表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/223

第六話:【刻】の魔王ダンタリアン

 街を出た俺たちは【刻】の魔王ダンタリアンのダンジョンに向かった。

 街と彼のダンジョンの中間地点にダンジョンを設ける以上、筋を通さないといけない。敵対行為と思われる可能性がある。


 実は、マルコに事前に連絡を入れてもらっている。あくまで街づくりが目的であってダンジョンを訪れる客を奪うつもりはないということは伝わっているのだ。

 本当にマルコには頭があがらない。

 長い道のりを経て目的地についた。

 時間がかかるし、途中で何体かの魔物と遭遇した。自分で歩いて実感したが、絶対に中間地点に街はあったほうがいい。

【刻】の魔王ダンタリアンのダンジョンは、高い塔型だ。

 どこか不吉で威圧感を感じるダンジョン。


「人気ダンジョンだけあって、人の行き来が多いな」


 俺は呆けた顔で呟く。

 塔の入り口で何人もの人間が行き来していた。

 小規模だが露店も開かれている。食糧や薬を売っていたり、武具の簡易的な修復を行っている店が多い。


「クイナもびっくりした。でも、けが人がすごく多いの」


 キツネ耳美少女のクイナの言う通り、けが人も多い。魔物と戦う以上、それは避けられないだろう。

 それでも人間がダンジョンに挑むのは、それを上回る魅力があるからだ。


「マスター、挨拶しに行くのはわかったけど。どうするの? このダンジョン、最上階まで攻略する?」


 銀髪ツルペタ美少女のエルダー・ドワーフが当然の疑問を浮かべた。

 魔王はダンジョンの最奥の水晶の間にいるのが普通だ。


「たぶん、その必要はないと思うよ。事前に今日の夕方来ることは伝えているし、仮にも彼は最強の魔王の一人だ。何かの趣向はあるだろう」


 万が一、自力で最上階までとなったら地獄を見る。

 古い魔王のダンジョンは平然と百階以上の階層になる。


「全員、武器は持ったな」


 俺の問いにみんなが頷く。

 気合を入れてダンジョンに踏み出した。


 ◇


 ダンジョンに入るなり熱気に驚く。

 無数の魔物と人が戦っている。

 この魔物の数、どうやって用意しているのだろう? 俺の知らない魔物の増やし方があるのかもしれない。


 そんな中をすり抜け、前に進む。

 なるべく、魔物との戦闘は避けていた。

 あくまで俺は【刻】の魔王ダンタリアンに会いにきただけなのだから。いたずらに彼の魔物を屠って不興を買うのは避けたい。

 第一階の第一フロアを抜けた瞬間、なにか不思議な力を感じた。


 クイナたちのほうを見る。

 妙に動きが遅い。いや、動きじゃない。世界そのものが遅い。

 これはまさか?

 俺の意識がそこまでだった。


 ◇


 意識が戻る。

 少し頭痛がした。

 そんな俺に話しかけてくる者が居た。


「こうして会うのは二度目だね。僕は【刻】の魔王ダンタリアンだ。フェアじゃないからあらかじめ言っておこう。僕は君のことをよく知っている。マルコが君のことを話したがるんだ」


 紳士服をまとった長身の片眼鏡モノクルをかけた美青年が玉座で優雅に足を組みながら話しかけてきた。

 手にはワイングラス。

 俺はあたりを見回す。

 超一流の調度品に彩られた洋室だ。ダンタリアンのそばには水晶。

 おそらく、ここがダンタリアンのダンジョンの最奥だ。

 俺の魔物たちも側に居る。


「お招きいただき感謝します。突然体が動かなくなったのは、ダンタリアン様の力でしょうか?」

「その通りだよ。あまり転移は人間には見られたくないからね。君たちの時間を部屋ごと止めて、【転移】が使える僕の魔物に運んで来てもらった」


 俺は、この言葉で戦慄を感じていた。

 少なくともダンタリアンは、自分のダンジョンでは部屋単位で時間を止めれる。なおかつ、自由に動ける対象を選択できる。


 もし、これが【戦争】なら俺とクイナたちは皆殺しにされていて負けていた。


【刻】の力が強力であることは理解していたが、これほどとは。

 いや、まだそう結論づけるのは早い。


 わざわざ、一フロア目を抜けた後に、止められたということは、もしかしたら、何かしらの制限があるのでは?

