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#013 ミケランさんの頼み事

 

 食事が済んで部屋に帰ると、姉貴がにっこり笑って依頼書をオシリのレスキューバックから取り出した。


 「キャサリンさんのおかげで、文字の読み方が段々解ってきたわ。」

 「文字って言っても、ギリシア文字と楔形文字の合体型だろ。辞書も無いのに無理だと思ってたけど……」

 

 「そうでもないのよ。先ずこの依頼書だけど」


 姉貴はザックからノートとボールペンを取り出す。そして、ノートに文字を書き始めた。

 

 「この文書には、これだけの種類の文字が使われてるわ。そして、今日の依頼書の文字を追加すると……、これだけなの。

 全部で30種類。アルファベットより多いかも知れないけど、濁音、半濁音、伸ばす、詰めるの文字が独立して存在することに注意すれば、殆どローマ字読みが出来るのよ」


 「ちょっと待って、それだとこの世界は日本語が母体になってることになるよ。……確かに、日本語で会話が通じてるけど」

 「あまり気にしないことね。今は読む糸口が出来た事を喜ぶべきだと思うけど」


 「それと、数字はこの楔形文字ね。1から9までの文字はこうなってるわ。それで、ゼロの概念が此処にはあるのよ。

 1の文字の横にこの文字を付けると10になるし、更に横に同じ文字を付ければ100になるの」


 「10進法をつかってるのか……。暦も出来たら解るといいね」

 「その辺はおいおいと教えて貰うわ。ところで明日なんだけど、ハンター業はお休みしてミーアちゃんの服を買おうと思うんだけど、いいかな?」


 姉貴はザックにノート類を仕舞うと、姉貴のベッドで早々とお休み中のミーアちゃんを見ている。

 確かに、ミーアちゃんの服は碌なもんじゃない。シャツだって、靴だってそうだ。


 本来、採取みたいな依頼はそれ程高額収入にはならないはずだが、運がいいのか悪いのか、そこそこの収入を得ている。

 ここは、ちゃんとした服装をそろえてやったほうがいいに決まってる。


 「俺は、いいと思うな。明日の朝、宿のおばさんに仕立て屋さんを聞いてみたら?」

 「そうだね。じゃぁ、おやすみなさい」

 「おやすみ!」

 

 

 次の朝、俺達は部屋の扉をドンドンって叩く音で眼が覚めた。

 部屋のカーテンの隙間からはまだ朝日が差し込んでいないし、腕時計は6時を指してる。


 誰だこんなに早く……。と思いながらも服装を整える。姉貴達の方も終わった事を確認して、扉の横に歩いて行った。

 姉貴達が扉の正面からずれた事も確認する。


 「こんなに早くから、何方ですか?」

 「ミケランにゃ。開けて欲しいにゃ。」


 俺は採取鎌を手に取ると、ゆっくりと扉の鍵を開けた。

 バタンって扉が開くとミケランさんが入ってきた。

 どうやら1人のようだ。


 「聞いて欲しいにゃ。ギルドに大量のリリック獲りの依頼が入ったにゃ。手伝って欲しいにゃ」


 急いで話すミケランさんの迫力に負けて、手伝う事を約束してしまった。

 今日は、ミーアちゃんの服を買う日って決めてたんだけど……どうしよう!

 

 「ミケランさんは1人なの?」

 「キャサリンが一緒にゃ」


 姉貴はちょっと考えて、俺を指差した。


 「アキトとミケランさんは先行。私とキャサリンさんはミーアちゃんの服を買ってから行くわ。……それと、ちょっと待っててね」


 姉貴はザックを漁りだした。「ここに入れといたんだけど……」等と言っているが何が出てくるのかな?


 「はい!」って渡されたものは、俺の愛用の釣竿だ。

 4.5mのカーボンロッド振り出し式だ。仕舞えば50cm位に短くなる。

 万能竿だけど先調子で山女から鮒まで何でも狙えるのがウリだったんだけど。何で姉貴のザックに入ってるんだ!

 続けて、「これもね。」って渡されたのが小型のタックルボックス。当然、俺のだ。確かに竿だけじゃどうしようもないけどね。


 とりあえず、ポンチョに竿を差し込んで、ミケランさんと出かけることにした。

 1階の食堂に下りると、キャサリンさんがお茶を飲んでいた。


 「ごめんなさいね。昨日捕ったリリックを町の商人が聞きつけてギルドに依頼したみたいなの。20匹で200L破格の報酬だわ」

 「確かに美味しい魚でした」


 「それに猫系の獣人は、あれに目がないのよ。ミケランが一生懸命なのは、また自分が食べたいからなのよ。」

 「そんなこと無いにゃ。……駆け出しハンターにいい依頼を紹介したいだけにゃ」

 

 ミケランさん必死の弁明ですが、信じる人は誰もいない。

 それでもキャサリンさんは、ミケランさんの話を聞いてあげてる。優しい人なんだなって思ってしまう。


 台所から姉貴が出てきた。俺の所に来ると、「餌はこれでいいでしょ」ってハムの切れ端がたくさん入った紙袋を渡してくれた。

 

 「お弁当は、後で3人で届けるから、頑張ってらっしゃい!」


 姉貴とキャサリンさんに送られて、俺とミケランさんは小川へと向う。

 

 まだ朝早い時間だけれど、森へ向う小道は畑に行く農家の荷車や高額の依頼料に目が眩んだハンター達が歩いている。

 

 「早く行かないとみんな捕られちゃうにゃ」

 ミケランさんがそんな事を言って俺を急がせるが、皆はどうやって捕るんだろう?

