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第十話:レナード王子との友情と保険

 レナード王子との交渉が終わってほっとした。

 レナード王子には騎士たちと共に宿に戻ってもらった。


 希望者は、この街の最高級の娼館を使ってもてなしている。

 ……意外にも、レナード王子も娼婦を希望した。

 彼には体面があるので、娼館に案内するわけではなく彼の部屋にこっそりと娼婦を派遣した。


 より、アヴァロンを好きになってもらうために、昔アウラがたわむれに作った【邪】の魔王のピンク色のスライムをベースにした媚薬を手配し、さらには今回派遣した娼婦は、サキュバス種の中でも男を喜ばせるのが得意な魔物だ。

 マルコに頼んで、念のため派遣してもらっていた子だ。前回の魔王たちの襲撃のせいで冒険者が減っており、サキュバス種の魔物が男に飢えていることもあって喜んで貸してくれた。

 しばらく、その子たちはアヴァロンで出稼ぎする予定だ


 王子の他にも、発言力がありそうな方にはその子たちを派遣していた。

 いい感じに骨抜きができそうだ。


「うまくいってよかった」


 これで布石は打てた。

 次は、王都への教会を設立して、さらにもう一つ仕込みを行う。

【天啓】が真価を発揮するのはこれからだと言えるだろう。


 黒の魔王のテリトリーに土足で踏み込んで、あいつがおとなしくしているはずがない。

 向こうから接触してくるはずだ。……そこを狙う。


「おとーさん、クイナがんばったの!」

「ああ、よくやってくれた。今日のクイナは素敵なレディだった」

「やー♪」


 そして、今の俺はというと馬車に戻り、ベッドで寝転がりながら今後のことを考えていた。

 その横にはクイナが寝転がっている。

 窮屈なドレスは脱いで、すでにパジャマ姿になっている。クイナが着ているのはお気に入りのペンギンの着ぐるみのようなパジャマで大変愛くるしい。

 成長してから着れなくなっていたが、クイナは新調したようだ。大きくなってもよく似合っている。


「おとーさん、なんで今回はこんな周りくどいことするの?」

「うーん、あんまり人間を殺さないようにするためかな? 【黒】の魔王と真っ向から戦うと、あいつは人間を使って戦争を仕掛けてくるからね。そうなると、こっちは人間たちの大量虐殺をしないといけなくなる。それを避けるには、めんどうな手順が必要なんだ。……それに、こっちのほうがいろいろとお得だしね」


 やりようによっては人間の三大国を同時に敵に回す。

 それでも、勝てなくもない。

 はっきり言えば、人間の国を亡ぼすだけならやつらの主要な都市を片っ端から、暗黒竜グラフロスたちの空爆で焼き尽せばいい。

 街を焼き払うだけでいいのだから楽なものだ。


 思ったよりもDPの貯金が溜まっていたので、グラフロスの【渦】は今二つ用意してある。一日につき二体グラフロスが増員されている。


 そして、【創造】の力を取り戻したことで爆薬の原料も作れるようになったので、レベルが上がり魔力が増した俺は、大量に爆薬の原料を【創造】し、それをスケルトン工場で加工して爆薬のストックも大量にできていた。

 つまるところ、人間相手に勝てる準備は整いつつある。


「人間なんて皆殺しにすればいいの!」

「それはだめだよ。その手段を選べば待っているのは破滅だよ。アヴァロンに人が来なくなるからね。人間の作る美味しい料理も、クイナが着ているような可愛い服も楽しめなくなる。俺は人間と人間の作るものが好きなんだ。好きだから人間を幸せにしてやる。そう、このアヴァロンでね」


 そこを見失ってはいけない。

 人間を殺すのは可能な限り避けるし、信仰を植え付けても洗脳まではしない。

 俺がほしいのは人間であって、人形じゃない。人形になると素晴らしいものを生み出す能力がなくなってしまう。やりすぎないことが重要だ。


 俺の目指すゴールは、魔王と魔物が人間を支配する人間牧場じゃない、魔物と人間がともに笑いあう街なのだ。ちゃんと自分の意志で動いて、幸せになろうと努力する人間が必要だ。

 常に自戒しないと、あっという間に道を踏み外すだろう。


「クイナも、美味しいもの食べたいし、可愛い服が好き! だから、アヴァロンにいる人間たちを守ってあげるの! 人間は弱いから、強いクイナたちが守らないとすぐ死んじゃうの!」

「そうだね。人間は弱い。だからクイナたちが守ってやってくれ。俺は、もっとたくさん人間を集めるように努力するよ。人間はね、集まれば集まるほどすごいことをするんだ」

「今より、たくさんの人間が集まればもっと美味しいものが食べられるの?」

「ああ、もちろん」

「人間はすごいの!」


 食いしん坊なクイナは涎を垂らしている。

 俺は苦笑して口元を拭いてやる。相変わらずクイナは可愛らしい。

 慣れないことをしたせいで疲れたのか、クイナはしばらくおしゃべりすると俺の腕に抱き付いたまま寝息を立て始めた。その姿を見て愛おしさが溢れてくる。人間も大事だが、魔物たちも大事だ。人間も魔物も幸せにしてやりたい。

