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☆蒼い月の光☆〜Blue Moon Night〜
作:朧月



1st.白き怪盗と宝石『Moon Light』


 蒼い月が照らす夜の街、その僅か一箇所に人が集まっている。彼らが囲んでいるのは、杯戸美術館……夜というにも関わらず、騒々しく騒ぐ人の声と、美術館を照らすライトがいつもよりまぶしく輝いていた。
 人々の興味関心は、今皆一緒で唯一つ。待ちきれずにわいわい騒ぎながら、胸を躍らせ、その出現を待っていた。

 そんな美術館から少しだけ離れたビルの屋上では、白い衣装を纏った一人の少年が立っていた。ヒュー、という風の音の中に、ばたばたと布の揺れる音が混じる。満天の星に飾られたその美しい夜空に、マントを風になびかせて現れた。白き怪盗は、自前のオペラブラスを覗きながら、不敵な笑みを零した。

「警察のヘリが、1、2、3……、4、5……5台か」

 一体を見回した景色に見えた警察部隊の配置に、自分の通る経路を再確認する。確実なプランのイメージをしっかり練った所で、彼は「よし」と小さく呟き、高々と夜空に向けて両手を挙げた。

「Ladies and Gentlemen!! さぁ、今宵のショーの幕開けだ」

 彼はいつも通りの鮮やかな手口でそこに忍び込んだ。警察の目を誤魔化して、その場にいる沢山の観客達の興奮した声を聞きながら、空へと去っていった。
 その天才的なマジックで鮮やかに宝石を盗み出す様は、全ての人を興奮させる。人々は精一杯の憧れと尊敬を込めて彼をこう呼ぶ。


『怪盗キッド』と。





  1st.白き怪盗と宝石『Moon Light』





 キッドからの予告状が警視庁に届いたのは、先日のキッド騒動が治まってすぐの事である。彼が指定した宝石の名前は『Moon Light』という。つまり日本語訳では、『月光』。その月光というのは、つい一週間ほど前にイギリスから送られてきた宝石だ。期間限定ではあるものの、博物館に展示が決まった宝石は、博物館のオーナーによってその名前が発表された。
 その美しい見た目が月の光に似ていたので、月光とつけられた。翌日予告状が届き、警視庁捜査二課ではキッド専門の中森警部が皆に活を入れていた。

「いいか、キッドは今度はあの月光を奪うと言う予告状を送りつけてきた。なんとしても宝石を死守するんだ!」

 いつに無く意気込んでいる警察軍団は、この日のために特別に助っ人――つまり、今がまさに旬の、眠りの小五郎というふざけた異名をもつ名探偵に捜査の援護を依頼した。









 事の始まりはここからである。


 予告日前日の江古田高校二年B組。ここではたった今、壮絶な争いが起こっていた。壮絶というのは語弊があろうか。つまり詳細を説明するとなんて事はない。

 学校一のマジシャンである黒羽快斗と、学校一のおてんば娘である中森青子がいつも通りの下らない口喧嘩をしているのだ。

「また怪盗キッドが予告状出してきたのよ!? どうしてくれるのよ快斗!」
「なんでオレに言うんだよ! 文句があるならキッドに言えって!」

 男勝りに活発な青子は掃除用具入れからモップを持ち出して振り回し、それを超一流の身のこなしの快斗がふわりふわりとかわしていく。
 たまに関係ないクラスメイトが被害に遭うのは、ご不幸様といった所だろうか。それでも夫婦喧嘩……もとい壮絶な争いは納まらずに加熱する。

「快斗はいっつもキッドの味方じゃない! 青子はあの泥棒にお父さんとられちゃってるのに! バ快斗!」
「なんだよ、あほ子!!」

 不毛な喧嘩を繰り広げている本人達は気付いてはいないのだろうか……自分達を「また夫婦喧嘩が始まった」と言う目で見つめる周りの視線を。
 二人は、いわゆる公認カップルというものである。だから、クラスメイトにとっては、この日常的な喧嘩は夫婦喧嘩に相違ないのだ。本人達が気付いていないかもしれないお互いの気持ちは、クラス中に知れ渡っている。二人は無自覚だが両思いだ。
 ただ、クラス中の誰もが知らないことが彼と彼女の間にはある。

 彼……黒羽快斗のまたの名は、怪盗キッド。夜空を賑わす気障な怪盗だ。
そして彼女、中森青子は、警視庁捜査二課の中森警部。つまり、怪盗キッド専門の警部の娘なのである。
二人が実は本来正反対の立場であるということを知るのは、怪盗キッド本人である黒羽快斗と、この学校で唯一キッドの正体を知っている魔女、小泉紅子だけだ。


 さて。一方、こちらは毛利探偵事務所。
 今朝早くに依頼を受けた小五郎は、いそいそと警視庁に向かう準備をしていた。身だしなみを整えて、荷物を持って、いざ名探偵出陣! と、タクシーに乗り込んだ彼の後ろには、当然のように付いてきている娘と居候の姿が。

