表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/541

#121 ストーカー?

 

その頃…。

 アキト達の馬車から少し遅れて、もう一台の馬車がサーミストに向かって走っていました。


 「しかし、カラメルの技はたいしたものじゃ。あのメダルがこのようなカラクリを持っておるとは婿殿も気付いておらぬじゃろうて…。」

 そう言って御后様は、馬車の小さなテーブルに乗せた水晶球を見ています。


 「しかし、我等4人が王宮を留守にしても大丈夫なのでしょうか?」

 ダリオンさんは少し心配そうです。

 

 「心配は無用じゃ。元々我等はあまり王宮の表舞台には出る事はない。それに精々1月程度の旅行である。これ位の期間、王宮を動かせなくてどうするのじゃ。我が伴侶のトリスタン殿もその位の器量はあるじゃろう。」

 「それに、マハーラを残してありますし、近衛5千と王都のギルドの高レベルハンターの数を考慮すれば、魔物襲来も対処可能でしょう。」

 イゾルデ様とジュリーさんは全く心配していません。


 「おっ!…どこぞの休憩所で野宿するようじゃ。我等は一足先にサーミストに向かうぞ。よいな。」

 「ワクワクします。この先の町にユリシーと言うドワーフがおります。大森林地帯の地理に彼より明るい者はいないと聞き及んでいます。彼をガイドに雇い入れれば、アキト様達を見つけるのは草原を行くようなものでしょう。」


 「どうしてこのような事を…。それ程心配ならば一緒に行かれたほうが良かったのではありませんか?」

 「それでは、面白くないではないか。…こっそり婿殿達の戦いぶりを鑑賞するのが良いのじゃ。」

 「でも、万が一の時は…。」

 「分かっておる。そのために我等が行くのではないか!」

 

 少し、本音と建前が逆になっているようですけど、それでも可愛い娘を少しは心配しているようです。

 そして、ストーカー達を乗せた馬車は、アキト達が野宿している休憩所を通り過ぎて、ひた走りにサーミストの町を目指していきました。

              ・

              ・


 ガラガラガラ…と街道の石畳を馬車が通る音がした。

 こんな夜更けに、先を急ぐのは商人達だろうか。それとも急病人を町に運ぶ村人なのだろうか…。


 食事を終えた俺達は、馬車のソファーを引き出して、3人づつ寝る事になった。

 もっとも、御者さんは、最初から馬車の下にもぐって寝ているけどね。

 先程、交替して今は俺とミーアちゃんとクローネさんが焚火の番をしている。


 パチパチ…と爆ぜる薪の音だけが、ヤケに大きく聞える。

 「はい!…」

 ミーアちゃんが焚火の傍においたポットから俺達にお茶を入れてくれた。

 「ありがとう。」

 そう言って、銀のケースからタバコを取出すと薪で火を点ける。

 お茶にはタバコが一番だ。

 「あや?…アキトはタバコを吸うのかにゃ。私も…。」

 クローネさんが腰の片手剣のケースに差してあるパイプを取出すとプカプカ始めた。

 ミーアちゃんはバックからキャンディーを取出して口に入れている。さっき姉貴から何個か貰っていたみたいだ。

 

 「さっき通った馬車だけど、知っている人が乗っていたような気がするの。」

 ミーアちゃんが俺に話しかけてきた。

 「俺達が知っている人で、先を急ぐ人といえば商人の人位だと思うよ。仕入れの時間を間に合わせる為に急いでいたのかも知れない。」

 「…う~ん。良く分かんにゃい。でも、商人さんよりもよく知ってるようにゃ気がする。」

 

 ミーアちゃんの感の良さは、俺を300Dで確認出来るぐらいの能力がある。

 話ぶりから敵意を持った人ではないようだが、ちょっと気になるな。


 「さすが一族の血を引く娘にゃ。感のよさは私より上にゃ。何か感じたけどよく分からなかったにゃ。」

 2人とも感じたと言うことだけど、全く殺気は無かった。俺達の敵でなければ問題ないか…。


 2つの月が傾き、東方の空が段々と白んでくる。

 もう直ぐ夜明けだ。ミーアちゃんに座布団代わりに敷いていたポンチョを広げて掛けてあげる。冬の朝は寒さが一段と増してくる。

 焚火に薪を放り込んで火勢を上げると、鍋を火に掛ける。

 簡単な野菜スープを作っておけば、それだけここから出発する時間を速めることが出来る。

 

