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第十二話:エルダー・ドワーフの商品開発

 街を作ってから六日が経った。

 明日から、本格的にこの街に人を呼び始める。


 俺は珍しく一人で、この街を見回っていた

 配下の魔物たちはそれぞれ最後の準備に大忙しだ。

 既に水路は街に張り巡らされ、井戸も設置されている。


 最終的に民家が五十軒ほど用意され、よく耕された農地も十分ある。ちなみに民家の材料については木材はエンシェント・エルフの魔術で生やした木を使い、石や金属は二フロア目の鉱山から用意してある。


「うん、いい景色だ」


 この街自慢のリンゴ畑がある小高い丘から農地を見まわたす。

 農地の一部には麦が実りいつでも収穫できる状態だ。エンシェント・エルフの力で成長を促進したものだ。

 これがあることで、移民候補の人間にこの土地は豊かな土地だとアピールできる。


 そして、街の至るところにゴーレムたちが設置されいていた。

 彼らはこの街を守る守護神で、二〇体ほど用意されている。異様な迫力がある。こいつらは街の治安を維持するためのゴーレムだ。

 ちなみにここに居るのはあくまで全体の一部に過ぎない。残りは、今も鉱山を掘り続けている。


 予測した通り、鉱山から銀や鉄はよく採掘できるが、金はたまにしか取れず、ミスリルはさらに少ないし、それ以上のレアな金属は採掘できない。

 エルダー・ドワーフたちが最適なポイントを決めてそれだ。

 魔王の力に比例して、いい鉱物がとれる以上、俺の力不足が原因だ。まだまだ精進しないといけない。


「それでも、自前で銀の鉱山をもっているというのは十分すぎるほどずるいんだけどな」


 銀貨は街で流通している。ようするに近くの山を掘っているだけで外貨が稼げる状態に俺の街はある。

 あくまでダンジョンの【鉱山】なので資源が枯渇することはありえない。

 調子に乗って銀の相場を崩さないように注意が必要だが、重要なこの街の産業の一つであることは間違いない。


 そして、この街は五つほど特殊な建物がある。

 一つ目は用意されている家の中でもひと際大きい街長宅。転移陣が用意されているほか、かなり大きな会議室もある。

 そして、俺の家でもある。

 この家では俺の他には、クイナ、エルダー・ドワーフ、エンシェント・エルフたちが生活している。快適に生活できるように【創造】で最高の家具をそろえた。


 他の魔物たちは、同じ種族ごとに家を与えている。

 例外はワイトを初めとしたアンデッド軍団。

 彼らには、ダンジョンとしての機能を持っている二階層目の二フロア目。そこに住処を用意してあった。

 アンデッドたちの力を活性化するフロアであり、数多の罠をしかけ、ひたすらワイトの率いるアンデッド軍団に有利な要素を詰め込んだ部屋だ。

 第一フロアのミスリルゴレーム+重機関銃がぶち抜かれたことを想定して作ったのでかなり凶悪なフロアになっている。


「さて、行こうか」


 俺はひとり呟き、特殊な建物である二つ目、エルダー・ドワーフの工房に向かっていた。


 ◇


「エルダー・ドワーフ。精が出るな」

「最近できなかった武器の改良を済ませたい」


 エルダー・ドワーフはPCの製図ソフトを開き、高速でキーボードを動かしていた。

 製図を見る限り、エンシェント・エルフの使っているアンチマテリアルライフルの改良案を考えているようだ。


「エンシェント・エルフの使っているパレット ML82A1は、改良の余地のないぐらい名機だと思っているが、どう改良するつもりだ?」

「確かにとてもいい銃。芸術的。だけど、ルフが使う場合だけは別」

「詳しく聞いていいか?」

「ん。パレットは弾丸の直進性をあげるために銃身がとても長い。ルフは風の仮想バレルで直進性をあげられるからばっさり切って大丈夫」


 ずいぶんと思い切った改造案だ。

 アンチマテリアルライフは直進性を増し命中率を上げるために銃身を長くしているが、そのせいでかなりの重量になるし、遠心力が発生して左右に振りにくい。長い銃身は邪魔にもなる。もともと、持って移動することを想定していない銃だから、本来なら気にならない欠点ではある。


「あと、反動を消すための機構も優秀だけど、その機構が複雑なせいで強度が下がってるし、故障率があがって、重量も増してる。そこを簡略化してデメリットをなくす。反動なんてルフは風のクッションを使って自分で相殺するから困らない……というよりもそれ以外の選択肢がない、複雑な機構を有したまま強度をあげるのは不可能。強力なミスリル弾を使うための苦渋の選択」

「確かに、ルフ以外にとってはただの劣化だな。真っすぐ飛ばなくして反動をきつくするんだから」

「その通り。でもルフにとっては長くて重い銃身がなくなって、遠心力に振り回されないし、重心も安定するから照準がつけやすくなって機動力もあがる。反動が強くなる分、故障率も下がって信頼性があがる……良いことばかり。素材をミスリル化して強度を上げつつ、軽量化も徹底的にするつもり。加えて装弾数の増加」


