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#018 泉の森の調査

 

 宿に戻るとおばさんが歓待してくれた。

 近所のおばさんや若い娘さん達も手伝って豪勢な食事が整えられ、酒の壷があちこちのテーブルに置いてある。


 同じ宿に泊っているハンターやこの宿の飯を食べに来るハンターが、もう席に座って飲んだり食べたりしている。


 「遅かったじゃないか。あんた達は此処だよ」


 おばさんが階段に近い席に案内してくれた。

 宿は村内の家並みから離れているのに、随分と人が集まっている。


 一旦部屋に戻り、装備を外したかったが席に早速運ばれてきた料理と木のコップを渡されてそのまま皆と騒ぐことになった。

 俺達が召集に参加していたことが分かると、次々にお酒が注がれ始めた。


 元々そんなに飲めないことから、たちまち顔を赤くしてテーブルに突っ伏すはめになる。姉貴の方は、顔を赤くはしているが次々とお酒を飲んでいる。酒豪みたいだって思いながら料理を恨めしそうに眺める。


 「ご苦労だったな」


 2人の男が俺達のテーブルに着いた。

 少し顔を上げて眺めると、グレイさんとギルドで采配をしていた人物だ。


 「俺は、カンザス。黒6つだ。グレイから話は聞いた。グレイ並みに動けて赤3つとは驚いた。明日、ギルドでレベルの確認をしとけ、上がっているはずだ。

 ここからは相談だ。明日、ガトルが何故押寄せる羽目になったか調査をしたい。同行できるか?」


 「それって、危険はありますか?それと、どの位の期間を考えています?」


 姉貴が尋ねる。俺達だけなら問題ないかも知れないけど、ミーアちゃんを考えると少し不安もある。


 「3日程度を考えている。やってきた方向から泉の森の東側までを調査したい。参加者は俺達とマチルダ、サニー、それにサラミスが名乗りを上げた。単独でクルキュルを倒せるものはいないが、このメンバーでなら数匹は倒せる。危険性は低いと考える」


 「ミーアちゃんは私達のチームです。参加しても問題ありませんか?」

 「今回もガトルを1匹倒している。猫族の敏捷性は折り紙つきだ。問題無い」


 「じゃぁ、参加します」

 「明日の朝ギルドで待つ。野宿と食料の準備をしておけ。」


 俺達にそう言うと、2人は足早に宿を出て行った。


 姉貴は席を立つとおばさんのところに行き何やらお願いしている。おばさんが頷くところを見ると簡単なお願いだったようだ。

 席に戻ってくると、俺の腕を持って無理やり立たされた。

 

 「明日の準備をするから部屋に戻るわ。歩けるの?」

 「大丈夫だ。ただ床が揺れてるだけだ」


 俺の言葉を聞いて、ミーアちゃんが支えてくれた。

 何とか階段を上り、装備を外すとベッドにダイビングする。もう動けそうに無い。


 そんな俺を見て、姉貴は小さくタメ息をつくと準備を始めた。

 俺のポンチョを広げ携帯食料入れた袋を食器類と一緒に丸め込む。

 自分のザックから迷彩シートを取出して自分のポンチョを包み、ミーアちゃんには水筒代わりにペットボトルをバックに入れてる。


 水と食料それに雨対策さえ出来ていれば何とかなるだろう。武器は、とりあえずみんな持っていくことになるだろう。それに3日歩くことを考えると、アリット採取に使った棒もミーアちゃんの杖代わりに丁度いい。


 ユサユサと体が揺すられる。

 あれ?って感じで目を開けるとミーアちゃんが俺を揺すっている。何時の間にか寝てたみたいだ。


 「おはよう!」


 そう言って体を起こすと、『姉さんはもう、食べてるよ!』って教えてくれた。

 慌ててベッドから跳ね起きて、装備を身に着け、ザックを肩に階段を下りると、黒パンを齧っていた姉貴と目があった。

  

 「おはよう。俺の分も貰っといて!」


 姉貴に伝えると、宿の裏手にある井戸に行き顔を洗う。


 まだ、少し頭が痛い。しかし、今日はカンザスさんとの約束もあるし、寝ている訳にはいかない。

 もう一度冷たい水で顔を洗って、宿のホールに戻った。


 「黒パンとスープ。それに濃いお茶を貰っといたわ。大丈夫なの?」

 「大丈夫!まだ少し頭が痛いけど直に治るさ」


 黒パンを頬張る俺を見て、少し安心したようだ。

 あっという間に平らげた。そういえば、昨夜は何も食べなかった。

 

