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第八話:【刻】の魔王との約束

 エルダー・ドワーフであるロロノの兵器開発。

 エンシェント・エルフのアウラのポーション作り。

 二つの進捗を確認し終える。


 その後、俺は天狐のクイナ。そして黒死竜ジークヴルムとなったワイトと共にアヴァロンを出発した。

 相変わらず、もしものときのための最強の布陣での出発だ。


 目的地は【刻】の魔王のダンジョン。

 マルコを助けるには彼の力が絶対に必要だ。

 そのために、俺は賭けに出ている。


 あえて、【刻】の魔王を怒らせるための手紙を投げた。

 そのおかげで、短く『今すぐ来い』とだけ書かれた手紙が返ってきている。彼の怒りが透けて見えた。


 以前、【刻】の魔王のダンジョンには転移陣を用意させてもらっていた。

 おかげで移動には時間がかからない。

 手紙と共に戻ってきたカラスの魔物の能力で転移を実行した。


 ◇


「お待ちしておりました。【創造】の魔王プロケル様、ダンタリアン様がお待ちです」


【刻】の魔王のダンジョンにある一室に転移した瞬間、カラスの羽を生やした男性型の魔物に頭を下げられる。


 察するに、俺に与えたカラスの魔物の上位種だろう。

 クイナが身構えた。

 クイナが警戒するということは間違いなく強い。


 転移陣に魔物を張り付けているとは、よほど俺が来るのが待ち遠しかったみたいだ。

 図星を突かれたのが不愉快だったらしい。


 この様子なら交渉はスムーズにいくだろう。

 だが、油断はできない。

 最強の三柱を怒らせた以上、”厳罰を受けるのを覚悟で、新人魔王を攻撃する”。そういった判断を取られてしまっても文句は言えないのだから。


 命の危険すらある状況だ。気を引き締めていかないと。


 ◇


 カラスの羽を持った魔物に案内されたのは、【刻】の魔王の玉座が用意された謁見の間。


 ここに来るのは二度目だった。

 マルコも、【竜】の魔王も、【刻】の魔王もいかにも魔王らしい部屋を用意している。

 これが魔王のたしなみというものだろうか?


 アヴァロンにはそんなものがない。

 水晶の部屋自体に行くことが少ないし、浅い階層が活動のメインだから必要ない。


 ただ、魔王としてのたしなみなら、用意したほうがいいだろう。すべてが終われば、いかにも魔王らしい部屋を作ろうと思う。


 ……そんなことを考えている余裕は玉座に近づくと一瞬で消し飛んだ。


 部屋の主である【刻】の魔王ダンタリアンは玉座に腰を沈めていた。

 若干顔を伏せている。その表情には静かな怒り。


 彼の横には一人の十代前半の少女が付き従っている。

 容姿自体はクイナに酷似している。体形、顔のパーツともにそっくり。

 ただ、髪は白く、キツネ耳ではなく白い狼の耳、もふもふの尻尾はクイナより一回り小さい。


 容姿は似ているのに、浮かべている表情と雰囲気は冷たく落ち着いている。クイナを炎とするなら、彼女は氷だ。


 今の俺の力では高ランクの魔物のステータスは見られない。だが、この魔力量、存在感。

 間違いない。あれはAランクすら超越した存在。俺の【創造】を使って生み出されたSランクの魔物だ。

 

「【創造】の魔王プロケル、よくも、【刻】の魔王である僕に、ふざけた手紙を送ってくれたね。死ぬ覚悟はできているのかな?」


 怒りを押し隠して、静かに【刻】の魔王ダンタリアンは問いかけてくる。

 すさまじい威圧感だ。魂が震える。

 だが、引いては駄目だ。俺は必死に強気の表情を作って口を開く。


「ふざけた手紙? 私は事実を申し上げただけです。あらためて口頭で伝えましょう。好きな女の危機に指をくわえて傍観者を決め込むつもりか? そんなヘタレだから、マルコにふられるんだ。挽回のチャンスをくれてやるから、手を貸せ【刻】の魔王ダンタリアン」


 俺は、手紙に書いてあったことをこの場で口にする。

 マルコのことを好きな彼相手だからこそ、こういう喧嘩の売り方をした。

 俺に対抗意識を持ってほしかったのだ。

【刻】の魔王は俺を恋敵と思っている。その恋敵に馬鹿にされたままでいいのかと?


