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第二話:状況分析

皆様のおかげで、12/15に発売された一巻が重版しました! 感謝!!

 複数の魔王にマルコのダンジョンが襲撃され、マルコが窮地に陥った。

 そんな状況でマルコは俺にけっして助けに来るなと伝えるためにサキュバスをよこしてきた。

 マルコを助けるために、マルコを襲撃した魔王と戦えば、旧い魔王に俺を攻撃する口実を与えてしまうからだ。

 それがわかっていながら、俺はマルコを助けると決めた。


「サキュバス。情報を教えてくれ。マルコを襲っている魔王は誰だ?」

わたくしがあなたにそれを話すとでも? マルコシアス様はあなたに動かないでいてほしいと思っています。マルコシアス様を助けに行くことに助力はしません」

「話してくれないならそれでいい。少しでも勝つ確率を上げるために情報は必要だったが、ないならないでいい。それでも動く」


 サキュバスは顔をしかめ、ぽつぽつと語り始めた。

 どうやら、何を言ってもマルコを助けにいくなら、少しでも俺が生き残る可能性を上げたいと考えてくれたようだ。


「マルコシアス様を襲っているのは、マルコシアス様の派閥のものばかりです。……裏で誰かが糸を引いているのは間違いありませんが、それが誰かはわかっていないですわ。本来、襲撃され、追い込まれれば、派閥のものを頼るのですが、その派閥のものからの襲撃ですので、打つ手が少ない」


 なんて厄介な。

 これでは、マルコは独力で戦うしかない。

 いかに最強の三柱の一角のマルコと言えども、この状況ではきつい。

 敵の策を崩すには、本来マルコが扱えない戦力が必要となる。

 ……俺のような。


「マルコの派閥には同格の【刻】と【竜】は含まれていない。その認識はあっているか?」

「あっていますわ。それどころか、最強の三柱には相互不可侵の約定があります。何があっても、【刻】と【竜】は動きません」

「状況はわかった。だが、俺が【刻】と【竜】に会いに行くのは変わらない」


 三人の間にわだかまりがあるのはわかっている。

 だが、それでも動かないと何も変わらない。


 俺一人で、この状況をひっくり返せると思えるほどうぬぼれていない。

 マルコを助けるつもりなら、アヴァロンの全戦力を残らずつぎ込む必要がある。全てだ。


 俺がずっと隠し続けていた”切り札”をも使う。

 今回は、温存なんて考えない。

 初めから使うつもりで行動する。だが、そうする以上、アヴァロンの守りが壊滅的になる。

 そこをどうにかしないと動けない。


 そのためにも、【刻】と【竜】の力がほしい。

 マルコを直接助けられないのなら、俺が全力でマルコを助けるための協力の確約をとる。

 それが最低目標だ。


「まずは手紙だな」


 いきなり押しかけてもいいが、まずはアポを取った方がいいだろう。

 俺は【風】の魔王ストラスからもらった青い鳥を呼び出す。

 そして、【刻】の魔王ダンタリアンからもらったカラスも。


 それぞれに手紙を持たせ、空に放つ。

【竜】にはストラスから取り次いでもらう。ストラスは【竜】の子だ。きっと、連絡はつくだろう。


「サキュバス、率直に教えてほしい。マルコはどれくらい持ちこたえられる」

「……今は、【誓約の魔物】を始めとした精鋭たちが善戦しておりますわ。何よりマルコシアス様は最強の魔王。保有戦力の桁が違いますわ。最低でも七日は」

「なら、五日と見ておこう。初手から想定外のマルコの派閥を裏切らせるなんて手を打ってきたんだ。さらなる想定外なんてあってあたりまえだ」


 逆算すると、明日中にすべての交渉を終え、救援のための準備期間はたった一日。

 三日後にはマルコのところに全戦力を伴って向かう。


「まったく、無茶な日程だ」


 最悪、手紙の返事がなければ明日にはアポなしで【竜】と【刻】のダンジョンに押しかけよう。


 脳裏にストラスの顔がよぎった。

 彼女の【偏在】の力に頼りたい。

 あれは、一日に一度しか使えないが彼女と同一フロアにいる魔物を一定時間の間、一ランク下げて複製する正真正銘のチートだ。


 Sランクの魔物を有する俺の軍勢を【偏在】で増やせれば、大幅な戦力増となる。

 ……だが、それはできない。


 彼女まで、旧い魔王に狙われる状況を作るわけにはいかない。

 それは、完全に魔王ひとの道を外れる外道のすることだ。


「アウラ、サキュバスの治療を任せた」

「ご主人様は、どうなさるんですか?」

「俺には俺の準備がある」


 転移陣がない以上、足の確保が必要だ。

 そこから準備を始めよう。

 それと……。


「ロロノ、”あれ”をいつでも使える状態にしておいてくれ。”あれ”を外に出す。そのつもりで頼む」

「ん。わかった。”あれ”を使うのは怖い。あんな規格外、あんな殺戮兵器、存在してはいけない。だけど……楽しみ、錬金術師としての欲求を押さえられない。”あれ”を使うところを見たい」


