第十三話:エルダー・ドワーフ
次の朝になった。
天狐が俺の腕に抱き着いて眠っていた。昨日の約束からよりいっそう懐いてくれたように思える。
天狐は子供っぽいパジャマを着ている。【創造】で作ったものだ。よく似合っていて大変可愛らしい。
「おとーさん。大好き」ふ
寝言でかわいいことを言ってくれる。
ほほを指でつく。ぷにぷにもちもちとしていて気持ちいい。次はキツネ耳を軽くつまむ。表面の柔らかい毛と、くにくにとした耳の感触。これもたまらない。
これは俺の日課だ。
たっぷりと天狐を楽しんだ後、体を起こす。
すると、天狐も起きた。目をごしごしこすり、寝ぼけながらにまーっとした笑顔を浮かべ……。
「おはよう。おとーさん」
そう言った。
こういう何気ない仕草がたまらなく愛おしい。
天狐が体を寄せてきてもふもふ尻尾を擦り付けてくる。
「おはよう。天狐」
俺は返事をしながら、次に生まれる子も天狐のような素敵な子だといいのにと祈っていた。
◇
「でっ、どうしてマルコがここに居る?」
新しい魔物を生み出す際、何かの手違いで巨大な魔物や危険な魔物が生まれるかもしれない。
それに備えるために開けた場所に出るとマルコとサキュバスが居た。
それも妙に立派な、机と椅子を並べて優雅なティータイムを満喫している。
「君がそろそろ新しい魔物を作るころだと聞いてね」
「聞いたからと言って、見にくる理由にはならないだろう」
「なるよ、Sランクの魔物なんて最高の娯楽、この人生に飽き飽きした大魔王マルコシアス様が見逃すはずがない」
それを人は野次馬という。
魔王として正しい反応をするなら、自分の手の内を隠すために魔物の情報は見せるべきではないだろう。
だが、これだけ世話になっているマルコ相手に隠し事をする気にはなれない。
「好きにしてくれ」
「うん、好きにする。一月後には【夜会】だからね。ここで幹部をもう一体作っておくのは私も賛成だな」
自分の表情が引きつるのを感じた。
「なんだ夜会って?」
そういえば、初めて【紅蓮窟】に行く日にマルコが何かを言いかけていたのを思い出した。
「魔王たちの集会だよ。全ての魔王が一同に集まるんだ。今回の主役は君たちだね。もっとも新しい十体の魔王である君たちの顔見せをやるんだ」
やっぱりそうか。
他の魔王が一堂に集まる機会。こんな”美味しい”話。絶対に無駄にはできない。
オリジナルメダルを得るいい機会だ。
ずっと、俺は考えていたことがある。他の魔王とあったときオリジナルメダルを得る方法をだ。
例えば、【創造】で作れる物の中に他の魔王がオリジナルメダルと交換してでも欲しいものがあるのではないか?
また、自分のメダルのランクがAの魔王ならともかく、メダルのランクがBの魔王ならBランクの魔物を生み出すのがせいぜいのはずだ。そいつらになら、イミテートで作ったBランク複数枚との交換をもちかけられるのではないか?
そういった案がいくつかある。
なにせ、今回のドワーフの合成ですべてのオリジナルメダルを使い切る。【誓約の魔物】を三体揃えるためには最低一枚のオリジナルメダルを手に入れておきたい。
「そういうことはもっと早く言って欲しかった」
「ごめんごめん、いや私も忘れていてね。一度は言おうとしたんだけどね。ほら、初めて【紅蓮窟】に行くときにさ」
それを言われると辛い。
俺もちゃんと聞いておくべきだった。
「わかった。そのことはもういい」
「いやにものわかりがいいな」
「マルコが俺の味方だってことはわかってるからな」
俺の言葉を聞いてマルコは微笑を浮かべる。
心を見透かされているようだ。
「雑談はこれぐらいにさせてもらう。今から俺は魔物を作る」
強く宣言して精神を集中する。
マルコも天狐もこちらを見ている。
マルコの目には期待が、天狐の目には期待と少しの不安があった。俺を新しい魔物にとられてしまうという不安が消えていないんだろう。
俺は苦笑しつつも、魔物作りを始める。
魔物を作る第一ステップ。
「【流出】」
力ある言葉を呟くと手に熱がこもり、【創造】のメダルが生まれる。俺の力の象徴。
次だ。
DPを使い、【人】のイミテートメダルを入手。本来Aランクの【人】のランクが下がり、Bランクとして顕現。
さらに、マルコからもらった【土】を取り出す。
手の平に【人】、【土】、【創造】。三つのメダルがそろう。
それらを強く握りしめる。
さあ、はじめよう。
「【合成】」
握りしめた拳に光が満ちる。
手を開くと、光が漏れ、光の中にシルエットできた。
【土】のオリジナルメダルと【人】が一つになり方向性が決まっていく。
そこに【創造】の力が働く。
俺が望むのは【錬金】。
この世の理を知り、その先に行くもの。
土と炎と共に歩むもの。
【土】と【人】だけでは持ちえない、深い知識と知性を得て魔物が生まれる。
その道筋を俺が導く。
すべてランクAのメダルを使った天狐のときとは違い、この子にはランクSになる可能性も、ランクAになる可能性もある。
ランクSの可能性を引き寄せていく。
さらに、レベルは固定ではなく成長できる変動を選択。レベル上限があがるし、同レベルになったさい変動のほうが強くなる。
よし、完璧。
あとは、生まれるのを待つだけ。
光の中のシルエットが濃くなる。
魔物の心臓の音が聞こえてくる。
よし、完成だ。
光が止み、新たな魔物が生まれた。
「マスター。はじめまして」
魔物は無機質な声音で話しかける。
見た目は美少女だ。
銀色の髪、身長が百四十にも届かないような凹凸がなく可憐な肉体。だが、アイスブルーの目からは確かな知性を感じる。
「はじめまして。俺が君を生み出した魔王。【創造】の魔王プロケル。早速で悪いが君の種族を教えてほしい」
「イエス。マスター。私はエルダー・ドワーフ。ドワーフの到達点。星の叡智を持ち、万物を使いこなし、至高の武具を生み出すもの」
淡々と、エルダー・ドワーフは言葉を連ねる。
クールな見た目に削ぐわない声音と口調だ。
彼女のステータスを見る。
種族:エルダー・ドワーフ Sランク
名前:未設定
レベル:1
筋力A+ 耐久S 敏捷C 魔力A 幸運B 特殊S
スキル:星の叡智 万物の担い手 白金の錬金術師 剛力無双 真理の眼
天狐に比べればステータスは低いが、十分高水準。
特筆すべきはスキル。
どれも鍛冶に必要なものが揃ってる。
特に、星の叡智と、万物の担い手のスキルは規格外と言っていい。なにより、【創造】との相性が最高だ。
俺の望んだとおりの魔物。いや、望んだ以上の魔物だ。
「期待しているぞ、エルダー・ドワーフ」
「マスター、よろしく。マスターに材料を揃える甲斐性があるなら、私は最高の武具を作り続ける」
しっかりと握手をする。
これから、彼女が居れば俺の【創造】で生み出した武器は飛躍的に強くなるだろう。
「また可愛い少女。プロケルって、【創造】の魔王じゃなくて【ロリ】の魔王じゃないかな」
背後からひどく失礼な言葉が聞こえたが、きっと気のせいだ。