【刻】の魔王ダンタリアンは激昂するかと思ったが、その逆だ。

 深く息を吸い込み、大きく息を吐いた。

 彼は怒るどころか、右手を顔に当て薄く笑った。


「ご主人様に向かってなんてことをいうのです!」


 クイナに似た狼耳の少女が怒声をあげる。白いもふもふ尻尾の毛が逆立っている。

 彼女は、冷たい表情に怒りを込めて俺を見下ろしていた。

 冷たい風が吹く。彼女は冷気を纏っているようだ。


 何かを感じたクイナは、彼女の目の前まで近づくとくんくんと鼻を鳴らす。


「おとーさん、この子、クイナと同じ匂いがするの!」


 クイナの無邪気な声に場の毒気が抜かれる。

 クイナはよほど、その少女が気になるのか妙に距離が近い。

 クイナはじろじろ無遠慮に少女の匂いを嗅ぎじろじろと見ていた。


「この、止めるです!」


 狼耳の少女は手を振りあげる。

 しかし……。


「落ち着け。天狼、僕に恥をかかせるな。そして、【創造】の魔王プロケル。配下の手綱ぐらい、きちんと握っておけ」

「ううう、わかったのです。お父様」


【刻】の魔王がクイナに似た少女……天狼をたしなめる。

 そして、天狼がお父様と言ったことに驚いていた。中々いい趣味だ。


「クイナ、戻っておいで。【刻】の魔王の魔物に失礼だ」

「わかったの。おとーさん。でも、あの子、絶対にクイナの妹なの!」


 俺は苦笑しそうになるのをこらえる。

 クイナは直感的に気付いたのだろう。天狼の正体に。


 あの子には、俺の【創造】。そして、間違いなくマルコの【獣】のメダルが使われている。ここまではクイナと一緒。

 もう一枚はきっと、【刻】だ。


 あの子を作るにあたって、【刻】の魔王は最強の魔物を目指したわけじゃない。

 きっと、天狼という存在は【刻】の魔王の感傷で作られている。

 マルコと自分のメダルで作った娘。


 クイナが妹だと言ったのもそのあたりだろう。

 あの子は極めて、クイナに近い存在だ。


「さて、【創造】の魔王プロケル。話を続けようか。どうやら、君は僕を怒らせたいらしい。君の意図は理解した。怒らせて冷静さを失わせ対抗意識で、なにかを了承させようとした。もう、腹芸はいい。君の真意を聞かせろ」


 なるほど、俺の言葉を聞いたあと妙に冷静になったのは、すべてを見破ったからか。

 さすがは歴戦の魔王、俺の演技なんて簡単に見破る。

 それなら、それで構わない。予定通りに進めよう。


「このままだと、マルコシアス様は倒されてしまいます。助けるために助力を」

「ふん、君は知らないだろうが、僕たち最強の三柱には……」

「相互不可侵の条約ですね。それも創造主に誓った絶対的な」


【刻】の魔王は一瞬だけ驚いた顔をした。


「【竜】の魔王アスタロトが話したのか。あの頑固じじいをよくたらし込めたな。まあ、いい。知っているなら時間の無駄だろう。僕には何もできない」

「それも知っています。だから、あなたに頼みたいのは、マルコシアス様のダンジョンに向かい敵を倒すことではない」


【竜】の魔王の話を聞いた瞬間、共闘は諦めた。

 だから、俺の願いは別にある。


「ほう、なら何を願う」

「私の願いは、この戦いが終わるまで私のダンジョン、アヴァロンを守ってほしい。それだけです。あなたがアヴァロンを守ってくれるなら、全戦力をもってマルコシアス様を助けにいける」


