第九話:【創造】の魔王、出撃する
無事、【刻】の魔王ダンタリアンの説得を終えることができた。
【刻】の魔王のダンジョンを出たあとは、カラスの魔物の転移によりアヴァロンに戻っている。
彼には、俺の不在時にアヴァロンを守ってもらえることになった。
そして、二つお土産をもらっている。
一つ目は【王】のメダル。強力なAランクのメダルだ。
二つ目は【刻】の魔王ダンタリアンが【創造】を使って作り出した魔物。Sランクの天狼。
「なんで、天狼がお父様の傍から離れて、こんな頼りない魔王のところにいかないといけないんです。最悪なのです。おうち帰りたいです」
さっきから、天狼は白い狼耳をぴくぴくとしながら文句を言っている。
容姿自体はクイナにそっくりだが、表情が雰囲気が冷たく固いので印象派がらっと変わっている。
「まあ、戦いが終わるまで我慢してくれ。マルコを助けたら、帰っていいよ。だが、今は俺の魔物だ。命令には従ってもらう」
「仕方ないのです。天狼にえっちなことを命令したら、あとでお父様に言いつけるですから」
「するか!」
すごい警戒心だ。
天狼の見た目は、十三歳ぐらい。俺はロリコンではない。
さすがに、そんな少女に欲情はしない。
それにしても、意外だ【刻】の魔王がこんなになつかれているなんて、配下とは事務的に付き合うタイプだと思ったが、天狼の様子を見ているときっちりと、いい関係を築いているようだ。
俺は配下となって確認できるようになった天狼のステータスを確認する。
種族:天狼 Sランク
名前:フェルシアス
レベル:72
筋力A+ 耐久A 敏捷S 魔力A 幸運A 特殊S+
スキル:狼王 時間操作 原子運動制御 超反応 獣化
一言で言うとすさまじい。
Sランクの変動で生み出され、レベルはすでに固定Sランクと同等の七十台にまであげられている。
あれだけの激戦をくぐりぬいたクイナよりも上。
ステータスはA未満が一つもない究極のオールラウンダー。
そして、スキルの一つ一つがが規格外。
狼王……筋力、耐久、敏捷を1ランクアップ
時間操作……自ら、もしくは周囲一メートルの時間操作能力
原子運動制御……原子の動きを操作することによる熱量操作能力
超反応……極限の反射神経。思考と運動までのロスが存在しない
獣化……氷属性の狼の姿となる。幸運・特殊を除いたステータスが1ランクアップ
時間操作と原子運動制御の汎用性は凄まじいものがある。
さらにいえば、狼王と獣化を併用した場合ステータスが完全に突き抜ける、その暴力的なステータスで超反応を使えるのは反則だ。
これに対抗できる魔物は、ごく一部だろう。
おそらく、俺の魔物で天狼に対抗しうるのは、クイナ、ワイト、アウラの三体のみ。
もう一つ、驚いたのは……。
「おまえ、名前をもらっていたのか」
天狼は、フェルシアスという名前を与えられていた。
【刻】の魔王も、彼女自身も天狼としか呼ばれないから、ステータスを見るまで気付けなかった。
これだけの力を持ち、【刻】の魔王に名前を付けられた魔物。天狼は、この戦いの切り札になりえる。
「お父様との秘密を覗き見るなんて最低です。お父様は二人きりのときだけ、天狼のことをフェルと呼んでくれるのです」
どこか、自慢げに、そしてうれしそうに天狼……いや、フェルは言った。
きっと、人前で名前を呼ばないのは、照れくさいからだろう。
【刻】はマルコに関係するところでは急に人間らしくなるようだ。
「わあああ、可愛い名前なの。クイナもフェルちゃんって呼ぶの」
「おまえ、話聞いていたですか? フェルって呼んでいいのはお父様だけなのです」
「フェルちゃん、固いこと言っちゃダメなの! クイナは、フェルちゃんのお姉ちゃんだから特別なの。だから、問題ないの!」
「やめっ、やめるです」
クイナと天狼が、もふもふ尻尾を揺らしながら絡み合う。
どう見ても姉妹にしか見えない美少女たちの姿は微笑ましい。
天狼も、なんだかんだ言っていやがっていない。
