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#196 辿り着けない楽園への道

 エントラムズの王都を出発したのは、5日後だった。

 投槍を追加注文したり、嬢ちゃんずの爆裂ボルトも特注したりで遅くなったのと、何より投擲具の練習に時間を掛けたからだ。

 おかげで、全員100Dの距離なら的に深々と突き刺す事が出来るようになった。

 反対側ではクロスボーを姉貴や嬢ちゃんずが構えているんだから、外れたら大変なことになる。それは、投槍を投擲する全員が十分認識している事だけどね。

 魔道師達も200Dの距離から小さな的目掛けて【シュトロー】を放つ練習を繰り返していた。

 最初はまぐれ当り程度だったけど、4日目には2回に1回は当るようになったようだ。

 魔道師は3人ずつ配置できるから、常に1回は命中するだろう。


 投槍は1人5本を持ち、嬢ちゃんずは爆裂ボルトを1人15本も持っている。弓兵は鎧通しの鏃を付けた矢を20本入れたケースを2つも持っていくようだ。

 俺は、グルカを仕舞ってベルトのポーチに爆裂球を3つ入れた。腰の大型バッグには後5個入っている。嬢ちゃんずも結構持っているような気がするぞ。


 そして今、大型の荷馬車3台に分乗して、俺達は南西方向にある山岳地帯を目指している。

 荷馬車はガタガタと振動するけど歩くよりも早いし、投槍の束は結構重い。山には担いで行くしかないが、麓までは何とか荷馬車で行けるだろう。

 

 ネウサナトラムはまだ雪の中だろうが、この辺だと農家の人達が作物の種を蒔く姿がちらほら見える。

 意外と2毛作が出来るんじゃないかな。俺達の村とは暮らしが随分と違うんじゃないかと思う。

 

 「見えてきました。あの村が山岳地帯に一番近い村です。」

 荷馬車の手綱を握っていた副官が荷台の俺達に振り返って教えてくれた。

 正面の大きな山々に抱かれたような感じで小さな村が見える。

 

 「昔からあの山々の傍ではあまり植物の生育が良くないのです。畑は少なく、村人の収入は山岳地帯からの薬草と木材の切り出しで生活しています。当然宿等ありませんので、村の外で野宿することになります。雑貨屋がありますので食料等は買い込むことができるでしょう。」


 どうやら、かろうじて村の形態を取っているような小さな集落らしい。

 

 「ではケイロスさん頼みましたよ。」

 姉貴が念を押して頼み込む。

 「分かっておる。酒場を探して山の作業の状況を聞いてくればよいのだな。数人を連れて行こう。」

 

 俺達は村に入らずに少し手前の荒地に馬車を停めて野宿の準備を始めた。

 早速、ケイロスさんが部下とハンターを連れて村に出かけて行った。


 簡単な天幕を張って、薪を集めて焚火を焚く。

 明日は山に入るから、少し贅沢に肉が多めに入ったシチューとパンが夕食になる。パロン家が差入れてくれた大きな果物籠には蜜柑味の小さなリンゴが沢山入っている。これもありがたく頂く。


 食後のお茶を飲みながら一服していると、ケイロスさん達が帰ってきた。

 俺達の囲んでいる焚火の傍にドカっと腰を下ろすと、早速副官が夕食を持ってくる。


 「ミズキ様の言う通りであった。山仕事の特効薬はジギタ草だ。部下に纏め買いをさせているからもう直ぐ届くはずだ。」

 そう言いながらシチューを食べ始める。


 「ジギタ草?」

 「強壮薬じゃよ。心臓の弱い者が服用するのじゃが、一時的に疲れを取る作用もあるのじゃ。」

 俺の疑問に御后様が応えてくれた。

 

 「効果はどれ程続くのですか?」

 「あくまで一時凌ぎじゃ。半日は続くまいと思う。ザナドウを前にして飲むという事になろうな。」

 俺の脳裏に、ザナドウを前に全員が腰に手を当ててゴクリとドリンク剤を飲む光景が浮んだ。何かシュールだけど、そんなコマーシャルがあったようにも思える。


 次の朝、早々と朝食を取って俺達は山へと向う。

 村を離れて1時間程度で荒地に潅木が混じり始める。荷馬車での移動は此処までになる。

 荷馬車を降りて俺達は一塊になる。そこに姉貴が【アクセラ】を掛けると俺達全員の身体機能は2割上昇する。少しは山歩きが楽になるはずだ。


 俺達は装備を下ろして、ディーを先頭に歩き始めた。

 ディーの脳裏で先行偵察で得た地理情報を元に自動マッピングされるから俺達にとっては初めての山脈だが迷う事は無い。


 「副官達が、先程の場所でワシらの帰りを待っている。荷は重いが帰りは袋に仕舞えるだろう。狩りが終了するまでの辛抱だ。」

 ケイロスさんは俺にそう言うと6本の投槍を担ぎ直した。予備の投槍まで持って来たようだ。


 ディーの身体機能は25%まで低下しているはずだが、それでも疲れも見せずに先頭を進む。たまに俺達に振り返るのは、俺達の疲れ具合を確認しているのだろう。

 そして、1時間ほどすると、ディーが立止まる。どうやら最初の休憩らしい。


 「この辺りの地磁気異常はそれ程でもありません。後1時間ほど進むと最初の異常圏内に入ります。電磁誘導作用により金属体に電流が流れる可能性があります。大電流ではありませんが、ビリって来るかも知れません。手袋があれば着用をお勧めします。」


