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#166 助っ人がやって来た

 

 ギルドのホールにある黒板程の大きさの依頼掲示板にびっしりと貼られた依頼書。掲示板では足りなくて壁にまではみだして貼られている。

 この村に初めて来た時もキャサリンさんが対応出来ない位だったけど、俺達がいない間によくもこんなに依頼書が増えたものだと感心を通り越して呆れてしまう。

 そうは言っても一応俺達が筆頭ハンターになるようだし、ここは何とかあの依頼をこなさねばなるまい。


 と言う訳で、ギルドのホールに村の主だったハンターを集めて作戦会議と相成った。

 集まったのは俺達6人の他に、ミケランさん、キャサリンさん、ルクセムくん、スロットとネビアそれに御后様の12人だ。

 他に数名のハンターがいるけど、ゴーイング・マイウエイな人達だから積極的に依頼を処理しようという趣旨には集まってくれなかった。

 

 「さて、皆さんに集まって貰ったのは、あの依頼書を何とかするためです。俺達を含めて皆さんを幾つかのチームに編成して、一気に片付けたいと思います。セリウスさんも由々しき事態だと言って、ギルドの取り決めを一時解除すると言っています。10日間に限り、複数の依頼を同時に受けることが出来ます。」

 「編成はどうするのじゃ。」

 「採取チームと狩りチームを1つずつ。それにどちらにも対応できるチームを2つ作ります。」

 アルトさんの問い掛けに俺がそう応えると、皆は俺に注目する。


 「御后様は、アルトさん、サーシャちゃん、ミーアちゃんを率いて狩りを行って下さい。狩の対象は小型の草食獣やカルネル達です。亀の機動力で一気に片付けて下さい。」

 「承知した。じゃが1つ大至急3つ作って欲しい武器がある。ユリシーに頼むが、他の者で武器に不足があればついでに頼んでこよう。」

 何を作らせるつもり何だろうか。ちょっと気になる。


 「ミケランさんは、キャサリンさん、ルクセムくんを連れて採取をお願いします。」

 「いいにゃ。でも、ミクとミトを連れて行くにゃ。」

 「その2人は我らが預かろう。リスティン狩りも亀の鞍に乗っておったし、今回は相手が小さい。危険は無かろう。」

 「お願いするにゃ。」

 ちょっと心配になる人選だけど、確かに亀の鞍に乗って喜んでたからな。


 「すると、俺にネビアが採取と狩りの両方になるんですね。」

 「そうだけど、姉貴も一緒だ。姉貴の指示に従ってくれ。」

 スロットの問い掛けに応える。

 「私は、マスターと御一緒になるんですね。」

 「そうなる。俺達は両方の依頼をこなすと言うより、他のチームの助っ人になるから依頼の達成に時間が掛かるようなら遠慮なく言ってくれ。それと、状況確認するため朝はここに集まってくれ。」

 皆を見渡しながら言った。頷いているところを見ると、納得してくれたのかな。


 「面白い編成じゃな。では、早速開始じゃ。サーシャよ。狩りの依頼書を持ってまいれ。ユリシーの所に寄るので、南方面の依頼書が良いぞ。」

 「私達は近場の依頼から始めるにゃ。ルクセムくん3つ程依頼書を見つけてくるにゃ。」

 「私達は北側の依頼書から始めましょう。採取依頼をしながら北の獣を調査します。」 

 各チームがそれぞれ複数の依頼書をシャロンさんの所に持って行ったけど、掲示板はまだまだいっぱいだ。

 「私達はどうしますか?」

 ディーが心配そうに俺を見る。

 「俺達は古い期限が近づいた依頼書を片付ける。2枚見つけてくれ。」

 ディーは直に掲示板に行って、2枚の依頼書を手に戻って来た。

 その依頼書は、フェイズ草が10本とリスティンが1匹…。確かにこれだけの依頼書があれば率の良いものを選ぶよな。フェイズ草はあの崖だし、リスティン1匹を狩るために山に入るのも考えてしまう。

 早速、シャロンさんの所に持って行き依頼の受領印をドンと押して貰う。

 2人とも通常の装備だから直に出かける事にした。

 

 ギルドを出て山荘へ向かう。

 ユリシーさんがカヌーを山荘に届けているらしいから、今回はカヌーで湖を横断してグライトの谷を目指す。

 山荘の侍女さんに断って、カヌーを漕ぎ出す。

 家に置いてあるカヌーよりも1.2m程長いから大人3人が楽に乗れるし、荷物も積める。

 疲れ知らずのディーにパドルを操ってもらい、俺は後尾で進む方向を修正しながらパドルを漕ぐ。

 ディーの漕ぐ力は俺より強いし、何と言っても休む事を知らない。カヌーの進む速度はたちまち人の歩く速度を上回って行った。そして3時間で湖を横断してしまった。

 

