プロローグ:戦争開始
今日から三章開始です! はじめからクライマックス
いよいよ戦争が始まる。
勝てば、倒した魔王のオリジナルメダルが永続的に生産できるようになり、さらに新たな魔王に課せられたノルマが達成でき、ダンジョン作りに専念できるようになる。
だが、負けてしまえば俺のダンジョン……アヴァロンという街は消滅し、大事な魔物たちも消え去る。
創造主の温情により、一年後にまたダンジョンが作れるようにはなるが、魔物たちは戻ってこない。
新たに作ることができても、それはクイナたちじゃない。別の誰かだ。
戦争のために今まで準備を進めてきた。
俺の魔物たちは全員、配置につきそれぞれの装備を手にとり準備が万端だ。
そして、太陽が昇った。
その瞬間だった。全身が魔力に包まれる。
転移の前兆。こんな芸当ができるのは、創造主だけだろう。
俺の意識は落ちていった。
◇
目を覚ますとどこまでも白い空間に居た。
あたりを見回すと、背後に俺の街アヴァロンがあり、前方には三つのダンジョンがある。
左から、洒落た城塞。怪しい雰囲気を漂わせる塔、潮の香りがする鍾乳洞のダンジョンだ。
間違いなく、今回戦うことになる三人の魔王のものだろう。
前回と同じルールだと、白い部屋での妨害・戦闘はご法度。
ここから相手のダンジョンに侵入して、相手の水晶を壊していくはずだ。
「来たか」
数十秒後、三人の魔王たちが俺と同じように三人の魔王が転移してきた。
人間にしか見えないジャケットを羽織った優男、【鋼】の魔王ザガン。
二足歩行のカエルのような醜い巨体の男、【粘】の魔王ロノウェ。
悪魔の角と翼を持った陰湿そうな男、【邪】の魔王モラクス。
彼らを代表してか、【鋼】の魔王ザガンが俺のほうに歩いてきて口を開く。
「今日という日が来るのをを待ちわびていたよ。僕の提案を断ったことを後悔しながら、全てを奪われる絶望に打ちひしがれろ」
【鋼】の魔王ザガンは勝てて当たり前とでも思っているようだ。
それも無理はない。
何せ三対一という優位性。
それに二四時間という時間制限がある上、制限時間がきたら水晶の残数で勝敗が決まる。
ザガンたちは守りに徹して水晶を砕かれなかれば勝ち。
それに対して俺はただでさえ、圧倒的に劣る戦力を攻撃と守りに振り分ける必要がある。それも、守りをがちがちに固めている相手に。
さらに言えば、こちらが攻めた瞬間に守りが薄くなっていることがばれ、攻めていないダンジョンの魔王が全力で攻めてくるという状況。
だからこそ、二つのダンジョンを、圧倒的な速度で同時攻略という手を打つ。戦力を分散させる愚策に見えるが、攻めであれば少数精鋭でも可能だ。そのうえ、二人の魔王の攻めを緩ませることができる。
天狐であるクイナ、エルダー・ドワーフであるロロノ、エンシェント・エルフ。三体のSランクの魔物を持っている俺だからこそできる戦術だ。
「なぜ、後悔するんだ? この戦いが終わるころには【戦争】のノルマを果たした上に、三つのメダルを手に入る。今から笑いが止まらんよ」
意図的に傲慢に、余裕そうに振る舞う。
「くっ、強がりを。僕たちが負けるなんてありえない。おまえの戦術もその弱点も知ってる。調子に乗って、余興で手の内を晒した間抜けめ!」
この一言で確信した。頭がいいように振る舞ってはいるが、こいつは馬鹿だ。
「ほう、それはすごい。だが、相手の弱点を見抜いて対策していることを、ぺらぺらと話すなんてどうかしてると思うがね」
俺の一言で、ザガンは顔を真っ赤にした。
少しでも冷静さを欠いてくれればいいと思ったがここまで効果があるとは。
とはいえ、相手が馬鹿でも純粋な戦力差は厄介だ。気を付けていかないと。
対策があることを自慢げに話してはいるが、そのことを俺が織り込み済じゃないとでも考えているのだろうか。
当然のように、対策の対策ぐらい用意している。
◇
『星の子たちよ。記念すべき最初の【戦争】だ。【創造】と【鋼】【粘】【邪】の戦いだ。長く戦争を見届けてきたが、初戦から一対三に挑む魔王なんて初めてだよ。ふふふ、面白い。楽しみだ。戦争は一時間後に開始される。最後の準備を進めるがいい』
創造主の声が頭に響き、一時間後に戦争が始まると告げられた。
想像していた通りルールは前回と大して変わらない。
敵対する三人の魔王はそそくさと自らのダンジョンに引きこもっていった。
魔王の命が失われれば、その時点で敗北となり戦争に参加できなくなる。
