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  カカの天下 作者:ルシカ
カカの天下789「我慢とは美徳です」
 こんにちは、毎度のトメです。

 今日こそはテンが家庭訪問に来ます。なのでカカと二人で居間にて待っているのですが……遅いのです。予定の時間を二十分過ぎてもまだ来ません。

「トメ兄、私トイレいきたい」

「待て、我慢しなさい」

 そしてどうだろう。いざテンが来るとなったら僕もカカもトイレに行きたくなるというミステリー。やはり何らかの魔力っぽいものが働いているとしか思えない。いやまぁ、あんだけトイレトイレと聞いてたら逆に気にしすぎてこんな状態になったのかもしれないが。

「……トメ兄、もうやばい」

「僕だってやばい。でも待て、もう少し待つんだ。テンが遅れてるのはきっと、他の家でもトイレに行ってる人がいたからだ。もしかすると全ての家がトイレ中だったかもしれない。そしてうちまでトイレだったらきっと凹む。なぜかわからないまま絶対に凹む。だから、うちくらいは大丈夫だとテンに教えてやるんだ」

「わ、わかった。頑張る」

 僕らは頑張った。頑張って我慢した。二人してもじもじしながら座って待った。

 しかし十分後、さすがに限界がきた。気を紛らわせるためのもじもじが、どっすんどっすんになってきた。揺らしていた身体がいつの間にか暴れていた。

「と、とめに、も、むり!」

「ぼ、僕もだ。こうなったら僕が先に使う!」

「あ、トメ兄ずっこい!!」

 だっしゅだっしゅ!! 急げ急げトイレは僕のもの――と思ったら玄関のチャイムがピンポーンって本当に最悪のタイミングで来やがったぜテンカ先生よぉ!!

「……待て、カカ」

「トメ兄が使わないなら私が先に」

「待て、待つんだカカ。玄関に行くぞ」

「そ、そんな。トイレに行かないで!? トメ兄、本気なの!」

「ああ」

「でもそんなことしたら、私たちの下半身が……」

「仕方がない。テンが、来たんだ」

「漏れちゃうかもしれないんだよ!? そうなったら……死ぬんだよ?(社会的に)」

「大丈夫。僕は死なない」

「トメ兄……わかった、付き合うよ」

「カカ……」

「死ぬときは、一緒だよ」

「……ありがとう。もし万が一、僕が死んだときのために言っておく。おまえは最高の妹だったぞ」

「トメ兄こそ、最高のお兄ちゃんだったよ」

「……行くか。テンが落ち込む前に」

「うん!」



「おまえらはトイレに行かないでくれたんだな!!」

 案の定、テンはよくわからん理由で感動してくれた。笑顔で対応しつつ、僕らは内なる衝動を抑え込むのに必死だった。

「いやぁ、行く先々で父兄どもがトイレ終わるの待ってたらこんな時間になっちまったぜ。時間もおしてるし、ちゃっちゃと終わらせようぜ」

 僕らとしてもそれは願ったり叶ったりだ。居間で向かい合って座った僕たちは、形式としてとりあえずお辞儀して「今日はよろしくお願いします」なんて言い合ってみた。

「では早速お聞きしますが」

 久々に見るテンの猫かぶりモードだ。

「お兄さんのほうで、カカちゃんへの心配事等はありませんか?」

「頭が変です」

「ほんとにな、心配だ」

「ねぇお二人さん。たまには私だって泣くんだよ?」

 だって本当に心配だしなぁ。さて、続きは?

「えーっと」

 なんで首を傾げて唸ってんだ先生。続きは?

「あーっと……他に何聞けばいいんだろ」

 ダメだこの教師。ここは家庭訪問っぽい話題を提供してあげよう。

「先生。このカカ、学校での様子はどうですか」

「あん? 飲んでるときにさんざん喋ってるから知ってんだろが」

「おまえがそれ言っちゃおしまいだろうが」

 僕の機転を無駄にしおって。

「ちっ、どうすっかな。考えてみれば、ここの家のこたぁ笑えるほど知ってんだよなぁ」

「テン、そもそも家庭訪問の目的ってなんなんだよ」

「ガキどもが中学に行っても大丈夫な環境にいるのか見るのが目的だ」

 なるほど、そういうことか。

「じゃあ話は簡単だ。カカが中学で無事にやっていけるかってことだろ? もちろん心配だ」

「だよなぁ」

 二人してカカを見る。

「むっ、なにさなにさ。私だってたくましい女なんだよ、中学に行くぐらい大したことないよ!」

「確かにたくましすぎるけどよ。あのなカカ? 世の中にはな、冗談が通じる大人ってヤツは少ねぇんだ。てめぇの妙ちきりんな行動が必ずしも受け入れてもらえるとは限らねぇんだぞ?」

 そう、そこが僕も心配なのだ。現在、カカの周りには優しい人間が多い。それはとても喜ばしいことだ。だからこそ、そうでない場所でやっていけるのかが気がかりになってしまう。

 個性の強い人間は、良い意味でも悪い意味でも目立ってしまうのだから。

「じゃあどうしろっていうのさ」

「よし、中学に行くな!」

「待てや、そこの教師」

「だってそれしかねぇだろ。こいつの変なところを直すなんて無理だろうし」

 ――そこで、脳に火が入った。熱さに任せて口が走る。

「ああ、確かに心配だ。でもなテン、さっきから変だ変だと言ってるが、そこまで悪し様に言われる筋合いはないんだぞ!」

「は? いや、トメ悪ぃ、そんなつもりじゃ」

「あの阿呆な姉だって社会人になるまで爆走し続けることができたんだ。カカができないわけないだろ!」

「わ、わかったわかった! 別にカカを悪く言うつもりなんてなかったんだよ。いきなりそんな怒るほど気に障ること言ったか、オレ?」

「言ったんだよ。カカは大丈夫だ、僕もフォローする。それでいいだろ」

 睨み付けるようにテンをまっすぐ見つめる。視線に覚悟の熱を込めて。

「……ああ、そうだなトメ。おまえがいれば大丈夫だ」

 僕の熱意は伝わったようだ。

「話は終わったな。テンはこれから他の生徒の家にも行くんだろ?」

「おう、ちょっと早いが失礼させてもらう……おまえの妹を侮辱した形になって、本当に悪かった」

「悪気がなかったのは知ってる。だから気にせず頑張れよ、仕事」

「ああ。じゃあな」

 最後に深々と頭を下げて、テンは帰っていった。

「トメ兄……」

 切ない声に振り向くと、カカが涙をためて僕を見つめていた。

「トメ兄が、あんなに怒るなんて……」

「ああ……」

「よっぽどトイレが限界だったんだね」

「ああ!!」

「私が先だよ!!」

「僕が先だ!!」

 我よ我よとトイレに殺到する僕ら兄妹。

 結局、家庭訪問はトイレに染まったのでした。めでたしめでたし。


 我慢。素敵です。

 トイレ。素敵です。

 すっきり感。とても素敵です。

 自分で書いててなんですが。

 なんだろこのトイレ騒動。
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