 徹底的な、合理主義でアンチマテリアルライフルの改造プランが出来てゆく。


「弾丸のほうも強化。ミスリルパウダーを使った特殊弾丸。威力は二倍近くなるはず。初速が増せば射程も増える。反動を軽減する機能を外したうえで、こんな化け物を使えるのはルフだけ」

「あの子は喜びそうだ」


 ハッピートリガーかつ。狙撃馬鹿。

 取り回しがよくなり、装弾数が増えて、射程が増して喜ばないはずがない。


「だいたいこんな改造プラン。最後に魔術付与エンチャントも今回はかけてみる。クイナの銃を作ったときはレベルが足りなかったけど、今の私ならすっごいのがつけれる」

「それは楽しみだ。もう一つ頼んでいたほうはどうだ?」

「ん。そっちはレシピを作って弟子に任せてある。順調」


 エルダー・ドワーフが立ち上がり工房の奥の部屋に案内してくれる。

 そこには炉がありガンガン燃えていた。

 エルダー・ドワーフが自ら設計した工房だ。

 工房ではドワーフ・スミスの二人が剣を鍛えている最中だった。

 彼女たちの背後には、数十本の剣が立てかけられていた。


「確かに順調だな」

「ん、あの店と同じぐらいの材料で一ランク性能が上の剣を作ってる。鉄をメインに少しだけミスリルを入れた」


 今のうちのストックだとミスリルは節約したい。

 かと言って、鉄の剣だと冒険者が使うには心もとない。

 その妥協の結果はこれだ。


 街で売っていたのと、思想は一緒だが、エルダー・ドワーフがレシピを作っただけあって、質は比べものにならない。ミスリルの使用をケチっただけの劣化じゃなく、意味のある合金として成立しているのだ。

 重さはどうにもならないが、切れ味や耐久力は全てミスリルを使ったものと変わらない。

 そんな剣がもう数十本作られていた。


「これだけあれば、商品には困らない。助かるよ」

「明日までにあと三十本は用意できる。この子たちは優秀」


 頼もしい言葉だ。

 武器部門はまったく問題ないだろう。

 壁に立てかけられている中にひと際異彩を放つものがあった。


「あれは」

「私が作ったお手本。正真正銘の全力。【獣】の魔王の鉱山でとれたオリハルコンとミスリルを中心にした合金。オリハルコンをけちったわけじゃない。手元にある材料で最高の合金にした。斬撃強化と耐久性上昇の魔術付与エンチャントもしている」


 手に取ってみる。

 刀身からただならぬ鬼気が感じられる。

 美しい白銀の刃。切ることに特化した魔剣。しかも信じられないぐらいに軽い。ランクSの魔物の全力だ。おそらく、人の手では一生届かない高みにあるだろう。

 この剣一本で、一生遊んで暮らせるだけの値段がつくのは間違いない。


「これを売り物にしていいか」

「いい。この子たちのお手本はまた作ればいいだけだし。でも、人間にこれを売っていいの? マスターの言葉を借りるなら強すぎる剣」


 確かに俺はかつて人間に強すぎる武器を渡すのは軋轢の元だと伝えた。

 しかし……。


「客寄せに使うだけだ。絶対に買い取れない値段をつけて置いておく。これほどの剣だと飾っておくだけで他の剣の売り上げがあがるよ」


 圧倒的な剣を作れる鍛冶師の店だと思われば、それだけで店の商品全ての価値が高まるのだ。


「理解した。それならいい。ただ、一つお願いがある」

「なんだ?」

「剣は、剣士に振るわれるのが本懐。もし、私が認める剣士が現れたとき、そのときだけ売ってあげて欲しい。たとえ相手が人間だっととしても、鍛冶師としてそれを望む」

「わかった。そのときは売ろう」


 それで話は終わりだ。

 これで俺の街の主力製品の一つであるドワーフ謹製の武器が揃う。


「あと、マスターに頼まれていたものが出来た。この仮面があればたぶん大丈夫」

「助かるよエルダー・ドワーフ」


 エルダー・ドワーフの作った特別な仮面を受け取り俺はその場を後にしすることにした。

 これは俺の大事な参謀に人間が来てからも気持ちよく働いてもらうための重要なアイテムだ。

 さて次は、クイナたちのほうに行こう。そこにはワイトも居るはずだ。


「じゃあ、俺は次へ行く。この調子で剣の準備頼むぞ」

「ん。あの、マスター、その、ちゃんと剣の準備が出来たら」

 

 エルダー・ドワーフがもじもじと何かを言い辛そうにしていた。

 考えていることはだいたいわかる。


「たくさん、褒めてあげるよ。だから、がんばってくれ。エルダー・ドワーフ」

「うん、がんばる」


 そうして、俺はエルダー・ドワーフの工房を後にした。

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