 そして部屋ごとと言ったのは、一階層に設定できる三部屋のことではなく、あくまでフロア内の一部屋を指しているのかもしれない。


「なるほどね。マルコから聞いていたとおりの子だ。頭の回転が速くて警戒心が強い」

「それは褒めているんですか?」

「もちろん、そうではないと生き残れない。君には見込みがあるよ」


 恐ろしく上から目線だが仕方ない。

 実際に彼はおそろしく上に居る。


「では、本題に入らせていただきたいのですが」

「うむ、だがその前に聞かせて欲しいことがあるんだ。……マルコとはもう寝たのか?」


 一瞬呆けた顔をしてしまった。

 こいつはいったい何を言っているんだ?


「いいえ、ありえません。マルコとは親と子の関係。しいて言うなら友人です」

「なるほど、それは安心した」

「安心?」

「僕は彼女に、ずっと言い寄っているのだが、振られてばかりなんだ。手すら握らせてもらえない」


 ダンタリアンは、苦笑する。

 マルコの話を聞いて、少し動揺し、安堵した。


「少し驚きましたね」

「ふむ、その程度の反応か。まあいい。それで、君はエクラバと僕のダンジョンの間にダンジョンを作るんだろう? 魔物と宝を餌にした一般的なダンジョンではなくて、商売と農業で人を集める街を作りたいらしいね」

「そのつもりです。だからこそ、挨拶に参りました」

「うん、いいよ」

「そんなに、あっさり」

「まあ、若い魔王のダンジョンで僕のダンジョンは揺るがない。それにマルコの子だからね。とは言っても対価はもらおうか……君の背後の魔物、全員がSランクなんて面白い。僕は、百年前創造主からの報奨でSランクメダルをもらって、一体だけ作ったことがあるけど。君は、その若さでもう三体。実に興味深い」


 クイナ、エルダー・ドワーフ、エンシェントエルフを順番にダンタリアンは品定めでした。

 彼の眼なら正しく彼女たちの能力を見抜くだろう。


「対価というのはまさか」

「君の魔物を一体もらおう。どの魔物を渡すかは君が選んでいい。安心してくれ、その分の補填に【刻】のメダルをあげよう。【刻】は最高のメダルの一枚だ」


 クイナたちが心配そうに俺のほうを見る。

 この愛する娘たちから一人を差し出す? 

 そんなもの……。


「論外です。それが条件なら俺はここにダンジョンを作ることを諦めます」


 そう言い切った俺を、クイナたちが安堵の表情を浮かべる。

 特に怖がりなクイナはよほど不安だったのか、俺の手をぎゅっと握った。


 確かに、ここは最高の立地だ。この場にダンジョンを作れれば成功は約束されたようなものだろう。

 さらに言えば、【刻】の魔王ダンタリアンがマルコと同じ年に生まれた魔王であり、近いうちに消えてしまうという点も魅力的だ。彼が消えてからなら大手を振ってノーリスクで本来のダンジョン運営も開始できる。

 ここまで都合のいい条件が整った場所はほかにない。


 戦力のほうも、【刻】のメダルがあれば、あるいは彼女たちよりも強い魔物がつくれるかもしれない。

 だが、それは愛する娘を差し出す理由にはならない。

 俺は彼女たちの能力だけを愛しているわけではない。


「即答だね。一瞬も揺るがない。魔物に対する愛情、それも魔王の重要な資質だ。大事にしたまえ」


 気分良さそうに彼はワイングラスを傾ける。


「俺を試したんですか?」

「まあね。ただ、やはり対価は頂こう。君は私から恩恵を受ける。子でもない君に一方的に支援するのは抵抗があるんだ。だから、魔物ではなく、君の【創造】のメダルを条件にしよう。もちろん、こちらも【刻】のメダルを差し出す」