 後顧の憂いを絶つ。それだけを求める。

 これなら、相互不可侵の条件に引っかからない。


 そう、俺の描いた作戦はこうだ。

【竜】の魔王が、黒幕の急所を叩き、攻撃の手を緩めさせる。

 そして【刻】の魔王の力で安全を確保する。

 そこまですれば、あとはただ全力で敵を打ち倒すだけだ。


「まさか、君は自分の力だけで複数の魔王に襲われているマルコシアスを助けられるつもりでいるのか」

「私の力ならそれができる」

「うぬぼれもここまで来ると恐れ入る」


【刻】の魔王は小さく笑った。

 だが、少し楽しそうだ。


「とはいえ、それをして僕になんの得がある」

「好きな女性の命が助かります」

「助けたとしても、余命は半年もない。たかが半年のために僕に動けと。第一、恋敵のために協力しろなんてよく言えるね」


 想定内の返事だ。

 だからこそ、俺は答えを用意してある。


「本当に好きなら、たった半年でも長く生きてほしいと思う。だから、俺はこうして命をかけているし、あんたにだって頭をさげる。それはあんたも一緒だろう? マルコに残された半年を無意味だと思うやつは、彼女を愛しているなんて言う資格がないし、俺は認めない」


 気が付けば敬語が吹っ飛んでいた。

 ありのままの気持ちをぶつけないと、本気は伝わらない。


 三百年という長い寿命の中で半年は短い。

 だが、その半年が無価値なんて俺は思わない。

 俺はマルコに恩を受けてばかりだ。何一つ返せていない。

 最後に、彼女を怒らせたことを後悔している。

 また、マルコにプロケルはしょうがない奴だと笑ってほしい。

 そのために戦っている。


 マルコと出会って一年にも満たない俺ですらこう思っているのだ。

 何百年も彼女を思い続けた【刻】の魔王が、そう思っていないわけがない。


「君は随分とロマンチックな魔王なんだね」

「マルコと自分のメダルを使って、娘を作りだすような魔王にロマンチスト呼ばわりをされたくない」


 クイナ似た狼の少女の天狼はさきほどから、ふうふうと俺を威嚇している。

 どうやら、父親をイジメていると思われているようだ。


「まったく、君を見ていると、もういないあいつを思い出すよ。無駄に自信家で、普段は冷めたふりをしているのに根は熱い男で。ああ、やだやだ。そういう男にマルコは弱いんだ。……ああ、そうか。だから、あの頑固じじいも君に期待したのか」


 妙に懐かしそうで、どこか寂しそうな声を【刻】の魔王はあげる。


「【創造】の魔王プロケル。いい線を行ったけど答えはノーだ。僕を動かすには、少し弱い。わざと怒らせて感情を揺さぶる手も良かったし、君の覚悟も伝わったが、やはり僕は協力できない」


 この頑固もの。

 喉に出かかった言葉を飲み込む。

 そして、最後にして俺の持つ最高の手札を切る。


「そうか。だとすれば、もう一つ条件を出そう。俺に協力してくれるなら、半年だけじゃない、その後もマルコとの時間をプレゼントできる。【刻】の魔王ダンタリアン。あなたは、自分の力で寿命を延ばしている。それに、マルコにもそれを強要していた」


 マルコに会った最後の日に、【新生】を申し出た。

 その俺にマルコはこう言ったのだ。


『君まで、あいつと同じことを言うんだね。私は永遠の命なんて望まない』


 そのとき確信した。

 あいつとは、【刻】の魔王のことであり、延命するように持ち掛けらていたことを。


「そうだね。でも、断られ続けていた。君が僕の力を受け入れるようにマルコを説得してくれるのかい?」


 それも一つの選択肢だ。

 だが、それは選ばない。というより選べない。マルコは絶対に【刻】の魔王の力を受け入れない。


「違う。俺は、俺の力でマルコを延命する。マルコが生きてさえいれば、あんたにだってマルコを手に入れられる可能性が生まれる。俺があんたに出せるカードは、半年経った後のマルコの時間。さあ、選んでくれ【刻】の魔王。俺に協力するかどうかを!」


