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#144 獣の襲撃 2nd

 

 とりあえず獣の襲撃を撃退した俺達は荒地の真中で焚火を囲みお茶を飲んでいる。

 俺達の前には沢山の獣の死骸が転がっているけど、埋葬する余裕はない。

 グレイさんは、次の日には無くなっていると言ってるけど、夜間に獣達が共食いをするのだろうか。それとも、俺達がまだ知らない死肉漁りがいるのかもしれない。


 「とりあえず今日の最初の襲撃は何とかなった。毎日がこんな感じだ。最初はガトルと鎧ガトルが出てくる。次は、スカルタとガトルだ。これに、カルートが混ざるとやっかいだ。」

 姉貴が図鑑で調べると、スカルタはオオトカゲでカルートは…カンガルー?

 スカルタは動きが鎧ガトルよりも鈍いらしい。瞬間的に素早く動くらしいが直ぐに息切れするようだ。大きさは4m程で額に50cm程の角があり、鋭い歯には毒腺を持つと書いてある。カルートは身長3m程の大型のカンガルーと考えて良さそうだ。問題は手に10cm程の爪を持っていることだ。相手の横を素早く走り抜ける際に、この爪で相手を引き裂くと書いてある。討伐部位はそれぞれ角と爪だ。そういえば、さっきの鎧ガトルの討伐部位は20cm程の尻尾だった。


 「しかし、新しい娘さんは凄い力だな。それを振り回す事は俺にも出来んぞ。」

 カンザスさんがディーの持つ棍棒を見て呟いた。

 「それより、あのはどうやって移動してるの?足が動いてなかったわよ。それにさっきまで羽根が生えてたし…。」

 サニーさんが俺に聞いてきた。サラミス兄弟もうんうんと頷いている。

 「ディーは魔道具で作られた人間なんです。さっきの移動は羽を使って移動したと思ってください。」

 「魔道具で人がつくれるのか?」

 「はい。俺の持つ魔道具と根源は一緒です。でも、1人の人間として扱ってください。ディーは道具ではありません。」

 

 「マスター。集結が完了したようです。しかし、動きません。」

 「集結している獣はわからんのか?」

 「個体種別不明です。個体数120。」

 「それでも、数が分かるだけたいしたものだ。ひょっとして、方向と距離もわかるのか?」

 「北東に600mです。」


 カンザスさんやグレイさんの問いに淡々とディーが応える。

 「換算すると4ミルになります。ディーは本来偵察要員です。半径6M内の動きを読むことが出来ます。」

 俺は、ディーの返答を補足した。


 「だがそれだけ分れば対応が出来る。120と言う数字はたぶん何時も通りと考えていいだろう。スカルタというオオトカゲだ。今度は嬢ちゃん達の弓も有効だが、狙うなら横腹を狙ってくれ。肺が傷つけば動きが鈍くなる。」

 

 カンザスさんの言葉に、サラミスの兄弟達とお菓子を食べていた嬢ちゃんずの顔が少し明るくなった。早速、バッグの中から袋を取出して、ボルトを補給している。

 ディーは何時の間にか背中の長剣の鞘とベルトの間にブーメランを挟み込んでいる。

 それをサラミスが怪訝な目で見ていた。

 「サラミス。あれはブーメランという武器だ。」

 「木刀のようだけど、あんなんで殴るのか?長剣位はありそうだから、それなりの威力はあるんだろうけど、それなら最初から長剣を使う方がいいと思うぞ。」

 確かに、見ようによっては俺のグルカにも見える。グルカを模した木刀と勘違いしたようだ。

 「ディー。あの繁みを狙ってみて。」

 「了解しました。」と言いながらブーメランを抜くと、数歩前に出ながらブーメランを投げた。

 シュルシュル…と、ブーメランは垂直回転から水平回転に変わりながら逆U字を描くように飛んで行き、繁みの上部を一撃すると手元に戻ってくる。

 数歩横に移動してディーは戻ってきたブーメランを掴んだ。


 「何だ?…その武器は戻ってくるのか。」

 俺の横で成り行きを見ていたグレイさんが叫んだ。

 「はい。戻ります。一撃を加えたら戻りませんが。」

 「しかし、面白い武器だな。使えるのか?」

 「最初に作った時は、これをアルトさんが使ってダームを倒しています。…それに、面白い使い方をキャサリンさん達がやってます。これの練習用の物を作ったんですが、それをラッピナの上に飛ばすと、何故かラッピナが動かなくなるそうです。そこを【シュトロー】で攻撃する事で、昼にラッピナ狩りが出来ると喜んでました。」