 朝日が昇ると馬車から皆が下りてきた。

 早速、スープを椀に盛ると、黒パンを焚火で温める。

 行儀が悪いけど、俺は黒パンをスープに浸して食べるのが好きだ。

 姉貴が睨んでいるけど気にしない。食事は美味しく食べるのが一番だと思う。


 「今日は、サーミストの王都の手前の町に泊まる。そこで、装備を整え東に向かうのじゃ。」

 装備って、もう揃っているような気がするけど、まだ何か足りないのだろうか?

 「大森林地帯の村や集落での買い物は通常の倍の値段じゃと聞いておる。それに種類は少ないようじゃ。用意しておくべき物は次の町で揃えるのじゃ。」


 意外と経済観念はあるようだ。登り窯の製作にポンと金貨を出すような所があるかと思えば、ちょっとした食料の値段も気にするようなところがあるのが少し可笑しいような気もするけどね。

 

 「皆、槍を購入しておくにゃ。ちょっと怪しい所があれば、ツンツンできるにゃ。」

 探針として使うと言う事か。

 俺は鎌があるし、姉貴は薙刀を持ってるから、嬢ちゃんず用に3本あればいいだろう。

 長い槍は不便だから、投槍でいいだろう。


 「クローネさんは持ってるんですか?」

 「馬車の屋根に乗っけてあるにゃ。投槍にゃ。」

 

 食事が終って馬車に乗り込む時にチラッっと屋根を見ると、投槍がくくりつけられてあった。

 俺達が乗り込んだ事を確認した御者は、パシン!とムチを鳴らす。

 そして、馬車は街道を南に向かって走り出す。


 この馬車って自転車よりは早いと思う。時速15km位だろうか。

 ひたすら南に向かってるけど、1日6時間走るとして、1日に90km。すると、3日で270kmとなるのか…。

 リオン湖を去ってからそれ程、日数は経っていないような気がするけど、だいぶ暖かいと感じるのは、それだけ南に下がった為だろう。

 とはいえ、外套の前ボタンを外す程度ではあるのだが…。


 「この先のマキルナと言う町で2日泊まるにゃ。その後は大森林の手前に小さな村があるだけにゃ。魔法の回復薬はこの先購入できないにゃ。薬草も準備するにゃ。」

 クローネさんが注意してくれた。

 

 夕暮れ前にマキルナ町が見えてきた。

 サナトラムの町より少し小さい位の町だが、数千人の人が暮していると思う。

 周囲には丸太と石組みの複合した塀が町を取り囲んでいた。

 街道はそのまま町の中に伸びている。

 俺達は開かれた門を潜り、町の中に馬車を進める。そして、街道に面した宿屋の前に馬車を止めた。

 御者が馬車を宿の裏手に回している間に、宿の主人にギルドの場所を尋ねると。早速、ギルドに出かけて到着の報告と明後日の出発を告げる。こうしておけば、出発時にギルドに寄る必要は無い。

 

