00.プロローグ
「よし、次の獲物決定だな!」
パチン、と腕を鳴らし、その記事に赤丸をつけた。今更だが、オレの朝は新聞、つまり情報収集から始まる。
今つけた丸印は、次の獲物。日本語名で月光って言うらしいけどな……その石の特徴から、『Moon Light』っつー名前がつけられた宝石が、日本で飾られるんだと。こりゃー、スルーは出来ねーだろ。
ピラリ、と記事をめくる。そこに代々と映る姿を見つけて不敵に笑ったオレを、影が覆った。げっ、ああああああ青子!?
「かーいと、今朝も随分キッドにご執心かな〜?」
「そ、そんなんじゃねーよっ! でもホラ、昨日も活躍したみてーだな。キッド」
「ふぅ〜ん、青子知らなかったよ」
にやぁ〜って、怖っ! 知らねーワケないだろ。あーあ、コイツにこの話題は禁句なんだよなぁ。
「警察もキッドにはなす術なし、かぁ。今度もまた随分派手に取ったんだ?」
「だーかーら、キッドに叶う奴なんかいねーっつったろ?」
「も〜っ。快斗はキッドの味方ばっかり。青子、キッドなんか大嫌い!」
顔面めがけて飛んできた新聞を紙一重でよけた。
「うぉっと、あっぶねー! 何しやがる、この凶暴アホ子!」
こうやって、ふざけあえてるこの状態が、オレにとって最高の時間なんだ。
……初めのキッカケがなんだったか? んなもん、覚えてるに決まってんだろ。
オレがキッドになったのは、親父の死の真相を突き止める為だったんだよ。尊敬してたマジシャンの親父が、実はキッドで、しかもそのせいで殺されたなんて事実を知っちまったから。
全てを終わらせる為に始めたんだ。奴等の野望を打ち砕く為に。
唯一つ、奴等の手がかりとなる、命の石、パンドラを求めて。
そうだった筈だよな? けど、名探偵に出会ってからオレはちょっとだけ変わった。
あの小さな体でオレを追いかけてくるアイツの正体が、実は高校生探偵の工藤新一だとか、んな事はどうだっていいんだ。ただ、アイツの存在がある限り、キッドは楽しい。
アイツ、名探偵はオレに似てる。顔とか、そんなんじゃなくて。オレは親父の敵討ちの為だけど、アイツは何と戦ってんだろうな。
好きな子に正体を隠し続けてんのは、辛いだろうに。オレには痛いほど判るってのに。
あれほど強い瞳で真実を追いつづけることが出来るアイツを、心の何処かで尊敬している。
もし、出会い方が違っていたなら、多分最高のダチだった。それとも最高のライバルか。
オレは怪盗、奴は探偵。本来敵同士の筈だし、似てるなんて表現おかしいのかも知れねーけど。
最も近いもののような感覚すら受けるんだ。
「快斗、どうしたの〜? もしかして、打ち所悪かった?」
ハッとして、前に視線を戻した。青子が首を傾げて、不思議そうにしてる。ついさっきまで喧嘩腰だったのが、よく言うぜ。
「何でもねーよっ。あ、それより青子……今度の日曜日、空いてっか?」
「え〜……と、うん! 何があるの?」
「いや、トロピカルランドにでも連れてってやろうと思ってな」
「ホント〜!? 行く行く!」
「んじゃ、空けとけよ。オレ多分その前の日予定あるから、ゆっくりになるかも知れねーけど」
一仕事終えて疲れた後、四六時中明るいオメーの顔は目の保養になるんだよ、なんて言えねーよな。おっと、その前に今日学校帰りに予告状出さねーとな。
……オレの正体知ったら、どんな顔するかな、こいつ。キッドを嫌う気持ちも分かるよ、そりゃ中森警部にも悪い事してるって思うしな。
黒羽快斗には、多分少なからず好意も抱いてくれてんだろーけど。キッドの事は絶対認めるわけねーからな……ま、バレっこねーか。
気楽にそんな事を考えていたオレだけど、正体がばれるその日は、そう遠くなかった。
まさか、黒羽快斗の姿であいつに遭遇するなんて、思ってもみなかった。
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