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第四話:本気の怒り

 ようやく街についた。 

 少し離れたところに着陸しそこから徒歩で移動している。

 マルコの話ではこの街エクラバは、街を一周する巨大な城壁に囲まれた十万人以上が住む大都市で、三つの区画に分かれている。商業区、居住区、農業区だ。


 クイナは変化スキルによってキツネ耳と尻尾を隠し、エンシェントエルフはフードをかぶっている。

 もともと、エルダー・ドワーフと俺の見た目は人間と大して変わらないので変装は必要ない。

 こうすれば、あまり騒がれることはないだろう。


 ただ、珍しいだけでエルフやドワーフと言った種族は、一つの種族として魔物以外にもこの世界に根付いているので隠す意味はあまりなかったりする。


 魔王が作った魔物たちが子作りをして繁栄して、独自の生態系をもった結果らしい。

 水晶が壊れて消えるのは、直接生み出された魔物だけで、その子孫までは消えはしない。ドワーフたちが作るゴーレムも同様だ。


「おとーさん、すっごい行列なの」

「あれは、関税を取っているんだ。危ない人が入るのを防ぐのと同時に、お金を徴収しているんだ」

「並ぶのめんどうなの」


 確かに面倒だし時間もない。

 クイナとエンシェント・エルフに力を借りて楽をしよう。


「エンシェント・エルフ、俺たちを運べるか?」

「余裕ですよ、ついでに周囲に人がいないかも確認できます」

「わかった、次はクイナだ。幻術で俺たちの姿を見えないようにすることは可能か?」

「うん、できるの。でも見た目だけだから音とか匂いで気づかれるし、魔力は隠せないの」

「相手が普通の人間なら問題ないさ、頼む」

「わかったの!」


 そうして、俺たちはクイナの幻術で不可視になりエンシェント・エルフの風に乗って街の中に入った。


 ◇


「うわあ、たくさんの人がいるの」

「マスター、少し多すぎて気持ち悪い」


 人通りのないところで不可視化を解いた俺たちが入りこんだのは、商業区だ。

 美少女が三人もいるせいか、周りの視線が集まる。ただ、まだ少女であることと、露骨に俺にべったりしているせいか、声をかけてくる人間はいない。


 それにしても本当に人が多すぎる。

 この町の内外からたくさんの人が集まっていた。


 巨大なダンジョンから発掘されるお宝や魔石、そう言ったものを目当てに人が集まり、その集まった人たちが商品を持ち込む。

 そうすると、集まった商品を目当てにまた人が集まるという循環でどんどん商売の規模が増えていく。

 超一流のダンジョンの近くにはこういう街ができることが多いらしい。

 ちなみに、この街の八〇キロほど先にあるダンジョンは【刻】の魔王のダンジョンだ。


 【刻】の能力があれば、ダンジョンを繁栄させることは容易い。

 もっとも、本人いわく【戦争】のときの超大規模な巻き戻しは、創造主の支援があってとのことだ。


「ご主人様、この場にいる人間をぱーっと皆殺しにしたらたくさんDPが溜まりますよ。大丈夫です。ここで暴れても、全部【刻】の魔王のせいにできますよ♪」


 笑顔で、エンシェント・エルフが恐ろしいことを言う。

 効率だけのことを考えるとありと言えばありだ。

 だけどそれは。


「やめておこう。俺の主義に反するし、ばれて【刻】の魔王に目をつけられたら殺される。第一、ここの人たちは将来の俺の街の住民になるかもしれないしね」

「残念です」

「そもそも、おまえたちは人間をなんだと思っているんだ?」

「人間ですか? 家畜ですよね」


 エンシェント・エルフは首をかしげる。

 残りの二人を見るが、エンシェント・エルフの反応を不思議に思っていない。

 圧倒的な力を持つ魔物から見れば、間違ってはいないだろう。

 むしろ、人間に特別な感情を抱ている俺のほうがおかしいのかもしれない。


「家畜なら、殺して肉にする以外にもっと有効な利用法がある」

「さすがはご主人様です。家畜を徹底的に利用する方針ですね」


 無理に考えを変える必要はない。

 人間と触れ合ううちに、考え方も変わっていくだろう。


「もっとも俺はしないだけで、エンシェント・エルフが言ったように戦略的に人間の街を襲う魔王はそれなりに居るけどね」


 俺の言葉に今度はエルダー・ドワーフが食いついた。


「不思議。どうしてそんなことをする?」

「客寄せの一つの手法だよ。街一つを襲うとね、人間が大量に仕返しに来るんだ。それも強い人間がね。そいつらをダンジョン内で返り討ちにすれば、大量のDPが手に入る」


 マルコから聞いた話だ。

 大規模な襲撃を街に行えば、人間の軍が動く。

 強い人間ほど、得られるDPは多く。また、復讐や正義に燃えている人間の強い感情は随分と美味しいらしい。

 魔王たちの中では、巣穴を突くと呼ばれ、常套手段の一種。


 ただ、どうしても人間と共存する方法に比べて長期的に見れば人間のダンジョン離れを招き、損をする。しかも勇者クラスの人間を大量に招いてしまい殺されてしまう恐れがある。

