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第十四話:エルダー・ドワーフの実力

 新たな魔物が生まれた。

 Sランクであり、ドワーフの最上位、エルダー・ドワーフ。

 もちろん三体しか選べない【制約の魔物】の候補である。

 見た目は、身長が低くツルペタな銀髪美少女。


「マスター、マスターに工房と金属を要求する。工房は静かな環境がいい。研究に没頭したい」


 生まれたばかりでさっそくの要求だ。

 きつい性格というよりも、一つのことに夢中になって周りが見えないタイプだ。


「一応、聞こう。なんのために?」

「鍛冶師として至高の剣を作るため」


 エルダー・ドワーフは、淡々と告げる。

 鮮やかなアイスブルーの瞳と銀髪が彼女のクールな印象をより強くしていた。


 ドワーフと言っても小柄なだけで、見た目はほとんど人間と変わらない。

 強いて言うならかわいそうなぐらいにぺったんこなところが特徴だ。


「むう、ダメなの。剣を作るんじゃなくて、天狐のショットガンを強くするの!!」


 そこに天狐が割り込んできた。

 手にはレミルトン M870P。彼女は自分の玩具がより強くなることを期待している。


「そんな棒切れにかかわっている時間はない。……いや、待って、それ、面白そう」


 エルダー・ドワーフの目の色が変わる。

 あっと言う間に天狐からレミルトン M870Pを奪い取る。

 ドワーフのスキルに【真理の眼】というものがある。それはありとあらゆるものの性能と構造を見抜く神の眼だ。

 それで、レミルトン M870Pの秘めた力を見抜いたんだろう。


 天狐が油断していたとはいえ、天狐から銃をかすめ取るなんて芸当、彼女自身のスペックの高さがうかがえる。


「ああ、天狐のショットガンを返して!」


 涙目になった天狐を無視して、エルダー・ドワーフは、シャコンっとポンプを動かし装填。

 空に向かって発砲した。


「この、武器面白い。研究のし甲斐がある」


 そして、とてもいい笑顔を浮かべた。

 俺は確信する、ああ、こいつダメな奴だと。


「いいから、返すの! 天狐のショットガンにひどいことしたらだめなの!」

「ひどいこと? それはあなたが現在進行形でしている。この子、手入れがずさんで、傷んでる。このままだと壊れる」

「うっ」


 天狐が言葉に詰まる。

 一応、俺は手入れの仕方を教えたが天狐の手入れは雑だ。定期的に俺も見ているが、最近は天狐にまかせっきりだったと思い出す。


「私がこの子を癒す。そこで見ていて」


 エルダー・ドワーフは、なんと素手でショットガンを部品一つ、一つ単位にまで分解する。

 おそらく、魔法でも使っているのだろう。


 ドワーフのスキルである【白金の錬金術師】は、ありとあらゆる金属を加工・操作する魔法が使えるのだ。


 パーツの一つ一つを洗浄。そして天狐のポシェットに手を突っ込んで、メンテ用のオイルを手に入れると、丁寧に油を塗り、一瞬にして組み立て直す。

 この一連の流れを一〇秒程度でやってのけた。

 さすがは、鍛冶を得意とするドワーフの最上位種族だ。


「これで元気になった。構造も把握した。もう必要ない。返す」


 エルダー・ドワーフは天狐にショットガンを返す。

 相変わらずの無表情だが、どこか上気して満ち足りている。


「ありがとうなの」


 天狐は、戻ってきたショットガンがきれいになったことは素直に認めてお礼を言った。


「礼を言ってもらう必要はない。構造を把握するついでにメンテしただけ。ところであなたは誰?」


 エルダー・ドワーフは今更ながら天狐に問いかける。


「天狐は、天狐なの! おとーさんの娘で、おとーさんの次にえらいの!」


 えっへんと天狐は胸を張った。


「わかった。あなたから恐ろしく強い力を感じる。魔物の筆頭であることを理解した」

「天狐は、エルダー・ドワーフのお姉ちゃんなの。妹は、お姉ちゃんのいう事を聞かないといけないの!」

「把握。魔物の筆頭たるあなたの命令には従う。ただし、私の研究の邪魔になった場合は排除する」

「いい心がけなの!」


 お姉ちゃんぶって、どんどん、調子に乗る天狐と、一見従順に見えつつ、さらっと怖いことを言うエルダー・ドワーフ。

 少し頭が痛くなってきた。


「ねえ、プロケル。君の魔物ってすごいね」

「言わないでくれ」


 マルコが笑いを堪えながら話しかけてくる。

 そんな魔王たちの気持ちも知らずに、俺の魔物たちは盛り上がってる。


「エルちゃんはなかなか、見どころがあるの」

「エルちゃん?」

「エルダー・ドワーフはながいからエルちゃんなの! おとーさんが名前をくれるまでそう呼ぶの! 教えてもないのにショットガンを使って見せたところもすごいの」

「私のスキル【万物の担い手】の力。ありとあらゆる、武器、道具を使いこなせる」


 かなり便利な力だ。俺の【創造】で生み出すもののすべてを使いこなせるのは大きい。

 おそらく、バイクや車等も、エルダー・ドワーフは使いこなせるはずだ。


「その調子で、天狐のために強い武器を作るの!」

「天狐の武器、ほぼ理想形。それ以上強くするには、強い金属が必要。できればミスリルがいい」


 このドワーフ、性格はともかく腕は一流だ。

 さっそく材料さえあれば、今見たばかりのショットガンをより強くできると言い切っている。


「おとーさん、おとーさんの魔法でミスリル出して!」


 天狐が目を輝かせてこちらに来た。

 だが、俺はその期待には応えられない。


「悪い。俺の【創造】は魔力が通っているものは作れない」


 ミスリルは魔力が宿っている。

 そもそも、俺は実物を見たことがない。


「残念なの」

「あっ、それならうちの鉱山エリア使っていいよ。ダンジョンにある鉱山は、魔王の力に比例していい鉱石が手に入る。最強の魔王である私のダンジョンだ。ミスリル、アダマンタイト、運が良ければオリハルコンまで採掘できる。客寄せのために作ったけど、結局不人気で腐らせてるから遠慮することはない」