きっと、同年代の友達が欲しかったのだ。
ひとなっつこく、面倒見のいいクイナなら天狼と仲良くなれるだろう。
「天狼の分もロロノに武器を作ってもらったほうがいいんだろうけど。今のロロノにそんな余裕はないしな」
天狼の力をさらに活かすために武器がほしい。
人型であれば、武装したほうが強いのは当然だ。
なにせ、重火器の攻撃力にも持ち主の攻撃力が加算される。
長距離攻撃が可能で手数が稼げる重火器は戦況を極めて有利にする。
「あっ、おとーさん。いいのがあるの。銃じゃないけど、ロロノちゃんがアヴァロンリッターのために作った試作品の武器」
「ああ、あれか。あれ、使いこなせるやつがいるのか?」
常識外れのスペックをもつアヴァロンリッターですら扱い切れず、結局お蔵入りしてしまった悲しい装備が頭に浮かんだ。
「うーん、クイナも根性出せば使える。だから、フェルちゃんなら大丈夫!」
よくわからない理屈でクイナは太鼓判を押す。
しばらく思考する。
天狼の魔力、筋力、そして超反応という極限の反射神経。
それらすべてを考慮すれば……
「たぶん、大丈夫だな。クイナ、フェルにあれを渡して、使い方を教えてやってくれ。それと二人で訓練だ。おまえにフェルを任せる」
「ああ、【創造】の魔王までフェルって呼んだです!?」
「わかったの! おとーさん」
クイナが天狼、いや、フェルの首根っこを引きづって消えていく。
きっちり、あれの使い方を叩き込んでくれるだろう。
俺に今できるのは、当初の予定になかった魔物たちの運用法を考えること。
【風】の魔王ストラスから預かった、天使型の魔物ラーゼグリフのローゼリッテ、そして【刻】の魔王ダンタリアンから預かった天狼のフェル。
強力な魔物を遊ばせるなんてありえない。より勝算の高い作戦を立てよう。さて、これから忙しくなる。
◇
そして、とうとう出発の日が来た。
俺の魔物たちは慌ただしく出発の準備をしていた。
そんな中、俺はアヴァロン諜報部隊の隊長である、蒼い髪の中性的な少女と俺の部屋で向かい合っていた。
「ふう、まったく人使いが荒いマスターだ。死ぬかと思ったよ。でも、なんとか帰ってこれた」
彼女はルルイエ・ディーヴァ。異界に住む魔性の歌い手。
そんな彼女はぼろぼろの体を、エンシェントエルフのアウラが作ったポーションで癒しながら、疲れた声音で告げた。
「よく、生きて帰ってきてくれた」
「まあね。異空間も敵がうようよだったよ。なかでも一番やばいのは、忍者っぽいやつ。【獣】の魔王の魔物って後でわかって薬を渡せたけどさ。まったく、あの忍者、いきなり殺しにかかってくるもん。この僕じゃなきゃ死んでたよ」
そう、異空間に潜れる力をもったルルイエ・ディーヴァは、配下のオーシャン・ディーヴァたちと先行して諜報活動をさせていた。
作戦を立案するにあたり、敵の情報を少しでも集めるためだ。
もう一つ任務を頼んであり、すでにある程度の数を用意できていたポーションとマルコへの手紙を、マルコの魔物に届けてくれと言ってあった。
無事、その任務をルルイエ・ディーヴァは果たし、予定よりもだいぶ遅れたものの帰ってきてくれた。
それだけではなく、マルコの誓約の魔物から、敵の情報が書かれた手紙を受け取ってくれていた。
「その忍者はマルコの誓約の魔物だな。よくやった。お手柄だ」
俺はかつて、【夜会】の出発前夜にマルコの誓約の魔物たちと戦った。
それは、旧い魔王の怖さを教えるための荒行時。
その中に、影に潜み俺の背後をとった魔物がいた。ルルイエ・ディーヴァが会ったのはそいつだろう。
さすがはルルイエ・ディーヴァだ。
本気で、殺しにかかってきたマルコの誓約の魔物の初撃では死ななかった。
それだけでも賞賛に値する。
「感謝の言葉もうれしいけどさ、パトロン、感謝は行動で示してよ」
まったく、こいつは……。
「考えておくよ。本番で生き残ったら、お前がおどろくご褒美をくれてやる」
