カカの天下579「テンプレ」
よう、テンカだ。
今日はオレの誕生日だ。26になった――だからどうしたって感じなんだが、うちのガキどもがどうしても祝いたいって言うもんだから仕方なしに了承したぜ。面倒くせぇ。
土曜日だってのにわざわざ学校の体育館なんぞに集まりやがって……本来なら休みのはずなのに、勝手に学校の場所を使っていいのか? と教頭に聞いてみると、ヤツはこう言った。
「ここは教育の場、つまり人を祝いたいという心を教え育てる場所でもある。生徒が自主的に誰かを祝いたいと言うならば、協力してこそ学校、賛同してこそ教師ではないかね」
ご高説どうも。しかし「そんならあんたもオレを祝うのか」と聞いてみると「君は私の誕生日に何もくれなかっただろう。だから祝わん」とか抜かした教頭は立派なんだかガキなんだかいまいちわからない。自分の尊厳でもデストロイしたのかね。
……まぁ、ともかく。ガキどもは休みだってのに律儀に集まりやがったわけだ。本当は何か出し物とかしたかったらしいが、オレの「んなことされたら背中がかゆくなる。てめぇら誕生日にオレの気分を害するつもりか」という一言によってプレゼントを受け取るだけとなった。
『テンカ先生! 誕生日おめでとう!!』
「あーはいはい、さんきゅ」
定番な合唱に、手をひらひらさせて適当に答える。
それがガキどもは気に食わなかったらしい。
『テンカ先生! 四捨五入したら三十路おめでとう!!』
「ぶっ殺すぞてめぇら!!」
『あ、元から四捨五入しても三十路だった!』
「わざわざ声をそろえて言い直すな!!」
思わず怒声をあげる。しかし日ごろからこんなもんなので、ガキどもはビビることもなく笑っている。ちっ。
「とにかくだ、オレはこんなん苦手なんだよ。だからてめぇらとっとと渡すもん渡したら帰れよ」
そっけなく言う。照れてるわけでもなく、これは本音だ。
「みんな、わかったー!?」
すると、それを聞いたカカは集まったガキどもに呼びかけた。
「ちゃんとプレゼントでテンカ先生を楽しませるんだよー?」
『おー!!』
おー、って……難しくねぇか、それ。
「さー、順番に先生にプレゼントしていきましょー」
「最初のかた、どうぞっ!」
サエもサユカもカカに倣ってガキどもを仕切っている。いつの間にか偉くなったもんだな、こいつらも。
「先生、おめでとうございます!」
「おう。誰だてめぇ」
「いい加減に生徒の名前覚えましょうよ! 私は信次です! はいこれ」
おお、泡盛じゃねぇか。『与那国』か、うめぇんだよなこれ。しかし生徒に酒をもらう教師ってどうよ?
「さんきゅー泡盛」
「私の名前は泡盛じゃないです!」
「はいはい、あだ名ついただけでもテンカ先生的には快挙だよ。さ、次いこう!」
カカ、わかってるじゃねぇか。
「ケイです、初めまして」
「……担任相手に今さら初めましてってどうよ」
「じゃあ僕の名前覚えてたんですか?」
「初めまして!」
「なんか釈然としない……でも、はい。ハブ酒」
また酒! しかもハブ入り、って……
「てめぇらそろって沖縄でも行ってきたのか?」
「いえ。ただテンカ先生といえば強いお酒かインパクト強い酒が似合うかなぁと」
「……さんきゅ、ハブ野郎」
「なんか友達からハブられてるみたいなあだ名やめてもらえます!?」
我ながらセンス溢れるあだ名だぜ。
「照々と申します」
「なんでどいつもこいつも初対面みたいなんだろうな」
「あなたのせいでしょ」
「うっせぇ。なにくれるんだよ」
「私のまともな部分を上げます」
「どこだよ!?」
はい次!
「台風13号をあげる」
「いらん!!」
次!
「お医者さんセットをあげまーす! これでコスプレして、好きな人とうっふんあっはん! ふふふ」
「好きな人。誰でもいいのか。そうか。手始めにてめぇの脳みそ手術したろうか。おい誰かノコギリ持ってこい!」
「いやぁぁぁ!」
変なもん持ってくるからだ。次!
「あ、先生。これトメ兄かららしいですよ」
「あん? なんだこりゃ、花か」
赤いサルビアだ。メッセージプレートに『トメより愛をこめて』と書いてある。九月二十日の誕生花……花言葉は『あなたのことばかり思う』だと。くせぇ。
プレートの裏を見る。
姐さんが働いてる花屋の店名が書いてあった。
「どうどう? どう思ったのテンカ先生!?」
「姐さんも暇だなーと」
「……ちっ」
――そんなこんなで、結局騒いで。
たまに長引くホームルームみたいなノリでだらだら喋り、適当に楽しんだ後、適当に片付けて、適当に解散となった。
「先生、さよならー」
「おー」
そして校門を出て、帰り道へ。
もらったもんを袋詰めして両手に持ってるが……重い。
映画のチケットやら温泉旅行のチケットやら妙な自作のチケットやら、かさ張らない物もかなりもらったんだが……これだけ数が多いとなぁ。しかし誰だS字フックを七つも送ってきたやつは。妙に派手な箱に『フックの魔術師 ぬこより愛を込めて……』とか書かれてたが、わけわからん。
いろいろくれて気持ちは嬉しいんだが……と。
数分も歩かずに、そいつを見つけた。
「テン」
「あん? トメ、どうした」
こいつもなんかくれんのかね? オレは軽くそう思っていた。
「その……テンに、渡したいものがあるんだ」
「ほう?」
いいぜ、もらえるもんはもらう。しかし物か。腐るほどもらったし……この際、飲みを一回奢ってくれるほうが嬉しいんだがな。
「これ」
トメがポケットに入れていた手をだす。
その手の上には、小さな小箱。
んだよ、結婚指輪でも入れるみたいな箱だな。
パカ、と耳心地いい音をたてて箱が開く。
その中には、ちょこんと指輪が二つ並んでいた。
やっぱ結婚してくれーみたいなボケか。
「テン!」
「お、おお?」
「そ、その……な……」
なかなか迫真の演技だ。頬も心なしか赤いし。
「僕は、まだ平社員で、収入も少ないし、指輪もこんなものしか用意できなかったけど」
ふむふむ。
「でも、でもな、その……気持ちだけは受け取ってほしいんだ」
「おう」
「僕と……その……」
はは、おもれー顔だ。はよボケろ。
「け、け……」
けけけけー、とでも笑う気か?