 「それなら俺にも作ってくれ!」

 サラミスが大きな声で俺に懇願する。

 「作ってあげてもいいけど、簡単だから自分で作るといいよ。ミーアちゃんちょっと貸してくれない。」

 ミーアちゃんが、バッグの袋からプロペラ形のブーメランを取出してサラミスに渡した。

 「形はその方が戻って来易いんだ。ディーが使った方はちょっとコツがいる。…横から見ると分りやすいんだけど、片方は平らで、もう片方は板の中央が少し膨らんでるだろ。そう言う形にして、垂直か斜めに投げれば戻ってくるよ。」

 サラミスが立ち上がるとブーメランを投げる。シュルシュルと廻りながら戻ってきた。

 

 「後は、絶対に手で掴もうとしないこと。回転してるから簡単に指の骨位折れるかもしれない。」

 「面白いな。これで、ラッピナが狩れるなら俺も作ってみるよ。」


 そんな話をお茶を飲みながらしていると、柵の製作現場からカイラムさんがやってきた。

 焚火を囲む俺達の輪に入ってくると、ミーアちゃんが早速お茶のカップを渡してる。


 「今日は、後ろの柵まで慌てて逃げる必要が無いみたいだな。」

 「あぁ、アキト達のお蔭だ。そっちも捗るんじゃないか?」

 「三分の一程柵が出来上がった。サラトガの方も手伝ってくれてる。明日には完成できるからサラトガは小屋の引越しを考えているようだ。」

 パイプを煙らせながら俺達に教えてくれた。


 「動き出しました。個体数120で変わりません。今度も集結地点に移動しない個体が数個おります。到着まで後10分です。」

 「10分ってどれ位なんだ!」

 「俺がタバコを吸う時間の2倍程だ。お茶を最後まで飲んでゆっくり持ち場についても十分間に合う。」

 サラミスにそう教えると、だいぶ時間があるな。と言いながら腰を上げて兄弟と共に自分の持ち場に歩いて行く。姉貴とマチルダさんがカップを集めてバッグに仕舞って持ち場へと歩いていった。

 嬢ちゃんずはディーの話が終らない内に走っていったけど、待つのは退屈なんだ。飽きが来ないか心配になってきた。

 

 「婿殿。今回も同じ手を使うのかえ?」

 「姉貴の魔法力次第です。ダメなら、これで…。」

 俺はポケットから爆裂弾を取出した。

 「大丈夫。まだ余力は十分よ。期待してて!」

 俺達の話に姉貴が応えてくれた。

 「さっきと同じで頼む。オオトカゲは動きが鈍そうだから、かなり痛手を与えられると思う。でも、カンガルーはどんな行動に出るか分らないから、魔法を放ったら直に戦列に戻ってね。」

 

 「後30秒程で視界に入ります。」

 ディーの言葉に、姉貴が俺達の前に駆け出していく。俺は、カンザスさんやグレイさんに手を振って前方を指差した。

 

 森の外れの藪が揺れると、オオトカゲが姿を現した。でかい…額に伸びた角が威圧を増している。グアァと開いた口には鋭い歯が並んでいる。

 のそのそと歩く姿はユーモラスだが、それが数十となれば話が異なる。

 姉貴が右手を上げた。紅蓮の炎が収束した球体が4個姉貴の頭上に浮かび上がる。

 突然、オオトカゲの間からガトルの群れがこちらに向かってきた。

 オオトカゲの歩く速度の倍以上の速さで向かってくる。

 姉貴は腕を振り下ろした。炎の渦巻く球体は、先ほどと違って前後に分かれて飛んでいく。後ろも見ずに俺達の方へと駆け込む姉貴の後ろでは、楕円状に爆裂の嵐が巻き起こっている。少しでも、オオトカゲにダメージを与えたかったようだ。


 爆煙の中から飛び出してきた数匹のガトルはたちまち嬢ちゃんずとサニーさん達の餌食になって俺達の防衛線まで到達する事は出来なかった。

 だが、オオトカゲをあまり倒す事は出来なかったようだ。

 のそのそと土煙の中から血だらけの姿が現れる。

 そして、その後からピョンっと飛び跳ねる大型のネズミのような姿が現れた。

 たちまち、オオトカゲを追い越して俺達に迫ってくる。

 ドオォンっと【メルト】と爆裂弾が炸裂するが、カンガルーが素早く左右に動く為あまり効果が無いようだ。


 そんな中、ディーがブーメランを投げる。シュルシュル…と大きく弧を描いて飛んでいくと、一匹のカンガルーの頭部に当った。

 その場に倒れたカンガルーにオオトカゲが群がり、貪り食いを始めると、姉貴とマチルダさんの【メルト】が炸裂した。

 

 獣達は先程と同じように俺達の中央をめざしているようだ。

 俺と御后様は左に移動してカンガルーを待ち構える。

 ディーは背中の長剣を引き抜き、俺達の前を横に移動しながらカンガルーの首を狩っている。

 カンガルーが倒れると、オオトカゲが群がり、そこを【メルト】と爆裂球で倒す。それでも前進してくるカンガルーを俺は刀で首を突き通した。大型のカンガルーだ。一気に首を落とすには体力勝負になる。

