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プロローグ:戦争で得たもの

魔王様第一巻。12/15から大絶賛発売中!

 俺の街であるアヴァロンは隣街から戦争を仕掛けられた。

 敵が用意したのは三千を超える兵。しかも三十人の英雄クラスの冒険者までいる過剰戦力。

 アヴァロンの魔物は百体にも満たない。あまりにも大きな戦力差。

 だが、その絶望的な状況の中、俺の魔物たちは全力を尽くし、打ち破ってくれた。

 アヴァロンでは、勝利を祝う祝勝会を開催し、それは朝まで続く。

 俺はクイナたちと共に一足先に祝勝会から抜け出し、祭りの賑やかで幸せな音を子守歌にして安らかな眠りについた。


 ◇


 目が覚める。

 頭を悩ませていた隣街からの侵略がひと段落ついたこともあって、ひさびさのすっきりとしたいい目覚めだ。


「むにゃ、おとーさん」

「マスター、オリハルコン、足りない」

「むふふ、クイナちゃんとロロノちゃんの寝顔は最高です。起きないといたずらしちゃいますよ」


 気持ちよさそうに寝言を言いながら俺の腕に抱き着いている天狐のクイナとエルダー・ドワーフのロロノ。


 そして、すでに起きて二人の寝顔を楽しんでいるエンシェント・エルフのアウラ。

 俺の大事な【誓約の魔物】にして、愛しい娘たち。


「あっ、ご主人様。おはようございます」

「アウラは起きるのが早いな」

「そろそろ、果樹園の世話に出発しないといけない時間ですので」


 体を起こすとアウラが挨拶してきた。

 俺の魔物の中では、見た目の年齢がかなり上のほうだ。

 十代半ばぐらいで、発育が非常にいい。

 彼女は、他の街から仕入れた黒のネグリジェを気に入ってパジャマにしており、エロい。

 娘に発情することはないが目のやり場に困る。


 そういうことを抜きにすれば、金髪、翡翠眼のアウラに黒のネグリジェはよく似合っていた。


「おはよーなの、おとーさん!」


 天狐のクイナが俺たちの会話をきっかけにして起き上がる。

 キツネ耳とキツネ尻尾がピンとたって、朝から元気十分だ。

 クイナもパジャマを新調している。彼女のお気に入りはペンギンの着ぐるみのようなパジャマだ。


 十代前半の可愛らしい魅力あふれる無邪気なクイナにはよく似合うのだが、キツネがペンギンを着込むのはどうだろうか?


