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第十四話:【竜帝】のエール

 ストラスの【戦争】が始まった。

 普通であれば、負けるはずのない戦い。

 相手はBランクメダルの保持者でありAランクメダルのストラスが有利だ。


 だが、そのもくろみは外れる。

【戦争】開始直後に、十体のAランクの魔物の襲撃があった。

 ストラスはそれを食い止めようと切り札である【狂気化】能力をもつAランクの魔物、エメラルドドラゴンをしょっぱなから出した。


 一時は盛り返したものの、さらに十体のAランクの魔物が増援として現れ、一方的に蹂躙された。

 今、ストラスは消滅寸前にまで追い込まれたエメラルドドラゴンを【収納】し、後退している。


「いい判断だ。この戦力差なら地の利を活かさないと勝ち目がない」


 浅い階層は、冒険者に気持ちよく狩りをしてもらうために戦いやすいフロアになっている。いわゆる接待フロアだ。

 だからこそ、ストラスは、彼女の魔物の本領がいきるフィールドまで後退するつもりだ。

 とはいえ、敵の戦力もあなどれない。逃げるだけでも命がけだ。ストラスは【風】の力と魔物の力を駆使し、ダンジョンの罠まで活用しながら必死に時間を稼いで撤退戦を行っていた。


 そろそろストラスに連絡をとろう。

 ここには、ストラスと連絡を取るための魔物なんて気の利いたものはいない。自身のダンジョン内であれば、魔王の力で最高十体までに魔王との通信ができる能力を授けられるのだが、水晶の部屋には配置してくれなかったようだ。


 なら、自分でなんとかしないといけない。

【収納】していたアウラとデュークを呼び出す。


「ふう、やっと出られました。【収納】って苦手なんですよね。こう、体の時間は止まっているけど心だけは動いているっていう感覚が鳥肌ものです」

「この独特の感覚はなかなか慣れませんな」


 俺の【誓約の魔物】にして、切り札たち。

 Sランクのエンシェント・エルフであるアウラ。

 そして、【狂気化】込みであればアヴァロンの最高戦力である、黒死竜ジークヴルムのデュークが現れた。


「悪かったな。【収納】嫌いなのに無理を言って」

「いえ、ご主人様の頼みですし、それに……一番【収納】ぎらいな子が最後には覚悟を決めましたしね。私もわがままは言ってられません」

「我が君のためなら、マグマの風呂にだって飛び込みましょうぞ」


 本当のぎりぎりまで、あの子は悩み。そして俺を見送りに来て手を振ったあと、グリフォンに飛び乗り一緒に行くと言い出した。

 その勇気はとても嬉しかった。


「さっそくだが、アウラに頼みがある。おまえの風をストラスに届けられるか」

「音を届けるのは無理ですが、意思を込めた風ならなんとか届けられます。私の風は世界を渡る。……ただ、風に込めた意思が伝わるかは受け手しだいですね」

「なら、大丈夫だ。あいては【風】の魔王だぞ」


 ストラスは風のエキスパート。

 届きさえすれば、あとはどうにかなる。


「愚問でしたね。さて、私の親でもありますし、気合を入れていきましょう」


 エンシェント・エルフだけが持つ、世界最高峰の魔眼、【翡翠眼】が輝き、翡翠色の風が吹き荒れる。

 本来、魔王のダンジョンというのはフロアごとに異なる異界だ。


 基本的には、フロアをまたぐ魔法というのは非常に難しい。

 例外はいくつかあって、距離や時間を関係なく届く能力。

 俺が借り受けていたラーゼグリフのローゼリッテのテレパシー能力をチートだと思った点はそこにある。

 俺の【創造】で通信機は作れても、電波がフロア間を渡れないので、フロア内でしか通信ができない。


「では、メッセージを届けます。ご主人様、届ける言葉を教えてください」


 吹き荒れていた翡翠色の風が外に向かって流れていく。


「敵の背後に黒幕がいる。加勢する用意がある。俺の加勢を躊躇うことはない。敵も同じことをしている」


 俺が加勢すれば、この状況を覆すことは用意だ。

 たかが、Aランクの十体や二十体恐れる必要はない。


 三対一での【戦争】、人間の街との争い、マルコの救出戦。それらで莫大な経験値を得た【誓約】の魔物をはじめとする精鋭たちはSランクにふさわしいレベルに到達している。それにより、本来の力とスキルを取り戻していた。


