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第十八話:はじめてのダンジョン作り

 余興で【風】の魔王ストラスとの簡易的な【戦争】を実施することが決まった。

 今は与えられた個室で【戦争】の準備をしている。


 個室と言っても馬鹿広く、半径数キロはあるだろう。天上も壁もない。白い異次元だ。

 そこには、俺と頼れる配下である天狐、エルダードワーフ、スケさん。そして親にして、最強の魔王の一角、【獣】の魔王マルコシアスが居た。


「よし、ダンジョンを作ろうか。ただでダンジョン作りを経験できるのは悪くないな」

「プロケル、緊張しているかと思ったけど。ぜんぜんそんなことなさそうで安心したよ。いろいろと試して見ればいいさ」


 あくまで余興であるため、お互い失うものはほとんどない。

 ルールは簡単だ。

 今から一時間以内に、ダンジョンを構築し魔物を配置する。

 そして、お互いのダンジョンの入り口をつないだ状態で【戦争】を開始。


 ダンジョンの最奥にある水晶を先に破壊すれば勝ち。

 ただし、制限があり今回使用できるDPは支給された一〇〇〇〇DPに限定される。自前のDPは使用禁止だ。

 ただ、魔物を含めたDP以外の資産を持ち込むことは可能というルールだ。


 支給された分は、自由に使ってよく、余ったDPおよび今回の戦いで作ったダンジョンは【戦争】終了後に回収されてしまう。

 さらに、今回の戦いでは魔物を失っても帰ってくるらしい。


「【刻】の魔王、ダンタリアンか」


 創造主の命令で、ダンタリアンという魔王が、今回の【戦争】に協力してくれる。

 彼は最大三時間前まで、自らの結界内にあるものすべての時間を巻き戻すことが可能だ。

 そして、今回の戦争の制限時間は二時間。

 つまるところ、最終的に巻き戻るので死んだ魔物も戻ってくる。

 しかも、戦いの記憶や魔物を倒して得たDP、経験値などはそのままにできるという万能ぶりだ。


 おそらく、魔王としての能力も、メダルとしての能力も【刻】は最強クラスであることは間違いない。

 なんとか、手に入れてみたいものだ。


「それで、君はどんなダンジョンを作るつもりだい?」


 マルコはダンジョンを作ったことがない俺のサポートをやってくれる。


「それは、もう決めているさ【我は綴る】」


 俺は、力ある言葉を読み上げ、魔王の書を取り出す。

 そしてページを開き、ダンジョン作成の項目を生み出した。


「まずは、ダンジョンは洞窟型だな」


 外観は、なんの変哲もない洞穴を選択する。

 選んだ理由はただ一つ。安い。それだけだ。


 白い部屋の中にこんもりと土の山ができ、洞穴ができあがる。

 穴のなかは暗く、どこまでも続いていそうだ。

 魔王のダンジョンは異世界の入り口、見た目と中の広さは関係ない。


「うん、えらいえらい節約できるところは節約しないとね。外観に気を配るのは、DPがあまり出してからでいいよ」

「それはどうかな? 集客率も考えないとね」

「……君、本当に初心者?」


 俺が言っているのは人間をいかに誘い込むかの部分だ。

 何の変哲もない洞穴と、雰囲気のある城型のダンジョン。後者のほうが、魔物や宝と言ったものを得られると思うだろう。


 特に新しく知名度がないダンジョンは、外観にこそ気を配らないといけない。


「まあ、今回は【戦争】するためだけの部分だからどうでもいいがな。俺の全力を尽くした。凶悪なダンジョンを作ってみせよう」


 使い捨てのダンジョンなので、殺し合いだけに特化した構築ができる。

 本来なら、人間たちにほどよく楽しく稼いでもらう接待じみたダンジョンを作るが、今回はそんな気はない。

 ただただ、殲滅のみを考える。


「ふふ、いい心構えだ。この余興全ての魔王が観戦するよ。ここで【創造】の魔王ロリケルの力を見せつけてやるがいい!」


 マルコがにやりと笑う。


「……マルコ、一体いま、俺のことをなんて呼んだ?」

「うん、どうしたんだいプロケル? ほら、時間がない。次は内装だよ。今回は第一階層限定だ。単純なダンジョンしか作れないけど、その分難しいよ。気を使わないと!」


 こいつは……絶対わざとだ。

 あとで、ロリじゃない魔物を作って見返してやろう。

 ふと、横目で俺の可愛い魔物たちを見ると、俺が作るダンジョンがよほど楽しみなのか、期待を込めた目で見つめてくる。

 可愛い。抱きしめたい。もう、ロリケルでいいかもしれない。


「ごほんっ、そろそろダンジョンを作っていこうか」


 魔王のダンジョンは一階層につき、三部屋からなる。

 DPを一万払うごとに作れる階層が増えていき、もっとも下の階層の最後の部屋の後ろに水晶部屋が出来る。

 イミテートメダルが500DPであることを考えると、割と高い。


「プロケル。魔王の書で部屋を買うとき、複雑な地形や、罠があるものほど高い。魔術的な要素が付け加えられるものは更に高くなる傾向がある」


 マルコのアドバイスを聞きながらページを捲っていく。

 確かに彼女のいう通りだ。

 一番安いのは、更地。その名のとおり地面剥きだしの何もない地形。これは500DPで買える。


 次に安いのは、石の部屋。これは床と壁と天井が舗装された石で出来ているだけの何もない部屋。1000DP


 その次は、石の回廊。上のに似ているが、こっちは複雑な迷路。時間稼ぎができそう。2000DP。


