#011 アリット採取終了
俺達はリゾットモドキを美味しく頂きながら、ミケランさんの講評を聞いている。
「クルキュルは、黒カードの連中が狩る獲物にゃ。それでもいっぱい人数を集めてするにゃ。
ロープを一杯張った所に誘き寄せて、木の上から矢を射掛けるにゃ。少し弱ったところを槍で刺すのがやり方にゃ」
どうやら、一人前の認証を受けた連中が10人以上必要とするらしい。俺達みたいな低レベルのハンターが狩ったらまずいのかも知れない。
「私達が殺したら拙かったのでしょうか?」
「そんなこと無いにゃ。たまに運が良くて狩れるものもいるにゃ。でも、反対の場合が殆どにゃ」
それって、反対に狩られたって事なんだろうな、きっと……。
俺がM29のような高速重量弾であるマグナム44を発射できる拳銃を持ってたからよかったものの、姉貴のM36だと38スペシャル弾だから危なかったかもしれない。
つくづく規格外なニワトリ、いやクルキュルだと思う。
食事が済むと、ミケランさんの指示に従って、川下に移動を始めた。
クルキュルを木から下ろして担いでいくのは、やはり俺に役割が回ってきた。ニワトリモドキだからやはり食べられるみたいだ。
「ここがいいにゃ」
そこはには川岸に小さな砂地が広がっていた。
「昨日と同じにゃ。もう直ぐアリットが水を飲みに此処に来るにゃ。隠れて襲い掛かれば大漁にゃ」
もう、何も言う気はない。アリット採取は小動物の狩りなのだ。と自分に言い聞かせる。
「ミズキとアキトは川の上と下で待ち伏せにゃ。私とミーアちゃんはこの木の上で待ち伏せにゃ。棒は持ったかにゃ?……合図は私がするにゃ」
俺は担いできたクルキュルを茂みに隠すと、下流に行って藪の中に隠れた。上流側の藪には姉貴はいるようだ。箒が揺れている。
しばらく身を潜めていると、アリット達がやってきた。
ピョコン、ピョコンって小さく撥ねるように列を作って森の奥から次々とやってくる。
ペンギンが列を作って歩いているみたいに見える。損得抜きで見るならば、きっと微笑ましい光景なんだろうなって思える程だ。
川岸の砂地に着くと、アリット達は動かなくなった。
これがミケランさんの言う水を飲むってことだな。
「ミギャー!」って叫び声を上げながらミケランさんが木から飛降りて箒でアリットを攻撃する。ミーアちゃんも一緒だ。
「ウオォー!」って俺も叫びを上げて、こっちに逃げてくるアリットを叩く。
「オリャー!」って声がすることから姉貴も頑張ってるに違いない。
5分にも満たない時間でアリット採取は終了した。とにかく逃げ足が速い。ピョンピョンってあっという間にいなくなってしまった。
姉貴の差し出す折畳スコップで急いで穴を掘る。その間に3人で選別と水洗いをしているようだ。
昨日と同じぐらいの穴を掘ると、早速3人が傷物アリットを運んできた。
「採り方が解ったみたいにゃ。8個は使えるにゃ」
これで15個、ミッションコンプリートって事になる。
傷物を素早く穴に埋めて、足早に森を後にする。でも俺はクルキュルを担いでいるし、ミーアちゃんもアリットの入った籠を背負っている。
おのずと歩く速度は遅くなるわけで、昨日お昼を食べた焚火跡に着いた時には、お昼を大分過ぎていた。
お昼は簡単に、お茶と干肉それに硬く焼き上げたビスケットのようなパンだった。
雑貨屋で手に入れた、この世界の携帯食料だが、とても硬い。
ミーアちゃんがボリボリ齧ってるところをみると、みんな歯が丈夫なんだろうなって思ってしまう。
食事が終わると、またクルキュルを担いで歩き出す。籠は姉貴が今度は担いでいるけど、俺の代わりに担いでくれる人はいなかった。
