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第十一話:【バーストドライブ】

【獣】の魔王のダンジョンを包囲していた魔物たちを焼き尽くし、入り口を確保した俺たちはマルコのダンジョン内に入る。


 同時に、敵が用意した転移陣がないかを魔力感知能力に優れるハイ・エルフたちに探らせ潰していた。

 増援が外から現れるのは可能なかぎり避けたい。


 先頭を行くのは俺とエルダー・ドワーフのロロノ、アヴァロンリッター、そしてローゼリッテ。

 残りのメンバーは若干遅れて入ってくる。


 後方からの襲撃を防ぐためにマルコのダンジョンの入り口に防衛部隊を配置してあった。


「ローゼリッテ、防衛部隊と五分に一回の定期連絡を忘れるな」

「任せてくださいな。安心して、プロケル様は前を」


 旧い魔王が本気になれば防衛部隊が一掃される可能性がある。


 ローゼリッテの広域感応で常に定期連絡を受けるし、万が一返事がない場合、すでに突破されたと考えて後方を警戒しながら前に進まないといけない。


 実をいうと、本当の意味での先頭は俺たちではない。

 異空間へルルイエ・ディーヴァ率いる諜報部隊が先行していた。

 彼女は今も異空間で戦いながら俺に情報を送ってくれている。ちょうど、働かせすぎという愚痴が聞こえてきた。


 一つ目のフロアは石の迷宮だ。しばらく歩くとひらけた場所にでた。その瞬間、敵の軍団が見えた。こちらを待ち構えるように半円状に展開していた。


 数は百体を超える。亜人型の魔物、それも術者タイプの魔物が多い。

 厄介なことに、すでに呪文の詠唱を終えており、いくつもの極大広域破壊魔法が発射直前の状態だった。


 その圧倒的な魔力量から、Aランクの魔物が何十体もいることは察することができた。

 あれをまともに受ければ、俺れたちは一瞬で壊滅する。


 これは想像どおりであるし、先行したルルイエ・ディーヴァの情報通りだ。


「まあ、そうくるよな」


 防衛側に回って考えればわかる。

 侵入者を排除するのに、もっとも効率がいいのは、一か所に固まっているところを範囲魔法で一掃。それも始めの一本道で必ず通過する場所を狙う。


 想像がついており、ルルイエ・ディーヴァから情報をもらっていて何も対応しないわけがない。


 先行したルルイエ・ディーヴァは水を媒体として異次元から情報を伝達できる。

 今日は宝石付きのピアスを身につけている。その宝石は水の入った水晶。ルルイエ・ディーヴァの声がよく聞こえる。


 ルルが異空間で戦いながら届けてくれた情報を無駄にはしない。


「ロロノ、アヴァロンリッターのあれを使え」

「ん、マスター。わかってる」


 ロロノは自らが支配するアヴァロンリッターたちに新兵器の発動を指示する。


 それは、もともとはミスリルゴーレムの装備としてロロノが基礎理論を完成させたが、あまりにも魔力消費量が激しすぎておくら入りした新武装だった。


 天狼のフェルに与えた試作型の武器よりも基礎理論が開発されたのは前。


 実用不可と思えた装備だが、非常に強力だった。

 今回の戦いで役に立つことは間違いなく、ツインドライブを搭載したアヴァロンリッターなら搭載可能ではないかと考えつき、ロロノに実用化を指示したのが三日前。

 ロロノはきっちりと間に合わせた。


「マスター見ていて、一番機から五番機、アンチマジックシェル展開」


 ここにいる十五機のアヴァロンリッターのうち、五機のアヴァロンリッターが、全力でツインドライブを稼働させる。


 圧倒的な魔力が発生し、その過剰ともいえる魔力がすべて背中の増設ユニットに供給された。


 それとほぼ同時に敵の攻撃魔術が完成する。

 多数のAランクの魔物を含む、強力な魔物たちの炎、雷、氷、闇、光、さまざまな極大広範囲破壊魔術の競演。


 身震いする。

 なんて威力と数。これが旧い魔王たちが率いる魔物の実力。

 認めよう、今の俺にこれだけの数の強力な魔術を引き起こす力はない。


 だが、恐れはない。

 力押しで勝つことはできなくても、俺の魔物は世界一だ。ロロノが作った兵器の力を信じている。


 アヴァロンリッターを中心に、無色透明な力場が展開される。

 その力場は数百メートルのドーム状に広がり、敵が放ったすべての魔術を打ち消した。


「さすがはロロノだ」

「これぐらいは当然。魔法は魔力による法則の改変。なら、圧倒的な魔力量で、何もするなって空間全部に言えば、理論上、魔法が使えない空間は作成できる。それが、アンチマジックシェル」


 ロロノがアンチマジックシェルの原理を解説する。

 新兵器がその圧倒的な威力を発揮し、ロロノは誇らしそうだ。

 彼女の銀色の髪を優しくを撫でてやると、嬉しそうに目を細める。


 基礎理論はそれだが、ロロノはより確実にアンチマジックシェルの強度をあげるために、さまざまな工夫を凝らしている。例えば、音波兵器も併用して敵の集中力を散らせる。複数の敵の術式を混在させる等だ。