 変わり種で、溶岩地帯、3000DP。魔法付与エンチャントルーム6000DPなど、凝ったものほど高くなっていた。


「さあ、プロケル、限られた予算の中で、最高の選択をするがいい」


 まあ、悩むまでもなく。俺は決めている。

 石の部屋を三つ買う。


 購入時に、大まかな形と大きさを決めることはできる。

 石の部屋の場合、部屋の中に壁を作ったりはできないが、石の部屋自体を長方形にしたり、三角形にしたりといろいろと選べる。


 さらに、横と縦は3m~10km。天上の高さは最低3m~20mの間で自由に部屋の大きさを変更できるのだ。


 部屋を大きくすればするほど、時間稼ぎになるが、その分魔物たちが守らないといけない範囲が広くなり、敵に素通りされやすい。

 まあ、俺の場合選択肢はない。

 横幅4m、長さ2km、高さ3mの極端に縦長な長方形を三つ作った。


「よし、これで完成っと」


 いい仕事をした。

 なかなか、いいダンジョンが出来た。


「ちょっ、ちょっと待って、なにこの無駄に長いだけの一本道!? 全然迷わないよ。罠もない。ただ真っすぐに進めば、あっという間に最奥だよ!? というか、なんで7000DPも余らせてるの!?」


 俺の考えていること理解できずにマルコが慌てふためく。


「いいじゃないか、天上が低く、遮蔽物がない完全な直線で一本道、地面を掘ることもできない。そして端から端まで二キロジャスト……こんな理想的なフィールドは他にないよ」


 これほど最高な戦場は他にない。

 それが三部屋。はっきり言って負ける気がまったくしない。


「その自信……なにかあるんだね?」

「安心してくれ。こと、守りにおいては絶対の自信がある」


 俺がそう言ったタイミングで空間が歪んだ。


「【創造】の魔王、プロケル様。依頼を頂きましたものをもってまいりました」

「ありがとう。そこに置いてくれればいい」


 パレス・魔王で働いているサキュバスたちが転送魔術でやってきた。彼女たちは、マルコのダンジョンに置いてある大量の武器や、エルダー・ドワーフたちが作ったゴーレムたちを運んでくれたのだ。


 エルダー・ドワーフの作るゴーレムは俺の魔物ではないので収納できず、連れてこれていなかったのだ。

 今回の戦い、もしゴーレムが居なければかなり厳しいものとなっただろう。


 武器は、アサルトライフルに、ゴーレム用の一つ40キロを超える重機関、ブローリング D2 カリバー.50(改)銃五丁。及び大量の予備弾薬。

 そして、”マスタード”に”眠れる兵士”。

 ダンジョンの一部屋一部屋は、完全に密封されているため、”マスタード”はよく利くだろう。


「おとーさん、今回の戦い天狐は何をすればいいの」

「マスター、私にも指示を」


 天狐とエルダードワーフが話かけてくる。

 俺の作ったダンジョンにかけらの疑いももってない。

 信頼してくれているし、おそらく彼女たちは何のために俺がこんなダンジョンを作ったのかを理解している。


「防衛は、ゴーレムたちに全て任せる。天狐とエルダードワーフ。そして、スケルトン軍団は攻撃だけに特化する! 【戦争】開始と同時に、相手のダンジョンに突っ込むんだ」


 本来、魔物ですらないゴーレムだけに防御を任せるのは愚策中の愚策。

 なにせ、相手はAランクとBランクモンスター数体は確実に居るのだから。

 だが、俺の作ったダンジョンと、装備があれば鉄壁の布陣となる。


「やー、わかったの! おとーさんを馬鹿にしたあいつ、絶対に許さないの!」

「天狐に同意。……マスターへの侮辱を後悔させる」

「二人とも頼りにしてるよ」


 頼もしい娘たちの頭を撫でる。

 天狐は、にっこりと笑ってやー♪と言って、エルダー・ドワーフは無言だけど口の端が緩んでる。


 そんな俺を、生暖かい目でマルコが見ていた。

 これでまた一歩、ロリケルという汚名を晴らす機会が遠くなった。


「それでプロケル、余ったDPはどうするの?」

「もちろん使うさ」


 せっかく、一万DPも手に入れたんだ。有効活用しなければ。

 創造主は、余ったポイントと今回作ったダンジョンは回収すると言っていた。


 つまり、それ以外は返さなくていい。

 俺は大量にイミテートメダルの作り置きを始める。


「君って、案外けちだよね」

「戦略と言ってもらおうか。ダンジョンを強くするには魔物を作るのも正攻法の一つだろう?」


 そう、俺は今回の【夜会】でオリジナルメダルこそ手に入れることはできなかったが、いくつかイミテートメダルを手に入れている。


 それを使って魔物を作る。元がAランクで、イミテートによりBランクに下がった、【風】と【死】。とくにこれらは期待値が高い。俺の手持ちのBランクイミテートと合わせれば高確率でBランクの魔物が作れる。

【誓約の魔物】にするつもりはないので、固定レベルの即戦力にしよう。


 さて、何が生まれるか。とりあえず、【風】は【獣】と合わせて、【死】は【人】と合わせてみよう。

【死】は知性が高いBランクの魔物が生まれてくればいいんだが。

 そんなことを考えながら、【合成】を始めた。

【合成】が終われば、ゴーレムの配置と、【合成】し終えた魔物たちの運用の考察。

 時間はまだたっぷりある。少しでも勝率を上げていこう。

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