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第二十話:マルコとの再会

 多少のトラブルはあったものの、なんとか敵の本陣を殲滅できた。

 楽な戦いのように見えてMOABが通用しなければその時点で詰むという、綱渡りの状況だった。


「MOABは作り直さないと……アヴァロンの最後の守りだ。性能も申し分がないことがわかったし、量産できれば言うことはないのだが」


 もともと、大規模爆風爆弾兵器であるMOABはアヴァロンの最終防衛兵器として用意していた。

 最後の部屋は限界まで時間稼ぎをして敵を呼び込みMOABを起爆しフロアにいるすべてを灰燼にしてしまうという運用を考えていた。

 それならどんな強力な敵が現れても突破されることはないし、俺の魔物は爆破する直前で逃げれるような工夫もある。


 一つ作るのに、一か月以上かかるということもありテストすらできなかったが、ぶっつけ本番でうまく行ったのは僥倖ぎょうこうだ。

 それはいい、それはいいのだが。一つ問題があった。


「ご主人様、フェル、がんばったです」


 さきほどから、天狼のフェルシアスは俺にべったりくっついている。

 これ見よがしに撫でて撫でてと頭を見せつけてくるものだから、お望み通り撫でてやると目を細める。

 恐ろしくなつかれたものだ。


 俺が【覚醒】している間に何があったかは、ワイトに聞いている。我を失った俺は、あろうことかフェルの尻尾を思う存分もみしだいて口づけまでしたあげく、もっとすごいことをするなんてことを言ってしまったらしい。