 世界を歪めるよりも世界を正すほうが圧倒的に自然であり使う力が少ない。


 この綱引きは、アヴァロンリッター側が有利な上に、ツインドライブの過剰魔力があれば、魔法全てを封殺できる。


 そして、アヴァロンリッターには、もう一つの切り札があった。それは……


「一番機から五番機まではアンチマジックシェルを維持。六番機から十五番機。【バーストドライブ】」


 残り十体のアヴァロンリッターが、ツインドライブの魔力光をさらに激しく燃焼させる。


 ツインドライブは圧倒的な魔力を発揮する。

 それだけでは終わらない。ツインドライブの燐光がさらに激しく、まばゆく輝く。


 ツインドライブの先に踏み込んだもの。それが、アヴァロンリッターの切り札【バーストドライブ】。


「アヴァロンリッター、己を燃やし尽くし、敵を殲滅して」


 ロロノの指示で、未だアンチマジックシェルを発動している五体のアヴァロンリッター以外の十体のアヴァロンリッターが飛び出す。


 アヴァロンリッターの動力源はジェネレーターであって、バッテリーではない。

 常に魔力を作り続けるだけで、溜めておくことはできず、生産可能な魔力しか使えないという欠点があった。


 その問題を解決するためにロロノはバッテリーを増設した。

 材料は、理不尽なほどの魔力貯蓄量を誇るクイナの尻尾の毛だ。


 それにより、常に生成される魔力とは別に、チャージした魔力を同時運用できるようになる。

 アヴァロンリッターの【バーストドライブ】というのは、ツインドライブに加えて、バッテリーにため込んだ魔力を合わせて使う、疑似的なトリプルドライブ。


 その魔力量は、瞬間風速だけならSランクにすら匹敵する。


「マスター、見て。これがロロノの作った最強のゴーレムの力」


 アヴァロンリッターたちが消えた。

 背部の魔力スラスターから魔力の燐光が溢れたと思った瞬間に超加速。魔力を運動エネルギーに変換することによる常識外の速さ。


 彼らの手には、超硬度のオリハルコンランスがある。

 もちろんただの固い槍ではない。魔力消費が激しい分子破壊兵器であり、触れさえすればすべてを砕く。

 剣ではなく、槍に武器を変更した理由がある。


「ぎゃああああ」

「ガアアア」

「はや、きえ、嘘」


 敵の魔物たちの悲鳴が聞こえた。

 アヴァロンリッターたちが、自らを弾丸にして敵陣に突っ込み縦横無人に暴れまわる。


 アヴァロンリッターの速度は、音速の三倍を超える、理不尽な質量兵器と化したアヴァロンリッターに触れた瞬間、魔物たちははじけ飛ぶ。


 剣を使わないのは、動きが早すぎてまともに制御できないし、あまりの速度に剣を振るなんてことをすれば剛性が足りずに腕がもげる。

 だから槍を正面に構えた体当たりぐらいしかできないのだ。


 アヴァロンリッターが使っている魔術は三つ。

 魔力の運動エネルギー変換。

 分子破壊の槍。

 魔力を使った硬度の上昇。

 その三つだけだが、それ以外は必要ない。速く、強く、硬く、極めて効率的な力押しだ。


 一番から五番はアンチマジックシェルを展開したままだ。

 アンチマジックシェルは外界に干渉する力を妨害する力、アヴァロンリッターのように自らの内部で完結する魔術には影響がない。


 つまりは、魔法が使えなくなった広範囲攻撃を目的として配置された敵と、超高速超耐久超火力のゴーレムの戦い。


 そんなもの、結果は決まっている。

 アヴァロンリッターの背面ブースターの光が輝くたびに、敵の魔物がひき肉に変わっていく。


「これが、【バーストドライブ】か」

「ん。ただ、弱点も多い。早いだけで動きは直線的。超一流の魔物。クイナあたりなら対処できる。目にも映らない速さだけで、クイナの未来予知と超反応は突破できない。それに空を飛ぶ連中は苦手」


 ロロノは冷静だ。冷静に戦力分析ができている。

 こうしている間にも一方的な虐殺が続く。

 アヴァロンリッターたちの動きが止まったとき、敵の魔物は一体たりとも動いていなかった。

 何割かの魔物は逃げたが、無理に追う必要がないだろう。


「よし、先に進もうか。アヴァロンリッターたちには感謝だな」

「彼らは仕事を果たした。だけど……」

「わかっている。だが、それを口にするなよ。彼らの影だけでも十分武器だ。情報を与えてやることはない」

「まだまだ改良は必要」


 すでにアヴァロンリッターのアンチマジックシェル発生装置は焼けきれ、過剰な魔力を注ぎ込んだ六番機~十五番機は駆動系が破損、バッテリーも使い物にならなくなった。

 たった数分の稼働で限界が訪れている。


 アンチマジックシェル装置を使用した五番機までは本体は無事だが、【バーストドライブ】を使用した六番機から十五番機は修復不可だ。ツインドライブを取り外して機体は破棄しないといけない。


 こうなることはわかっていた。この力は強力すぎる。

 この過剰魔力にはオリハルコン製のアヴァロンリッターでも耐えられない。

 Aランク上位の戦力を使い捨てにすることでSランク相当の力を手に入れることができる極めて贅沢な兵器。それこそが【バーストドライブ】。

 

 使いつぶしたことに対する後悔はない。

 この場にいたのは、Aランクの魔物が数十体以上。

 そんなものを真正面から相手をして、主力が消耗するのは許されない。

 もし、【バーストドライブ】を使わなければ俺の魔物たちは多大な被害を受けただろう。

 

 もう一つ意味はある。アヴァロンリッターの威力を見せつけることにより、。敵にアヴァロンリッターの警戒と対策をさせること。

 二度と使用できない、アヴァロンリッターの【バーストドライブ】を敵は恐れ、行動を縛り続ける。


「さあ、行こうか。奥へ」


 まだまだ、先は長い。

 身を削りながらでも確実に前へ進もう。

 早めに、マルコの魔物と合流することが第一目標だ。

 


 

12/15に発売し、即重版した第一巻。書き下ろしもがんばっているので、是非ご購入を‼ お店になければ取り寄せてもらえるとうれしいです

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