「おい、何でお前等まで付いて来るんだよ」
「だってー、私もキッド見たいもん。ねぇ、コナン君?」
「うん!!」

 事件の事となると、必ずついてくるこの居候江戸川コナンの存在を、彼は目の上のたんこぶの如く思っているのだ。元気のいい返事に、今日もまた溜め息一つ。

「ったく、邪魔すんじゃねえぞ? この名探偵への依頼なんだからな」

 小五郎は呆れて二人に言った。タクシーは警視庁にたどり着くと、三人を降ろし去っていった。
 彼はやる気満々で問題の博物館へと足を運んだ。後ろについていくコナンと蘭も、送り迎えの車内で、予告状や月光についての説明を受ける。
 辿り着いた博物館の一番目立つ場所に、その宝石は堂々と輝いていた。思わず、三人は息を呑んだ。

「これが、Moon Light。月光なの? 綺麗……」

 一瞬で目を奪われた蘭は、ただじっとその輝きを見つめた。
 宝石の色は基本的には青なのだが、光があたると卵の黄身のように綺麗な光を回りに灯す。まるで、月そのものの色だ。何も無い所でぼんやりと青白く光るそれも綺麗だが、光を当てた時の色もなんともいえない。博物館のオーナーの企画では、朝や昼は太陽の光でこの月光を照らし、夜は全ての光を遮断して、二種類の月の光を味わってもらおうとのことである。
 だがそんな趣旨はどうでもいい。蘭はその宝石に、想って止まない彼を重ねていた。

「まるで、新一みたい」
「え?」

 隣に居たコナンが首を傾げるが、見向きもせず、蘭は優しい顔でそれを見つめる。

「何かね、新一みたいな宝石だなって思って。あいつの瞳を見てるみたい。事件の時ももちろん輝いててかっこいいと思うんだけど、普段のあの柔らくて優しい光も、私大好きなんだ」

 コナンは顔を赤くした。蘭が工藤新一の事を話す時、可愛い表情を見せるのが彼の萌えどころらしい。

 そして、キッドが予告した日の朝は訪れた。
 夜に現れる筈のキッド対策は、朝から厳重に行われていて、それだけ月光が価値のあるものだと、三人は改めて実感させられたのだ。

 コナン達が丁度警備の様子を確認している中、二人組みの高校生が顔を出した。

「凄い警備しとんなー……こらよっぽどのもんなんやな、その月光っちゅう宝石は」
「何感心してるんや。早よ中に入らんと、入れなくなったらどうするんや」
「そやな。行こ行こ」

 二人は入り口の警備にあたっている警察官に軽く会釈した。
 と、同時に何やら手厚く痛々しい歓迎を受けた後、はれた頬を不機嫌にさすりながら中へ入っていった。宝石の飾られた部屋にいる二人の姿を確認すると、口元に笑みを浮かべた。

「よぉ、相変らず仲ええな」

 突然声をかけられた蘭とコナンは、驚いて振り向いた。

「服っ……じゃ、なくて平次兄ちゃん!!」
「和葉ちゃんも! どうしたの?」

 平次はにっこりと笑い、二人に歩み寄った。

「俺もキッド捕まえんの手伝ったろって思ってなぁ。大阪から飛んできたんや」
「で、あたしはその付き添いや」

 緊迫した雰囲気の中で、二人は明るくそう言った。空気の読めないのがある意味いい所らしい。

「あれ、二人ともそのほっぺたどうしたの?」

 蘭の質問に、陽気な雰囲気だった二人は同時に顔を顰めた。

「……あ、あぁ、これか? これはなぁ……入り口に居った警備のおっちゃんらと、入った廊下に居った刑事のおっちゃんと、部屋の前に居ったひげのおっちゃんにやられたんや。何度も何度も、キッドの変装やないかって言うてな。ホンマ、失礼なやっちゃ!!」
「ホンマ最っ悪やーっ。あのおっちゃん、平次はともかくアタシまで……女のアタシまで思いっきりつねったんやで!? 信じられへんやろ!」

 二人共、いかにも不機嫌な顔で頬をさすった。よほど悔しかったのだろう。



 そして、ここは博物館からほんの少し離れたビルの屋上。
 既に、キッドに扮装した彼は、望遠鏡でじっと博物館の様子を眺めていた。

「名探偵が二人に、その彼女が二人……。今回の仕事は面白くなりそうだな」

 彼の口に綺麗な笑みが浮かぶ。予告時間まであと二時間だ。
彼は頭の中で何度もシミュレーションしながら、博物館の様子をじっくり窺っていた。
 隣に居る寺井が、心配そうに話し掛ける。