 ちょっと豪華な夕食は、リスティンのシチューと白いパンだった。

 ここでは、ライ麦ではなく小麦が栽培されているらしい。

 カップ1杯の蜂蜜酒はお湯で薄められていたが、それでも俺達の体を温めてくれる。


 部屋に戻ると順番にお風呂に入る。この先は風呂があるかどうかも怪しい限りだ。

 風呂が無くても、【クリーネ】の魔法で体の清潔さは保てるのだが、俺としては風呂がどうしても欲しくなる。

 暖かい布団に包まると直ぐに眠気が襲ってくる。焚火の番をしないで済む睡眠はとても貴重で大切な時間だ。


 そして、次の日。

 俺とクローネさんは嬢ちゃんずの槍を買いに武器屋に出かけ、姉貴達は雑貨屋に出かけていった。

 宿からさほど遠くない場所で、剣の交差した看板を出した武器屋を見つけた。

 早速中に入ると、棚の武器を眺める。

 「何をお探しですかな?」

 店の奥から老人が顔を出す。

 「投槍をさがしてます。少し短い位がいいんですけど…。」

 「投槍はそこにはありません。ちょっとお待ちください。」

 老人はそう言って、奥に入っていく。 

 そして、しばらくすると、数本の槍を持ってきた。

 「ここにある投槍はこれだけです。昨日数本が売れましたので…。」


 使い方は、探針と杖代わりだから、細身で尖ってるのが望ましい。となれば、この3本だな。

 「これを下さい。」

 「1本が銀貨1枚です。」

 俺は3枚の銀貨を老人に渡すと槍を担いで宿に帰った。

 「嬢ちゃん達が帰ったら、寸法を合わせるにゃ。少し長い気がするにゃ。」

 帰り道でクローネさんが俺に言った。

 確かに俺に丁度いい感じだから、ミーアちゃん達には長いかもね。


 昼近くになって、姉貴達が帰ってきた。ナップザックのような背負い袋を各自が背負っている。その膨らんだ袋には何が入っているんだか分からないけど、それ程大きくも無いから、背負ったままで戦闘も出来そうだ。


 昼食の野菜スープとサンドイッチみたいなパンを食べると、早速嬢ちゃんずの身長に合わせて投槍の柄を短く切る。

 ルクセムくんに作ってあげた槍を思い出す。身長程の柄の長さだから、杖代わりに歩いても穂先が目の前をちらつかない。そして、転んでも穂先で怪我をする心配もない。


 「姉さん何を買ってきたの?」

 「食料と薬草。それに爆裂球を買い足してきたわ。後は、大型の水筒よ。いざとなれば【フーター】で出したお湯を飲む事も選択肢としてはあるけど、お風呂のお湯を飲むようで、ちょっとね。」

 別に【フーター】で出したお湯を沸かせばいいと思うんだけど、何故か俺達もハンターの人達も水筒を持ってるんだ。ちょっと不思議な気がする。

             ・

             ・


 その頃…。


 「婿殿達は、マキルナでひと休みじゃな。」

 「丁度、1日先行しましたね。明日は森で野宿となります。ユリシーがおりますし、野宿もたまにはいいでしょう。」

 「じゃが、この先は大森林地帯じゃ。獣の種類も異なると聞く。信用してよいのじゃろうか。」

 「ここに来て、心配なぞ無用じゃ。賢者と言われるジュリーがおるし、この者の右に出る者無しとまで言われるドワーフのユリシーがおるのじゃ。噂に聞く【カチート】の守り、明日は堪能しようぞ。」

 大森林地帯の直ぐ近くの村の宿屋に6人の男女が宿泊しています。

 そして、4人の女性は部屋のテーブルに水晶球を置いてそれを覗いていました。

              ・

              ・


 今日は何時に無く、姉貴が早起きだ。

 何か誰かに見られてるような気がして良く眠れなかったらしい。

 それでも、宿の裏にある井戸で顔を洗うと、少しはさっぱりしたみたいだ。

 皆が起き出したところで、朝食を取る。

 野菜中心のスープに白いパン。ちょっと黒パンが懐かしくなってきた。

 食べ終えたところで、頼んでおいた昼食を袋に詰めて姉貴がナップザックに詰め込んだ。

 投槍は俺が持って、馬車の屋根に括り付けておいた。


 馬車に乗り、御者がムチを鳴らして馬を歩かせると、ガタガタと馬車が進み始める。

 町の通りをそのまま南に行くと直ぐに十字路に出る。そこを左に曲がり、今度は東に馬車を進める。

 町を抜けると直ぐに畑が広がる。

 ここではもう麦を播く準備に入っている。一旦耕して、肥料を撒いた後で、もう一度耕す。そして麦を播くのだ。


 どこまでも続く畑を見てると眠くなる。姉貴は何時の間にか俺の肩に倒れるように寝込んでいた。

 「ミズキはどうしたのじゃ?」

 「なんか、誰かに覗かれてるような気がして眠れなかったみたいなんだ。」

 「私も、そんにゃ気がしたけど、にゃぜか安心できたよ。」

 「我も母上に見守られていたような気がしたのじゃ、おかげでぐっすりじゃ。」

 そんな気がしなかったのは、俺とアルトさんとクローネさん…。ひょっとして俺達が鈍いのか!

