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第十六話:ルルイエ・ディーヴァの戦い

~ルルイエ・ディーヴァ視点~


 異空間では地上とはまた違った激しい戦いが行われていた。


「まったく、パトロンは人使いが荒すぎだよ。みんな、交代で弾倉交換。弾切れには気をつけてね。弾幕が途切れたら……死ぬよ」

「「「はい、隊長」」」


 ルルイエ・ディーヴァはアサルトライフルの弾倉を交換しながら部下たちの様子を確認する。


 若干疲れが見えるものの、まだ耐えられる。

 戦争直前に固定レベルで購入し増員された新人を含めて、合計三〇人のオーシャン・シンガーたちは、まだ誰も死んでいない。

 ただ、弾丸の在庫とポーションも残りが心許ない。それは焦りに繋がる。


 目前に見えているだけで、百体近い敵の魔物がいる。六人の魔王の戦力が集まっているだけあって、バラエティにとんでいた。魚や、爬虫類などが多く見える。


「いったい、戦力差何倍だよ」


 部下には聞かれないように小声で彼女は愚痴っていた。

 眼前にいる百体以上の敵は、まだ増え続けている


 異空間は真っ黒な宇宙のようなもので遮蔽物がいっさいなく隠れることはできない。

 それは、銃を使う上では有利な条件だった。

 ルルイエ・ディーヴァたちはアサルトライフルで一方的に遠距離から弾幕を形成し攻撃し続けることでなんとか戦いになっているが、距離が詰められた瞬間に全滅は確実だ。


 並の火力では旧い魔王の軍勢をとめることは不可能だ。

 それを可能にするのは、並ではない火力のアサルトライフル。


 EDAR-04 レーヴァテイン


 エルダー・ドワーフのロロノが作成したEDシリーズのアサルトライフル。

 他のEDシリーズは、それぞれ極限の性能をもとめ、クイナやアウラの使用を前提にしているオーダーメイド。

 逆に言えば、彼女たち以外は誰も使えない欠陥品だ。

 だが、EDAR-04 レーヴァテインは究極の汎用性をコンセプトに作られている。


 量産を意識しているため、オリハルコンではなくミスリルを素材とし、使用している術式は【加速】【回転】の二つのみ。


 出力が安定して扱いやすい、シングルのゴーレムコアをジェネレーターとして搭載しているため、【加速】と【回転】の効果を使用者の魔力を消費せずに使える。


 さらに、【加速】のエンチャントは弾丸が吐き出された後に弾丸が加速される仕様のため、威力を向上させながら反動は極めて少ない。

【回転】により直進性が増していることもあって命中精度が高く扱いやすいのも素晴らしい。


 誰が使用しても十分な成果を発揮する傑作機。

 ルルイエ・ディーヴァは、これこそがEDシリーズの最高傑作として信じて疑わない。彼女に言わせれば、クイナの愛用するカーテナや、アウラのデュランダルは兵器失格のおもちゃだ。


 実際、これのおかげでBランクである部下のオーシャン・シンガーたちも、Aランクを含む敵戦力と戦えている。


「まったく、あんなゴーレムとか色物作る暇があるなら、もっとこれを増産してよ」


 だが、残念なことに数が足りていない。

 設計が完成してから、いざ量産というタイミングに入った段階で、アヴァロン・リッターの開発が始まった。

 そのせいで、たった十五丁しか存在しない。

 そのすべてをルルイエ・ディーヴァ率いる諜報部隊が独占しているものの、まだまだ数が足りない。


 独占できたのは、地上には特級戦力が存在しているからだ。天狐のクイナ、エルダー・ドワーフのロロノ、エンシェント・エルフのアウラ、黒死竜ジークヴルムのワイト、天狼のフェルシアス、多数のアヴァロン・リッター。


 だが、異空間組は特級戦力はルルイエ・ディーヴァ、ただ一人。

 武器を優先的に回してもらうぐらい当然だ。


 次元系の魔物は戦闘能力が低い傾向があり、敵もその例にしたがってくれているのがせめてもの救いか。


「ああ、もう。次の【創造】のメダルで作るのは絶対、こっち側の魔物にしてもらわないと。僕、一人じゃ無理だよ」


 愚痴りながらも彼女は自らの仕事をこなし、部下の面倒をみる。

 ルルイエ・ディーヴァは非常に有能な魔物だ。


 だが、いかに一人が優秀であろうとどこかで限界が来る。

 部下が三人、広範囲魔法で吹き飛ばされる。

 死んではいないが、武器を喪失し重症。

 後方に下がりポーションを飲むように指示を出す。


 今までは一方的にアウトレンジから叩けていた。

 だが、どうやら防御を固めてごり押しで戦線を押し上げ、敵の魔法の射程距離まで近づかれたようだ。


 負傷者が出たおかげで弾幕が薄くなる。

 後ろにさがりながら、弾幕を維持するが、それよりも敵の方がはやい。

 魔法が近くにどんどん着弾する。


『まっずいなこれ』


 ルルイエ・ディーヴァは内心で呟く。

 今までも、何度か崩れかけたが、そのたびに自分がフォローをしてことなきを得た。


 だが、今回はまず過ぎる。

 それに、よくよく見ると敵が大量にAランクの魔物を投入してきた。見えているだけで二十体。前線を押し上げてきたのも彼らだ。


 いかに、自分がSランクとはいえ、あれを相手にはできない。

 また、部下が傷を負った。


『逃げるかな。これ負け戦だしね』


 ルルイエ・ディーヴァは考える。

 どうあがこうが勝てない。ならここで無理に抵抗するのではなく、部下を盾にして自分は逃げる。


 異空間が抑えられると、地上の本隊が異空間から一方的に攻撃を受けることになるし、情報が漏れ始めるが仕方ない。


 自分は、限られた戦力でよく頑張った。

【創造】の魔王プロケルにとって、Sランクの自分を失うことこそ、最大の損失なはず。それを避けるのを第一に考えるべきだ。


 オーシャン・シンガーたちはまたDPで買えるし、銃も作り直せばいい。


「って、わりきれないから、まだ粘っているんだけどね!」


 歯を食いしばり、射撃を続ける。

 かけた部下の穴を埋めるように。


 アサルトライフルを乱射しながら、歌う。魔法が届く距離まで近づかれたということは、逆に言えば、ルルイエ・ディーヴァの歌が届くということだ。


 異界の歌姫の歌は、心をむしばむ。

 敵の魔物たちは発狂し、敵と味方の分別もつかずに暴れ始める。


 その混乱のおかげで、敵の戦線が下がる。だが、その代償は大きかった。

 ルルイエ・ディーヴァは敵の魔術が届く場所で歌っていたのだ。無数の魔術を受けて、傷だらけになり血を流していた。


 ぼろぼろになりながら、それでも銃を構える。

 傷ついた仲間が立て直す時間を稼ぐために。

 魔の歌は彼女の喉を酷使し、自慢の喉は痛み、枯れようとしていた。


 仲間のために血を流しながら、彼女は戦い続ける。


『まったく、こういうの僕のキャラじゃないんだけどね。ああ、もう、ワイトのせいだ。あんなこと聞かせるから』


 痛みをこらえて、掠れたのどで歌い、アサルトライフルの引き金を引きながら、彼女は、少し前のことを思い出していた。

 ワイトに、【創造】の魔王プロケルの甘さを是正するように伝えてほしいと頼んだことがあったのだ。そのとき、はじめて彼女は本当の意味で、【創造】の魔王プロケルを理解した。

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