第一話:エンシェント・エルフ
魔物の【合成】のために大通りに出る。
当然のように、マルコが居た。この前と同じように優雅なセットを組んでサキュバスが要れたお茶を楽しんでいる。
「やあ、プロケル。きちゃった」
微妙に可愛いイントネーションだ。
さっきのことなんてまるでなかったかのように振る舞っている。
「もう、好きにすればいい」
俺は薄く笑ってから精神統一を始めた。
ほかには俺の魔物たちが居た。特にキツネ耳美少女のクイナと、エルダー・ドワーフは新たな仲間の誕生に期待を込めたまなざしを浮かべていた。
俺の手の中には、【風】の魔王ストラスからもらった。【風】のメダルがある。
『【風】のメダル。Aランク。生まれてくる魔物に風を操る力を付与。敏捷に補正(大)。その他の能力に補正(小)』
強力なメダルだ。これにイミテートで作った【人】。
そして、自らの【創造】のメダルを掛け合わせる。
『【創造】のメダル。Aランク。【創造】以外の二つのメダル(オリジナルを含む)を使用して魔物を合成する際、使用可能。製作者が望む属性のメダルに変化し合成可。また、無数の可能性から、望む可能性を選び取る ※一度変化した属性には二度と変化できない』
【人】を選んだのは、俺は【誓約の魔物】になにより絆を求めるからだ。自らに近い存在が欲しい。
ともに語り合って笑いあいたいという願望があった。
だからこそ、天狐も、エルダー・ドワーフも、そして今回の魔物も全て知性が高く意思疎通ができる【人】の要素を入れている。
【誓約の魔物】以外はそこに拘るつもりはない。
今回、【創造】は【星】に変化させる予定だ。
【星】は自然を司る力。この星そのものの力で強力だ。
マルコから話を聞いている限り、これを使えば俺の望む通りの魔物が作れるだろう。
手の平に【風】、【人】、【創造】。三つのメダルがそろう。
それらを強く握りしめる。
さあ、はじめよう。
「【合成】」
握りしめた拳に光が満ちる。
手を開くと、光が漏れ、光の中にシルエットできた。
【風】のオリジナルメダルと【人】のイミテートが一つになり方向性が決まっていく。
そこに【創造】の力が働く。
俺が望むのは自然の力を司る【星】。
古きもの。風と共に歩むもの。
大地や木々、水、大気、そのすべてと語り合うもの。
俺が欲しい魔物には、【風】と【人】だけではまだ足りない。【星】の力を加えて、さらに力と叡智を与える。
圧倒的な力に翻弄される、新しい命。その道筋を俺が正しく導く。俺が望む方向性に、そしてランクSの可能性を引き寄せていく。
さらに、レベルは固定ではなく成長できる変動を選択。レベル上限があがるし、同レベルになったさい変動のほうが強くなる。
よし、完璧。
あとは、生まれるのを待つだけ。
光の中のシルエットが濃くなる。
魔物の心臓の音が聞こえてくる。
光が止み、新たな魔物が生まれた。
「ご主人様、初めまして」
生まれたのは天狐より少し年上の十四歳ぐらいの少女。
やわらかな金髪と、柔和な笑顔。特徴的なのはこの世のものとは思えない美しい【翡翠眼】。
そして、今までの俺の魔物が持ちえない凶悪なものがあった。
いわゆるロリ巨乳。
白いワンピースに包まれたそれは自らの存在を強調していた。
ついでに、耳が長い。
「はじめまして。俺が君を生み出した魔王。【創造】の魔王プロケル。早速で悪いが君の種族を教えてほしい」
いつもの問いかけ。
その問いかけに少女は応える。
「私は、旧き者。風と共に歩む星の化身……エルフの最上位種族。エンシェント・エルフです。以後よしなに」
エンシェント・エルフが優雅に礼をした。
そう、俺が欲しかったのは自然操作に特化した魔物だ。
新しい街を作るのに必要だった。
人を移民させる際に、豊かな土地は必要だし、当面の食糧も早急に用意しないといけない。この子が居れば、容易く準備できるだろう。
「よろしく。期待しているよ」
「はい、ご主人様。ご期待に応えてみせます」
ぎゅっと握手をする。
素直で礼儀正しいいい子だ。
そこにとことことクイナがやってきた。
キツネ尻尾が揺れている。新しい妹の誕生を喜んでいるのだろう。
「エンシェント・エルフ。長いからルフちゃんって呼ぶの。初めまして! クイナは、おとーさんの【誓約の魔物】。おとーさんの次に偉いお姉ちゃんなの。妹のルフちゃんはクイナのいう事をよく聞くように!」
クイナはどや顔でエルダー・ドワーフに初めて会った時と同じことを言う。
意外にもクイナは面倒見がよく、エルダー・ドワーフの世話をやいていた。きっとエンシェント・エルフにもよくしてくれるだろう。
