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夏なんて大っ嫌いだ!

 我が親友というか腐れ縁というか、とにかくそんな感じの仲のゆのっちは愚痴が多い。
 まぁ、私らの会話なんて愚痴の言い合いがメインなので、私も偉そうなことは言えないんだけど。

「夏、まじでファックだね!」

 近所の某大型ショッピングセンターで会って開口一番の言葉がそれだった。

「いきなり不機嫌だね……」

「あたりまえだよ! なんだよ夏って!? まじで何考えてるの!? なんでこんなに暑いの!? ふざけんな! 夏を作った責任者出てこいって感じ!」

「まぁ、暑いのが夏だから……」

「あーもー……なんなの!? 汗は止まらないし、蒸れるし、体調悪いし、機嫌も悪いし、毎日毎日なんでこんなイライラすんの!?」

「体調悪いなら休んでれば……」

「うちクーラーないの! 家にいたら余計に具合悪くなるし!」

 ぶつぶつといつまでも愚痴を言うのでなだめながら衣料品のところまでいく。
 すると、マネキンが着ている夏服を見てさっそくゆのっちが顔をしかめた。

「この店は私に喧嘩を売っているに違いない! こーゆー薄い素材は確かに涼しいけど、お腹が冷えてお腹こわすんだい! うすーい腹巻きとかでも微妙に透けるから目立つし!」