「楽しみにしているよ。じゃあ、傷も治ったしもうひと踏ん張り行きますか。裏の世界は、この僕だけが頼りだからね!」
俺は苦笑する。
だが、ルルイエ・ディーヴァの言うことはただしい。
次元操作系の魔物は、ルルイエ・ディーヴァとオーシャン・シンガーだけ。
彼女たちの働きは非常に大きい。
さて、そろそろ時間だ。
俺はルルイエ・ディーヴァと共に屋敷の外にでる。
◇
平地には、すべての暗黒竜グラフロスがならび、全頭にコンテナがつなげられていた。
コンテナには、ゴーレム、魔物、武器弾薬、回復アイテムがぎっしりと詰まっている。
マルコシアスのダンジョンにしかけた転移陣は敵に利用されないように潰した以上、空を使った移動が最短になる。
もちろん、現地に到着次第、魔物たちの見張りを付けたうえで、転移陣は作るつもりだ。
一般の魔物たちは全員持ち場につき、幹部たちだけが俺の周囲に集まってきた。
「ロロノ、よくやってくれた」
「マスター、”切り札”の整備は完璧。コンテナに搭載がすんでる。アヴァロンリッターのカスタム、マスターが考案した新兵器も必要数そろえた」
「感謝する。おまえのおかげで勝算が見えたよ。戦いでは、アヴァロンリッターを始めとしたゴーレム隊の指揮を頼む」
俺の誓約の魔物の一人、銀色の美しい髪のつるぺったんな美少女のエルダー・ドワーフであるロロノ。
彼女はこの三日不眠不休で働き、俺の期待に応えた。いや、それ以上の働きをしてきた。
「ご主人様、ポーションも必要数をすべて確保しました。これで、どれだけ怪我しても大丈夫ですよ! 黄金リンゴの在庫、全部使い切っちゃいました!」
同じく誓約の魔物の一人、金色の髪でスタイルのいい美少女。エンシェント・エルフのアウラが胸をぽんっと叩く。
「アウラもお手柄だ。これでマルコの魔物も戦力に数えられる。戦いでは、ハイ・エルフたちを率いてスナイプに専念。厄介な魔物とまともに戦うことはない、おまえたちのスナイプ期待しているぞ」
先行してルルイエ・ディーヴァたちが運べた分は少ない。
だが、本隊が到着すれば一気に、ポーションを行き渡らせることができるだろう。
そして、アウラの敵の認識の外からの超長距離射撃は戦力の劣る俺たちにとって非常に重要な武器だ。
「おとーさん、ばっちりフェルちゃんに、試作品の使い方を仕込んだの!」
「だーかーら、クイナ! フェルちゃんって呼ぶなです」
キツネ耳美少女のクイナと、狼耳美少女のフェル。
二人は今日も元気そうだ。
「二人は、その圧倒的な戦闘力で切り込み隊長を任せる。誰よりも多く、誰よりも激しく戦ってもらう。敵のエースを蹂躙してもらうから、そのつもりでいろ」
二人が、ふざけるのをやめ、真面目な顔で頷いた。
そう、クイナもフェルも使ったメダル三枚すべてが、Aランクという、Sランクの魔物の中で、なお一際強力な存在。
彼女たちがどれだけ敵の切り札を倒せるかは今回の戦いでは非常に重要だ。
「ワイト、おまえには全体指揮。そして、最後の切り札として俺の傍に控えてもらう。負担は大きいが、頼りにしている」
「はっ、我が君。我が君の命であれば、どのような困難も乗り越えてみせましょうぞ」
老人の姿をしているが、彼の正体は黒死竜ジークヴルムのワイト。【狂気化】を解き放てば、クイナすら超える正真正銘の化け物であり、誰よりも頼れる俺の参謀。
「ルルイエ・ディーヴァは異空間からの情報収集と伝達、異空間を制圧されれば戦況は不利になる。ある意味、おまえが生命線だ」
「ご褒美のためにがんばるよ。まあ、僕の手腕に見ほれるがいいさ」
異界の歌姫ルルイエ・ディーヴァ。蒼い髪の少女は相変わらず自信満々だ。
「さあ、全員配置につけ、出発する!」
「「「はい!」」」
俺の魔物たちが頷き、散る。
そして、数分後十頭の暗黒竜たちがコンテナと共に羽ばたいた。
さあ、行こう。マルコのダンジョンに。
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