 さて、明日も頑張ろうか。

 最後の念押しをしないといけない。


 ◇


 朝を迎えた。

 今日は早めに起きて身支度を整える。

 昼過ぎになれば、レナード王子たちは王都へと帰ってしまう。


 その前に最後の交渉がある。

 昨日、今後の計画をレナード王子、そしてその重臣たちと話し合った。

 レナード王子たちは、いくつか時間をかけて考えたい項目があると言っていた。

 俺のほうも、漏れがないか昨日のうちに考えており、交渉方針を考えていた。

 そして、交渉の場となる店に向かった。

 早めの昼食をとりながらの交渉となる。

 約束の時間の三十分前だというのに、もう向こうはそろっていた。


「プロケル殿、早いですね」

「そちらこそ。昨日はいい夜を過ごされましたか?」

「ええ、それはもう。アヴァロンとの親交を結んだ暁には、また来させていただきます」

「気に入っていただけて光栄です。レナード王子ならいつでも歓迎ですよ」


 昨日の報告は魔物たちから聞いている。

 レナード王子は、羽目を外して楽しまれたそうだ。よほど城では禁欲的な生活を送っていたらしい。この機会に羽目を外してしまうのも無理はない。

 そんな彼がサキュバス種とドラッグセックスをしたものだから、完全に骨抜きになっている。かわいそうに、もう普通のセックスでは満足できないだろう。


「余ばかり歓迎してもらっては悪い。今度はプロケル殿を王都に招待したい」

「それは素晴らしいですね。聖杯クリス教が認められたら私も王都に参らせていただきます」


 そちらのほうが無駄がなくていい。

 併せて視察を行える。


「ああ、楽しみにしておいてくれ。新たな友人であるプロケル殿を全力でもてなそう。……それから、昨日いろいろと考えたのだが二つばかり条件をつけさせてほしい。一つ、聖杯クリス教をこの目で見たい。我が国にふさわしい教えなのかを知りたいのだ。そうでないと、我が民に広めていいかわからない。プロケル殿が差し出してくれる莫大な資金援助も、停戦の仲介も、ゴーレムもすべて手に入れたい。だが、我が目でその宗教の本質を見ないと民には勧められないのだ。そこは理解してほしい」


 俺は小さく笑みを作る。

 いい王子様じゃないか。

 ちゃんと、民のことを考えている。そして、その提案は非常に都合がいい。


「では、帰る前に我が聖杯クリス教の礼拝に参加してください。その様子を見れば、きっと納得してもらえるでしょう」

「かたじけない」


 突発だが、礼拝を行おう。

 手間が省けて助かった。どうやって王子を礼拝に引きずりだそうかと昨日は頭を巡らせていたのだ。


「もう一つ、【竜】の魔王と余も合わせてほしい」

「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「……今回の戦争、余の国は大きな傷を負った。だが、【竜】の魔王殿にとっては一方的に喧嘩を売られたからやり返しただけにすぎん。国の代表として、余が頭を下げねばならんのだ」


 ますます、驚きが大きくなる。

 こういう発想が王族から出るとは思わなかった。

 彼のことが気に入ってしまった。


「そういうことなら喜んで。ですが、あなたは第三王子だ。そういうことは王、もしくは第一王子、第二王子がやるべきでは?」

「父上も兄上たちも頭が固いのだ」


 顔を曇らせる。

 それを見て少し不安になる。


「プロケル殿、心配しなくてもよい。我が責任をもって父上も兄上たちも説得する。幸い余は今までの功績と国民の人気がある故、父上たちも無視ができん。そして、今回は余のほうに理がある。アクセラ王国を救うためにはこれしかないとわかってもらえるさ」


 ……さて、どうしたものか。

 レナード王子は、そう言っているが不安はぬぐいきれない。

 説得ができるか怪しいし、最悪レナード王子が謀殺される。


 見張りをつけて、レナード王子を守り、もしもの場合は逆に王とレナード王子の兄たちを始末する必要がある。レナード王子がトップにいてくれたほうがいろいろと動きやすいのは確実だ。