 グライトの谷の岸辺にカヌーの先端を引き揚げて、ロープで近くの潅木に結んでおく。

 「ディー、周辺の状況は?」

 「谷の山側に複数の群れがいます。北に400と750の位置です。」

 たぶん片方はカルキュルだと思う。そしてもう一方は運が良ければリスティンだ。

 日差しの当る西側斜面を登りながらフェイズ草を探すと、ディーに球根を確保して貰った。俺のスコップナイフはルクセムくんにあげたままで新しいのを買ってないため、ディーに掘って貰うのだ。帰ったら直に雑貨屋で購入しなければなるまい。


 結構な高さまで崖を上った所で、谷底の山側を双眼鏡で見てみる。獣の群れの片方はカルキュルだったが、近いほうはリスティンの群れだ。

 フェイズ草を確保しながら少しずつリスティンの群れに近づいて行く。V字形の谷を30m程上ったところを横に移動しているから、リスティン達に気付かれることは無いだろう。

 200m程に近づいてkar98を取出す。ディーに距離を教えてもらいスコープの距離を合わせて慎重に狙いを定める。

 ターンっという乾いた音が谷に響き渡ると、1匹のリスティンがその場に崩れ落ちた。

 

 急いで谷に下りてリスティンを回収すると、カヌーに運び入れた。フェイズ草は余分に確保しているから、このままギルドに戻れば依頼は完了となる。

 来た時と同じようにディーに家まで漕いで貰う。

 リオン湖の北へ行くには、北門を出て森を進むより、カヌーの方が遥かに早い。カタマランも完成している事だし、今後の狩りには便利に使えそうだ。


 それでも、リオン湖を横断するには、やはり3時間は必要になる。家の傍の林にカヌーを繋いだ時には、もう夕暮れが迫っていた。

 急いで、ギルドに向かう。リスティンはディーが軽々と担いで付いて来た。

 ギルドの扉を開けて早速シャロンさんの所にフェイズ草とリスティンを持ち込んだ。シャロンさんの確認をもって、この2つの依頼は完了となる。

 「リスティンは肉屋さんにお願いします。これが報酬です。」

 シャロンさんはそう言って俺達に銀貨4枚を渡してくれた。

 肉屋さんにリスティンを引き渡すと、家に急いで帰る事にした。


 「ただいま!」と言いながら家の扉を開けると、姉貴や嬢ちゃんずはもう帰ってきていた。

 「遅かったね。何処まで行ってたの?」

 「フェイズ草とリスティンを取りにグライトの谷まで行って来た。」

 そう言うと皆が吃驚してる。

 「グライトの谷まで往復したなら、今夜は森で野宿じゃろうが!」

 アルトさんが訝しげに問う。

 「リオン湖をカヌーで往復したんだよ。片道3時間ってとこかな。ディーがいてくれて助かった。」

 「船を頼んでたのは知ってたけど…。出来たの?」

 「カヌーは、3人乗れて荷物も積める。それにカタマランは6人は乗れるぞ。」

 「便利そうね。今の状態が一段落したら、乗せて貰うわ。」

 「あぁ、いいよ。アルトさん達も一緒に乗れるから楽しみにしてて。」

 

