第二話:初めての魔物作成
魔物作りを実演すると【獣】の魔王マルコシアスは宣言した。
「ダンジョンを作るのは大事だけど、同じぐらい魔物を作るのも大事だよ。なにせ、魔物は私たち魔王を守ってくれるし、人間たちを呼び出す餌になる」
その通りだろう。基本的に人間はレベルを上げるためにやってくる。
魔物が居ないと意味がない。
「で、大前提だけど魔物を手に入れる方法は大きく分けて二つ、一つ目、DPを使う。ただし魔物の強さはSランクからGランクまでの八段階あるんだけど。DPで買えるのは、FとGランクだけ」
「買えるのは弱い魔物だけってわけか」
「例外として、DPとの交換以外で強い魔物を生み出したことがある場合、その魔物と同系統かつ二ランク下の魔物を、購入することはできる。例えば、私はAランクのケルベロスを作ったことがあるから、CランクのオルトロスをDPで買える」
なるほど、つまり強い魔物を用意したければ、DP以外の手段で、魔物を作らないといけないということか。
「実演しよう。DPを使わない魔物の作り方。それは魔王自身のメダルを使うんだ。見ていて【流出】」
彼女がそう短く言うと、金色の狼が描かれたメダルが現れた。
それは、強烈な力を秘めているようで、強い魔力を感じる。
マルコはそのメダルを俺に投げ渡してきた。
メダルをもった瞬間、そのメダルの情報が流れ込んでくる。
『【獣】のメダル。Aランク。生まれてくる魔物に獣の因子を与えることができる。身体能力および生命力に補正大』
「各魔王は一月に一回だけ自らのシンボルを刻んだメダルを生み出すことができる。私の場合は【獣】のメダルだ。メダルを二つを掛け合わせると、魔物が生まれる。君も【流出】と叫んでみて」
「面白そうだ。やってみる。【流出】」
俺の手にメダルが現れる。
メダルに描かれたのは二つのらせんが絡み合う絵。
そのメダルの正体を確認する。
『【創造】のメダル。Aランク。【創造】以外の二つのメダル(オリジナルを含む)を使用して魔物を合成する際、使用可能。製作者が望む属性のメダルに変化し合成可。また、無数の可能性から、望む可能性を選び取る ※一度変化した属性には二度と変化できない』
なんだこれは?
普通は二つのメダルで魔物を生み出すのに、三つ使わないと魔物が生み出せないなんて、恐ろしく不便じゃないか。
「さあ、私の【獣】と君のメダルで新たな魔物を生み出してみよう。オリジナルのメダルが二つ。とんでもなく強い魔物が生まれるはずだ」
期待に満ちた目で、マルコは俺を見つめている。
だが、残念なことに俺のメダルでは魔物が作れない。
「悪い、作れない。俺のメダルを見てくれ」
俺は彼女にメダルを投げる。
俺が【獣】のメダルの正体に気付いたように、おそらく彼女も【創造】のメダルの正体に気付くだろう。
マルコの顔色が変わった。
「なに、このめちゃくちゃなメダル……いくらなんでも強すぎる」
その表情は驚愕に染まっている。ありえない。そう彼女は短くつぶやく。
「そうなのか?」
「いいかい、生まれてくる魔物の力は、メダルの力の総量に比例する。二つしか使えないはずのメダルを三つ使える時点で反則もいいところだ。それに、【創造】はランクAメダル。ランクAのメダルの力がそのまま追加で増えるなんて……それだけでもずるいって言うのに、好きな属性を与えられる? 無数の可能性から選べるだって!?」
マルコは鼻息を荒くする。
「それはそんなにすごいんだ」
「すごいなんてもんじゃない。いろんな魔物を作るために魔王たちは、他の魔王たちの属性を象徴するメダルを苦労して集めるんだ。だけど、望む属性を得られるってことは、【創造】さえあればなんでも魔物が作れるってことなんだよ」
言われてみればそうだ。好きな属性を額面通りにとるならすさまじい汎用性を誇るだろう。
「ほかにもね、同じメダルで同じ魔王が魔物を作っても現れる魔物はそのときどきで変わるんだ。例えば、私の【獣】メダルだって、ライオンが出るか、狼が出るか、ハムスターが出るかわからない。【獣】ならなんでも可能性がある。だけど、その【創造】は、その可能性の中から選べる。こんな理不尽はないよ」
俺は生唾を呑む。
どう聞いても、壊れているほど高性能なメダルだ。
「君、他の魔王にはそのメダルの性能を言わないほうがいい。嫉妬で殺されるから」
「マルコは大丈夫なのか?」
「私は君の親だしね。それにもう私は……。でも、困ったな。私の【獣】と君の【創造】だけじゃ、魔物を作れないか。なら、仕方ない。出血大サービスだ。これもあげよう。別の魔王から手に入れたメダル。しかもイミテートじゃないオリジナルだ。Aランクのメダルが三つ。どんな化け物が生まれるか、震えが止まらないよ」
マルコは【獣】と【創造】に加え、【炎】のメダルを俺の手の平に置いた。
『【炎】のメダル。Aランク。生み出す魔物に炎の属性を与える。生命力、身体能力、魔法攻撃力に補正大』
これもまた、Aランクだ。彼女の口ぶりだとAランクのメダルというのは相当珍しいのだろう。
「さあ、あとはメダルを握りしめ、【合成】と唱えるだけだ」
心臓の行動が期待感で早くなる。
俺は頷き、祈りを込めて口を開く。
「【合成】」
手の平から光場こぼれる。
まばゆい光だ。
熱が暴れる。
そっと手を開く、光が漏れ始めた。空中に影を作る。
【獣】と【炎】が一つになっていく光景が脳裏に浮かぶ。
ありとあらゆる可能性が次々と流れていく。そんななか、直観で一つの可能性をつかみ取る。
さらに、【創造】の力で、最後の一ピースをまだ見ぬ我が魔物に付け加える。
俺は、何が欲しい?
新しい命に何を求める_
答えは決まった。
最初に生み出すのは友達がいい。ずっとともにいられるような、話し合い、笑えるような。
【創造】が【人】へ変化する。
【獣】と【炎】に【人】の属性を加えた。
そして、新しい命が完成した。
光がやむ。
そこに”彼女”はいた。
黄金を溶かしたような美しい金色の髪、ピンと立った金色で先が黒い狐耳。そして、もふもふふかふかな狐の尻尾。
なにより美しかった。
十代前半の少女。未成熟で、だからこその危うい魅力に満ちた体。
「まさか、天狐。こんなの、魔物じゃなくて、ほとんど魔王の領域じゃ……Sランクなんて、私でも初めて見た」
マルコが、興奮と恐れの入り混じった瞳で彼女を見ていた。
俺も、少女の秘めた力で震えが止まらない。
「……」
少女が目を開く、紅色の瞳。
その目がまっすぐに俺を見ていた。そのあまりの美しさに声を失う。
少女の健康的な色をした唇が開く。
「おとーさん!」
そして、俺に飛びついてきた。
その姿には、さきほどまでの神秘的な雰囲気なんてみじんもなかった。