 よく分からないが、その内何か分かるだろう。とりあえず、害はないと思いたい。


 その日の昼過ぎに、大森林地帯の直ぐ近くにある名も無い村に俺達は着くことが出来た。

 早速、宿に行って宿泊を予約する。御者には礼を言って、何枚かの銀貨を姉貴が渡している。俺とクローネさんは馬車の屋根に積んだ投槍を下ろして宿に運び入れた。

 夕食前にギルドに出かけて到着の報告をする。そして明日大森林地帯に入る事も合わせて告げる。

 これは大森林地帯に入るハンターの義務らしい。誰が入って、誰が戻らなかったか…。

 大森林地帯に入って3ヶ月後までに戻らない場合は、そのハンターが死亡したものとしてギルドがハンターの身内に連絡する。

 少なくとも、残された家族はハンターがどこで亡くなったのかを知る事だけは出来る。


 宿の夕食は質素なものだった。

 野菜スープと黒パン。ちょっと懐かしい味がした。

 明日のお弁当を頼んで、ベッドに入る。これからしばらくはベッドで寝る事は出来ないだろう。

 

              ・

              ・

 

 その頃…。


 「これが【カチート】の魔法か。なるほど、周囲に障壁があるのじゃ。」

 「ハハハ…たとえザナドウであろうともこの障壁を破る事は不可能じゃて。この中で焚火をすれば、集まって来る森の生き物を見ながら酒が飲めますじゃ。」

 そう言って焚火の傍でドワーフの老人がダリウスさんとお酒を飲んでいます。

 でもダリオンさんは全然酔えません。ふと後を見たら、大きなヤマヒルがダリオンさんを狙っていたからです。今も、障壁を破ろうと盛んに口をパクパクさせていますが、障壁はびくともしません。

 

 「どうやら、入口の村まで来たようですね。もう眠りについたみたいです。」

 水晶球を見ていたアン姫が皆に報告する。

              ・

              ・


 今日は大森林地帯に入る事になる。

 宿の朝食は黒パンサンドにお茶という質素なものだったが、俺達ハンターには十分だ。

 早速、用意して貰った昼食を姉貴がナップザックに入れると、宿の外に出た。このまま通りを東に歩けば村の東門に出るらしい。

 それぞれ、武器を杖代わりに歩き出す。姉貴と嬢ちゃんずはナップザックの上にクロスボーを背負っている。クローネさんは弓を背負って、俺はグルカと刀だ。

 カツンカツンと杖を鳴らしながら歩いて行く。


 東門を出ると遠くに森が見える。ここから眺める森はどこにでもあるような森だ。最終目的地の目印になる南の山は全く見えない。だいぶ先のようだ。

 荷馬車1台が通れる位の道が森に向かって真直ぐ伸びている。

 ここらで、隊列を整える。

 先頭はクローネさん。

 次にミーアちゃんとアルトさんが続き、その後に姉貴とサーシャちゃんが並ぶ。

 そして、最後は俺が後方を警戒する。

 

 そして、森が目の前まで近づいた時、少し早めの昼食を取る。

 黒パンサンドを水筒の水で流し込むような昼食だけど、森の中で何があるか判らない以上、この辺で昼食を取るのがベストだ。


 出発前に姉貴が全員纏めて【アクセラ】を掛ける。身体機能2割増しの魔法は結構頼りになる。

 そして、クローネさんを先頭に俺達は大森林地帯に脚を踏み入れた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