテーブルにいてね」


 そう言いながらも、依頼書にでかいハンコをペタンと押してくれた。

 テーブル席に3人で座っていると、お姉さんが白いフード付きマントのフードを深く被った女性を連れてやってきた。


 「移動神官のスピラニ様です。後はよろしく!」


 お姉さんは簡単に紹介して帰ってしまった。


 「スピラニです。御用とは、魔法の購入で宜しいのですね」


 姉貴の対面席に座ると、スピラニさんがフードを外した。エルフの女性だ。マチルダさんもエルフだが……、エルフ族ってやはり美人が多いのか。

 

 「出来れば購入したいのです。でも私達はどんな魔法があって、どんな魔法があるのか判りません。制約みたいなものは有るのでしょうか?」

 「適正はあります。制約は、使用回数と考えて良いでしょう。適正外の魔法は使用回数が激減しますが、使えないことはありません。先ず、適正を見ましょうか」


 スピラニさんは小さな水晶球を取り出した。


 「魔法の基本は、土、水、火、風です。これ以外にも光がありますが、使用できる魔法は1つだけです。それでは、あなたから、掌にこの水晶球を乗せてください」


 姉貴は水晶球を受取り掌に載せてみる。すると、段々と水晶球の内側から光が溢れ出てくる。


 「白……珍しい方ですね。エルフ以外で白を始めて見ました。では次の方」


 姉貴は俺に水晶球をハイ!って手渡してくれた。

 掌に載せると、途端に水晶球の重さが増して光りが溢れ始める。


 「貴方も白……。では、お嬢ちゃんも乗せてみてください」


 水晶球は元の重さに戻っている。そっと摘んでミーアちゃんの掌に乗せる。

 ミーアちゃんの光りは透き通る様な赤だった。

 

 「白は全ての魔法に適正を持ちます。お嬢ちゃんの赤は火と風の属性です。どのような魔法をご希望ですか?」

 「私はメルト。ミーアちゃんにはメル。アキトには敏捷性を上げる魔法が欲しいのですが……。

 それと、夜を明るくする魔法ってありますか?」

 「アクセルで敏捷性は向上できます。明かりであれば、光球のシャインが良いでしょう。洞窟等でも重宝すると聞いています」


 「お値段は……」

 「1つ150Lです。この金額が高いのか安いのかは判りませんが」


 「では、お願いします」


  姉貴が代金を支払うと、スピラニさんは白い服の袖から透き通るように白い腕を出した。


 「1人づつ私の手を握ってください」


 姉貴は恐る恐るその手を握る。そして痺れたように一瞬体を震わせた。


 「メルトとシャインの魔法式を体に構築しました。次は貴方ですね」


 痛いのか?と思いながらもその手を握る。スピラニさんが俺に微笑んだその時、体に電撃が走る。

 ウガ!って感じだ。でも一瞬でそれは納まった。


 「アクセル。確かに構築しました。最後はお嬢ちゃんですね。大丈夫ですよ。一瞬で終わります」


 ミーアちゃんは、かなり怖がっているみたいだ。少しづつ手が伸びていく。でも最後にガシ!って手を握られ、ウギャ!って叫ぶと体がピン!って立った。


 「ちょっと、可哀相でしたが、これも必用な事です。確かにメルを構築しました。では、これで失礼します」


 スピラニさんはそう言うと席を立ち、ギルドの2階に上って行った。

 俺達は若干放心状態だ。これで、ホントに!って感じなんだけど……。


 「薬草採取で確かめます!」


 姉貴の一言で、それもそうだと俺達は村を出て行った。

 

 泉の森の小川沿い。何時もの薬草採取の場所だ。周りは荒地だし、人気も無い。

 ここなら、魔法の練習に最適ということで、早速始める事にした。


 「私からいくよ!……【メルト】!」


 姉貴の両手の間に30cmくらいの炎の球体が出来上がった。腕を振り上げ投げつける動作で姉貴の手を離れ遠くに飛んでいく。

 ドドォン!と爆炎が上がった。マチルダさんより威力があるかもと思うような爆炎だ。


 「私も……【メル】!」


 ミーアちゃんの右手から炎の球が発射され、20m位先にある藪に当たるとボン!って燃え上がった。

 これで、遠距離攻撃もミーアちゃんは可能になったわけだ。一気にレベルを上げられるぞ。


 最後は俺の番だけど……。

 【アクセル!】と叫んで見たが、何も起こらない。なんだ?って見てる俺に、姉貴が話しかけてきた。

 声が低くなって男の人の声に聞える。プレーヤーの回転数を落として聞いているような感じだ。……と言う事は、これがアクセルの効果?

 少し動いてみる。自分では判らないが、姉貴達の驚いたような表情が見ていて面白い。

 止め方を聞いていなかったけど、「解除!」って叫んだら、姉貴達の話声が元に戻った。

 ちょっとした加速装置みたいで面白い。これだと片手剣でクルキュルの首を落とすのも可能じゃないかって思ってしまう。

 


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[気になる点]  「どれどれ、赤5つか……上ったな。それで、詳細は体力5、魔法力3、魔法耐性5、敏捷性6、技能7、感性5、特殊技能:サフロナ体質、毒無効……なんだこりゃ?」 ……………  「こっちは…
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