第十九話:【刃】の魔王の意地
アウラの狙撃によって【刃】の魔王の足を吹き飛ばし動けなくしてから脅しをかけた。
指一本でも動かせば殺すし、降伏すれば殺す。
やつが降伏することで戦争が終わってしまえば創造主によって、【転移】させられ逃げられる。その前に聞きたいことがある。
【刃】の魔王単体で、【鬼】の魔王を殺して魔物たちを奪うなんて芸当ができるはずもない。そして、【黒】の魔王が接触してきたタイミングと、やつがストラスを人質にしようとしたことを考えると、背後にいるのは【黒】の魔王だ。
その裏を取り、可能な限り情報を引き出したい。
やりようによっては、【黒】の魔王を追い詰めるための切り札を得られるかもしれない。
俺は、アウラとデュークを伴って倒れ、必死に止血する【刃】の魔王のところに向かっていく。
歩きながら、デュークに話しかける。
「デューク、おまえのアンデッド軍団。なかなかのものだ。今後も期待する」
「はっ、期待に添えるようにさらなる努力を重ねてまいります」
「これで、ようやくアヴァロンの軍に質だけでなく数が揃ったな。攻めであれば一騎当千の最強が輝くが、守りの戦いだと数が重要になる。アンデッド軍団を戦力として計算できるのは大きいぞ」
デュークのアンデッド軍団を本格的に運用したのは初めてだ。
アヴァロンはクイナのような特級戦力、エンシェントエルフ率いるスナイプ部隊、ルルイエ・ディーヴァの諜報部隊といった特殊部隊の他に三つの部隊を主力として考えている。
一つ目は、エルダー・ドワーフのロロノ率いる、アヴァロンリッターを筆頭としたゴーレム部隊。
アヴァロンリッターは短時間かつ使い捨てにすることを覚悟すればAランク最上位からSランク下位ぐらいの力が出せる。他にもBランク並みの力をもち重火器を装備するミスリルゴーレムが大量にいるのも心強い。何より、兵を消耗しても構わないので使い捨てにできるというのは他にはない利点だ。
マルコの救出戦で壊滅していたが、ゴーレムコアは回収しているので順調に戦力が戻ってきている。
二つ目は、暗黒竜グラフロスによって構成される空爆部隊。
強力な爆弾を上空から放つことにより、対空手段を持たない敵に対して一方的に大打撃を与えられるし、一体一体がBランク最上位の強さを持っているので空中での格闘戦にも強く、自力で制空権をとることもできる。
さらには、コンテナを使い戦力を輸送することにも秀でている。全員がDPで買えるBランクということがあり、戦力の補充が容易いというのも大きな魅力だ。
最近になって、ようやく【渦】を変えるだけのDPが溜まったので、まずは暗黒竜グラフロスの【渦】を購入しようと考えている。【渦】は魔物の購入の百倍の値段がするが、一日一体魔物を生み出す。三か月ちょっとで元が取れるので大変お得だ。賢狼マーナガルムになったマルコの二ランク下の魔物にも期待していたが、マーナガルムは完全にイレギュラーの魔物で、同系列の魔物が存在しない。であれば、【渦】を購入するのは暗黒竜グラフロス一択だろう。
最後にアンデッド軍団。
デュークの【強化蘇生】によって蘇らせ、支配をしている魔物と人間によって構成された軍団だ。
ここには数も質も揃っている。人間との戦争で得た人工英雄たち、マルコの救出戦で倒した魔物の中から選りすぐりのものを選んだ精鋭、そして今回のストラスの【戦争】で手に入れた【鬼】の魔物。
【強化蘇生】された魔物たちは生前より強くなる。Aランク相当のものだけで五十体以上存在する破格の戦力を持ち、さらにデュークのスキルによって、アンデッド属性をもつ彼らは強化される。
