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第二十話:ミスリルゴーレム

 ダンジョン作りための制限時間が終了した。

 同時に俺の意識が遠くなる。


 創造主に呼び出されたのだ。

 さきほどとは別の白い空間、俺の背後には作ったばかりの洞窟型のダンジョン。


 そして正面には緑髪の生意気そうな少女、【風】の魔王ストラスが居た。彼女の背後には無数の魔物。防衛用の魔物はダンジョンに設置し、俺のダンジョンを攻略するための魔物をこの場に用意しているのだろう。


 俺も同じだ。天狐とエルダー・ドワーフ。ワイト、スケルトン軍団。そして、グリフォン。ゴーレム以外の全戦力を用意してある。


 だが、いくらなんでもストラスの魔物の数が多すぎる。一〇〇体近い数。俺と同時期に生まれた以上、限界まで魔物を作ってもそれが限界値のはずだ。全ての魔物を攻撃に回しているのか? いや、それはない。何か手品があるのだろう。


 ストラスの背後には、俺と同じ洞窟型のダンジョンがあった。

 ただ、俺のがみすぼらしい外観の洞窟に対し、彼女の洞窟は予算が許す限り立派に見えるものを選んだようだ。見栄っ張りな性格が透けてみえる。


「よく逃げずに来たわね。それだけは褒めてあげるわ」

「せっかくのオリジナルメダルを得る機会、無駄にするわけにはいかないからな」


 俺の安い挑発に乗って、ストラスが青筋を立てる。

 なるべく熱くなってほしい。

 相手が熱くなれば熱くなるだけ、勝率があがる。


 白い空間のそらに大きなスクリーンが浮かびあがる。

 そこには熱狂した魔王たちの姿が映されていた。たぶん、向こうからはこちらの姿が見えているのだろう。


 ストラスは目に見えて緊張している。無理もない、彼女にとっては圧勝してあたりまえ。俺のような木っ端魔王。蹂躙して当然なのだ。


「……この【戦争】、制限時間は二時間あるようだけど、そんなにいらないわね、瞬殺してあげるわ」

「できるといいな。まあ、俺はゆっくりと攻略するよ。どうせ、俺のダンジョンは、ストラスには攻略できない」


 ここまで言われれば、ストラスは初手から全力で行かざるを得ない。

 急がないといけない。その考えは自らの選択肢を恐ろしく狭めることになるのだ。


『さて、これより今日の【夜会】の目玉。【創造】の魔王プロケルと【風】の魔王ストラスの【戦争】を行う。己のメダルとプライドをかけた一線。若獅子たちの戦いから目を離すなよ』


 創造主の声が響く。

 いよいよか。


『試合前に面白いものを見せよう。恒例のように今回も希望者は賭けをしているのだけどね。今回のレートはこれだ。【創造】は、レートが1.3倍。【風】はレートが3倍。下馬評では【創造】が圧倒的に有利、さあ【風】はこの下馬評を覆せるかな?』


 モニターに観戦している魔王たちがDPを賭けた金額とレートが合わせて表示される。

 随分と俺に偏ったものだ。


 まあ、無理もない。俺の実力を見抜ける魔王たちは、俺がSランクの魔物を従えていることを知っている。そして、実力者たちは保持するDPが多く賭け金も大きくなる。

 見えている戦力はほぼ互角だが、Sランクの魔物を作れる俺には何かがあると読んでいるのだろう。


 そうなれば、俺のほうに賭け金が集中するのも理解できる。

 ただ、そのことを理解できないストラスにとってはショックが大きいだろう。


「ばっ、馬鹿にして、私が、この男に劣っているように見えるの!? 私の力を見せつけてやる! 私は未来の大魔王なのよ!」


 ここまで来るといっそう哀れだ。

 完全にストラスは我を忘れている。


『じゃあ、【戦争】をはじめるよ。ルールは簡単。制限時間二時間。先に水晶を壊すか、相手魔王を倒したほうが勝ち、この白い空間から相手のダンジョンに侵入するけど、この白い部屋での戦闘、妨害は禁ずる。さあ、準備はいいかい?』