「おとーさん、どうしたの?」

「今日もクイナは可愛いなって」

「やー♪ おとーさん、大好きなの」


 クイナががばっと抱き着いてきて頬を俺の胸板に押し付けキツネ尻尾を振る。

 うん、可愛ければなんでもいいな。


「クイナ、朝からうるさい」


 ロロノもこの騒ぎで起きてきた。

 彼女の場合は機能性重視。柔らかい素材の通気性のいいパジャマ。

 非常に彼女らしいチョイスだ。とはいえ、妖精のような華奢な肢体の魅力を存分に引き出している。

 ぺったんこはぺったんこでいい。


「マスター、そんなにじっと見られたら照れる」


 ロロノが顔をほんのり赤く染める。

 彼女は照れ屋だ。


「ごめん、ロロノの新しいパジャマがよく似合っているから可愛くてね」

「……ありがとう」


 ロロノは恥ずかしさが上限に達して顔を伏せる。こういう仕草を見せてくれるからついからかいたくなる。


「おとーさん、そういえば、まだ約束守ってもらってない」

「約束?」

「むう、クイナと約束したの! おとーさんの翼、触らせてくれるって」

「そういえば、そうだったな」


 戦争のさなか、極限まで絶望に染まった数千人の魂を一度に喰らったことで俺の力は爆発的に高まった。

 そして、翼が生えたのだ。

 漆黒の翼。悪魔のような被膜に覆われた禍々しい翼だ。


 ちなみに、今は消えている。

 邪魔だと思ったら消えた。力がなくなったわけじゃない。体の中に凄まじい力が渦巻いているのを感じる。


「おとーさん。今、触らせて!」

「マスター、私も興味がある」

「私もです!」


 三人の娘たちが目を輝かせて俺のほうを見ている。

 仕方ない。


「わかった。好きに触ればいいよ」


 なんとなく、翼の出し方はわかる。

 背中に力を籠める。

 俺の中に閉じ込められた力が暴れ出し、背中に向かう。

 熱い、火傷しそうなぐらいに。気持ちが高まる。まるで戦場に向かうような高揚。

 そして……。


「うわぁぁぁぁ、かっこいいの」

「マスターの大きくて立派」

「よくお似合いです。ご主人様」


 巨大な翼が生える。

 その、瞬間。心臓が高まる。

 力が増大する。

 気持ちが黒く染まっていく。

 何かに突き動かされるように愛しい娘たちを見る。

 食べたい。

 めちゃくちゃにしたい。

 この子たちはどんな声で泣くだろう。

 欲望が高まる。


「おとーさん、顔が怖い」

「……ちょっとね」


 おかしい。この子たちは娘だ。娘に劣情を催すなんてことは今までなかった。

 この翼の影響か。

 俺は必死に気持ちを落ち着ける。


「ご主人様の、力、魔力量。かなり跳ね上がってますね。私たちでも一対一じゃ、勝てるかわからないです」

「ん。武器なしじゃ無理。すごい力。安心した。マスターが強くなると殺されにくい」


 アウラとロロノは冷静に俺の変化を見て分析する。


「触るなら、はやくしてくれ。ちょっと、この姿はしんどい」


 自分が何をするかわからない。

 これは危険だ。


「なるほど、ご主人様のその姿は、力を得る代償に苦痛が伴うものなんですね」


 俺はアウラの問いに微笑みを返す。

 彼女の言い分は間違っている。苦痛どころか、むしろ気持ちがいい。ただ、欲望と闘争心、嗜虐心。

 そういった負の感情が高まっているだけだ。

 俺の中の腐って黒い部分が表に出たいと暴れ狂っている。


「うわぁ、固いの」

「すごく力強い。かっこいい」

「はい、たくましくてうっとりしますね」


 クイナたちはペタペタと俺の悪魔の翼を触る。


「はい、おしまい。もう限界だ。これ以上はきつい」


 これ以上自分を押さえておく自信がない。

 一番怖いのが、この姿でいるのが快感であること。たぶん、一度その快感に負けて、これを俺だと認めた瞬間二度と戻れない。

 そんなのは嫌だ。そんな俺は、俺じゃない。

 自分がなくなるのが怖い。


「もういいの! ありがとう。おとーさん」

「堪能した」

「私もです。また、触りたいですが、ご主人様が苦しいなら、もういいです」


 俺は精一杯の努力で自らの劣情を抑え込み翼を消す。

 その瞬間、限界まで高まった醜い気持ちが消えていく。

 大丈夫だ。ちゃんと俺はこの子たちを娘として愛している。

 まったく、なんて物騒な力だ。


「みんな、翼を生やしてわかったことがある。まず、翼を生やすと俺自身の戦闘力と魔力が跳ね上がる」


 これは間違いない。

 通常状態の俺は、クイナたちSランクの【誓約の魔物】とつながっていることによって、彼女たちに匹敵する力を持っている。魔王の力は【誓約の魔物】の力に比例する。

 元より、俺は破格の力を持っている。しかし、翼を生やした瞬間、クイナたちすら上回る。

 それはSランクを超えた先の力。


「おとーさん、すごいの」

「まだある。【創造】の先の力を手に入れた。翼が生えている状態なら、それが使える」


 記憶にある物質の具現化。それが【創造】。

 その延長戦上にある力を手に入れた。


「マスター、すごい。どんな力?」

「それはわからない。ただ、俺の中にそれが芽生えたことだけがわかった。使ってみて初めてわかるだろう……だけど、怖いんだ。使った瞬間、もう後戻りができない。そんな確信がある」