今のところ、この三部隊で大抵の相手は完封できるだろうし、ゴーレムは次々生み出され、暗黒竜グラフロスは【渦】によって数を増し、アンデッドは戦いのたびに得ることができる。
この三部隊は時間と共に戦力を増していく。だからこその主力だ。
考え事をしているうちに、【刃】の魔王の眼前までたどり着いた。
「【刃】の魔王、魔物に俺たちを襲わせないところを見ると、話しに応じるつもりはあるらしいな」
「……そうだ。だから殺さないでくれよ。知っていることは全部話す。それと、その呼び方は止めろ。俺はサブナックだ」
意外に素直だ。
観戦していたときの様子から見て、もっと感情的で全滅するまで戦うことを選ぶと思っていた。
「悪かったな、サブナック、おまえの背後にいるのは誰だ。誰が【鬼】の魔王から魔物を奪う手引きをした?」
【刃】の魔王は押し黙り拳をぎゅっと握る。
「そのまえに、一つだけ言わせてくれよ。……なんなんだよ!? おまえは!! どうして俺と同じ新しい魔王なのにここまで違う!? おかしいだろう。生まれたときから、どれだけの差があるんだ! こんなの不公平だ、チート野郎!」
そう言って、彼は俺をにらみつける。
そのことについては否定しない。俺の【創造】は他と比べても優れたメダルであり、能力も汎用性がひどく高い。
「そうだな。俺は恵まれている。それで、俺を怒鳴って気が済んだか? 気が済んだなら本題に戻ろう。暇じゃないんだ」
敗者の戯言に付き合っている時間はない。
手札が劣っているなら、劣っているなりにやるべきことをするべきだ。
そういう意味では、ストラスに勝つために他の魔王の力を借りるのも一つの手ではある。【刃】の魔王の、その点は評価していた。絶望的な戦いに無策に挑んで玉砕する魔王よりは見どころがある。
【刃】の魔王は怒りに顔を赤くし、うつむいた。
「……はは、俺のことなんか眼中にねえってのか。いいさ、話してやる。俺に話を持ち掛けたのは」
そこまでだった。
急に【刃】の魔王の顔が赤くなり、膨らんでいく。
これは、まさか!?
「アウラ、止められるか」
「無理です。変な魔力が体内で膨らんで、これは外からじゃ」
【刃】の魔王が口から血を吐き出す。
喉が潰れていた。もう声は出せない。
このままでは遠からず死ぬ。
そんな状況で彼は笑った。そして、自分の血で文字を書き……息絶えた。
話を聞き出す前に、死んでしまった。
くそっ。口止めか。
おそらく、黒幕のことを話そうとした瞬間に命を絶つように仕向けられていた。
これで手がかりを一つなくした。
「我が君、申し訳ございません。こうなることを予測出来ておりませんでした」
「いや、デュークは悪くない。予想できていたとしても防げる類のものでもない。……まったくやってくれる。下種が」
【黒】の魔王が黒幕としても二日後、彼と会う約束がある。そこで探りを入れることができる。
正直、ここで奴が黒幕だと確定できなかったのは痛い。ここまでやるとは。ある意味、そこまでやつ相手だとわかったことは収穫だ。
いや……。
「最後の意地か。ストラスに対する暴言は許せないが、骨がある男だと言うことは認めてやる。安らかに眠れ」
【刃】の魔王は死の間際。残された時間で黒幕の名を血文字で残した。
彼は自分を利用するだけ利用し、さらには口止めのために命を奪った奴へ一矢報いるために死力を尽くした。
ストラスとの【戦争】に横やりを入れた俺に頼るほど、深く恨んでいるようだ。
いいだろう。おまえの無念を晴らしてやろう。
息を吸い込む。そして、声を張り上げる。
「これより、【戦争】を終わらせる」
【戦争】の勝利条件は、魔王の降伏。もしくは【水晶】の破壊だ。魔王が死んだところで戦いは終わらない。
一刻もはやくこの【戦争】を終わらせ、黒幕の喉に刃を突き付けるとしよう。