「あ、腹巻きとかしてるんだ……?」

「あ、なにその目!? 腹弱族の苦しみをわかってないだろ!? 大変なんだよ!?」

「だから夏が嫌いなんだね……」

「嫌いな理由の一つだよ」

「他にもあるの?」

「あるさ!」

 ぷんぷん怒るゆのっちの顔を見ると汗びっしょりだ。

「うわ、いつもながらすごい汗……」

「そうだよ! 私汗っかきだから大変なんだよ。化粧とか髪とかばっちり決めても汗をかきまくったら全部ぐちゃぐちゃだし……」

「汗ぐらいじゃ大丈夫でしょ」

「私レベルだと全然大丈夫じゃないの!」

「な、なんか、冷たいものでも飲もうか……」

 とりあえずショッピングセンター内の喫茶店に入る。

「注文決まった?」

「うん」

 呼ぶとすぐに店員がやってきた。

「アイスコーヒーください」

「紅茶ください。ホットで」

 店員が注文を復唱して頭を下げて厨房へ入っていく。

「え、ホット? コーヒー駄目なのは知ってるけど」

「冷たいもの飲むと高確率でお腹が反乱を起こすっていってるじゃん! もう30回ぐらい言ってない?」

「あぁ……そうだっけ。本当にゆのっちはお腹弱いよね。ヨーグルトとか食べてみるとか……」

「食べてるよ!」

「よるお腹を冷やさないように……」

「してるよ! 細心の注意を払ってやってるよ! それでこのザマだよ!」

 次に海水浴コーナーに行った。

「ゆのっち、水着は?」

「買いません。私は買わないよ。水泳なんて学校の授業だけでたくさんです。なんで自分でも分かるようなお子様体型を人に見せつけないといけないんかな!?」

「別に見せつけなくてもいいじゃん。普通に楽しもうよ」

「無理です! 無駄に体が発達している恵まれた人種には私の悩みなんかわからないんだ!?」

「や~、でもゆのっちは身長もちっちゃいし、ある意味バランス取れてんじゃん」

「酷い侮辱だ」

「一部の人には人気かもよ?」

「そんな人気いらない! ってかそんなの都市伝説に決まってるじゃん。私のようなお子様体型に需要なんかあるもんか! 自分でもわかってらいっ!」

「でも、かわいい水着とか似合いそうだし……子供向けとか」

「喧嘩売ってるな!? 夏なんて早く終われ!」

「まだ長いよ……」

「タイムマシンに乗りたい! 毎年夏だけスキップしたいよ……うぅ……」

 その後、ショッピングセンター内をうろうろしているあいだじゅう、ゆのっちは事あるごとに夏の悪口を言う。
 私は結構好きなんだけどなぁ。

「でも、いろいろ言う割に結構元気じゃん」

「そう見える? 店の中が涼しいから、一瞬元気良く見えるだけだって。家では一日中死んでいるんだから……あぁ、これが私の青春の日々……」

 ゆのっちの表情がずーんと暗くなる。

「夏が苦手なくらいで大げさな」

「友よ、正直に言うんだ。どうせ、お前は不純異性交遊とかしているのだろう?」

「聞くなよ、そういうのは! そうだったら、今日来てないし」

「本当か? 同士よ!」

「うれしくないから……」

 散々歩き回ってほどよい時間帯になった。

「そろそろ帰ろうか」

「そうだね。そろそろ熱気も引いているだろうし」

 しかし、店を出た途端、想像以上の熱気が襲ってきた。

「うわ、暑!」

 そして、嫌な予感がしてゆのっちを見ると、

「あぢぃよぉ……」

 と見るからに情けない表情を浮かべていた。
 そして、一歩歩くごとにゆのっちの足取りがだんだんと怪しくなっていく。

「だ、大丈夫?」

「あぢぃ……あぢぃ……夕方なのに……この暑さ……ありえない……ありえない……」

「本当に暑いね……」

「この髪切りたい。ばっさりいきたい。まじで髪うざい……あぢぃ……」

「たしかにその長髪は暑いだろうね。軽くすればいいのに」

「すいたんだけどなぁ……全然涼しくならないんだ。あぢぃよぉ……」

 ふらつきながらもなんとか歩いていたが、大分来たところでゆのっちが「まじやばい」と呟きながら塀の影の下で座り込んでしまった。

「お、おーい、ゆのっちどうしたの? あともうちょっとだけど」

「ほ、本気でのぼせた。ちょっと洒落になっていない……」

 座り込んだままボソボソとした声を出すゆのっち。

「えぇ!?」

「私、めっちゃ汗かくんだけど……出先で冷たいもの飲むとお腹をこわすからあんまり飲まないようにしてるんだけど……やばい……今、生命活動に支障あるレベルで水分足りてない気が……する……」

「飲みなよ! み、水探してくる?」

「ま、待って……水では駄目だと思う。塩分のあるスポーツ飲料系で、冷えきったのは駄目でほどよく常温の……」

「そんなの都合よくないよ! ってか、わかってるなら自分で持ってきなよ! あぁ、もう、自販機かコンビニ……どこかに……」

 あたりを見回してみるが、住宅街みたいな場所なので、コンビニのようなものは視界にはいらない。
 と、そこで、見知った人影が目に入った。
 話したことはないが、クラスの男子だ。
 格好から見て、野球部の帰りのようだ。

「あれ、ど、どうかした?」

 私とゆのっちを交互に見て、男子はためらいがちに声を出した。
 対応に困ってるっぽい。

「あ、あの、ゆのっちが熱中症で倒れちゃって……」

「え!? あ、俺アクエリアス持ってるけど……」

 と、男子はカバンの中を慌てた様子であさって、ペットボトルを取り出した。

「しまった。まだ開けてないのあったと思ったのに! 飲みかけしか無いし、俺ちょっと買ってくるわ!」

 野球部の男子がカバンを置いて、走りだろうとするとゆのっちが呼び止める。

「ま、待って、それでいいから……貰いたいんだけど……頭痛と目の前がチカチカして……」

「でも汚いし……」

「い、命がかかってるから……結構本当に危ない……」

「わ、分かったよ」

 結局ゆのっちは飲みかけのアクエリアスを貰って飲んだ。
 そして、しばらくしたところで、少し離れたところで見つけたコンビニで買ってきた飲み物を飲みなんとか回復した。
 キンキンに冷えている飲み物をわざと日向で温めるなんて始めてだった。

「だ、大丈夫?」

 よろよろ立ち上がったゆのっちに男子が心配そうに声をかけると、

「あ、ありがとう、本当に……」

 と、ゆのっちが恥ずかしそうに頭を下げる。
 ちょ、キャラ違うだろあんた。


 そんなことがあって、約二週間後。
 まだまだ夏だ。
 ある日の昼休み、ゆのっちに

「私を置いて抜け駆けですか……」

 と持ちかけると、

「バレてますか」

 とおどけた様子で返された。

「バレまくりでしょうが」

 私に隠れてあの時の野球部員を色々と連絡を取り合っているのは全部お見通しだ。

「で、どうよ」

「ぶっきらぼうに見えるけど、優しいんだよね。私の体にも気を使ってくれるし……」

「う、うわ、いきなりデレ100%とか……」

「い、いいじゃんか。そ、それにしてもこの夏はいつまで続くのかね。早く秋になってほしいよ」

 ゆのっちが照れ隠しのように夏の悪口を言う。

「そうはいうけど、本当は少し夏も好きになったんでしょ?」

 すると、ゆのっちは間髪入れずにこう返した。

「いや、全く。心の底から夏は死ねばいいと思ってるよ」

 そこは変わらなかったんだ。
夏の暑さにやられてこんなものしか書けませんでした。すまぬ。
こんな短編に評価をつけてくれた方、ありがとさんです。

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