 ここに来て、初めて【刻】の魔王が狼狽する。

 彼は、俺の【新生】を知っている。

 三魔王との【戦争】で使った手だ。確実に情報を掴んでいるのは間違いない。


「僕が、ずっと説得し続けて一度も首を縦に振らなかったんだぞ」

「俺ならできるし、やってみせる」


 真っ直ぐに彼の目を見て宣言する。

 これは男の誓いだ。

 マルコは望まないかもしれない。それでも、俺はマルコに生きていてほしい。

 だから、無理にでもそうしてみせる。


「ふう、まったくもう。いやになるな。僕にこれぐらいの押しの強さがあれば違ったのかもね。いや、そうか変わればいいのか。君がそれをできるのなら、僕とマルコに時間ができるのだから。いいだろう。僕も協力しよう」

「ありがとう。ダンタリアン」

「だが、本当にいいのかい? 恋敵の僕を信用してダンジョンを留守にするなんて、やろうと思えば、なんでもできるよ」


 俺は小さく笑う。

 まったく思ってもないことを。


「マルコを助ける俺の足を引っ張ることを、あなたがするわけがない。それに、俺は恋敵じゃない。俺はマルコが好きなだけだ。恋じゃない」


 似ているが、違う。

 俺の感情は恋ではない。

 とはいえ、別に俺は【刻】の魔王にマルコシアスをくれてやるわけじゃない、ただ口説くための時間を与えるだけだ。マルコシアスと彼が結ばれるのは、なぜかいやだ。


「そうか。まあ、いい。君に二つの餞別だ」


 そういって彼はメダルを投げてくる。

 受け取って、メダルの存在を確認する


『【王】のメダル:Aランク。特殊をのぞいたすべての能力に上昇補正(中)。魔物にカリスマ及び統率者の資質を付与』


「これは?」

「マルコには、そのメダルが似合う。君が変なメダルを使わないようにくれてやる。そしてもう一つ」


 彼は、そういって隣にたたずんでいた天狼の背中を押す。


「君に天狼を預けよう。この子はきっと君の力になってくれる」

「ちょっと待ってくれ。この前のルール変更で」

「僕はペナルティを受けるだろうね。だが、いいよ。この子はきっと、こうするために生まれてきた子だ」


 前回の戦争、魔物の譲渡で【戦争】を有利にたった魔王たちの存在のせいで、あらたにルールが整備された。

 そのため、親でない魔王からでも、新人魔王への旧い魔王からの魔物の譲渡は禁止されていた。

 やぶれば相応のペナルティがある。

 それでも、【刻】の魔王は天狼を移譲した。


「お父様、てっ、天狼は」

「行っておいで、天狼。君の母親を助けてやってくれ」

「わかったのです! 天狼はお母さまを助けてから、すぐにお父様のところに戻るのです」


 天狼が、名残惜しそうにちらちらと【刻】の魔王のほうを見ながら、こっちにやってくる。


「よろしくです。【創造】の魔王」


 そう言うと、ぷいっと頬を膨らませてそっぽを向いた。

 彼女の扱いにはちょっと苦労しそうだ。

 だが……。


「やー♪ クイナの妹なの」

「うー、はなせ、はなすのです」


 クイナはすっかりと天狼のことを気に入ったらしい。

 俺の魔物になったとたん、天狼に抱き着いている。


「【創造】の魔王プロケル。僕にここまでさせるんだ。マルコを助けられなかったとき、そして約束を違えたとき。僕は君を絶対に許さない。どんな手段でも使うし、ペナルティを恐れない」

「もちろんだ。必ずマルコを助けて見せるよ」


 俺と【刻】の魔王は笑いあう。

 さあ、これで根回しは済んだ。


 これで心置きなくマルコを助けにいける。

 三日後、俺は全兵力をもってマルコシアスのダンジョンに向かう。

 絶対に、彼女を助けて見せよう。

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