「結婚してくれ!」
あれま、言っちゃった。
顔を俯かせてぷるぷる震えてまー。
えーと。
どこで笑えばいいんだ、これ。
「トメ?」
トメは答えない。
え、なに。これドッキリじゃねーの?
ドッキリだろ常識で考えて。
わざわざ指輪なんか用意して、手の込んだボケなんだろ、これ。
ボケ?
待てよ、トメってツッコミだよな。
え?
なに、じゃ、これ。
ボケじゃねーの?
マジ?
まじ?
え、ぅえ、んなバカな、いやでも、トメ何も言わねーし、震えてるし、てっきり笑いをこらえてるもんかと思ってたけど、怖くて震えてるのか?
あれ、そういやさっきの花。妙に告白くせぇ花言葉のやつ、あれ姐さんのイタズラじゃねぇのか? まさかこれの前フリ? そんなわけねぇよな。おい。
待て、なんか急に恥ずかしくなってきた。
頭が真っ白になってきた。
んなこと今まで微塵も考えたことなかったが、考えなきゃいけねぇのか? 答えなきゃいけねぇのか!? いや、そんなこと言われてもわかんねーよ!
おいトメ。
これはボケだって言えよ!
笑えよ!
「ぶははははははははははははは!! もうダメ限界! 笑いをこらえるの限界!!」
…………
あぁん?
「こらトメ兄! 返事を聞くまでバラさない約束だよ!」
振り向く。どこからかぞろぞろ湧いてくるガキども。
「そうですよー、いま先生の表情が百面相になりかけてたのにー」
「ステキでしたトメさんっ、わたしにも同じこと言ってくださいっ!」
「ひはは、はは、ひー、苦し、ごめんサユカちゃん、もう無理だわ、なんだこの僕の演技、テンにプロポーズとか、ウケる! テンが困ってたのがなおウケる!」
…………
あぁん?
「はい、テンカ先生。改めてどうぞ」
「……あぁん?」
「こわっ! え、えっとね、はいこれ。私とトメ兄の二人で作ったペアリングだよ。こっちはペアネックレスにペアブレスレット、サエちゃんとサユカン作ね。お母さんと一緒に使ってね」
「……へ、おお」
カカの説明を聞いて、狂気が一瞬だけ醒める。
「ほら、この間お見合いあったでしょ。トメ兄がね、あのときのこと思い出したの。テンカ先生も先生のお母さんもあまり飾りっ気なかったし、仲よさそうだったし、こういうのがいいんじゃないかって」
「そ、そうか」
うちの母親とペア、か。んな恥ずかしいこと何年もしてねぇが……喜びそうだな、うん。これも親孝行になるか。さすが親友。いいプレゼントくれやがるぜ。
「それでね、どうせペアリングなんていう紛らわしいもん渡すんだからプロポーズっぽいことして遊んでみようってトメ兄が」
「ぶははははは! あのときの自分の演技とテンの反応! 思い出すだけでまだ笑えるわ!!」
そう、確かに一瞬だけだった。
狂気が目覚める。
さすが親友。
おもしれぇことしてくれやがるぜ……
「はー、はー……あれ、どったのテンカさん」
ゆらり、ゆらりと近づいていく。
「あ、あのー? テンカさん? テンちゃん? テンテン? えっと、わかってたよね? 冗談だってわかってたっしょ? 僕がこんなん言うわけないしさー」
ああ、わかってたよ。
どうせ笑い出すと思ってたよ。
別にトメとくっつきたいなんざ思ってねーし、期待もしてなかったさ。
でもな。
実際に絶妙なタイミングで笑われるとな。
めっさムカつく。
「今日はさんきゅーな、トメ」
「あ、うん。どうってことないよ」
「運動不足なオレのためにサンドバッグになってくれるんだろ? いやぁ素晴らしいプレゼントだ」
「……へ」
「どうってことねーよな?」
その後。
オレは次の日に筋肉痛になるくらいに運動した。
その夜。すぐさま母親に渡したペアのアクセサリーは案の定喜ばれ、そのまま二人でケーキを食い、生徒にもらった酒をかっくらった。
強すぎて母親は二秒で死んだ。オレもわりかし死にそうだ。
でも、まぁ。
悪くない一日だった。
もらいまくったプレゼントをどうするか考えながら――
祝ってくれたてめぇらに、乾杯。
サブタイトルの直球さに吹いたら負けです。
さて、短い募集期間でしたがいろんなプレゼントをいただきましたテンカ先生の一日はこんな感じとなりました!
いただいた感想等に全部返信してからこれ載せたかったんですが……多忙につき勘弁です^_^;
それから今回書かれなかったプレゼントも先生は実はもらっていて後でこっそり登場したりするかもなのでお見逃しなく!
そんなわけでテンカ先生おめでとう!
乾杯!
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