 俺の本能すべてが警鐘を鳴らしている。

 触れてはいけない【禁忌】そのもの。それが【創造】の先にあるものだと。

 それに、その力を使うことは新たな俺を認め受け入れることになる。そうなれば、今の俺は終わる。


「それなら使わないほうがいいですね。ご主人様は、いえ、ご主人様のアヴァロンはそんなものがなくても最強です! 危ないものは避けましょう」


 アウラの言葉に頷く。

 今までだって【創造】。そして、頼りになる魔物たちの力でやってきた。

 こんな、爆弾のような力に頼るべきじゃない。


「期待させて悪いが、俺はよほどの事態にならなければ翼を使わないことに決めた」


 三人の娘たちが頷く。

 俺が一番恐れていることは彼女たちを傷つけることだ。

 この力は最後の切り札にしよう。


「おとーさん、そんな申し訳なさそうな顔をしないでいいの! クイナたちは強いから大丈夫なの」

「今回の戦争でレベルがすごくあがった」

「ええ、もう無敵ですよ」


 娘たちはそれぞれに、頼もしい言葉をくれた。

 実は今回の戦争ではそれぞれにパーティを組んでいた。最大十人までパーティを組め経験値を均等に配分できる。


 一組目のパーティは、暗黒竜グラフロス五体とクイナ。

 二組目のパーティは、暗黒竜グラフロス五体とワイト。

 三組目のパーティは、アウラとルルイエ・ディーバ。

 四組目の厳密にはパーティではない。ロロノはアヴァロンリッターを支配しており、アヴァロンリッターの経験値はすべてロロノに提供されている。


 つまり、暗黒竜たちの爆撃の経験値はすべてクイナとワイトが。

 英雄クラスの冒険者の経験値はアウラとルルイエ・ディーヴァが。

 そして、後方の魔術師部隊をアヴァロン・リッターが虐殺した経験値はすべてロロノが得ている。


【紅蓮窟】のレベル上げでは、高レベルになったクイナたちは、ほとんどレベルが上がらなくなっていたが、今回の戦争では一気に彼女たちのレベルを上げることができた。


 今のクイナたちなら変動レベルで生み出したAランクの魔物ですら、一対一なら歯牙にもかけないだろう。


「頼りにしているよ。おまえたち」


 三人が頷き、任せておけと口々に言った。

 本当に頼りになる子たちだ。


「そろそろ、ベッドを出よう。朝食を済ませて仕事だ」

「おとーさん、楽しそうなの」

「今回の戦争では、たくさんのものを得た。隣街に関税をかけさせない不平等条約。膨大な量の経験値によるクイナたちの力の増大。そして、人間の実力者の死体だ」


 朝食後、もう一つの戦利品を見にワイトに会いに行く。

 Sランクの死を司る漆黒の竜。黒死竜ジーク・ヴルムとなったワイトには強力な能力、【強化蘇生】がある。

 生前よりも実力を増して蘇生させ、なおかつ支配下に置く最強の蘇生スキル。


 彼の力で、アヴァロンは通常ならなかなか手に入らないAランクの魔物が大量に手に入るだろう。

 なにせ、Aランクとは本来Aランクメダルを二枚使わないと手に入らない、最上位の魔王でも入手が難しい存在だ。


 英雄クラスの人間の柔軟性と多様性をもったアンデッド。今から実物を見るのが楽しみだ。


そして、魔王様、第一巻は12/15に発売されました! もう、みんな買ってくれたかな? 購入報告とか、アマゾンのレビューとかくれた人もいるけど、すごく嬉しかったよ! 活動報告に書店さんの特設コーナーの写真とかを載せたので興味があれば見てください。それでは!

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