『ルル、聞こえるか』


 水の入ったイヤリングに思念を送る。

 ルルは水を通じて、異空間とやり取りができる。


『聞こえてるよ。パトロン』

『おまえに任務を与える。王都に教会の設置が完了するまでレナード王子を全力で守れ。おおよそ二週間ほどだな。おまえなら異空間から守れるだろう』

『げっ、まさかの長期単身赴任の二十四時間勤務!? ぶーぶー、出張手当と、残業手当、深夜割増手当を要求する!』


 いったいルルはどこからそんな言葉を覚えてきたのか。


『ああ、全部ちゃんと支給してやる。それに、戻ってきたら名前を与えよう。……頼む、アヴァロンの命運がかかっているんだ。バックアップにオーシャン・シンガーを二体付ける。武装はロロノの作った新型アサルト・ライフルを支給する。ようやく諜報部隊全員にいきわたる数がそろった』

『おっ、さすがロロノちゃんだ。仕事が早いね。でも、相手が相手だし、それでも不安かな?』

『他にも、修復が完了したアヴァロン・リッター五機、それもバーストドライブ搭載型を王都の郊外に埋めておく。ルルとオーシャン・シンガーたちにはロロノが開発した発信機を渡しておく。それを起動させれば即座にアヴァロン・リッターが救援に来る』


 ロロノは今もデスマーチをずっと続けてくれている。

 おかげで、ルルが熱望していたアサルト・ライフルのEDモデルは十分な数が出そろい、アヴァロン・リッターも十機の修復が完了していた。

 そのうち五機を王都に待機させ非常用の戦力にする。

 それだけの戦力を割いてでも、レナード王子には守る価値がある。


『りょーかい。まあ、僕にバックアップがつけば、アヴァロン・リッターが到着するまでの時間稼ぎぐらいはできるか。バーストドライブを発動したアヴァロン・リッター五機でどうにもならないのが来ることはまずないしね。……ちょっと礼拝が不安だけど、そっちは僕の部下たちならうまくやるか。よし! じゃあ、ルルちゃん、長期出張行ってきます!』

『いつも貧乏くじを引かせてすまない。次の【創造】のメダルは必ずそっちの戦力を補強するために使う。そして、名付けが遅れて悪かった』

『ん、それはいいよ。この状況でのんきに僕に名前を付けるぼんくらだったら、そっちのが心配だからね。今日の突発の礼拝、パトロンも聞くんだよね?』

『ああ、もちろん』

『じゃあ、気合いれますか。僕の歌が聞けなくなることを後悔させるぐらいの歌をね』


 ルルとの通信が切れる。

 あいつには甘えっぱなしだ。

 ちゃんと報いてやらないと。


「プロケル殿、どうかされましたか?」

「いえ、なんでもないです。少し考えごとをしていました。それでは早速、礼拝に向かいましょうか」

「ええ、そうしていただけるとありがたいです」


 俺たちは立ち上がり握手をする。

 そして、教会に行った。

 そこでは、通常の礼拝の手順をなぞる。


 聖水という名の、【神の微笑】入りのワインを口にし、ルルたちの愛と平和と隣人愛、そして神であるプロケルをあがめる歌に身をゆだねる。


 それが終われば、俺の説法だ。聖杯クリス教の教えを説く。

 すべてが終わると、レナード王子の目からボロボロと涙がこぼれた。


「すばらしい教えだ。愛と平和、それに人種どころか、種族の壁を超えた隣人愛、これはぜひとも我が国にも広めたい。プロケル殿、疑ってすまなかった! 余もさっそく信者となり、プロケル殿の理想を広めていきたい!」

「ええ、理解してもらえてうれしいです。この理想を広めるため、そしてアクセラ王国とアヴァロンの発展、なにより私たちの友情のために手を取り合っていきましょう」

「ああ、もちろんだ!」


 レナード王子と手を取り合う。

 彼の取り巻きたちも、すっかり聖杯クリス教に染まってくれた。

 王都の最初の信者を得られた瞬間だった。

 俺は思わずにやりと笑ってしまった。


 ◇


 それから、少し話をして彼らを見送った。

 今回の交渉は大成功だったと言える。目的をすべて果たしつつ、理想的な友好関係を築けた。

 異空間を泳ぐルルたちがそれを追いかける。


 さてと、やるべきことはやった。

 今週末の礼拝をルル抜きでやるのは、少し不安だが彼女が鍛えた諜報部隊が残っている。なんとかなるだろう。

 そして、これからすることは戦力の充実だ。


【黒】の魔王とは必ずどこかでぶつかり合う。

 切り札たる最強の爆弾MOABの製造はおそらく間に合わない。地力を上げる必要がある。

 そうだな。まずは、クイナの必殺技をこの目で見よう。それがどれほど強力なものかを確認したい。

 そうだ、今度フェルが来たときに、【刻】の闘技場に一緒についていこう。

 完璧に思えるフェルの【刻】の力を破るその力、ぜひ目に焼き付けたい。


「クイナのことだ。きっとすごい必殺技を完成させているだろうな」


 今から、クイナの必殺技を見るのが楽しみになっていた。

 馬車にもどったら早速クイナに話してみよう。

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