 俺とストラスは頷く。

 このルールは合理的だ。この場で妨害できるならダンジョンに入らせないという戦術がもっとも効果的になってしまう。


『では、【戦争】開始だ!』


~【風】の魔王ストラス視点~


 私は奥歯を噛みしめ、悔しさを堪えていた。

 賭けのレートはショックだった。


 私があの男より評価が低い? 四大元素をもつ、選ばれたこの私が? ありえない。ありえない。ありえない。


 ダンジョンに入るなり、私は【転送】でダンジョン最奥の水晶の部屋に飛ぶ。

 魔王権限だ。自分のダンジョン内であれば、好きな部屋に跳べる。魔王が倒されればおしまい。一番安全なところにいるのは定石。


 そして、私は無理に前線でる必要はない。

 なぜなら、私のユニークスキルは最強なのだから。

 それは、【風】。風を吹かせることはもちろん、風の刃の生成、空を飛ぶなど汎用性が高く、なにより【偏在】を使える。


 それは言うならば、一時的な魔物のコピーだ。

 一度に百体までの魔物を、ランクを一つ下げて複製する。ただし、発動できるのは一日一回切り、生み出した魔物は一時間で消えてしまう。

 その力は常に発動済。【偏在】で作った魔物全てを、相手のダンジョンを攻略するために外に配置している。


「負けるわけがない」


 そう、負けるわけがない。

 私は生まれてから今まで、死に物ぐるいでDPを稼ぎ、魔物を作り続けてきた。その数、総勢九八体。それも最低でもDランクの強力な軍団だ。

 スケルトンを連れ歩く必要があるような貧相な軍団しかもっていないあの男とは格が違う。

 ただでさえ、質でも数でも魔物戦力は敵を圧倒しているのに、魔物の数を【偏在】で二倍にした。


 私は全ての魔物を自陣に置きつつ、【偏在】で生み出した魔物全てを攻撃に回せる。

 いや、【偏在】じゃない魔物も半分は攻撃に回そう。そうすれば、予定よりずっと速く、圧倒的に攻め入ることができる。

 自陣に残っている魔物たちの半分に、外に出て相手のダンジョンを攻めるように指示を出した。


 さあ、蹂躙しよう。

 私は、【風】のスキルを使い、実体はここに残したまま、アバターである霊体を前線に飛ばした。

 お互いのダンジョンの入り口が設置されている白い部屋だ。


 あの男は配下と共に突っ立っているだけで、自分のダンジョンを守りも、こちらに攻めてもこない。

 ……なんて、情けない。一生そこで突っ立っていればいい。


 私のアバターは霊視できる魔物しか私の姿を見ることができない。 

 事実、あの男は私の姿に気が付いていない。

 キツネの女の子の耳がぴくぴくとこちらに動いている気がするが、気のせいだろう。


 それにしても、配下の魔物も自分もまったく動かず、私たちの様子を見ているなんて、どういうつもりだろう?


「ローゼリッテ、はじめなさい」


【誓約の魔物】の一体に命令する。

 それは、天使型の魔物。アスタロト様から頂いた【聖】と私の【風】で作られた最強の手札。ラーゼグリフ。


 ステータスが優秀なだけじゃない。Aランクの魔物は強力な特性を持っている子が多いけど、この子は特に優秀だ。

 自軍全てを強化するスキルがある。

 あの男の魔物なんて一瞬で蹂躙できるだろう。


 ◇


 天使型の魔物ラーゼグリフのローゼリッテが、白い部屋に居る魔物に突撃の命令をだす。


 この場いる魔物たちは総勢九八体。援軍であと五〇体くる予定。ほとんどがCランクとDランクでたまにBが混じっている。


【偏在】のコピーでランクが下がった分、ローゼリッテの全軍強化スキル。【十字軍】である程度は落ちた力を補っている。


 あの男のダンジョンは入り口が狭い。

 一度に入れる魔物はせいぜい十体だ。

 編成を組ませて魔物たちがダンジョンの中に入っていく。

 

