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  カカの天下 作者:ルシカ
カカの天下709「甘くないチョコ 前編」
 ――二月十四日、とある病室。

「おねーさん! こんにちはです、クララです!!」

「タマです!」

 勢いよく扉を開ける二人。すると、

「失礼」

 ちょうど診察が終わったところなのか、白衣の男が入れ替わりに病室を出る。すれ違いざまにその人がこの病院で最初に会った顔だとクララは気づく。だがさして気にしなかった。

「おお、二人ともよくきたのー」

「サワサキ! いたのですか!」

「いきてたのですか!」

「ほっほっほ、タマちゃんはキツイのぉ」

 和やかに会話する三人とは反対に、無言の女性。

「…………」

「……あれ? おねーさん、どうしたですか?」

「みてみてください」

「そうです、見てください! 今日はバレンタインだから仕方なく普通にチョコ持ってきたんですよ!」

「おべんじょみてください」

「お便所じゃないです! チョコ見てください!」

「わしも見て!」

「じじぃは黙ってるです! おねーさん! ……おねーさん? 本当にどうしたんですか」

 無言――いや、呆然としている女性は、ベッドの傍で立ち尽くしていた。

「…………」

 クララとタマがいるときは一度としてベッドから離れなかった彼女は、

「……ワタシ」

 まるで信じられない事実を聞かされたかのような顔をしながら、

「……治った、の?」

 今、確かに自分の足で立っていた。



 ――同時刻、別場所。

 こんにちは、トメです。

 今日はバレンタインデーというやつですね。僕も男、恥ずかしながら「チョコほしいなー」とか思ってるわけでして、妹とはいえ「チョコあげる」と言われれば嬉しいわけでして、その友達からももらえると聞けば相手がお子様でもやっぱり嬉しいわけでして。

「……はい」

「……あ、あげますー」

 でも、なんか、神妙な顔して渡されたら戸惑うわけでして。

「あ、ありがと」

 カカから。サエちゃんから。それぞれからチョコらしき包みを受け取る。そんな僕らがいるのは公園の片隅。人気のない場所へわざわざ呼び出されてのことだ、しかもなんかそれぞれの包みに手紙らしきものが付いていて……

「あーっと、これ、読んでいい?」

 コクリ、とゆっくり頷く二人。だからなんでそんな重い雰囲気なんデスか?

「じゃ、じゃあ読む、ぞ?」

 カカにもらった包みのリボンに挟んであった紙を開く。

 それにはこう書かれていた。

『トメ兄。受け取ってくれてありがとう』

 ……だからなんでそんな丁寧なのかとツッコみたい。

『ほんと、いつもいつもありがとう。これはその感謝の気持ちです』

 まぁ、悪い気は、しないけどさ。

『それで、ね。わざわざこんなこと書いたのには、理由があって』

 わかってるさ。どうボケる気だ?

『兄妹なのに、こんなこと思うのは、間違ってると思うんだけど』

 ……あん?

『私、トメ兄のことが、好き。大好き』

 ……あぁん?

『サユカンのことを応援してて、嫌な気持ちになってる自分に気づいたの。本当はサユカンに渡したくなかった。トメ兄には、私だけのトメ兄でいてほしかったの』

 ……うぉい。

『これが、私の本当の気持ち。チョコと一緒に、受け取ってください』

 終わり……だ。オチが、ない。

 おそるおそる手紙から顔をあげてカカの顔を見る。

 え、あの、なんで恥ずかしそうに俯くんスかカカさん。冗談でしょ?

「と、トメお兄さん。わわ、私のもー」

「あ、はい……」

 僕は困惑しながらも、カカと並んで恥ずかしそうなサエちゃんの言う通り、もう一つの包みに付いていた手紙を開いた。

『あなたを奪いたい』

 What!?

『いきなりごめんなさい。でも、もう我慢できないんです。カカちゃんから、サユカちゃんからトメお兄さんを奪いたい。もうそれしか考えられないんです』

 Why!?

『トメお兄さんが好きです。私のお兄さんか彼氏かパパかご主人様か奴隷かもしくは全部になってください。私はあなたに従います。私の全てをあなたに捧げます』

 Oh……!

『カカちゃんと相談して、想いを一緒に伝えることに決めました。これは本心です。嘘偽りありません、ボケもオチもありません。どうか真剣に考えてください』

 MAZIDE? って英語じゃないやこれ。マジで?

『そして私のものになってください。もしくはトメお兄さんのものにしてください』

 か、過激……先日のサカイさんの教育的指導が入ってなかったらコレがさらにどういう文章になっていたか、想像するだけで恐ろしくて寒気がくるほど過激!!