エンシェント・エルフはぼうっと、クイナを見ていた。
「どっ、どうしたの?」
クイナが不思議そうにエンシェント・エルフを見つめる。
「かっ」
夢を見る乙女のような瞳でエンシェント・エルフはクイナを見ていた。
「可愛いです。なにこの子、ちっちゃいのに、お姉ちゃんぶって、きゃー、きゃー、きゃー」
「やめ、やめるの。苦しいの」
エンシェント・エルフがぎゅっと天狐を抱きしめる。
豊かな胸に天狐の顔が埋まっていた。
むぐー、むぐーっと天狐が暴れる。
「ああ、ちっちゃくて、温かくて、いい匂い。それに、このもふもふ尻尾、たまりません。ぎゅっとしちゃいます。あれ、びくってして、ここがいいんですか? あっ、可愛い反応。ここが気持ちいいんですね、クイナちゃん」
「やめて、尻尾は敏感なの。そんなにされたら、だめ、だめなの。ん、変になっちゃうの」
「じゃあ、こっちはどうですか? 可愛らしいキツネ耳、こっちも、くにゅくにゅして、もう最高です」
「やー、やー、耳の後ろも弱いの」
クイナが完全にもて遊ばれていた。
抱きしめられ、しっぽをもふもふされ、いいようにされている。
数分後、やっと解放されたころには完全に天狐は腰砕けにされて、虚ろな目をしていた。逆にエンシェント・エルフのほうは肌がつやつやになっている。
「クイナちゃん、またあとで遊びましょうね」
「もう、やなの! ルフちゃんはクイナに近づくの禁止なの!」
俺の背後に気配があった。
そこを見ると、エルダー・ドワーフが居た。クイナの様子を見てエンシェント・エルフにおびえていた。
まあ、気持ちはわかる。
「そっちの銀色の子も可愛いです。こっちにおいで。私といいことをしましょう」
「マスター、助けて。この子、怖い」
エルダー・ドワーフは本気で嫌がっているようだ。
いつの間にか後ろの気配が二つに増えていた。回復したクイナまで俺の後ろに隠れていた。
苦笑する。
「エンシェント・エルフ。この子たちを可愛がりたい気持ちもわかるがほどほどにな。じゃないと嫌われるぞ」
「かしこまりました。マスター、残念です」
エンシェント・エルフはそう言うと、怖くない、怖くないと言いながら、クイナとエルダー・ドワーフを手招きしていた。
割といい性格をしている。
「さすがだね。プロケル。もう本気でわざとやっているんじゃないかと思うよ。……またとんでもない魔物を引き当てたね」
優雅に紅茶をすすりながら、マルコがいろんな意味で驚愕の表情を浮かべている。
言い返せない自分が悔しい。だが、あくまで偶然だ。狙って少女を生み出しているわけじゃない。
いろいろと、問題がある子だが実力は十分だ。
種族:エンシェント・エルフ Sランク
名前:未設定
レベル:1
筋力B 耐久C+ 敏捷A+ 魔力S 幸運A+ 特殊S++
スキル:翡翠眼 風の支配者 星の化身 神の加護 魔弾の射手
ステータスは、クイナはおろかエルダー・ドワーフに劣る。 だが、スキルの一つ一つが素晴らしい。
翡翠眼:全ての神秘・魔術を看破する。下位スキル、千里眼、霊視、透視の性質も併せもつ
星の化身:火を除く属性魔術を使用可能。周囲に該当属性がある場合、補正(大)。精霊たちとの同調が可能
神の加護:全ての能力に補正(中)。死亡時に蘇る。その際にこのスキルを失う
風の支配者:風系最上位スキル。風属性魔術に補正(極大)
魔弾の射手:射撃攻撃全て威力補正・命中補正(大)
まさにいたれりつくせりと言った様子だ。
ロリ巨乳のこの少女にこれだけの力が秘められていることが信じられない。
ただ、一つだけ気になることがある。
これだけ強力なスキルを持つ、エンシェント・エルフですら特殊はS++どまり。
天狐であるクイナはその上のEX。
今のクイナを見る限り、どう見てもエンシェント・エルフにスキルで優っているとは思えない。
俺も、本人も気づいていない何かが隠されているかもしれない。
「ご主人様、とりあえず、私は何をすればいいでしょうか?」
「そうだね、エンシェント・エルフの力を見たいところだけど、まずは適した装備を決めるところから始めよう。クイナ、エルダー・ドワーフ、行こうか」
「かしこまりました。ご主人様」
「……わかったの」
「マスター、了解した」
そうして、最近マルコに用意してもらった射撃場に向かう。
スキル的には、ライフル系がいいか。
俺の背後にいる二人は微妙に、エンシェント・エルフを怖がっているが、これもなんとかしないといけないと考えていた。