 そこに助け船が現れた。


「ダンジョンの部屋にはそんなものまであるのか?」

「たいていのものはあるね。君も、エルダー・ドワーフなんて規格外が居るなら、自分でダンジョンを作るときに用意するのもいいかもね」


 それはまじめに検討しよう。

 エルダー・ドワーフの武器生産には必須だ。

 魔王の書で値段を確認すると、五〇〇〇DP。ランクBの魔物五体分。

 十二分に元はとれるだろう。


「じゃあ、堀りに行くか。エルダー・ドワーフの力もみたいし」


 俺がそう言って振り向くと。


「我は命じる。応えよ。土よ。【器人創造】」


 やる気まんまんな顔をした、エルダー・ドワーフが地面に手を当て、魔術を起動していた。


 土が盛り上がり、人の形……いや、身長二メートル程度のがっしりと体付きのゴーレムが生まれる。

 さらに両手をパンと合わせると、手の平に、赤い宝石が出来ていた。


 その赤い宝石をゴーレムの中に差し込む。

 ゴーレムの眼が輝き。動き出した。

 ご丁寧に、石でできたつるはしを持っている。鉱山を掘る気まんまんと言ったところか。


「エルダー・ドワーフ。一応聞くがそれはなんだ?」

「私の魔法。ゴーレムを生み出す【器人創造】。材料にした鉱物の力によって、Fランク~Bランク相当のゴーレムが作れる。この子はただの土だからFランク程度」


 俺はごくりと生唾を呑んだ。


「それは、魔力がある限りいくらでも作れるのか? 稼働時間は?」

「体のほうはいくらでも作れるけど。コアの魔石は一日一回だけしか作れない。稼働時間は無限。周囲のマナを取り込んでいくらでも動く」


 その言葉を聞いて、エルダー・ドワーフの評価を二段階ほど上方補正する。

 スケルトン以上に効率のいい兵力の増加が可能かもしれない。

 

「そのゴーレムはどれほどの知性を獲得できる」

「どこまででも、私のプログラミングした通りに動く」

「天狐の持っていた武器は銃と言うんだが、それを使うことは可能か?」

「サイズ的に無理」


 もともと人間を想定して銃は作られている。

 さすがに、この巨大な指でトリガーは引けないだろう。


「そうか、残念だ」


 俺がそういうと、ただ……とエルダー・ドワーフは続けた。


「材料さえ揃えば、私ならゴーレムの大きさに合わせて改造できる」


 恥ずかしい話だが、少し震えた。

 このサイズと、ゴーレムのパワーがあれば、重機関銃をアサルトライフル感覚で使えるかもしれない。

 ただ、あれは四〇キロ近いからレベルをあげてMPを増やさないと呼び出せない。もう少し後になるだろう。


「何はともあれ、まず鉱山に行こうか。材料を集めないとな。エルダー・ドワーフ。悪いが、二つ頼みたい。材料が集まれば、最優先で天狐のショットガンを強化して欲しい。二つ目だが、毎日必ずゴーレムを一体作ってくれ」

「了解した。マスター」


 エルダー・ドワーフは頷く。

 無感情だが、喜んでいるのがわかる。武器の改良は彼女の趣味なのだろう。


「マスター、紙とペンが欲しい。設計図を起こしたり、強度を含めたさまざまな計算に必要」


 紙とペン。

【創造】で作ることは容易い。

 だが、俺の記憶にはもっといいものがある。


「【万物の担い手】なら、これも使えるはずだよな?」


 俺が【創造】で作ったのは、ノートPCだ。

 エルダー・ドワーフの【万物の担い手】は、ありとあらゆる道具を使いこなすスキル。

 それは電子機器でも変わらないと予想した。

 ついでにガソリン式の発電機も呼び出しておく。

 エルダー・ドワーフは、恐ろしい勢いでノートPCに飛びつき、製図ソフトと計算ソフトを立ち上げて、銃の改良案の設計を始めた。

 やはり、完全に使いこなしてる。


「この道具いい、すごくいい。これがあれば設計の質も効率も跳ね上がる。マスター、あなたは最高のマスター」


 もう、エルダー・ドワーフはノートPCに夢中だ。

 鉱山に行くなんてことは頭から吹き飛んでる。


「しょうがない。エルダー・ドワーフ。ゴーレムを借りる。鉱山での採掘は俺たちでやっておくから、おまえは設計に集中しろ」

「感謝するマスター。これほどのものを前にして、おあずけなんてできるはずがない」


 そうして、エルダー・ドワーフを家に残し、俺たちは鉱山で採掘に明け暮れた。疲れ知らずのスケルトンたちや、ゴーレムの活躍で、ミスリルが相当量とれた。

 これで、天狐のレミルトン M870Pは生まれ変わるだろう。

 

 


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