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第十二話:クイナの必殺技

【刻】の魔王の闘技場で、クイナとフェルの戦いが始まった。

 先手をとったのはクイナだ。


 新型ショットガン、EDS-05 クラウソラスを発砲。

 その口径は標準的なショットガンの12ゲージのものではなく、その1.5倍にもなる4ゲージという特大の口径。


 大口径の弾丸は射出されたあと、弾けて弾丸の雨という回避不可能な一撃となる。

 フェルは回避は不可能と一瞬で判断し、前方の空間の【刻】を止めた。時間が停止した空間は絶対無敵の壁となり、散弾をはじく。

 予想していた初手とはいえ、驚きがあった。

 大口径ショットガンの破壊力は知っていたのだが、問題はその威力だ。


「あの威力、初速、アウラのアンチマテリアルライフル並みだぞ」


 俺の知っているクイナの砲撃よりも数段階威力が上だったのだ。


「これが新型、クラウソラスの実力……ううん、クイナの実力」


 クイナは距離をとりつつ、正面に張られた【刻】の防壁を避けるために回り込んでの射撃。

 フェルには強力な遠距離攻撃手段はないと考えて距離を取り、時計回りに高速で動きながら、散弾の雨を降らせている。


「ロロノ、どうやってここまで強いショットガンにしたのか教えてもらっていいか?」

「ん。クラウソラスの魔術付与エンチャントは二つ。一つは今まで通りの【爆裂】。射出後に指向性の【爆裂】が行うことで、弾丸を二段加速させて、反動を増やさずに威力を上げる」

「そこは一緒だな。なら、もう一つは?」

「ただの【硬化】。銃身を固くしてる」


 俺は首をかしげる。

 なぜ、それで威力があがるのだろう?


「今まで、私は勘違いしていた。ツインドライブゴーレムコアを積んだり、火薬を増やしたけど、本来クイナにはそんなもの必要なかった。ただ、クイナが全力の魔力を注いでも壊れない強度を用意するべきだった」


 そこまで言われてようやく見えてきた。


「クラウソラスの弾丸には弾薬がない。クイナの【炎】の魔力を注ぐとそれを爆発力に変換して、クイナの力で弾丸を弾き飛ばす。ただしクイナが本気を出していいように、最高の魔法金属に私の技術を注ぎ込んで、衝撃を逃がすための機構を設けた。それでもクイナの力にオリハルコン合金が耐えきれないから【硬化】の魔術付与エンチャントをした、これでようやく、クイナの全力に耐えられる銃になった」

「すさまじいな」

「本当にすさまじいのはクイナの力。今までクイナに悪いことをしてた。本来、銃というのは、力を補うためのもの。だれでも一定の攻撃力をもてる。それがクイナの枷になっていた。でも、クラウソラスは違う、クイナの全力を攻撃力に変換できる」


 その言葉の通り、クイナは楽しそうだ。

 全力で遊んでも壊れないおもちゃをもらって、はしゃいでいるのだろう。


 しかし、クイナの攻撃が止まった。

 弾切れだ。

 今までのEDSシリーズと同じく、自動装填と弾倉交換できる機能はついているとはいえ、弾倉交換で数秒はロスする。

 その隙を見逃すほどフェルは甘くない。


「やっと、手が止まりやがったです!」


 五メートルほど距離が離れたまま、腰にぶら下げた刀身のない剣を振りかぶった。

 どう見てもとどかない。


 だが、突如光の刃が形成される。クイナは限界まで体を低くして躱す。髪の毛が何本か持っていかれた。追撃でフェルは手首をかえして即座に切り返す。


 柄だけゆえに、重量がほとんどない。

 それは取り回しの速さを意味する。

 そのうえ、剣の弱点である射程の短さが存在しない。光の刃は目測で十メートルを超えていた。


「相変わらずフェルはすごい。あの試作型、光の刃を形成するのがかなり難しい。私でも一秒はかかるし、魔力消費も激しい。それを、あの子は必要なときに一瞬で構築してるし、一瞬だけしか刃を形成しないから魔力消費が極端に少ない。あそこまで使いこなせてもらえると、開発者としてうれしい」