 フェルにしっかり謝ろう。彼女に償いをしないと。

【刻】の魔王に知られれば問題になる。いや、たとえ問題にされなかったとしても、信じて預けてもらったフェルに手を出したのは人として最低だ。会わせる顔がない。


「フェル、その、さっきのことだが」

「ご褒美、楽しみです。二人っきりでたっぷり可愛がってです。……ご主人様が望むなら、みんなのまえでも我慢するです。それはそれで……」


 嫌がってない。

 むしろ、期待されている。

 別の意味で困る。


「フェル、楽しみにしておいてくれ」

「わかったです。えへへ」


 腕に絡みついてきて、尻尾を振る。

 とりあえず、時間はできたのであとの対処を考えよう。


「むう、おとーさん。クイナも頑張ってるの」

「同感、フェルだけにご褒美はずるい」

「ですね。私たちも、そのすごいこととやらをしてもらってもいいかもしれません」


 天狐のクイナ、エルダー・ドワーフのロロノ、エンシェント・エルフのアウラが近づいて来て不満を言う。

 ……愛しい娘たちは、すごいことの意味がわかっているのだろうか。


「もちろん、みんなにはご褒美をあげるつもりだよ」


 そう言うと、わーいとみんなで喜び合う。

 ただ、ロロノが少しだけ不満そうな顔だ。


「ロロノには、ちゃんと新兵器をがんばって作ってくれた分の特別なご褒美は別に用意するから拗ねないでくれ」

「……別に拗ねてない。でも、ありがとう父さん」


 ロロノがフェルに絡みつかれていない左手の裾を握る。

 この子は、クールなようにふるまっているがずいぶんとわかりやすい。

 ちなみに今は、後方部隊の合流を待っていた。

 無駄話のために時間をロスしたりはしない。


 たわいない雑談をしている間に前の階層にいた俺の軍勢が追いついてきてくれた。

 さあ、行こう。

 おそらく最後の戦いだ。

 第二フロアではマルコの軍勢と敵の魔王の軍勢の総力戦が行われているはずだ。


 ◇


 第二フロアに侵入する前に、能力向上系のスキルと魔術をすべて使って短期決戦に備える。

【風】の魔王ストラスから預かっているラーゼグリフの全軍強化能力、ワイトのアンデッド強化。


 各個人が持っている力。

 そのすべてのリソースを注ぎ込む。 

 もう、温存する意味はない。ここですべてをぶちまけよう。


 そして、踏み出す。

 そこでは激しい戦いが繰り広げられていた。死にもの狂いで、旧い魔王たちの軍勢が無謀にも見えるような突撃を繰り返している。

 もう後がない悲壮感がうかがえた。


 無理もない。もう、戻るべき陣はない。補給は受けれない。援軍は来ない。退路もない。

 ここでマルコの軍勢を突破して、水晶を砕かねば終わりだ。

 だが、そんな無策な突撃を許すほどマルコの軍勢は甘くない。


 マルコのメダルは【獣】。

 その特徴は、高い身体能力とヴァリエーション豊かな能力を持った魔物を生み出せること。何より群れとしての強さを持つということだ。


 展開した数百の魔物たちが完全に統率された行動をとり、細かな変更にも柔軟に対応する。

 個々の魔物の能力が【刻】や【竜】に劣ろうとも、群体でみれば勝る。それこそがマルコの【獣】だ。


【獣】のメダル自体に、群れとしての運用しやすい魔物を生み出す力があるが、マルコの魔王としての器の大きさも強さの要因として大きい。

 配下の魔物に愛し愛される。

 だからこそ、マルコの軍は強い。


「さあ、みんな。派手に暴れよう。敵の背後を突くぞ!」


 俺の魔物たちが叫び声をあげる。

 敵の背後は隙だらけだ。

 そこに、俺の魔物たちの攻撃が殺到する。


 銃を持ったものは射撃を開始し、そうでないものは魔術やブレスを使う。

 楽な狩りだ。

 さすがに、近接戦闘に持ち込めばマルコの魔物と敵の魔物の識別が難しくなるし。識別できたとしても巻き込まないように攻撃するのが難しい。

 だが、ここから敵の後列を狙うのは容易い。


 そして、敵はマルコの軍勢に対応するために容易に反転はできない。

 数も質も劣る軍勢が、挟み撃ちにされて生き延びるすべはない。


 あっという間に崩れ始め、一度ほころびを見せれば加速度的に状況が悪化していく。

 そして、二時間もしないうちに敵は壊滅した。

 最低限、情報を引き出すための魔物を残して皆殺しだ。生き残りも、自害しないように強度の麻痺毒を流し込まれている。


「終わったか」


 これで、マルコのダンジョンが落とされることはないだろう。

 勝ったのだ。

 その実感が湧いてくる。

 マルコの軍勢が割れる。その中央にいたのは巨大な狼だ。俺よりも頭の位置が高い。


 ため息がでるほど美しい毛並み。灰色の瞳。魂を凍り付かせるほどの殺意にあふれながらも、どこまでも気高い。

 さきの戦いでも獅子奮迅の戦いをしていた魔物だ。


 その狼はゆっくりと歩いてくる。

 そして、その体は光って形を変え、人の輪郭になる。 

 現れたのは白い髪と狼の耳と尻尾をもった褐色の美女。

 俺が助けようとした人。

 俺の親、マルコだ。


「プロケル、来るなって言ったつもりだったんだけどな」


 マルコは苦笑した。でも、その声には隠しきれない喜びがあった。

 何かに突き動かされるように、走り出しマルコを抱きしめた。


「マルコ、心配したんだ。とても」


 マルコの温かさと柔らかさを感じてやっと、すべてをやり遂げたと実感が湧いてくる。

 俺は、彼女を失わずに済んだ。


「それはごめん。……今回は本当に駄目かと思ったよ。プロケルが来てくれなかったら私は負けて殺されて、水晶を砕かれ大事な魔物たちを失うところだった。君に感謝する」


 マルコはそう言うと、抱擁を振りほどき俺の肩に手をあて、まっすぐに俺の顔を見る。


「君が来てくれたことはうれしい。だけど、親としてこれだけは言わせて。君がしたことは自殺行為だ。旧い魔王に君みたいな若造が喧嘩を売って無事で済むわけがない。今回が大丈夫でも、これからずっと大変になる」


 そう、これからずっと俺が今回戦った魔王たちに狙われ続けるだろう。

 だけど……。


「わかっているし覚悟もある。そうなったとしてもマルコを見殺しにするよりずっといい。全部わかったうえで俺の意思でここにいる」


 マルコが、顔を赤くして、いつもより幼い表情をする。

 そんなマルコの表情を見るのは初めてだ。


「君はもう子供じゃなくて男なんだね。ときめいちゃった。……ああ、もう、怒るつもりだったのに、そんなふうに言われたら怒れないじゃないか」


 俺とマルコは笑いあう。

 よかった。こうして、また笑い会えて。


「そんな君なら、安心して任せられるね。……プロケル。君に私のすべてを譲りたい。このダンジョンも、魔物も、財宝もすべてだ。勝手なお願いだけどね。これから、私の代わりにこのダンジョンと魔物を守ってくれないか? 君になら任せられる。報酬は、私のすべて」


 マルコがどこかすがすがしい調子で笑いかける。

 その言葉はどこか、不吉な気配を感じさせた。

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