 叩き斬っているのは、俺と姉貴以外の連中だ。カンザスさんは走りこんだ勢いを乗せてカンガルーに一撃を与えてるし、御后様やディーは一瞬で首を落としている。

 それを貪るオオトカゲは餌がある間は俺達に近づいて来ないようだ。50D位先でカンガルーを食べている。

 

 そのオオトカゲに嬢ちゃんずとサニーさん達がボルトや矢を射掛けている。

 狙いはきっちり横腹だ。その傷口を狙って、姉貴達が【メル】を放ち傷口を広げている。

 最後は俺達が1匹ずつ確実に葬って行った。


 オオトカゲに後から近づいて首の付根に長剣をカンザスさんが突き刺す。

 一瞬バタバタと暴れたオオトカゲは直ぐに動かなくなった。


 「これで終わりか!」

 大声を上げるカンザスさんに俺達は始末が終わった事を武器を上げて応える。

 素早くディーが俺のところに滑る様な動きで近づいてきた。

 「移動体はありません。集結地点の個体も姿を消しました。」

 そう俺に告げると、ブーメランを回収しに出かけたが、【メルト】で無残な姿の板切れに姿を変えたようだ。ジッと板切れを見つめるディーは少し残念そうだ。意外と気に入っていたのかもしれない。


 換金部位を回収して焚火の場所に戻る。ポットに水を入れてお茶を沸かそうとミーアちゃんを探したが見当たらない。

 後を振り返ると、嬢ちゃんずが棒でオオトカゲを突付きながらボルトを回収していた。

 回収してきたボルトを【フーター】で洗ってあげると、ミーアちゃん達は焚火の周りにボルトを刺して乾かし始めた。


 お茶が沸くと、お弁当を広げて昼食だ。

 何時もの黒パンサンドだけど、少しハムが厚切りのような気がする。おばさんのサービスなのかもしれないけどね。


 「食べながら聞いてくれ。先程アキトがディーに聞いた話では、獣の集結は一段落したそうだ。だが、日没迄にはまだ間がある。今日の俺達の仕事はカイラム達が柵を作るのを邪魔されないようにすることだ。カイラムの仕事が終るまでは気を抜かんでくれ。」

 

 しかし、獣の襲撃は昼以降は無かった。

 姉貴とディーが最大レンジで獣の動きを追っていたが、森の中を動き回るだけで集結するような気配が無いと言っていた。

 となると、ディーが言っていた集結地点に動かずにいた個体というのが気になる。

 

 「獣を操る技とな…。遠く海を隔てた王国に獣を操る技を持った者達がいると商人は言うておった。」

 「じゃが、それは異国の話じゃ。モスレムにはおらぬ。周辺諸国においてもそんな話は聞いた事が無い。」

 「誰かが、呼んだ…。という事も考えられますね。」

 そんな話を焚火の周りでしながら時間を潰す。

 

 日がだいぶ傾いた時、カイラムさんのパーティから男が走ってきた。

 「そろそろ村に戻ることにします。今日はご苦労様でした。」

 そう、俺達に告げると柵の方に走っていく。


 「どれ、俺達も帰るとするか。紐に縛った爆裂球を回収しとけよ。」

 カンザスさんの指示で早速爆裂球を回収する。そして、荒地を南に歩き始める。

 カイラムさん達の柵作りは簡単な柵かと思いきや本格的なものだった。

 柵の高さは2m位。荒地に打ち込んだ杭の間隔は20cmにも満たない。杭の後には三角を作るようにほうずえのような杭が打ち込んである。柵の前には横幅2m深さ1m程の空掘を作るようだ。一部で穴掘りが始まっている。

 

 畑にある柵にはサラトガさん達が夕食の準備をしていた。

 「今日はご苦労だった。御主の友人達は中々やるようだな。」

 そんな言葉をカンザスさんに言いながら焚火の傍に越し掛けてパイプを煙らせている。

 「あぁ、明日も今日ぐらいだと引越しだな。」

 「獣に近づくが、この柵よりはマシだと聞いている。頑張ってくれ。」

 

 カンザスさんは片手を上げて激励に応える。

 夜の見張りをサラトガさん達に委ねて、俺達は村への帰路についた。

 村に戻ると、一旦ギルドに集まる。俺達が集めた獣の討伐部位をギルドのお姉さんに渡して、今回参加している全てのハンターと頭割りにする。

 柵作りも巡回も浅瀬での待伏せも立派なハンターの仕事だ。ただ彼らは直接獣と戦っていないか、戦っても討伐部位の回収が難しいのだ。だから俺達の討伐部位を皆で均等割りにすることで、その日の報酬が得られる事になる。

 総額は不明だったが、俺達は1人150Lを受取ることが出来た。

 今日は、ここまで。早速宿に戻ると小母さんの美味しい夕食を食べて、早めにベッドに入る事にした。

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