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#213 釣りの準備

 

 別荘への長い階段を上って、テラスに辿り着くと、侍女がテラスのテーブルにお茶を運んでくれた。

 どっかで俺の事を見ていたような絶妙のタイミングだったけど、少し気になる事を聞いてみた。


 「あのさぁ…、この辺りの海って、色んな魚が取れると思うんだけど。…こんな魚、見たこと無い?」

 そう言って、俺が書いた絵を侍女に見せた。

 「うわぁ…、家の弟よりも絵が下手ですね。でも、この絵に似ているのが沖の岩礁地帯で獲れるそうです。

 漁師をしている兄が、毎年何匹か獲って来ます。美味しいんですよ。」

 

 決まった!…これは早速準備しなければなるまい。

 甲イカがいるとは、ここまで来た甲斐がある。昼食を済ませたら再度町へ出かけて見よう。

 

 「皆さん、戻られたみたいですよ。此処に昼食を運びますから、お伝えください。」

 侍女は、そう言って家の方に戻って行った。

  

 しばらくすると、嬢ちゃんずがワイワイと騒ぎながらテラスに現れた。姉貴はディーと最後に階段を上がってきたけど、ディーはリムちゃんをおんぶしている。

 結構長い階段だから小さい子にはキツイかも知れないな。


 「ここで昼食って侍女が言ってたよ。」

 「天気も良いし、気が利くのう…。」

 俺の言葉にアルトさんはそう応えるとテーブルに着いた。

 

 数人の侍女達が俺達の昼食を運んできた。

 昼はサレパルと苦味のあるスープなんだけど、この苦味…ひょっとして、ゴーヤ?かもね。


 「サレパルって屋台で買って、そのまま食べても美味しいけど、こうやってナイフとフォークで食べると、上品な感じよね。」

 姉貴の言葉に嬢ちゃんずが頷いてるけど、俺は手で掴んで食べた方がサレパルって気がするぞ。


 「あれから、面白い事あったの?」

 「服屋さんを見つけたわ。アキトは前のがあるから私達の物は手に入れたわ。」

 何を買ったのか?水着辺りだろうとは思うけど、姉貴も持っていたような気がするけどあえて言わない方が良いような気がする。


 「俺の方は、船を改造して貰う事にした。少し高価かもしれないから、少し小遣いを廻してね。」

 「大きな船なの?」

 「いいや、この辺りで使う漁師用の船だけど、安定性がないからアウトリガーと帆を張れるように改造するんだ。全員は乗れないかも知れないけど5人は乗れるんじゃないかな。」


 ふ~ん、って姉貴は考えてたけど、やがて口を開いた。

 「小さな船をもう1艘欲しいわ。出来ればカタマランが良いけど…。」

 たぶん、近場で遊びたいんだろう。

 「いいよ。聞いてみる。…ところで岩場の先は危険だって聞いたけど、環礁の中は大丈夫なのかな。」

 「ギルドで、会った少年は漁師さんの子供だったんだけど、彼も環礁の中で漁をしてるって言ってたわ。岩場を越えない限り安心して漁が出来るみたい。

 だけど、岩場を出ると大型の魚が取れるらしくて、大人の漁師は岩場を越えて漁をするらしいわ。でも波が荒いから、漁師達が使う小型の船だと転覆する事があるらしいの。

 そして、海に投出されるとザンダルーが襲ってくると言っていたわ。」


 船を狙うんじゃなくて、ザンダルーは海に入った漁師を狙うのか…。

 なら、転覆しない工夫をすれば良いんじゃないかな。アウトリガーだってそんな工夫の1つだったような気がするぞ。

 

 「姉さん、服屋さんに行ったと言ってたよね。色が着いた糸なんか売ってるかな?」

 「買えると思うわ。カラフルな服も売っていたから、それを縫う糸はあるはず…。でも糸なんて何に使うの?」

 「実は、甲イカが岩場の周辺で獲れるらしいんだ。それを釣る道具を作る為だよ。」


 それを聞いて姉貴がニコリと笑う。

 「何じゃ、2人だけで分かる話をしておるようじゃが…。」

 「あの岩場で面白い物が釣れるらしいの。アキトがそれを釣る道具を作るって言ってるのよ。」

 「黒リックよりも面白い物じゃと良いが…。」

 「とにかく吃驚するわよ。楽しみにしててね。」

 

 どうやら嬢ちゃんずは納得してくれたみたいだけど、俺は吃驚する位じゃ済まないと思うぞ。

 俺が席を立とうとすると、姉貴が腰のバッグから革袋を取り出して3枚の金貨と10枚の銀貨を出してくれた。

 有難く頂いて、出掛けようとしたが…あれ?、こんな時には間違いなく着いて来そうな嬢ちゃんずの反応が無い。

 嬢ちゃんずを見ると、済まなそうな顔で俺を見ている。


 「アキトには悪いが我等は行けそうもない。これから、アトレイムの地理を学ばねばならん。」

 そんな…実に不似合いな返答が返ってきた。


 クスクスと姉貴とディーが笑っている。

 「では、始めるぞ。リムも一緒じゃ。これからは地理を知るものが良いハンターになれるのじゃ。」

 そう言って4人で家の中に入っていった。


 「アルトさんはね。アトレイム王国のスゴロクを手に入れたのよ。厚紙で作ったものだけど、アトレイムの町や村、産業や産物が網羅されてるから、確かに地理の勉強よね。」

 なるほど、モスレムでもそんなスゴロクがあったな。作ってから3年程度でこの国まで広がったようだ。スゴロクで地理が学べるなら目先が利いた親なら直ぐに買い与えるだろうけどね。