 あれは、もともとアヴァロン・リッターの専用武装として開発していたものだ。

 だが、アヴァロンリッターのツインドライブでも刃の常時形成がおぼつかないほど魔力消費が激しく、かといって刃形成に時間がかかるため、今のフェルのような使い方は夢のまた夢と、倉庫で埃をかぶっていたものだ。


 それをフェルにプレゼントしたのだが、完璧に使いこなしている。

 その光の剣でクイナを追い詰めていく。

 クイナはスキルである【未来予知】と【超反応】のコンボを使うことでかろうじて避けつつ、なんとか弾倉交換を終わらせた。


 そして、たかく跳びつつ、空中から散弾をばらまく。

 フェルが再び【刻】で空間を止めて防ぐ。

 隣で見ていた【刻】の魔王が小さく拍手をした。


「プロケル、いい勝負だね。お互い、必殺の攻撃を持ち、それ以上の回避・防御の技術がある」

「ああ、綱渡りだ。一度のミスで致命傷を負う。それにお互い消耗が激しい。限界はそう遠くない」


 クイナの【未来予知】はひどく神経を使い長時間の使用はできない。

 フェルの【刻】の結界は、魔力消耗が激しいうえ、いかに一瞬の刃の形成とはいえ、光の刃も魔力消耗が激しい武器だ。


 お互い、本気で戦えばいつかは限界がくる。

 だから、俺はこの戦いをミス待ちの消耗戦だと読んだ。

 しかし、それは違うとばかりに【刻】の魔王は笑う。


「……いや、フェルの勝ちだ。フェルは勝負を決めるつもりらしい」


 そう言った瞬間だった。フェルが消えた。

 いきなり、クイナの死角に現れ、すでに光の刃を形成し振りかぶっていた。回避が不可能な間合いとタイミング。


 まさか、あれは自分の【刻】を速めたのか!?

 フェルの主になったことがあるから知っている。


 フェルの【刻】の力が及ぶのは自分を中心に半径一メートルが限界距離。

 離れているクイナの時間を止めることはできないだろう。

 だが、仮に止めるのではなく加速なら? それも自らの時を早めるのなら距離は関係ない。死角へと一瞬で詰め寄ることも可能だ。


「これで、終わりなのです!」


 リングから拾われた声がここまで届いてきた。


「その手は、一度見たの」


 だが、クイナの声には余裕があった。

 光の刃がクイナを捕らえた。


 光の刃の攻撃力は圧倒的。いかにクイナのむちゃくちゃなステータスであろうと、フェルの攻撃力が上乗せされた一撃をもらえば即死。

 しかし、そうはならない。

 クイナが炎を纏っていた。美しい黄金の炎。

 クイナが限界まで炎を高めれば、その炎は黄金になる。


 どこか、いつもの黄金とは違う。

 紅が混じっている。

 それは不完全な黄金の炎という意味ではない。

 自然界の赤ではなく、クイナの魂の色に染められた紅。

 いうならば朱金の炎。


 一度だけ、あの色を見たことがある。

 クイナに名前を与え、初めて【変化】で成長した姿を見せたときに発した炎。

 そうか、これこそがクイナだけの炎、朱金だ。

 フェルが舌打ちして飛びのく。


「光を燃やすなんてめちゃくちゃなのです!」


 そう、あの瞬間、光の刃がクイナの炎に触れて燃やされてしまった。

 ありえない。

 どれだけ高温だろうと、光を燃やすことは物理法則的に不可能だ。

 その正体は……。


「ほう、燃やすという概念そのもの、原初にして至高の炎か。あれを見るのは百年ぶりだね。あいつを思い出すよ。プロケル、君の魔物はすごいな」


【刻】の魔王の言う通りだ。

 燃やすという概念そのもの。だから、物理法則も常識も、なにもかもを無視して、ただすべてを燃やし尽くす。


「フェルちゃん、フェルちゃんの時間加速はこの前の戦いで見て知ってた。でも、クイナの必殺技は初めて見せるからフェアじゃないの。だから、クイナはこの技を教えてあげる」


