表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/223

第二十五話:歩兵が持てる最大火力

武器名は、商標の問題があって若干いじっています。HK416→MK416 レミルトン→レミントン

 最後の戦いが切って落とされた。

 ストラス配下の天使型の魔物が詠唱を始める。おそらく狙っているのは付与魔法による強化。


 呪文が完成すれば、ただでさえ厄介なエメラルド・ドラゴンが強化され、手も足も出なくなるだろう。

 しかし……。


「ん。そんなもの許さない」


 エルダー・ドワーフが、アサルト・ライフルM&K MK417をフルオートで放つ。弾倉に装填された二〇発の弾丸が一秒もかからず全て吐き出され、音速の二倍で襲いかかる。


 MK417は7.62mmという大口径の弾丸を使用する。

 それは、ただでさえひどいフルオート射撃時のぶれをより悪化させてしまう。普通ならただの弾の無駄遣い。

 だが、エルダー・ドワーフは違う。ぶれる銃身を鉱石魔術で無理やり高度と粘りをあげ押さえつけ、集弾率を上げるのだ。


 呪文の詠唱中という、無防備な状態で一弾倉全ての弾丸の掃射を受ける。いかにAランクの魔物と言えど、こんなものを喰らえば一たまりもない。


「ごめん、なさい、ストラス、様」


 天使型の魔物はけして弱くない。

 ただ、相性が悪かった。魔法をメインとするものたちにとって銃は天敵だ。

 その言葉を残して、天使は光になって消えた。


 ストラスが奥歯を噛みしめる。

 だが、そんな暇はない。俺のエースが向かっている。

 天狐だ。戦いの開始と同時に、キツネ特有のしなやかさでの無音の高速移動。

 遠回りになるが、エメラルド・ドラゴンを避けつつ背後からの死角をついての強襲。まだ、ストラスは天狐の存在に気がついていない。


 そう、俺は三つの指示を出していた。

 エルダー・ドワーフには、天使型の魔物の付与魔法の妨害。

 天狐には、ストラス相手への不意打ち。

 ワイトには、エメラルド・ドラゴンの気をひくこと。


 エメラルド・ドラゴンなんて化け物とまともにやり合うことはない。エルダー・ドワーフに狙撃させなかったのは、火力不足で一撃で仕留められる確信がないから。中途半端な傷を負わせて転移で逃げられるわけにはいかない。


「皆さま、戦闘の時間ですよ」

「私も援護する」


 ワイトの指示するスケルトン軍団と、弾倉交換を終えたエルダー・ドワーフの射撃が集中する。


 俺は驚愕の声を上げる。

 スケルトンたちの5.56mm弾だけではなく、エルダー・ドワーフの放つ7.62mm弾すらその鱗に阻まれた。


 だが、ダメージはなくてもイラッとしたようで、スケルトン軍団に近づき、エメラルド・ドラゴンがその場で回転する。

 遠心力をつけた尻尾で周囲の敵を薙ぎ払うつもりだろう。

 ワイトとエルダー・ドワーフは素早く後ろに飛んだが、敏捷が低いスケルトンたちの半数は回避が間に合わない。ばらばらに砕け散った。


 ワイトは、悲し気な仕草をして、彼らの死を悼む。

 だが、その死は無駄ではない。

 エメラルド・ドラゴンはワイトたちのほうに完全に気を取られている。その間に天狐はストラスに死角から十分すぎるほどに近づいた。


「これで終わり……なの!」


 天狐がの白銀のショットガン……レミルトン(改)ED-O1S。

 セミオート機構を搭載し、弾丸のサイズを12ゲージから4ゲージに大幅に大口径化し、ミスリルパウダーで魔力の力をも爆発に加え、四倍の威力を達成した脅威の魔銃が火を噴いた。