 俺は苦笑する。

 ナパーム弾や、アヴァロンリッター、クイナたちの専用銃。数々の強力な武器を作り、その活躍を見て、一度たりとも怖いなんて感想を抱くことがなかったロロノが心の底から怯えている。


 俺もあんなもの使いたくなかった。だが、旧い魔王と相対する以上、一瞬でも躊躇すれば破滅する。だから、躊躇はしない。

 全力で挑まないと……いや、全力で挑んでなお届かない相手なのだから。


 ◇


 再び、ワイトのところに行く。

 ワイトには暗黒竜たちの世話を任せていた。足とは彼らのことだ。


 アヴァロンが持ち得る最速の交通手段だ。あれを使わない手はない。

 パン工場に再び戻ってきた。

 さきほど、出ていったばかりの俺を見てワイトは驚く。


「我が君、どうされました? 忘れ物でも」

「いや、違う。詳しい話は後でするが、明日、早ければ今日にでも、俺はクイナと共に【竜】の魔王との謁見を行う。おまえにも来てほしい。おまえに使った【竜】のメダルは、【竜】の魔王からもらったものだ。彼におまえを見せてやりたい」


 俺は、謁見をするならまずは、【竜】の魔王と決めていた。

【刻】はマルコに惚れているが、それ故に俺のことを敵視する可能性がある。


 まずは、温厚でなおかつマルコと友好的な関係を築いている【竜】の魔王への協力を取り付けることを優先したい。


 お供は二人。一人は俺の護衛を普段から行っているクイナ。

 そして、ワイトだ。

 これには二つの理由がある。

【竜】を使ったワイトを見せることで、相手に親しみを感じてもらいたい。自分と同じ属性の魔物を従えて見せれば親近感が多少はわく。


 もう一つ理由がある。

 単純にワイトが最強の個体だからだ。

 万が一、すでにマルコを襲った敵の手がすでに伸びていた場合に、敵陣を突破するのに必要だ。

【狂気化】の力が合わさったワイトの瞬間的な力を止めれる魔物はこの世に存在しない。


「かしこまりました」

「ありがとう。問題はワイトと俺がいない間のここの守りだが……」


 とはいえ、リスクはある。

 ワイトはもともと、アヴァロンの参謀だ。俺の不在時に指揮をとる。俺と彼が同時に離れるのは防衛力の激減を意味する。


「それでしたら心配ありませんよ。私には優秀な副官がおります。彼女には、ポチもコロもタロウも十分になついていてよく言うことも聞きますし、安心してください」

「ポチ、コロ、タロウ? なんだ、そいつらは?」


 ポチ、コロ、タロウ? そんな魔物聞き覚えがないぞ。


「申し訳ございません。暗黒竜グラフロスたちです。彼らの指揮をするのに名前がないと不便で、愛称をつけました」


 俺は一瞬むせる。

 仮にも、恐怖の象徴、暗黒竜グラフロスに犬のような名前をつけるとは。


 まあ、最強の竜の一体である黒死竜ジークヴルムであるワイトからすれば犬のようなものだろう。


「なら、安心だ。出発時間が決まったら追って連絡する。ワイト、それまでに防衛の指揮系統を引き継いでおけ」

「はっ、我が君。迅速に行動します」

「ワイト、トラブルばかりで申し訳ない。また、俺が魔力を失うわけにはいかなくなった。名前を付けるのが遅れそうだ」


【誓約の魔物】以外への名づけは、魔王の全魔力を奪う上に後遺症で半月ほど魔力が回復しない。

 現状で、それは致命傷になりえる。

 ワイトのために最高の名前も考えているのに……。


「いえ、我が君。この身は不死。いつまでも待ち続けますよ」

「そう言ってもらえると気が楽になる」


 さて、これで準備は済んだ。

 あとは手紙が戻ってくるのを待つだけ。

 今日中に手紙が返ってこなければ、非礼な行動になるが押しかける。

【風】の魔王ストラスに遊びに来てくれと頼まれていたがずっと後回しになっていた。

 彼女は、暗黒竜で乗り込んできたら驚いてくれるだろうか?

 そんなことを考えるとこんな状況なのに微笑みが漏れた。

さて、五章ではプロケルさんがずっと隠し続けてきた切り札が実際に使われます。お楽しみに! 


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