 基本的には、短期間で大量のDPが欲しいときの最終手段らしい。


「おとーさん、面白そう。やってみるの!」

「いや、やらないから」


 クイナも割と血の気が多いところがある。

 気をつけよう。


 ◇


 商業地区を物価をチェックしながら歩く。品ぞろえや値段はいろいろなことの参考になる。

 そんな俺たちの進行方向を塞ぐようにガラの悪い男の三人組が現れた。

 軽装の鎧に、ボロボロの片手剣をぶら下げている。


「お嬢ちゃんたち、可愛いね。お兄ちゃんたちと美味しいもの食べに行こうよ。ダンジョンでお宝一発当てて、余裕があるからさ。たっかいもの食わせてやるよ」

「おいおい、一人を除いてまだガキだぜ。しかも男付き」

「これだけ上玉ならガキでもいけんだろ。男は、転がしときゃいいじゃん」


 下種な笑みを浮かべている。

 俺はある意味驚いていた。こんなお決まりの奴がいるなんて。


「連れに手を出すのはやめてもらおうか」

「ああ、女みたいな顔して、なにかっこつけてんの? 君、何? この子たちの友達? 俺たち、友達と遊ぶよりもいいこと教えてあげる優しいお兄さんなの。じゃましないでくれる?」

 

 女みたいな顔。

 その一言が微妙に俺の心を傷つける。気にしていることをずけずけと。

 俺の背中をちょんちょんっとクイナがつつく。


「おとーさん。おとーさんを馬鹿にしたあのゴミ、燃やしていい」

「今日は、殺人禁止。それと手を出すな」

「わかったの」


 クイナが残念そうに下を向く。

 気持ちはわかる。俺も殺したい。


「あの、俺は友達ではなく保護者だ。この子たちを守る責任があるので、引くつもりはない」

「あっそ、なら寝とけや」


 男の一人が拳を振りかぶる。

 俺は回避すらしない。

 拳が頬に突き刺さる。


「痛っつ。なんだ、こいつ、鉄でもぶん殴ったみたいに」


 男が自分の手を押えてうずくまる。まあ、俺を殴ればそうなる。

 男が顔をあげる。すると震えはじめた。残りの二人も急に震え始める。


「あっ、あっ、あっあ」

「ひっ」

「うっ、うわああああああああ」


 悲鳴をあげて三人の男が逃げ始めた。

 俺が何かをしたわけじゃない。


「おまえたち、よく我慢したな」


 クイナたちだ。

 俺が危害を加えられたことで、殺意を向けた。殺すことを俺に禁じられていたから、殺したいと思っただけ。

 ただ、それだけで男たちは死を覚悟する。

 余波で周囲の人間が失禁までしている。

 それがSランクの魔物の本気。


「おとーさん、次から手を出すなって命令はやめて。殴られても大丈夫ってわかってても、やっぱりいや。あのおっそい拳が届く前に、何十回も殺そうと思ったの」

「私も。マスター」

「ですね。ご主人様への無礼は許せません」


 娘たちの愛情がなかなか心地よい。

 仕方ない。次からはわざと殴られることはやめよう。


「心配させてごめん。この埋め合わせはちゃんとするよ」


 今日の仕事が終わったあと精一杯、みんなを楽しませると心に決めた。


 ◇


 相場は見終わったので次はある意味、今日のメインだ。


「ここから武具をメインに見てまわる。エルダー・ドワーフは特に注意して見てくれ。ここにある商品よりも優れた武具があれば売れる。一つの基準になる」

「わかった。でも、その必要はない。人間ごときに大したものが作れるとは思えない」

「たしかに、そうだね。ドワーフの上位種であるおまえの考えはわかる。だけどね、俺は基準と言ったんだ。あまり強すぎる武器を人間に与えてしまうのはよくない。売れ筋の商品より、ほんの少し優れたものを作るところが大事なんだ」


 極論を言えば、俺の街でアサルトライフルを大量生産して売り出したとする。

 それは、超人気商品になり人が押し寄せるだろう。だが、それは自分の首を絞めることになるし、他の魔王の恨みを盛大に買う事になるだろう。

 それどころか、行き過ぎた技術は人間の欲望を刺激する。

 技術を独占するために人間が、本当の意味での戦争を仕掛けてくる。

 何事もほどほどが一番なのだ。


「わかった。きっちり調べて、設計図を作って、あとは、あの子たちに製作を任せる。単純作業が一番退屈」


 研究肌のエルダー・ドワーフには面白くない仕事だろう。

 ただ、しっかりとやってくれる気はあるようだ。


「つまらない仕事をさせてすまないな。だけど、その分、研究用の面白い武器を【創造】してやるし、おまえが研究に集中できる環境を整えてやる」


 頭をくしゃくしゃと撫でてやると、小さく微笑んだ。

 エルダー・ドワーフにとっては最大限の喜びの表現だ。


「マスター、大好き」


 こんな一言ですら顔を赤くしてぼそぼそと言う。

 クール系銀髪ツルペタ美少女のエルダー・ドワーフ。彼女のこういう仕草は割と気に行っている。








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