 今の俺の魔物たちなら、変動レベルで生み出されたAランクの魔物すら歯牙にもかけないだろう。


「かしこまりました。では、その意思を風に乗せて届けます」


 風が外へ流れていく。

 この風は、ただの物理現象ではない。時間も距離も何もかもを飛び越える翡翠の風。


 アウラのいう通り、音を運んでいるわけではないので風を読む力が必要だが、ストラスなら届くだろう。


「アウラ、風を届かせるのはいいが相手の返信はどうする」

「風を循環させてます。頭のいい人なら、私の風に自分の意思を乗せるはず……来ました! 読み取ります」


 アウラはそう言って目をつぶる。

 水晶を見ると、ストラスは犠牲を出しながらも第二階層の第二フロアにまで来ていた。


 そこは、渓谷だ。細い足場、少しでも踏み外せば真っ逆さま。

 どこまでも突き抜ける青空。

 つまり、ストラスの魔物にとって有利な戦場。

 ストラスはそこで反転し、迎え撃つ構えだ。


「ご主人様、ストラス様からの言葉を伝えます。気持ちはうれしい、でも相手がずるしたとしても、これは私の【戦争】。もう少しがんばってみる。あなたが思っているほど、私は弱くない」


 その言葉は想定外だった。

 ストラスは、あくまで自分の力で戦うと言っている。

 これだけ、絶望的な状況でだ。


「ふっ、あははは。そうか、面白い。俺はストラスを見くびっていたのかもな。なら、もう少し応援させてもらおうか」


 彼女はこの戦力差で勝つ気だ。

 彼女がそういう以上、ただの強がりではなく本当に勝算があるのだろう。


「アウラ、『わかった見守っておこう。だが、近くでだ』と伝えてくれ」

「かしこまりました。ちゃんと伝えますね」


 風はまだ循環している。それを使ってアウラが新たなメッセージを送る。

 ストラスの誇りを傷つけるつもりはない。大量のAランクの魔物以外にも敵が手を打っている可能性がある。助けられる位置に移動したほうが都合がいい。

 

「今から、アウラ、デューク。俺たちもストラスのところに向おう。ストラスの位置を見失わないようにしてくれ」


 アウラがうなづく。

 この部屋を出れば水晶の力に頼れない。アウラの風だけがストラスを見失わないための道しるべだ。

 

【収納】から、もっとも信頼できる一体を呼び出し、水晶の防衛を命じた。

 これで、この水晶が砕かれることはないだろう。

 俺とアウラはストラスの返事を待たずに水晶の部屋を後にした。

 ストラスの雄姿、特等席で見守らせてもらおう。

 デュークが突然立ち止まる。


「どうかしたのか、デューク」

「幼い竜が泣いています。無力を呪い、必死に大事な人を守りたいと願う、切ない……だが真摯で懸命な声。レベルが上がり、【竜帝】として目覚めたから、空間を超えて繋がったのでしょうな。胸が締め付けられる。これは私が我が君に抱く想いと同じだ。捨ておけません。少しだけ、竜なりの応援エールを贈ります」


 デュークはほんの一瞬だけ【狂気化】を発動し、真の姿に戻ってまで限界を超える魔力と竜の気を高めた。

 そして、すさまじい力を放出する。アウラですら、冷や汗が流れている。

 俺には何をしたかはわからない。

 ただ、デュークは竜人形態に戻り満足そうに微笑む。

 彼があえて話さないなら、それなりの理由があるのだろう。

 俺たちは、再び足を早めてストラスのところに向かった。

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