 ストラスはまったく反応できずにスラッグ弾の直撃を許す。いかに魔王と言えど耐えられるはずはない。

 ストラスの体が四散する。

 これで、この【戦争】は終わりだ。

 いや、違う。


『残念、そこに居る私は【風】で作った偽物よ』


 どこからか声が響く。

 俺は歯噛みする。

 冷静に考えれば、当然か。自らが制御できない化け物を至近距離で生み出すんだ。保険がないわけがない。

 おそらく、【収納】からエメラルド・ドラゴンを呼び出すと同時に偽物を生み出し、本体は【転送】した。


「我が君、もう、もちません」


 エメラルド・ドラゴンを引き付けていたワイトが悲鳴のような声をあげる。

 さきほどからスケルトン軍団が懸命に射撃を続けるが、まったくエメラルド・ドラゴンに通用していない。

 エメラルド・ドラゴンが咆哮をあげ、頭から突っ込む。

 一匹は頭突きで粉砕、その場で首を曲げ、二体目をかみ砕く。

 また、二体のスケルトンが犠牲になる。


「天狐、任せた」

「わかったの、おとーさん」


 頭から突っ込んでくれたおかげで、数瞬エメラルド・ドラゴンの動きがとまった。

 その一瞬で天狐が全力で距離を詰める。

 エメラルド・ドラゴンが天狐のほうに振り向く。

 おそらく、本能的に天狐が脅威になることに気付いたのだろう。

 風が渦巻く。エメラルド・ドラゴンを中心に巨大な風がうねり絡みつく。それはさながら、風の鎧。


 天狐は、ほとんどゼロ距離まで詰める。

 硬い鱗と風を貫くにはそれが必要だから。


「喰らうの!」


 そして射撃。

 落雷のような轟音がなり、白銀のショットガンが火を噴く。

 当然、威力を重視したスラッグ弾。

 天狐自身の攻撃力も加算されたそれは、ミスリルゴーレムの放つ重機関銃をも上回る。

 だが……


「なっ、嘘なの!?」


 風で大きく威力が減衰され、さらに逸らされ、硬い鱗にはじかれる。

 数枚の鱗がはじけ飛ぶだけで、エメラルド・ドラゴンはほぼ無傷。

 天狐が両手をクロスする。そこにエメラルド・ドラゴンの爪が振り落とされた。


「きゃああ」


 天狐の両腕から血が吹きでる。それだけじゃない。地面にたたきつけられ、大きくまり玉みたいに何度も跳ねる。


「天狐!」


 彼女の名前を呼ぶ。

 彼女は二〇メートルほど、転がりやっと止まった。


「ちょっと失敗したの」 


 両腕と口から血を流しながら天狐が言う。立ち上がろうとして失敗した。

 そんな天狐をエメラルドドラゴンが睨みつけていた。

 首を前に押し出し、口を開く。


 口の中には恐ろしい勢いで風の魔力が集まっている。

 間違いない、これは風のブレス。

 まずい。天狐は、ダメージが深すぎて身動きが取れない。


「天狐様はやらせませんぞ。いけ、我がしもべたち!」


 ワイトが支配する骨だけになった鳥たちが一斉にエメラルド・ドラゴンの口の中に飛び込む、そのせいで臨界まで高まった風の魔力暴走し爆発。

 エメラルド・ドラゴンが大きくのけぞった。


「よくやった、ワイト」

「一回きりの不意打ちです。ですが、ここからが正念場です」


 エメラルド・ドラゴンがこちらに向かってくる。

 今の一撃をよほど怒っているのだろう。


 エルダー・ドワーフが銃を構える。

 銃を見ると、フルオートではなくシングルモード。


「風の守りが消えた今なら……狙い撃つ」


 そう短く言うと一発、一発丁寧に射撃をした。

 大火力のブレスの展開を行ったおかげで、風の鎧はない。

 鱗はともかく急所なら貫けるだろう。

 その弾丸は正確に、エメラルド・ドラゴンの右目に直撃する。

 右目から血を流し、それでも止まらない。


「弾丸が、あんな浅いところで止まった!? 化け物」

「GYUAAAAAAAAAAA!」


 エルダー・ドワーフが地面に手を付けると、石の壁ができる。

 構わずにエメラルド・ドラゴンは右腕を叩きつける。まるで紙細工のように石の壁が崩れた。

 しかし、壁の向こうにエルダー・ドワーフとワイトはいなかった。

 俺の足元が盛り上がる。


「マスター、今のは危なかった」

「助かりました。エルダー・ドワーフ様」


 そう、エルダー・ドワーフは石の壁でブラインドを作りワイトを抱えて地中に潜ったのだ。


「マスター、今の装備じゃ歯が立たない。火力がほしい」

「わかった」


 俺は、【創造】を起動する。

 呼び出すのは単発火力がもっとも要求される武器。


「以前、研究用に渡したから使い方はわかるな」

「わかる。任せて」


 エルダー・ドワーフが生み出したばかりの俺の武器を受け取る。

 おれが 作り出したのは対戦車ロケット弾のベストセラー。


 USSL RRG-7


 全長950mm。重量6.3kg。口径85mm。装弾数1。初速115m/s


 おおよそ、歩兵がもてる武器で最強の攻撃力を持つ装備。

 見た目はただの鉄の棒で、先端が流線形になっているだけのシンプルなもの。