 朱金の炎をまとったクイナが微笑む。


「この炎はすべてを燃やす炎。だけど、消耗が激しすぎるの。あと一分が限界。それにこの炎はクイナから離れるとただの炎になる。だから、クイナはこうなると、炎を纏って殴り飛ばすしかない」


 強力だが、課題はまだまだ残っているということだ。


「残り一分で、逃げに徹したフェルちゃんを捕まえるのは無理。だから、ロロノちゃんが作ってくれた。これにすべてをかける。この弾丸になら、この炎を込められる」


 そういって、クイナは魔術文字が刻まれた切り札の弾丸をクラウソラスに込める。

 散弾ではなく、一撃の威力を追求したスラッグ弾をベースに造り上げた魔法効果を付与された切り札。


「さあ、勝負なの。フェルちゃん、この一撃を防いだらフェルちゃんの勝ち。逆にこれで仕留めたらクイナの勝ち」


 クイナが獰猛な笑みを浮かべる。

 戦いを全力で楽しんでいる。


「上等。きやがれなのです!」


 フェルもまた笑みで応える。

 フェルは時の結界だけでなく、【未来予知】も持っている。


 その守りは万全と言っていいだろう。

 クイナがクラウソラスを構える。

 クイナを纏う朱金の炎がすべて弾丸に込められた。

 そして、引き金を引く。


 弾丸は見えなかった。すべての魔力を眼に込めて、それでも見えない。あまりにも膨大な魔力によって弾丸の速度が極限まで速まった結果だ。

 フェルの目前で火花がちり、その後に爆音が聞こえた。


「フェルの勝ちです! どれだけすごい弾丸でも、【刻】を止めた空間なら……えっ」


 そこまでだった。

 時が止まった空間を貫き、弾丸はそのままフェルを貫いた。あまりの威力にフェルは原型がないほどに爆散し、燃え尽きる。


 即死だ。

【刻】の魔王の結界が発動し、時間が巻き戻る。

 フェルは自分が死んだ瞬間を覚えているらしく、青ざめた顔で自分の体を抱いている。


「おかしいです。おかしいのです。ちゃんとフェルは時間を止めたです!」


 納得いかないのか、フェルが涙目でクイナを睨みつける。


「簡単なことなの。時間を燃やして貫いたの! クイナは言ったの! クイナの炎は何もかもを燃やすって、そしてその力を弾丸に込めたって」

「時間を燃やすなんてめちゃくちゃしやがるです! でも負けを認めるです。また、こんど勝負しやがるです。こんどこそフェルが勝つから覚悟しやがれです!」

「いいの、楽しみにしてるの!」


 こうして、フェルとクイナの戦いが終わった。

 観客席から最高の勝負を見せてくれた二人へと拍手が巻き起こる。俺も全力で拍手をした。


 これがクイナの必殺技か。

 期待以上だ。

 時間すらも燃やし尽くす必滅の一撃。これを防げるものは誰もいないだろう。

 新たなショットガンと相まって、本当にクイナは強くなった。

 今なら、【狂気化】したデュークにすら勝てるかもしれない。


「ふう、賭けは僕の負けだね。このまえの御礼に今度は僕が夕食をご馳走させてもらう。夕食でも食べながら、賭けに負けたものの義務として、君の質問になんでも答えよう」

「ありがたく呼ばれます」

「質問の内容は、どうせ【黒】の魔王についてだよね」

「ええ、もちろん」


 かつての【刻】の魔王は【黒】の魔王には気をつけろと警告をしてきた。

 その意図をしりたい。

 クイナとフェルがこっちに向かって手を振っている。

 二人に手を振り返す。二人ともいい戦いを見せてくれた。

 さて、晩餐会では【黒】の魔王の情報を集めるだけではなく、二人を思い切り褒めてあげよう。いや三人だ。すばらしいショットガンを作ったロロノも褒めてあげないと可哀そうだ。

 

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