村に着いた時にはもう夕暮れ時、「ただいま!」って門番に挨拶したけど、俺の担いでいる獲物を見て吃驚していた。声も出ないくらいにね。
肉屋に行って、クルキュルを引き取って貰う。
姉貴は、少し肉を分けてくれって言ってたけど、肉屋さんは大きな肉の入った包みと蹴爪を渡してくれた。
そしてクルキュルの値段は、何と銀貨2枚と大きい銅貨5枚。250Lを渡してくれた。
「クルキュルは美味しいにゃ。そして羽根も防具の材料になるにゃ」
ミケランさんが、吃驚してお金を受け取った俺達に説明してくれた。
ギルドに行くと、昨日のお姉さんにカウンター越しに終了を報告する。
はい!ってアリットをカウンターに乗せると、ご苦労様って言いながらアリットを調べて90Lを渡してくれた。
「爪も出すにゃ!」
ミケランさんの指示で、ミーアちゃんはバックからクルキュルの蹴爪を出した。
「殺ったのですか?」
お姉さんは吃驚したみたいだ。
「運が良かったみたいです。ミケランさんもいましたし……」
「出来るなら2度としないでくださいね。クルキュル討伐は黒5つ以上でやっとなんですから」
そう言いながらも、はい!って銀貨1枚を渡してくれた。
さらに水晶玉を取出すと、カードの提示を求められた。
皆のカードを姉貴がまとめて出すと、一人づつ前と同じように水晶玉を握っていく。
「はい。カードをお返しします。ミズキさんとアキトくんは星が1個づつ増えましたよ。ミーアちゃんとミケランさんはそのままです」
「じゅあ、これで終わりにゃ。また一緒に出来るといいにゃ」
そう言って離れようとするミケランさんを慌てて姉貴が止めた。
「待って下さい。報酬の分配が未だですよ。……えーと、全部で440Lですから、ミケランさんの取り分は110Lでいいですね」
「それだと多すぎるにゃ。今までだって1割位だったにゃ」
「一緒にアリット採取したチームじゃないですか。山分けです」
そう言って姉貴はミケランさんに銀貨と銅貨大を1個づつ渡した。
「ありがとにゃ。また一緒に行こうにゃ」
ミケランさんが俺達に手を振ってギルドの階段を登っていく。確かに、今回に依頼はミケランさんがいなければ出来なかったに違いない。
でも、アリット採取をしなければ、危険な目にも逢わなかったような気がしないでもない。
「ところで、相談なんですけど……。文字の読み書きを教えて貰える所はありませんか?」
「チッチャイ子供相手ならあるんですが、ミズキさん達にはちょっと……。」
「そうですか」
姉貴も字が読めない事の重要性に改めて気付いたようだ。でも、教えて貰える処が無いとなると……、どうやって覚える?
お姉さんから2人のザックを受取り宿に戻ると、おばさんに怒られた。
曰く、「宿代を払って泊まらないとは何事だ!」ってことだ。確かに急に決めたからね。
機嫌を取るべく、これを皆で食べましょうって出したクルキュルの肉で一騒ぎ。
「こんなの10年早い!」って、それほどクルキュルは恐ろしい相手らしい。
それでも、その晩に1階の食堂でハンター達に振舞われた焼き鳥は美味かった。
その夜、姉貴と話合って、やはり文字が読めないことが問題だと意見が一致した。
「明日も、ガイドが雇えるわ。クルキュルで大分稼いだからね。其の時に依頼用紙で文字の読み方を教えて貰おうと思うの」
「いいんじゃない。明日もミケランさんだともっといいけど」
「そうね。いろいろ知ってるし、文字も読めるけど……最後に『にゃ。』って付けるのが可笑しくて……。」
「ミーアちゃんも『ね』が『にゃ』になるよ。猫族の特徴かもね。」
そんなことを話してると夜も更けてきた。
色々あったけど、ハンターって結構楽しいかも!