 「歩きながら、何か食べてたほうがいいよ。まだ、お菓子が残ってたでしょう」


 少し足りないって表情をしていたようだ。腰のポーチにザックにあったお菓子の残りを少し入れる。

 ついでにミーアちゃんにあげようとしたら、まだ入ってるってバッグの中を見せてくれた。


 俺達がそんなことをしている間に、姉貴がおばさんからお弁当を受取ってきた。


 3日程度帰れないと、おばさんには昨夜の内に伝えたそうだ。


 「お茶を飲んだら、出発だよ。」


 残ったお茶を一気に飲んで立ち上がる。

 濃いお茶は苦かったが、おかげで頭はすっきりだ。

 スタスタと歩いて宿の扉を開ける。


 「行こう!」


 姉貴とミーアちゃんを促して、ギルドに向って歩き出す。


 「早かったな。先ずはカウンターでレベルを確認しておけ!」


 ギルドで俺達を迎えたのはテーブル席のカンザスさんだ。傍らでサニーさんがお茶を飲んでいる。

 早速、カウンターのお姉さんにレベルの確認を依頼する。ついでにザックも預けておく。


 水晶球の結果は、俺と姉貴が赤4つ。ミーアちゃんが赤3つだ。昨夜の結果が反映されたのかな……。

 そんな事を考えながら、カンザスさんのいるテーブルに戻って、皆の来るのを待った。


 「どうだった。少しは上ったろう」

 「はい。全員1つ上ってました」


 「全員が揃うまでに、まだ間がある。不足のものがあるなら今の内に買っておけ」

 「とりあえず、食料と水それに野宿の準備はしましたが、期間が長い場合に他に必用な物はありますか?」


 「そうね。私達のそれ以外と言うと・・薬草と傷薬それに毒消草かしら。ほら、これよ!」


 サニーさんが俺達の前に小さなポーチを取り出す。

 革ケースの綴蓋を開くと中に竹みたいな筒が数本並んでいた。


 「蓋の上が丸いのが薬草、四角なのが傷薬そして尖がってるのが毒消草ね。こうして入れておけば暗がりでも必用な物が判るでしょう」

 「何処で、手に入れられますか?」


 「雑貨屋さんで手に入るわよ。まだ持ってないなら、今の内に買ってきなさい」


 姉貴はミーアちゃんとギルドを飛び出してった。


 「薬草は、疲れをとる。傷薬は傷の治りを早くする。毒消草は文字通りの物だ。蛇や虫には毒を持つものもいる。

 長期と言わず、日帰りでも準備はしてておいたほうが良い。」


 「近場とはいえ備えは必要ってことですか?」

 「そうだ。今まで知らなかったことに、こっちは驚いてるがな」

 

 怪我もしなかったので……。と言って誤魔化すけど、納得してはいないみたいだ。

 ギルドの扉が開くと、グレイさんとマチルダさんが入ってきた。

 軽く片手を上げて挨拶がわりだ。俺達のテーブルに他から椅子を持ってきて座る。


 「アキトだけか?」

 「薬草等を買いに行きました。サニーさんに教えて貰ったんです」


 「確かに、今度は用意したほうが良いな。森には結構イヤな奴がいるからな」

 「こらこら、今から脅してどうするの」


 マチルダさんがグレイさんの頭を杖でポカリ!って叩いてる。

 結構いい仲みたいだ。

 

 「ただいま!」

 

 声と共に扉が開き、姉貴達が帰ってきた。


 「はい。アキトの分だよ!」


 先程と同じような、小さなポーチを渡してくれた。早速ベルトに挟んでおく。 

 

 「後はサラミスだけだな」


 グレイさんがメンバーを見渡して言った時、バタンと大きな音を立てて扉が開いた。


 「遅くなりました」


 ハア、ハアって息を切らせながらサラミスが長剣と大きな袋を背負って現れた。


 「揃ったようだな。昨夜伝えた通り、ガトル来襲の調査だ。原因を調べに泉の森の東側まで行くことになる。では、出かけよう」


 俺達は席を立つと、カンザスさんの後を追うようにギルドを出た。


 「先頭は俺とグレイが交替で立つ。最後尾はアキトだ。中は適当で良いが、お嬢ちゃんはミズキと一緒に行動しろ良いな」


 カンザスさんが短い指示を出す。

 俺達は前後に少し距離をとりながら、泉の森に向って歩き出した。もちろん俺は最後尾だ。パトロールの最後尾って後の確認で良かったんだよな。

 海兵隊のムキムキ兄貴達にそんなことを教えて貰ったような気がする。




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