 俺の手元には一枚だけ【創造】のメダルが残っている。

 交換に応じることは可能だ。だが、この条件のまま交換には応じられない。


「それは、フェアな条件ですね。ただ、訂正を。俺が一方的に得をしているというのは間違いです。俺が作るのはダンジョンの要素よりも街の要素が強い。このダンジョンの近くに便利な街ができれば今まで以上に人間が来るはずです。エクラバからここまでは距離が長すぎて不便だ。それが解消できる」


 最終的には、客を奪うつもりということは伏せたが嘘は言っていない。これまで以上にダンタリアンのダンジョンは人気が出るだろう。


「そうかもしれない。だけど僕はこの条件を取り下げるつもりはないよ。新たな魔王への襲撃は禁止されている。ただしそれは実害がない限りという前提だ。喧嘩を売られたら買っていい。君の行動はそう思われても仕方ない範囲だよ。それを踏まえて返事をすればいい」


 ダンタリアンの言葉の真意は交渉を無視してダンジョンを作れば潰すということだ。

 彼には間違いなくそれができる。


「わかりました。なら、条件の追加を。【創造】のメダルは極めて強力かつ特殊です。たとえ【刻】と言えど割に合わない。オリジナルメダルをもう一枚。そして、【創造】のメダルについて一切の口外を禁じる。この条件なら了承しましょう」

「随分と大きく出たね。割に合わないなんて言われたのは初めてだよ。よくぞ、この僕相手に大口を叩いた!」

「俺のメダルは、あなたが今までたった一体しか用意できなかったSランクの魔物に至るメダルです。ダンジョンの開通の許可、【刻】、それにオリジナルのメダルを一枚でも十分釣り合うと思いますよ」


 これは客観的な評価だ。

 それほどまでに【創造】は有効だ。


「うん、一理あるね。僕も好奇心が押さえきれない。だけど、口外しないという条件はいいけど、僕のことを信じられるのかい?」

「ええ、あなたがマルコに嫌われるようなことをするとは思えないです。何かあると容赦なくチクりますよ」

「ははは、あはははは、確かにそうだね。うん、気に入った。マルコが君を気に入ったのもわかるよ。いいだろう。ダンジョンの設置を認める……そして、【刻】と【水】のメダルだ。これで君は、四大元素全てのメダルを手に入れたわけだ」


 そう言って、二つのメダルを投げ渡してきた。

 俺は返礼に、【創造】を投げ渡す。

【刻】と【水】、最強の魔王のメダルと、四大元素のメダルというだけあってどちらも強力。


 手元の【創造】が一枚もなくなり、合成は一か月先になるが強力な魔物が作れそうだ。


「これで、契約成立ですね。ダンタリアン様。私の街が出来たら遊びに来てください。歓迎しますよ」

「わかった。楽しみにしているよ。一応、だめもとでマルコをデートに誘ってみよう……一度も受けてくれたことはないがね。それと、またおいで、僕も君が気に入った。報酬つきのゲームを用意しておこう」


 そうして二人で笑いあう

 脳裏にマルコと同じタイミングで招待して鉢合わせになるところを見てみようと思ったが、やめた。

 胸がざわつく。

 理由はわからない。

 それはともかく、これでダンジョンの開通が決まった。

 さっそくダンジョンを開通しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!
こちらも自信作なので是非読んでください。↓をクリックでなろうのページへ飛びます
【世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する】
世界一の暗殺者が、暗殺貴族トウアハーデ家の長男に転生した。
前世の技術・経験・知識、暗殺貴族トウアハーデの秘術、魔法、そのすべてが相乗効果をうみ、彼は神すら殺す暗殺者へと成長していく。
優れた暗殺者は万に通じる。彼は普段は理想の領主として慕われ、裏では暗殺貴族として刃を振るうのだった。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