「快斗ぼっちゃま、油断だけはしないで下さいね。彼等が関わっていつも窮地に立たされる快斗ぼっちゃまを見ていると、じいは心配で心配で……」

 しかし、キッドは寺井に向かってシニカルに微笑む。

「そんな心配すんなって、ジイちゃん。大丈夫だよ! それに、ライバルが居ると張り合いが出来て仕事が楽しいんだ」
「し、しかし快斗ぼっちゃま……」
「ジイちゃん! 今のオレは快斗ぼっちゃまじゃないぜ。この世を騒がせている気障な盗っ人……怪盗キッドだ」

 キッドは青白い月明かりに照らされながらもその風にマントを翻し、ハンググライダ―で飛び立った。暗い夜空に白い姿が映える。
 後に残された寺井は、心配な顔でずっと飛び立った彼を目で追っていた。彼は寺井に見守られながら、博物館の屋上に優雅に舞い降りる。

「さーて、名探偵諸君……私を捕まえられるかな?」

 不敵に笑った彼は屋上からふわりと降り立ち、驚き困惑する警官に向ってスプレーを吹き付けた。一人、二人三人……あっという間にその場は寝かされた警官達で埋まった。

「さぁて、と」

 キッドは警官の格好に扮し、入り口から堂々博物館に侵入した。

「このキッド様には楽勝過ぎるぜ、こんな罠」

 幼い頃から馴染みの、中森警部の考えている事などお手の物。次々に待ち受けているトラップを楽々クリアして、そして月光がある部屋の前でその変装を解いた。

「……名探偵たちの前でこんな変装、意味ねーからな」

 呟いたキッドは、堂々とその部屋のドアを開けた。

「キッド!」

 叫んだコナンの足元に、トランプ銃が刺さる。続いて、間髪居れずに平次の足元にも。
 一歩後ずさった彼らの僅かに出来た隙をキッドは逃さない。いとも簡単に宝石を手中に納め、無駄な動き一つなく閃光弾を一つ地面に打ち付けた。
 まばゆい光が辺りを包み、コナン達の目には、真っ白な世界が広がった。思わず、目を細めずには居られない衝撃だ。

「く、くそっ!!」
「捕まえられるもんならやってみな、名探偵諸君♪」

 にぃ、と笑った口元からの楽しそうな声に、コナンと平次は顔を顰めた。スピードやトラップでの勝負となれば断然キッドに有利なのだ。

 窓が割れる音がコナン達の耳に届き、光が消えた頃には、キッドの姿は何処にも無かった。
 コナンと平次は一瞬だけ顔を見合わせた。

「……くっそ、あのフザけたコソ泥がっ!」
「早よ追うで! あのアホに舐められたままでいられへんわ!」

 急いで窓の外を見た二人の目に、上空の僅かな白い影が映る。見上げる瞳に、自然と怒気が篭る。

「工藤、お前はそっち頼む!!」
「ああ、分かった!!」

 博物館から出た二人は、スケボーとバイクでその白い影を追った。

 どうやら、コナンの道が正しかった様だ。空を飛ぶキッドの白い影が、段々とはっきり大きく、明確な輪郭を描いてゆく。

「あんにゃろー、絶対に追いついてやる!」

 スピードを上げたコナンの姿を、上空から一瞥した彼は、ふわりと近くの木に降りた。コナンが辿り着くまでの時間を頭で計算しながら、奪い取った宝石を月にかざす。
 キラ、と光ったのは一瞬。月の光によって色を変えただけで、赤い石などどこにもありはしない。

「ちっ。また、はずれか」

 当たりなんて永遠にこないものかも知れないと、諦めにも似たため息が零れた。
 ゆっくりと宝石を持つ手を下ろす彼は、すぐそこまで来ているコナンのスケボーの音もしっかり聞こえていた。

「待てよ、怪盗キッド!」

 よっぽど急いでいたのだ。ゼェハァ苦しそうな呼吸で、コナンは叫び、顔を上げた。

「んな必死にならねーでも、わざわざオメーの事待っててやったんだよ。ホラ」

 微笑して、宝石をコナンの手元に放る。当然だが、受けとったコナンは怪訝な表情を浮かべた。
 必死で追いかけてきたというのにあっさり返されては、少し苛立たしさを感じるらしい。コナンの顔には、悔しさも混ざる。

「……何の真似だ?」
「どうやら、その宝石はオレが求めていたものでは無かったようだからな。博物館に返しておいてくれ。今回は引き分けだ、名探偵」

 そう呟いたキッドは、強く枝を蹴り、再び夜空に飛び立つ。
 後に残されたコナンは見送る事しか出来ず、宝石を持ったまま悔しそうにその場に立ち尽くした。





 これが、そもそもの始まりとなる夜になろうとは、まだここに関わった誰もが知らない。





元が短編なので、あまり途中に後書き挟みたくありませんのです。快斗とかキッドとか、コナンに平次とかの雑談でもくっつけようかと思ったのですが……希望あったりする?
なければ、後書きは最終話のみにつけようかと思います〜(^-^*)

とりあえず、頑張って加筆修正したので、お楽しみいただけたなら幸いですv











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