 成形炸薬弾(HEAT)をロケットブースターで飛ばすという仕組みで、当時は画期的だった。

 成型炸薬弾は装甲車の装甲すら貫くことができる。

 使い捨て故に、三本まとめて【創造】。


 エメラルド・ドラゴンがこちらを向く。

 すでに風の鎧は再び纏われていた。

 エルダー・ドワーフが肩に乗せた、USSL RRG-7を放つ。

 油断しているのか、エメラルド・ドラゴンは避けようとすらしない。

 ロケットモーターで加速されたヒート弾頭が空中で加速する。


 完全に直撃コース。奴の腹の中心に吸い込まれそうだ。

 だが、俺は奥歯を噛みしめた。

 ヒート弾頭は奴に命中し、信管が作動し指向性の爆発が起きる。 

 戦車の装甲すら貫く圧倒的なエネルギーが奴を襲う。

 モンロー/ノイマン効果。成形炸薬弾(HEAT)は爆発のエネルギーを一点に集中させ、超高熱・高速の金属噴流によって対象に深い穿孔を穿つのだ。


「GYUAAAAAAAAAAAAA」


 エメラルド・ドラゴンが悲鳴をあげる。

 右腕の三分の一ほどが抉れていた。

 だが、逆に言えば、その程度の被害に過ぎない。


「どうして? あの威力なら貫けるはず!?」


 エルダードワーフが驚いた声をあげる。


「二つ、理由がある。一つ目、風で弾頭がそれた。だから狙った体の中心じゃなくて、右腕に向かった。二つ目、奴の風の密度が高すぎる。奴の体に当たるまえに、信管が作動して爆発エネルギーが散らされた……」


 そう、俺が歯噛みしたのはそれがわかっていたからだ。

 これでは何度撃っても、致命傷は与えられない。

 エルダー・ドワーフが速やかに二本目のRRG-7を撃つ。

 しかし、こんどは当たりすらしない。奴はあの巨体で避けて見せた。

 ロケット弾の第二の弱点、その構造故の弾速の遅さ。

 初速は音速の三分の一程度。アサルトライフルの六分の一以下の遅さ。ある程度の実力差なら見て避けられる。

 奴はロケット弾の威力を知った。もう二度と当たってはくれないだろう。


「GYUAAAAAAAAAAAAAAA」


 エメラルド・ドラゴンの咆哮。

 ただでさえ、強い風がさらに吹き荒れ密度を増す。

 ああなれば、もう当てることすらできない。

 エメラルド・ドラゴンの風はどんどん強くなり、奴を中心に効果範囲が広がっている。

 おそらく、あいつはあの場に仁王立ちして、風の力をどんどんまし、俺たちを一網打尽にするつもりだろう。

 事実、あの風は刃のようになっていた。周囲の岩がすぱすぱバターのように切れてる。


「マスター、どうする」

「”切り札”を使うか」


 これは、もう決断をせざるを得ない。

 俺は今回の【戦争】で見せていい範囲というのを決めていた。

 ミスリルゴーレムと、重機関銃。

 天狐や、エルダー・ドワーフのショットガン、アサルトライフル、それにRRG7。

 ここまではいい。この程度ならいくら見られても構わない。

 だが、この先を見せるのはまずい。


「もう迷っている時間はなさそうだ」


 どんどん、風の刃を伴った台風が逃げ場を奪っていた。

 そんなことを考えていると、天狐がやってきた。

 まだダメージが抜けきっていなく、足取りが重い。


「天狐に任せるの……エルちゃん。エルちゃんが作ってくれた銃、だめにするけど許して」

「天狐、あれを使う気?」

「うん、エルちゃんの、ショットガン、ED-01Sの真の力があれば、貫ける」


 天狐がにやりと笑う。

 しかし、少しだけその笑いがぎこちない。

 ……おそらく、かなり分の悪い賭けになるだろう。


「天狐、やれるのか」

「任せてなの。天狐は、おとーさんの一番の魔物。それに大好きなエルちゃんの武器がついてる。負けるわけがないの」


 天狐の言葉には揺るぎない。信頼と自信があった。

 俺は息をのむ。

 そして、決断をした。


「わかった、天狐に任せる」

「うん、おとーさん。行ってくる」


 天狐はポーチからいつもとは違う弾倉を取り付ける。一回り大きい。そしてショットガンにあるレバーをSからFに切り替えた。

 そして決死の覚悟で突撃を開始した。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載始めました!
こちらも自信作なので是非読んでください。↓をクリックでなろうのページへ飛びます
【世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する】
世界一の暗殺者が、暗殺貴族トウアハーデ家の長男に転生した。
前世の技術・経験・知識、暗殺貴族トウアハーデの秘術、魔法、そのすべてが相乗効果をうみ、彼は神すら殺す暗殺者へと成長していく。
優れた暗殺者は万に通じる。彼は普段は理想の領主として慕われ、裏では暗殺貴族として刃を振るうのだった。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