魔王が安全圏に引き込まるのは、セオリーだ。
俺も戦力に余裕があればそうしたい。だが、俺には俺という戦力を遊ばせている余裕がない。
魔王というのは、【誓約の魔物】たちの力を受けて能力が強化される。天狐のクイナ、エルダー・ドワーフのロロノというSランク魔物二体に名前を与えた俺は、Sランクの魔物の平均値程度の力を持っており、さらに彼女たちの能力の一端を特殊能力として使えるようになっていた。
さらに、魔王には【収納】という能力がある。異次元に一〇体までの魔物を閉じ込めて持ち運べる。
足が遅いが強力な魔物を、敵の本陣で解放するなんて芸当もできる。
だからこそ、俺は自らが敵魔王のダンジョン攻略に乗り出すのだ。
とはいえ、一度水晶の部屋に戻らないといけない。
大事な仕事が残っている。
◇
水晶の部屋に魔王顕現で転移すると、【風】の魔王ストラスが水晶によって投影されたダンジョン内の様子を眺めていた。
「もうすぐ、始まるのね。ここには最後の仕上げに来たのかしら?」
彼女は最後の保険として水晶の部屋に待機してもらっている。
いよいよ、この部屋に攻めこまれるというときになると、防衛のために戦ってもらう予定だ。
たった一人だが、彼女の能力で一軍にも匹敵する戦力になる。
「ああ、そうだな。今から最後の仕上げだ。せっかく作った街を守らないと」
俺のダンジョンは地上部が街として機能し、地下一階が侵入者撃退のための機能を付与している。
このまま戦争が始まればせっかく作り上げた街が蹂躙されてしまうだろう。
「【我は綴る】」
力ある言葉をつぶやき、本を取り出す。
そして、【階層入替】を使用し、地上部と地下一階が入れ替わる。
さらに、外観設定を一番安いスタンダードな洞窟型に変更した。
白い部屋にある俺のダンジョンは、緑豊かな街からなんの変哲もない洞窟になった。
これで街は守られる。
もっとも……もともと地下一階だった階層が突破されれば蹂躙されてしまうが。
「本当に、人間たちは消えたんだな」
「そうね。話には聞いていたけど、驚いたわ」
事前に説明されたとおり、街から人間と彼らが育てていた家畜や、野生の動物たちは消えていた。
魔王と魔物以外の生き物は戦争の開始と同時にどこかに転送され、時が止まった状態になるらしい。
さらに言えば、この白い部屋も時の流れが通常の世界よりずっと早い。この世界で一日過ごしても、元の世界では一〇秒ぐらいしか経っていない。人間からすれば戦争があったことすらわからない。
街の運営をしている俺にとっては非常に助かる仕様だ。
階層入替が終わったので、あとはダンジョンの攻略部隊の移動だ。
あらかじめ、攻略部隊を外に出しておかないと戦争が始まり、相手に攻め込まれた際に、魔物を外に出せなくなる。
なにせ、入り口を敵の魔物に固められるとそれだけで、俺の魔物たちは外に出られなくなるのだ。
かと言って早い段階から魔物を外に出すと攻撃部隊の規模が相手にばれてしまう。
その問題を解決するために、魔物たちはダンジョンの入り口、すぐに外に出れる位置に移動させることにした。
【戦争】開始と同時に飛び出る。
これなら、ぎりぎりまで情報を隠せる。
「白い部屋には転移陣が作れないのは痛いな」
「そうだったの? それはいい情報を聞けたわ」
ダンジョンの外に転移する場合は、【転移】の能力を持つ魔物でも、陣から陣の転移しかできない。
白い部屋に【陣】があれば、攻め込まれても魔物を自由に外に出せるし、攻めてきた敵の魔物を挟み撃ちにもできると思ったが、そこまで甘くなかった。
「敵のダンジョンに入り込みさえすれば、転移陣を用意できるだろうし、【転移】は有効に使うさ」
【刻】の魔王にもらったカラスの魔物が【転移】の能力をもっている。
こいつには俺に同行してもらう。
すでに、俺のダンジョンに転移陣は用意してあった。敵の水晶を砕けば速やかに【転移】で戻ってくるつもりだ。
「これで最後の仕上げはできた。ストラス、行ってくるよ」
「ご武運を。私はここであなたのダンジョンの防衛戦を見て、徹底的にあなたの戦術を丸裸にしてあげるから」
【風】の魔王ストラスがいたずらっぽい笑みを作った。
打算があるのは本当だが、必要以上に俺に恩を着せないための配慮だろう。
「そうしてくれ。だがな、俺のダンジョンはすごい勢いで成長するぞ。今の俺のダンジョンを知ったところで意味はない」
彼女は一瞬目を丸くして笑った。
そして俺は転移を行った。