 ダンジョンの中は異次元だ。ここから中の様子は見れないし音も漏れてこない。

 だが、ローゼリッテは全ての魔物とテレパシーによる通信ができる。彼女は、軍団の運営に特化した魔物だ。


「おかしいわね」

「はい、そろそろ連絡が来てもいいころですが」


 ローゼリッテと共に首をかしげる。中に入った魔物からの連絡が来ない。

 中に入り問題なければ、後続の部隊に入るように指示を出すし、万が一強敵が居れば、増援を呼ぶ。どちらにしても連絡が来るようになっていた。

 そのはずなのに、いっこうに連絡がこない。


「ローゼリッテ、中の魔物たちは?」

「それがこちらから呼びかけても返事がありません」

「まさか、殺されたの?」


 ありえない。第一陣はCランクがほとんど。

【偏在】で劣化しているとはいえ、【十字軍】の補正でDランク上位の力はある。それが数秒で消えるなんて。


「念のため、第二陣を進めましょう」


 ローゼリッテの判断に頷く。

 そして、第二陣を進めた。

 二陣がダンジョンに入ってから数十秒がたった。やはり、中の魔物から連絡がこない。

 ローゼリッテがテレパシーを送っても返事がないようだ。


「こうなったら、私が行くわ」

「ストラス様自らが出向かれるなんて」

「それが一番確実よ」


 この身は【風】で作った霊体。滅ぼされることはありえないし、滅ぼされても問題がない。

 一番確実に中の情報を調べられるだろう。

 

 ◇


 ダンジョンの中に入る。


「はっ、なにこれ。馬鹿なの?」


 中は石の部屋。

 横幅は4mほどしかない。ただ長さは2kmはある。しかし、ひたすら真っすぐに伸びているだけの道。

 こんなのただ駆け抜けるだけで攻略できる。

 わけがわからない。手抜きもいいところだ。

 ただ、天井が三メートルしかないのはいら立つ。空を飛べる魔物の力を活かしにくい。

 周囲を見渡す。


「ひっ!?」


 そこにあったのは、私の魔物の死体だ。

 それも原型をとどめてない。完全なミンチ。

 いったい、何をされたら、ここまで凄惨な死体になるというか?


 しばらくして、青い粒子になって死体が消える。

 これを見て確信した。

 ここに入った魔物は、なんらかの手段をもって瞬殺された。


 なら、どうやって?

 目を凝らすと、最奥にミスリルゴーレムが二体並んでいた。何やら巨大な鉄の筒を構えている。


 ミスリルゴーレムは、魔物で換算すればBランクに相当する力がある。

 だけど、馬鹿力と耐久力だけが取り柄で、鈍重で反応が鈍い。いわゆる木偶の棒。脅威じゃない。

 なら、いったい何が私の魔物を?


「ローゼリッテ、魔物を一部隊よこして」


 このまま突っ立っていてもわからない。

 実演してもらうしかない。

 霊視できないゴーレムに私は見えていないが、もし、敵が来たら何か行動を起こすかもしれない。


 ローゼリッテが魔物を派遣した。

 エルフモドキと、レッサーグリフォンの混成部隊。十匹ほどがダンジョンに入ってくる。


 すると……

 暴風が吹き荒れた。

 私の顔の横を恐ろしく早い何かが通り過ぎる。


 そして、背後で爆発。エルフモドキも、レッサーグリフォンもまとめて、はじけ飛びただの肉片になる。

 その後、爆音がいくつも響いた。

 なに、なんなの、これ。


「一体何なんなのよぉぉぉぉぉ、これはぁぁぁぁぁ!?」


 わけもわからず叫んだ。

 前を向くと、最奥に居るミスリルゴーレムの構えている鉄の筒から煙が出ていた。

 あれで攻撃をしたのだ。

 音を置き去りにする、悪夢のような攻撃。


 それも、2キロ以上離れた位置から。

 つまり、この部屋全てが、この攻撃の射程範囲内。逃げ場はどこにもない。

 ふざけてる。私の全魔物の中でもっとも射程の長い攻撃が二〇〇メートル程度。

 それなのに、二キロすべてが射程? それも一瞬で私の魔物をミンチにするようなふざけた威力かつ、音を置き去りにする反応不可能な速度で?


 こんな、こんなことはありえない。


「いえ、冷静にならないと。私は未来の大魔王なのよ」


 ありえた。ありえたからこうなっている。

 認めよう。認めたうえで、攻略してやる。おそらく、あの男のユニークスキルだ。ただのゴーレムに圧倒的な射程と攻撃力を与えている。

 なら、次の手は簡単だ。


 こんな超高威力、高射程の魔術、そうそう使えるわけがない。

 魔王のユニークスキルと言っても限界がある。

 これほどの力、連続では使えないだろうし、回数制限だってあるはずだ。魔力だって消費が大きいはず。

 どう、悲観的に考えてもせいぜいあと二回が限度のはず。物量で押せば容易く突破できる。

 さあ、少し予定が狂ったがすぐに攻略してやる。

 私は、ローゼリッテに次の作戦の指示を出し始めた。

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