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第二十話:宣戦布告

 今日の【紅蓮窟】での狩りを終え、俺たちの街アヴァロンに戻ろうとしていた。

 新しい武器を思う存分振るったクイナとエンシェント・エルフは大活躍して満足そうだ。


 そして、彼女たちが全力で戦っても故障を起こさなった銃の信頼性はさすがと言ったところか。武器においては信頼性はもっとも重要な要素だ。どれだけ強力でもいざというときに使えなければ意味がない。

 確実に戦力が一回り増した。


「マスター、私、もっと頑張る」


 帰り道、エルダー・ドワーフ。いや、ロロノがぴったりと俺にくっついて歩いている。

 呼び方が父さんからマスターに戻った。彼女がたまに父さんと呼ばせてと言ったように特別ときだけ父さんと呼ぶつもりなのだろう。


 いつもはクイナが対抗意識を燃やして割り込んでくるが、今日はおとなしく、にやにやして俺たちを見ている。

 自分がお姉さんという自覚があり、妹に花を持たせてやってるつもりだろう。


「期待している。ロロノ」

「ん」


 ロロノと呼んだ瞬間、ロロノは満面の笑みを浮かべた。


 俺は二歩ほど後ろを歩いているエンシェント・エルフを見る。

 彼女はにこにこと笑っていた。


 彼女も頑張ってくれているから名前を与えてやりたい。

 だけど、ちょっと言い出せるタイミングじゃない。

 そんなことを考えていると、彼女が口を開いた。


「ご主人様、気づかいは無用ですよ。私はまだ名前をもらうだけの働きをしていませんから」


 まったく俺の魔物たちは意地っ張りだ。

 個人的には、十分すぎるほど働いてくれると思っているのだが……。


「わかった。エンシェント・エルフは”しばらく”お預けだ」


 だから、名前を与えるつもりがあることだけを伝えて置こう。

 これなら、素直に受け取ってくれるだろう。


「ええ、楽しみにしています。私もご主人様に名を与えられるのにふさわしい働きをして見せますよ」


 この調子なら、俺が名前を与える日はそう遠くない。

 既に彼女にふさわしい名前は考えている。


 ◇


 転移陣で俺たちの家に戻ってきた。


「マスター、私は仕事があるからまた後で」

「私も、リンゴの木の増産が。ちょっと今の売れ行きだとリンゴの木が足りないです」


 エルダー・ドワーフ……ロロノとエンシェント・エルフはそそくさと自分の持ち場に戻る。

 そういえば、そろそろ前にメダルを作ってからひと月たち、【創造】のメダルが作れるようになる。


 いい加減、どんな魔物を生み出すか決めないと。

 街の内政要員は間に合っているので、純粋に強力な魔物が欲しいところだ。


 俺とクイナは、街の運営方針についてクルトルード商会のものたちから届いた提案書を読む。


「おとーさん、なんか怖い顔をしている」

「いや、人間はすぐに欲を出すなと思ってね」


 あまりに俺が甘くしすぎたのか、どんどん提案書の中身が調子に乗ってきている。

 自分たちが街の支配者とでも勘違いしているのだろうか?


 俺の想定では、そのうちに商会は、国にこの街の詳細を話し、接収の手引きをする。大量の兵士、冒険者と結託し俺と、俺の魔物たちを全て追い出し、この街を我が物にしようとするだろう。

 それぐらいはいつかするだろうと見込んでいる。

 まあ、そうなったら自分たちの愚かさを嫌と言うほど知る羽目になるのだろうが。


 人間の国が俺の街を攻めると決断し、予算を集め、人を集め、作戦を立案し、訓練し、行動に移す。それまでに少なくとも半年はかかると予測している。それだけあれば、十二分に戦力が集まるだろうし、策もある。


「適当に釘を刺しておかないとね。まったく、礼節と程度をわきまえているうちは、みんな幸せになれるのにね」


 まあ、いい。そうなるにしてもまだまだ先だ。

 俺は書類に×印をつける。


「あっ、おとーさん。この手紙、魔力を感じる」


 書類の束には俺当ての手紙も含まれている。

 最近、エクラバをはじめとした周囲の街から、リンゴの苗木や、ドワーフ製の武器を輸出して欲しいという嘆願書が届くようになった。他にもゴーレムを売って欲しいという客も多い。


 それらは全て丁重に断っている。

 直接大量に仕入れにくる業者もいるので今は剣なんてお一人様一本という制限まで設けてあった。

 頭のいい妖狐たちに顔を覚えさせているので、一度売った客には二度と売らないようにして転売でもうけを出にくくしてある。転売目的で来る客も、一人一本で予約制なら結果的にこの街に居座ることになるので美味しいのだ。


「どうやら、同類からの手紙のようだ。俺と話をしたいらしい」


 人間の用意した通信網を利用して魔王が手紙を送るなんてなかなか面白い。

 中身を見る。


 内容は一度直接話をしたい。その気があるなら指定日にエクラバの街にあるカフェに来てくれないかと言うものだ。

 まどろっこしいが仕方ない。


 なにせ、俺たち新たな魔王たちは原則、【戦争】以外でお互い及びその配下を傷付けることができない。


 その例外として、自らのダンジョンに忍び込んだものには正当防衛で攻撃していいというものがある。

 ようするに、うかうかと敵のダンジョンに乗り込もうものなら、一方的に攻撃を受ける。

 平和的に話をしたいなら、お互いのダンジョンの外が好ましい。


「おとーさん、どうするの?」

「行ってみるよ」

「危険なの。その場で宣戦布告されるかも」


 一度宣戦布告されてしまえば、【戦争】を拒否することはできない。

 宣戦布告は魔王同士が向かい合わないといけないルールがあるので、自らのダンジョンに引きこもっていれば、極論、他の魔王が宣戦布告しにきたとしても、敵の魔王が到達するまでに殺すことができる。

 さらに、宣戦布告されたとしても、相手が自らのダンジョンを出るまでに始末することで、【戦争】開始前に勝利するなんてことも可能だ。


「それはそれでいい。なにせ、宣戦布告をするのも、されるのも悪くないと思っている。一年以内の戦争は必須だ。安全に仕掛けられる機会を失うことはない」


 もちろん、こんな呼び出しをしているぐらいだ。

 相手もそれなりの準備をしているだろう。

 だが、俺が負けるとは思えない。俺は自分の配下たちを信頼している。


 それに、新たな魔王たちの中では一番DPを稼いでいるのは間違いない。

 正攻法でやれば、この短期間で出来立てほやほやのダンジョンが軌道に乗るとはとても思えない。


「わかったの。戦うことになるつもりで準備しておくの。いい必殺技を思いついたの!」


 若干、必殺技という響きに不安を覚えるが、クイナは戦闘ではふざけないから大丈夫だ。


「さて、いったいどんな話になるかな」


 街の運営のための事務処理を行いながら、見知らず魔王との接触に思いを馳せていた。

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