 キャサリンさんはそんなに釣れないって言ってたけど、何か秘策でもあるのだろうか?


 「ところで、ミケランさんはどうやって、リリックを獲るの?」

 「私は獲らないにゃ。アキトが獲るのを見張ってるにゃ」


 自信を持って答えられてしまった。でも、こうもハンターが多いとトラブルが起きる可能性も有るのだろう。そう考えれば、黒1つのミケランさんは頼もしい用心棒と言える。

 小川に架かる橋を渡って川下に歩いて行く。


 「この辺で昨日はリリックを獲ったんだ。ほら、焚火の跡があるでしょ。」


 ミケランさんに教えたけど、そこにはもう何組かのハンターが釣をしていた。

 釣と言っても竿を使わずに、針に餌を付けて、糸の途中に石をつけた奴を川に投げ込むやり方だ。そんなんで釣れるのかと不思議思う。


 更に川下へ行くと、ちょっとした木立の蔭が淵になっている場所があった。

 小川の水の色がその辺りだけ紺色に変わっている。ウム…、いいポイントだ。


 「ミケランさん。ここで釣るよ。ホントに見てるだけなの?」

 「そうにゃ。私が見張ってるから安心して獲ってにゃ。」

 

 ポンチョから釣竿の袋を取出して、腰のポーチからタックルボックスを取り出す。……たぶんこれでいいはず、と虹鱒用の仕掛けを引張り出して、竿に糸を結ぶ。


 タックルボックスは邪魔になるのでポーチに戻す。

 竿を伸ばしながら、糸巻きから糸を手繰りだす。全部出し終えると、丁度釣針の位置が手元にくる長さだ。


 適当に浮き下を調整して、釣針にハムの欠片を刺す。

 そして、水の色が変わる辺りにポチャンっと投入する。


 直ぐに浮きがスーっと引き込まれる。サッと手首を返すと腕にグググーっと引きが伝わる。

 竿の弾力で魚を弱らせて手元に寄せると一気に引き抜く。……1匹ゲットだぜ!


 「凄いにゃ。もう一匹目にゃ」


 ミケランさんは嬉々としてリリックの内臓をナイフで取ると、茅みたいな長い茎に魚を突き刺して次を期待している。

 

 餌を付け直し投げ入れると直ぐに当りが来る。

 次々と釣り上げ、ミケランさんに渡していく。それをミケランさんが片っ端からナイフで処理していく。何か流れ作業みたいだ。


 「しかし、見ていてあきねえなぁ」


 うん?振り向くと、知らない壮年の男がパイプを煙らせながら、俺達の作業を見ていた。


 「何時からいたんにゃ。見ててもあげないにゃ」


 ミケランさんが早速抗議をしているが、相手は無視してるみたいだ。


 「さっきからだが、そんな獲り方は始めて見るな」


 ちょっと一休みしたかった所なので、一旦竿を下ろした。

 背中のグルカナイフを抜くと、雑木を払って薪を取る。男が座ってる辺りが平らなので、薪を重ねて焚火を作った。

 早速、ミケランさんがリリックを串刺しにて遠火で炙り始めた。


 ポンチョからポットを出すと、水筒の水を入れて焚火の傍に置く。

 

 「コップは持っていますか?」


 俺の質問に「あぁ、持ってる。」と答えると、男は焚火に寄ってきた。


 銀のケースからタバコを1本取ると焚火の薪で火を点ける。

 適度な労働の後の一服は格別だ。…美味い。ミケランさんも一服してる。


 「その煙草も変わってるな。パイプ無しで使えるのか……」

 男は興味深々だ。


 「始めまして。俺はハンター初心者のアキトと言うものです。あちらのミケランさんの指導を受けています」

 「おぉ……、ご丁寧に。俺は、グレイ。黒2つのハンターだ。ギルドに行くと今日は小川が面白いと言うので来て見たが、なるほど来たかいが有った」

 

 ミケランさんは黒2つの言葉に安心したようだ。ハンター同士の争いはご法度。殺しでもすればギルドが国中に討伐隊を組織するって聞いたことがある。

 

 「もし良かったら、アキトのナイフを見せてくれないか?」

 「これですか?」


 俺はグルカナイフをグレイさんに手渡した。

 握りを確かめ、振った時のバランスを見て、最後に刃先をじっくりと見ている。

 

 「これは、凄いな……。俺もナイフを使うがこんなナイフは初めてだ。是非これを作ったドワーフを教えて欲しいものだ」


 男はそう言うと「ありがとう」って俺にナイフを返してくれた。


 「これは、ドワーフではなく人が鍛えたものです。でも、その人にもう逢う事は出来ません」

 「そうか、亡くなったか……、しかし人の身でそれ程の鍛造が出来るものがいるという事は、世界は広いということか」


 グレイさんは残念そうに言った。

 

 「これでも食べて諦めるにゃ」


 ミケランさんが串焼きのリリックを1本グレイさんに手渡した。俺にも1本くれたけど……、これって依頼品だぞ。ミケランさんも1本食べてるし。


 

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