 皆が揃った所で夕食を食べる。

 ミーアちゃんとサーシャちゃんはもう立派な主婦になれるぞ。スープだって、俺好みの味付けだ。

 食後のお茶を飲みながら、今日の結果を皆で話す。

 姉貴は、サフロン草を40本集めたそうだ。サフロン採取の依頼が3枚もあって、纏めて処理したみたいだ。28Lずつ分けて、2Lはギルドに寄付したって言っていた。

 アルトさん達は、カルネルの群れ2つとシャザクの群れ1つを狩ったそうだ。

 「去年は遅れを取ったが、今年はアルタイルがおる。我等の前に敵はいないのじゃ。」

 アルトさんの言葉にミーアちゃんとサーシャちゃんが頷いている。

 「これをユリシーのお爺ちゃんに作ってもらったの。チロルに乗って走って振るうと、一撃でカルネルが倒せるの。」

 ミーアちゃんが持ち出してきたのは、姉貴のような薙刀だ。

 「こう持って、こう振ればいいって、サーシャちゃんのお婆ちゃんが…。」

 亀に乗ってグルカを振るうには、刀身が少し短い。それで薙刀か…。そう言えば、御后様がユリシーさんに何かを頼むような事を言っていたが、これだった訳だ。

 「双子は邪魔にならなかったの?」

 「ちゃんと座って見てた。これを振るうときは一緒に声を出してた。」

 門前の小僧に近いような英才教育に違いない。ミトとミクの将来はこうして決まっていくんだろうな。

 狩りの報酬は150L。御后様は3人で分けなさいって受取らなかったようだ。後でお礼を言っておこう。

 そして、俺も報酬を姉貴に渡しておく。でも、銀貨1枚をそっと渡してくれた。


 そんな事を10日も続けると、掲示板の依頼書がみるみる減っていく。狩猟期を間近に控えて少しずつハンターが増えてきたのも幸いしているのだろう。

 そろそろ、チームを解散して狩猟期の準備を始めねばなるまい。

 そして掲示板の依頼書が三分の二になった時、俺達はチームを解散して狩猟期に備える事にした。


 畑の刈り入れが終わり、ギルドの採取依頼が一段落すると、狩猟期が始まるのはもう直ぐだ。

 村には続々と腕に覚えのあるハンターが集まってくる。馴染みのハンターは早めに来て宿を確保するのだ。少し遅れると、村人の家にお世話になる事になるのだが、それを見越して、毎年同じ村人の家に泊まるハンターも多い。それでも入りきれない場合は、南門近くに野宿場所が確保されている。ここに泊まるのは、初参加者が多いらしい。

 

 狩猟期まで後1週間となった朝に、家の扉を叩く音がする。

 ミーアちゃんが扉を開けると、イゾルデさんが2人の近衛兵を従えて立っていた。

 「おはよう。依頼の小麦粉を持って来たわ。」

 イゾルデさんをテーブルに案内すると、近衛兵の持ってきた小麦粉の袋を受取り、台所の方に運んでいった。

 イゾルデさんは近衛兵に礼を言って先に山荘へ返すと、ディーの入れたお茶を美味しそうに飲み始めた。

 

 「あのう…。今回の狩猟期には俺達は出ないんですが…。」

 「知ってるわよ。屋台をやるんですって!」

 イゾルデさんの目が輝いている。

 「それを聞いて、直ぐに準備したのよ。大丈夫!任せといて。」


 いったい何を準備してきたんだ! それに何を任せられるんだ!

 俺の心は雄叫びを上げているけど…ここは平常心。

 「あのう…。ひょっとしてなんですけど、イゾルデさんは屋台の手伝いに来てくれたんですか?」

 「もちろんよ。」

 何を言ってるの、貴方は…。と言うような目で俺を見ている。

 

 「ずーっと前から一度はやってみたかったけれど…周りが許してくれなかったの。でも、御后様が今年はザナドウではなく屋台じゃって言うのを聞いて、直ぐにトリスタン様の許可を取ったわ。これを逃したら、2度と屋台に立つ事が出来ないって懸命にお願いして許して貰ったの。ザナドウは機会があるかもしれないけど屋台をやる機会は2度とは来ないってね。」

 

 何か、ザナドウを狩ってた方が俺としてはストレスが溜まらないような気がしてきた。

 恨みを込めて姉貴を見ると、イゾルデさんに「よろしくお願いします」何て言ってるし…。


 「あのう…サーシャちゃんの方は?」

 俺は最後の抵抗を試みた。

 「ミーアちゃんがいるから大丈夫。ミケランやキャサリンもいるのでしょう。ビリになったら、オシリを百叩きします!って言ってあるから問題無し!」

 それって、幼児虐待にならないのか?

 だいたい、イゾルデさんの百叩きが終った段階で生きているのが難しいような気がするぞ。

 

 そんな事があって、俺達の屋台には強力な助っ人?が王都から出張ってきた。

 何はともあれ、準備を始める。

 屋台は準備が大変なのだ。当日の仕事を可能な限り簡略化するため事前準備は必要不可欠だと、コンビニのバイトで知り合った先輩が言っていたのを思い出す。

 醤油とグラニュー糖それにスティックミルクは姉貴が少しずつ溜め込んでくれたから、入手が面倒なのは、魚と卵だ。

 魚は俺と、御后様それにイゾルデさんが担当して、姉貴とアルトさんそれにディーはカルキュルの卵を調達して貰う。ついでにフェイズ草の茎を20本ばかり入手して貰おう。フェイズ草の茎って、見た目もネギだが、食べた感触もネギだった。これを使わない手は無いだろう。球根を残しておけば来年も取れるしね。

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