 や、ていうか、さ。

「嘘だろ?」

『本当』

 ハモりやがった。

「や、絶対これ冗談だろ、嘘だろ」

『本気』

「あれだろ。前にテンに僕がやったやつだろ」

『今度は本気』

「う、嘘、だろ?」

「トメ兄、知ってるでしょ? 私は大きな嘘はつかないの」

「私も同じですよー」

 そこまで言うか……ううううん。

 真剣に考えろと? ええええ……なんで僕って小学生相手にこんなんばっかなの? 子供に好かれるタイプなのか? や、でも本気じゃ……ないよな? きっとないよな? でも本気だったら傷つけるよな……あああああもう!!

 無難に答えよう。

「カカ! えっと、気持ちは嬉しいが、僕らは兄妹。これからもずっと一緒にいるんだから、それで勘弁してくれ。もちろん僕もカカは好きだし、もっと仲良くしていきたいとは思っているが」

 次は……

「サエちゃん、君の気持ちも嬉しい。でもサユカちゃんにも言ったけど、今はそういうことを考えられないし、困るから……その、もうしばらくゆっくり考えてほしい。先はまだまだあるんだから」 

 これで、どうだろう。なんとか答えたと思うんだけど……サユカちゃんの一件があったおかげで耐性がついててよかった。

「一応、真剣に答えたつもりだけど……どうだろう?」

「うん。ま、嘘なわけだけど」

「やっぱりかああああああああああああああああああああああ!!」

 わかってたよ! わかってたけどね!? でもあそこまで言われたら誰だって真剣に答えるよね!? ねぇ!?

「私は嘘とは言いませんよー。本当とも言いませんけどー」

「信じない……もう信じないぞ……」

 人間不信なるぞオイ。

「私がトメ兄相手にそんなこと思うわけないじゃん」

「だってさぁ!! さっき言ってたじゃん! 大きな嘘はつかないって!」

 半ば子供のようなわめき様でカカに迫る僕。しかし答えたのはサエちゃんだった。

「あらあらあらー? トメお兄さんにとってはそんなに大きな嘘だったんですかー?」

「うぐ……」

「トメお兄さんにとって、妹に告白されるのはそんなに大事件なんですかー? 私に告白されるのはそんなに大事件なんですかー? 妹や女子小学生に告白されたら真剣に考えまくるほどの超事件なんですかー? 私はてっきり、大人な男性の方にとっては小さなこととばかりー。それを真剣にお付き合いするべきかと思うのは変態とばかり思ってたんですけどー、違いますかー?」

「うぐぐ……!」

 間延びした声がざっくんざっくん僕の心を傷つける! そこまで言われると「今のは重大な嘘だった、僕は傷ついた」なんて言えない……傷? そうだ!

「ほ、ほら、相手を傷つけないように、とか、色々思うだろ? 大人として、子供の心のことは真剣に考えないと。付き合う付き合わないとか、そういうことじゃなくて」

「お、もっともな意見だ」

「むむー……そう言われたら反論できないです。小さな嘘ってことで通そうと思ってたんですけどー」

 危うく滅多打ちにされるところだった。恐ろしきはサエちゃんの黒き言い訳、『僕が真剣に考える=変態』という公式をそのまま使われていたら二人を許さざるをえなかった。『僕が真剣に考える→子供の心のため』という公式を上書きして免れたけど……って一体なんの勝負をしてるんだ僕らは。

「それにしても悪戯が成功してよかったぁ。私迷ってたんだよね、どれにするか」

 カカの手には数枚の手紙が。

「別案があったのか」

「うん、例えばこれ。冒頭の文章がイカすんだよ。『トメ兄が死んで十年が経ちますね』」

 なげーよ! ていうか殺すな!

「私も最後に『通帳の中身も捧げます』って付け加えるかすごい迷ったー」

 ええい、書いてくれれば冗談と一発でわかったものを。

「ま、トメ兄の真剣な顔が笑えたし、よしとしよう」

 コノヤロウ。べ、別にそこまで真剣じゃなかったんだからな!?

「チョコは普通なので、安心して受け取ってくださいねー」

「……ありがと」

 釈然としないが、結局はチョコもらえたし、よしとしよう。イベントのある日に何もないとは思ってなかったし。

「さて! それじゃメインイベントいこっか」

「トメお兄さんはこちらへー」

「今度はなんだよ」

「バレンタインだよ? となれば一人、忘れちゃいけない子がいるっしょ」

 そりゃ忘れてなかったけどさ。三人娘のもう一人を。

 二人に連れられる先には予想通りの人物がいるだろう。

 ……たぶん。
 

 なんか書き始めたら意外と長かった……
 というわけで、一話でまとまんなかったので続きます。
 んでもって、バレンタイン過ぎすぎるとアレなので、明日も更新しちゃいます。なんかほら、読んでもらえたらわかるとおり中途半端でしょ?笑
 そんなわけで明日もお楽しみにー!
 
 ……バレンタイン? あげたりもらったりしましたが特筆すべきことはありませんでしたが何か。
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