 ディーの言葉に全員が手袋を着用する。直接は金属を持っていないけど何かの弾みで握る事もあるからね。


 休憩を終えて1時間程歩くと、山の木々が捻れるように生えている。心なしディーの歩く速度も遅くなったように思えるし、俺達も気だるい感じが込上げてくる。

 強い磁力が回転しているようだ。ケイロスさんの担いでいる投槍の穂先が接触するたびにスパークが走る。


 そんな場所を30分近くかけて通りすぎると、とたんに体が楽になる。

 早速2回目の休息を取った。


 「とんでもない場所じゃな。こんな場所がまだつづくのか?」

 アルトさんがディーに訊ねた。

 「今日の行程ではもうありません。明日は、先程より少し弱い場所がしばらく続きます。3日目にザナドウの生息する窪地に降りますが、窪地は中心に向うほど強力な磁界で、しかも磁界が回転しています。」

 ディーの応えに全員がちょっと引いてしまった。


 「じゃが、案ずる程の事はあるまい。ジギタを全員が2本持っておる。狩る前に飲めば倦怠感に襲われる事も無いはずじゃ。」

 御后様が、すかさず対応策がある事を話してくれたので皆の顔が少し明るくなった。


 夕暮れが近づく前に野宿の準備を行なう。

 夕食は簡単なスープとパンだが、此処のパンは小麦粉のパンだ。

 夜は、【カチート】を使って不寝番を置かずに眠る。まぁ、ディーは眠らなくていいから、実質的には不寝番をしているようなものだ。


 そして、次の日もまた、歩き始める。

 ディーが注意してくれた場所は、しばらく歩いている内に感じる事が出来た。

 なるほど、【アクセラ】を持ってしても疲れが続く。そしてその場所を過ぎると急速に体が楽になる。

 

 余り獣を見かけない。その理由が2日目の夜に判った。

 【カチート】の障壁に何かがぶつかる音がする。しかも連続してだ。

 姉貴が光球を出したので、俺とケイロスさんとで【カチート】の壁際によって外を見てると、いきなり何かが飛んで来て見えない障壁にぶつかり下に落ちた。


 それは、飛翔するサヨリのような魚だった。全長は40cm位だが10cm程の長い上顎を持っている。そして、体側に沿って数枚の飛翔羽根を3箇所に持っていた。これで飛ぶならさぞかし素早く飛びまわれるだろう。生きている矢のようだ。

 こんなのが生息していたら、獣はたちまち突き刺さって息の根を止められるだろう。

 落ちたサヨリに仲間が群がって食いちぎる。このサヨリは肉食のようだ。


 「リオンのようだな。話には聞いていたが見るのは初めてだ。夜行性ということだから昼間に見付けることができん。こいつがいるということは、近くに水場があるのだろう。」

 

 これが本当のフライングフィッシュなんだろうな。物騒な魚だけど、食べられるのかな?

 早速、姉貴の図鑑で調べる。

 マケトラム村で購入した本には記載が無い。ひょっとしたらと大森林編で調べてみるとそこに記載があった。

 大森林地帯の遥か南方でたまに見かけるとの記載だ。

 その特徴は肉食で群れる。そして人の体温を感じて飛び付くとある。

 防ぐには【カチート】もしくは焚火の傍にいることで、焚火にリオンを誘き寄せるとある。利用価値は全く無いようだ。食用にもなら無いらしい。食べると腹痛を起こすと注意書きがあった。

                ・

                ・


 そして今、俺達は断崖の下の窪地を見ている。

 山脈に入って3日目の事だ。

 やはり想像した通り、此処は巨大なクレーターだ。直径は2km程ありそうだ。

 崖のように切り立った外輪山の底は平らで草もそれ程生えていない。

 そして、このクレーターの底には2匹のザナドウがいる。

 姉貴と双眼鏡で捜索してみると、ほぼ中心近くに2匹のザナドウを確認できた。

 全員が代わる代わる双眼鏡を覗いてその姿を確認した。嬢ちゃんずは俺のあげた海賊望遠鏡で見ている。


 「あれか…。」

 「あれじゃ。…あれを狩るのじゃ。」

 ケイロスさんの呟きに御后様が追従する。


 だが、もう昼過ぎだ。これからこの崖を下りてザナドウを狩るとなれば夜になってしまう。

 この外輪山の縁で夜を明かして、明日早朝に崖を下るべく、崖の下り口を捜すことが今日の仕事になるだろう。

 夜になれば、リオンが襲撃してくる。ケイロスさんが部下を2方向に放って調べさせる。

 夕食が出来上がる頃に、探索の者達が帰ってきた。

 

 「左にしばらく進むと雨水で出来た溝が崖に刻まれております。そこを辿ればこの断崖の底に辿りつけるでしょう。」

 「ワシ等には、女、子供もおる。そこを下りるに問題はないのか?」

 「危ない場所は綱を使って貰いましょう。…少し下りてみましたが、そのような難所は確認出来ませんでした。」

 「なら、問題は無かろう。明日はそこを下りようぞ。」

 御后様の言葉に皆が頷く。


 そして、俺達は眠りに付いた。明日は、いよいよザナドウを狩るのだ。体力は十分回復しておかねばならない。

 

 

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