 「じゃぁ、行って来る。」

 そう言って俺は、テラスの階段を下りて町へと向った。


 先ずは、ギルドに向う。

 カウンターのお姉さんに漁の道具を扱っている店を聞くためだ。

 「針や錘、糸等は雑貨屋で扱ってますよ。漁師の中には手作りする人もいますが、全てを作る訳ではありませんから、一通りは手に入れられると思います。」

 親切なお姉さんに教えられて、俺は雑貨屋へと向った。


 雑貨屋は木の看板に袋が描かれていた。

 中に入ると、早速カウンターの少年に、釣針、錘、釣り糸を見せて貰う。

 ゴソゴソと棚を漁っていたが、やがて俺の前に注文の品物を出してきた。


 「釣針はこれですね。ここで扱っているのはこの3種類です。」

 小さな物でも黒リックのトローリングで使用するもの位ある。大きな物は、マグロでも釣れそうだ。

 「針金とヤスリはあるかな?」

 「これになります。」

 鉄製の針金だ。焼き入れすれば使えそうだ。

 「針は自作するからこれでいい。」

 錘は種類がある。適当に中位のを3個と小さな錘を10個選んだ。

 「釣り糸は2種類欲しい。少し太いのと、細いのだ。」

 「漁師の方はこれを使ってますね。こっちが道糸で此方が針を結ぶ糸です。」

 道糸はタコ糸より太い。ハリスはこんな物だろう。

 「道糸は200Dを2本、ハリスは100Dだ。後は、道糸を巻く糸巻きはある?」

 「糸巻きは…ないです。皆さん桶に糸を入れて使ってますね。」

 

 確かに糸巻きと桶、両者があるな。…糸巻きは手作りするか。

 という事で、雑貨屋を離れて次は服屋に出かけた。場所は雑貨屋の少年にしっかりと聞いてみたんだけど、通りの向かい側だった。


 「こんにちは。」

 と言って扉を開けて中に入る。うわ~…俺の来る場所じゃないぞ、此処は…。

 「は~い。」って奥から若い娘さんが出て来た。

  

 「すみません。出来るだけ派手な糸と飾り紐みたいなものが欲しいんですけど…。」

 「あのう…。失礼ですが、何にお使いですか?」

 そう来るよな。俺が使うって言ったら変態扱いされそうだ。


 「実は、ちょっとした仕掛けを作りたいんですが、なるべく相手に判るようにしたいんです。仕掛けを派手に色付けすれば相手も気付くんじゃないかと思いまして…。」

 「ハンターの方ですか、大変ですね。でも普通は反対じゃないんですか?」

 「今回は少し意表を付いてやろうかと思いまして。それで、そんな糸がありますか?」

 「ちょっと待ってくださいね。」

 そう言ってあっちこっちの棚や箱を探し始めた。

 俺の前に次々と色んな種類の糸や飾り紐、レースみたいな物が出て来た。

 「これ位かな。派手なのは意外と少ないですね。」

 ピンクと緑、赤と水色の糸と数種類の糸が混ざった飾り紐、それにスパンコールみたいなキラキラした砂粒が張付いた紐を選んで購入する事にした。

 紙袋にそれらを入れると代金を支払う。


 「ハンターって大変ですね。」

 「まぁ、それなりにですけどね。でも、これが上手く行けばこの糸が漁師さん達に売れると思いますよ。」

  

 最後はメイクさんの仕事場だ。服屋のお姉さんに教わって、仕事場に歩いて行くと、コンコンと槌音が聞えてくる。

 通りの方にも扉があったが、ここは仕事場の方からお邪魔する事にしよう。

 小さな路地を抜けて砂浜の方に出ると、大きく開いた戸口からメイクさんの仕事場に入った。


 「今日は!」

 「おぅ、お前か。確かアキトだったな。どうした?」

 メイクさんは仕事の手を休めると、俺を仕事場の脇にあるテーブルに誘った。

 弟子が直ぐお茶を運んできた。


 「お前が言った通りの仕事をしているが、これだと外洋に出ても転覆することはないな。何処でこの形を知ったか知らないが、俺が量産してもいいか?勿論、1艘辺り幾らかは支払うが…。」

 「幾らでも作ってください。安全な船は漁師に必要です。俺に断わる必要はありませんよ。ですが、ちょっとお願いがありまして…。」

 「何だ。言ってみろよ。」

 「実は、この船だと7人は乗れませんよね。精々5人です。…そこで浅場で遊ぶ転覆しない船が欲しいんです。こんな形に2艘を連結すれば、これも転覆しません。何とかなりますか?それと、少し木材を分けてください。仕掛けを巻く、糸巻きとエギを作りたいんです。」


 「船は簡単だ。丁度いい、おい!こっちへ来い。」

 メイクさんは近くにいた弟子を呼び止めた。

 そして、俺の描いた船の話を弟子に伝える。弟子は頷くと直ぐに奥に走って行った。

「あいつの最初の船だ。良い出来なら、漁師から注文も来るだろう。このアウトリガーとか言う船に似ているな。転覆し難い事は確かだろう。それが分かれば近場の漁師に広がるはずだ。木材はその辺にある奴なら適当に使っていいぞ。道具もだ。」

 

 立ち上がろうとするメイクさんに、慌てて船の値段を聞いてみた。

「余ってた船を改造しただけだ。それに、これがこの先何処まで使えるかを俺も知りたい。アキトもずっとこれを使うわけではないのだろう。だったら、買う必要は無い。この夏一杯お前に貸してやる。」

 

 俺は、有難く好意を受ける事にした。

 作業場の片隅で、スケッチブック位の大きさの糸巻きを2個作ると、親指位の太さで長さ10cm位の棒を10本程作ると、メイクさんにお礼を言って別荘へと帰ることにした。


 

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